ベトナムのガソリン二輪車規制と日本メーカーの反応 規制の内容は?日本メーカーが懸念を持つ理由は何か?

この記事で分かること

  • ベトナムのガソリン二輪車規制の内容:環境対策として、ハノイ市で2026年7月より中心部(環状道路1内)のガソリンバイク乗り入れを段階的に禁止する計画を進めています。また、製造から5年以上のバイクには排ガス検査を義務化し、電動車への移行を促します。
  • 日本メーカー等の懸念:急な規制導入が、ベトナムの日本企業や関連産業に混乱と雇用喪失を招き、代替公共交通や電動化インフラが未整備なため市民生活にも支障が出ると懸念しています。
  • ベトナムの2輪市場の市場:ベトナムの二輪車市場は、年間約300万台規模で推移し、ASEANでインドネシアに次ぐ世界有数の巨大市場です。国民100世帯あたり約170台を保有し、ホンダ(8割超)など日系メーカーが圧倒的なシェアを占めています。

ベトナムのガソリン二輪車規制と日本メーカーの反応

 ベトナム政府が大気汚染と交通渋滞の緩和を目的として、ガソリンを使用する二輪車に対する段階的な規制・制限が計画していますが、駐ベトナム日本大使や日本企業の関係団体などは、この規制計画の性急さ社会への影響について懸念を表明し、ベトナム当局に見直し十分な準備期間を設けるよう申し入れています。

 https://news.yahoo.co.jp/articles/adeb4538102376861ed44a7c9098629c4d5ffb4e

 日本側は、ベトナムの環境改善の目標は理解しつつも、規制の実施時期や方法について、より現実的かつ段階的なものにするよう要望しています。

ベトナムのガソリン二輪車規制の内容は

 ベトナム政府が進めているガソリン二輪車(バイク)規制は、主に「特定区域への乗り入れ制限・禁止」「排ガス検査の義務化」の2つの柱で構成されています。

 都市や地域によって具体的な計画は異なりますが、特にハノイ市とホーチミン市の動向が注目されています。

1. 特定区域への乗り入れ制限・禁止(ハノイ市・ホーチミン市)

 大気汚染と交通渋滞の緩和を最大の目的とし、都市中心部を「低排出ゾーン(LEZ:Low Emission Zone)」として設定し、ガソリン車の乗り入れを制限・禁止する方針です。

都市規制の主な内容予定時期
ハノイ市中心部(環状道路1内)へのガソリンバイクの走行を段階的に制限・禁止。2026年7月1日より開始。
その後、規制区域を段階的に拡大。2030年までには環状道路3まで対象範囲を広げる計画。2028年には自家用車(ガソリン車)にも制限を拡大する方針。
ホーチミン市市中心部へのガソリンバイクを含む内燃車の乗り入れを制限する低排出ゾーンの設置を検討。2026年より段階的な実施を検討。
配達・ライドシェア用のバイクを2029年末までに全面的に電動車(EV)化させる方針。

2. 排ガス検査の義務化

 既存のバイクに対しても、排ガス基準の適合を求める規制が強化されています。

項目規制の内容予定時期
対象車両製造から5年以上経過したバイクと原付の所有者。新たな通達により、順次義務化。
義務内容車両登録検査機関で排気ガスの排出検査を受けることが義務付けられます。検査開始から一定期間は啓発期間とされ、その後罰則が適用される見込み。
基準車両の製造年に応じて基準が設定され、古い車両に対しては基準が緩和される仕組みとなっています(例:COとHCの2指標を