紫外可視分光分析とは何か?吸光する物質にはどのようなものがあるのか?

この記事で分かること

  • 紫外可視分光分析とは:物質に紫外線や可視光線を当て、その吸光度を測定することで、含まれる成分の種類や濃度を調べる分析手法です。特に、溶液中の有機化合物や金属イオンの定量分析に用いられます。
  • 吸光する物質の種類:主に不飽和結合(二重・三重結合)や非共有電子対を持つ有機化合物(色素、核酸、芳香族アミノ酸)や、遷移金属イオンを含む無機化合物・錯体です。これらが持つ電子が光を吸収し励起します。
  • 紫外可視分光装置とは:光源、分光器、試料室、検出器から構成される装置です。試料を透過した光の強度を測定し、吸光度から物質の種類や濃度を分析するために使用されます。

紫外可視分光分析

 機器分析とは、化学反応を用いる古典的な化学分析に対し、物質が持つ物理的・化学的性質を精密な機器で測定し、その物質の成分や構造を分析する方法の総称です。

 高感度で迅速な分析が可能であり、微量な成分や複雑な混合物も精度高く分析できるため、現代の科学技術分野で広く利用されています。

分光分析とは何か

 分光分析は、光と物質の相互作用を測定する手法です。紫外可視分光光度法で濃度、赤外分光法で構造、原子吸光分析法で金属元素の定量、蛍光X線分析法で元素組成、核磁気共鳴分光法で分子構造の解析など、使用する光の種類や原理によって多岐にわたります。

紫外可視分光分析とは何か

 紫外可視分光分析(Ultraviolet-Visible Spectroscopy, UV-Vis)とは、物質に紫外線(UV)から可視光線(Vis)の領域の光を照射し、その物質がどの波長の光をどれだけ吸収したかを測定する分析手法です。

 この手法は、光の吸収特性(吸収スペクトル)を調べることで、試料中の目的成分の特定(定性分析)濃度測定(定量分析)などを行うために広く用いられています。


原理

 紫外可視分光分析の基本原理は以下の通りです。

  1. 光の照射と吸収:
    • 光源から出た光(紫外線および可視光線)を分光器で波長ごとに分けます。
    • この単色光を試料(サンプル)に照射します。
    • 試料中の分子(特に二重結合非共有電子対を持つ有機化合物、あるいは遷移金属イオンなど)が特定の波長の光エネルギーを吸収すると、電子がよりエネルギーの高い状態(電子準位)へ遷移します。
  2. 透過光の測定:
    • 試料を透過した光の強度検出器で測定します。
    • 入射した光の強度 I0 と、透過した光の強度 Iを比較することで、試料による吸光度(A)や透過率(%T)を算出します。
  3. 吸光度の算出:
    • 吸光度 Aは透過率から次の式で求められます。A = log10 (I0/I)

定量分析とベール・ランバートの法則

 溶液の濃度を求める定量分析においては、ベール・ランバートの法則(Beer-Lambert law)が基礎となります。この法則は、特定の波長における吸光度 (A) が、溶液中の吸光物質の濃度 (c) と、光が試料を通過する長さ(光路長, l)に比例することを示しています。

A =ε×c ×l

  • ε:モル吸光係数(物質固有の値)

 光路長 l が一定であれば、吸光度 A は濃度 c に単純に比例するため、既知濃度の標準液で検量線を作成することで、未知の試料の濃度を正確に測定できます。


応用分野

 紫外可視分光分析は、その手軽さと汎用性から、非常に幅広い分野で利用されています。

  • 化学・製薬: 医薬品の純度試験濃度測定、化学反応の追跡
  • 生化学: 核酸(DNA/RNA)やタンパク質濃度測定純度評価
  • 環境: 水質検査における窒素リンなどの汚染物質の定量分析色度の測定。
  • 食品: 食品中の着色料保存料風味成分などの分析。
  • 材料科学: レンズや薄膜などの光学特性(透過率、反射率)の評価。

紫外可視分光分析(UV-Vis)とは、物質に紫外線可視光線を当て、その吸光度を測定することで、含まれる成分の種類濃度を調べる分析手法です。特に、溶液中の有機化合物や金属イオンの定量分析に用いられます。

紫外可視光を吸光する物質にはどのようなものがあるのか

 紫外可視光を吸光する物質は、その分子内に電子を励起させやすい構造、すなわち発色団(Chromophore)や遷移金属イオンを持つものが該当します。

 これらの物質は、特定の波長の光エネルギーを吸収し、分子内の電子をより高いエネルギー準位へ遷移させます。


1. 有機化合物

 有機化合物の吸光は主に価電子の遷移によって起こります。光を強く吸収する原子団を発色団と呼びます。

不飽和結合を持つ化合物

 二重結合や三重結合などのπ結合を持つ化合物は、そのπ電子が紫外光・可視光を吸収して励起します。

  • 共役系を持つ化合物:
    • 特徴: 二重結合と単結合が交互に存在する構造(共役二重結合)。共役が長くなるほど、電子が励起に必要なエネルギーが小さくなり、吸収波長は長波長側(可視光側)に移動します。
    • : カロテノイド(ニンジンやトマトの色素)、ビタミンA芳香族化合物(ベンゼン環を持つ化合物、例:アミノ酸のチロシンやトリプトファン)、染料(アゾ色素など)。
  • 単純な不飽和結合:
    • : アルケン(C=C、アルキン(C≡C)。ただし、これらの吸収は通常、遠紫外域(真空紫外域)にあり、一般的なUV-Vis装置の測定範囲外となることが多いです。
非共有電子対を持つ化合物(n →π* 遷移)

 酸素 、窒素 、硫黄、ハロゲンなどの原子が持つ非共有電子対(n電子)と、π結合が関与する遷移です。

  • 発色団の例:
    • カルボニル基 (C=O)
    • ニトロ基 (-NO2)
    • アゾ基 (-N=N-)
    • チオカルボニル基 (C=S)

 これらの化合物も多くは近紫外~可視光域に吸収を持ちます。


2. 無機化合物および錯体

遷移金属錯体

 鉄 、銅 、ニッケル 、クロム などの遷移金属イオンを含む錯体は、可視光をよく吸収するため、美しい色を示すものが多いです。

  • d-d 遷移: 金属イオンのd軌道の電子が、配位子(錯体を形成する分子やイオン)の影響で分裂したエネルギー準位間を遷移する現象。多くの有色の金属錯体の色の原因です。
  • 電荷移動遷移(CT遷移): 金属イオンと配位子の間で電子が移動する遷移。非常に強い吸収(吸光度が大きい)を示します。
    • : 過マンガン酸イオン (紫色)、二クロム酸イオン (橙色)

生体分子

生体内で重要な役割を果たす分子の多くも紫外可視光を吸収します。

  • 核酸:DNAやRNA を構成する核酸塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル)は、芳香環構造を持つため、主に260 nm付近の紫外光を強く吸収します。
  • タンパク質: 芳香族アミノ酸残基(トリプトファンチロシンフェニルアラニン)を持つタンパク質は、主に280 nm付近の紫外光を吸収します。
  • 色素: クロロフィル(植物の緑色色素)、ヘモグロビン(血液の赤色色素)、ビリルビン(黄色色素)など、生物に色を与える分子は、可視光領域に強い吸収を持ちます。

紫外可視光を吸光するのは、主に不飽和結合(二重・三重結合)や非共有電子対を持つ有機化合物(色素、核酸、芳香族アミノ酸)や、遷移金属イオンを含む無機化合物・錯体です。これらが持つ電子が光を吸収し励起します。

紫外可視光分析装置とは

 紫外可視分光光度計(UV-Vis Spectrophotometer)とは、紫外可視分光分析を行うための主要な装置です。

 これは、光源から出た分光器で特定の波長(単色光)に分け、それを試料に照射し、試料を透過または反射した光の強度を検出器で測定することで、試料の吸光度透過率を求める装置です。測定された吸光度から、試料中の特定の成分の種類(定性)濃度(定量)を分析します。


装置の主な構成要素

 紫外可視分光光度計は、大きく分けて以下の5つの部分で構成されています。

1. 光源部(Light Source)

 測定に用いる光を発生させます。測定波長域に応じて、ランプを切り替えて使用します。

  • 重水素放電管(D2ランプ): 紫外域(約 185 nm~400 nm)の光を放射します。
  • タングステン・ハロゲンランプ(Wランプ): 可視域(約 350 nm~780 nm)および近赤外域の光を放射します。
  • キセノンランプ(Xe ランプ): 紫外から近赤外までの幅広い領域を一つのランプでカバーできますが、出力変動がある場合があります。

2. 分光部(Monochromator)

 光源からの白色光(複数の波長を含む光)を、回折格子プリズムなどの光学素子を用いて波長ごとに分け、特定の波長の単色光を取り出すための部分です。

  • 分光器: 光を波長ごとに分散させます。
  • スリット: 分散された光の中から、必要な波長幅(バンド幅)の光だけを選び出し、試料室へ送ります。

3. 試料室(Sample Chamber)

 測定対象となる試料を設置する部分です。

  • セル(キュベット): 液体試料を入れる容器です。
    • 石英(クォーツ)セル: 紫外域から可視域まで透過するため、全領域の測定に用いられますが、高価です。
    • ガラスセル: 紫外域の光を通しにくいため、主に可視域の測定に用いられます。
    • プラスチックセル: 簡便な測定に用いられます。

4. 検出部(Detector)

 試料を透過した光の強度(I)を電気信号に変換する部分です。

  • 光電子増倍管(Photomultiplier Tube, PMT): 非常に高感度で、幅広い波長域に対応します。
  • シリコンフォトダイオード(Si Photodiode): 比較的安価で、小型化に適しており、汎用性の高い検出器です。

5. 記録・演算部(Data Processing)

 検出器で得られた電気信号を処理し、透過率吸光度に変換し、スペクトルデータ(横軸:波長、縦軸:吸光度)として表示・記録します。


装置の種類

 主な測光方式の違いにより、いくつかの種類があります。

1. シングルビーム方式
  • 構造がシンプルで安価です。
  • 光源や検出器の変動を補正するため、ブランク(対照試料)と試料を別々に測定する必要があります。
2. ダブルビーム方式
  • 光源からの光を二つの光束(試料光参照光)に分け、試料とブランクを同時に測定します。
  • 光源の光量変動などの影響を自動的に補正できるため、安定性精度が高く、スペクトル測定に適しています。
3. フォトダイオードアレイ(PDA)方式

 分光器を通過した光を、多数の小さな検出器(PDA)に同時に当てます。

 これにより、すべての波長の吸光度を瞬時に測定でき、高速測定や反応速度論の研究に適しています。

紫外可視分光光度計とは、光源分光器試料室検出器から構成される装置です。試料を透過した光の強度を測定し、吸光度から物質の種類濃度を分析するために使用されます。

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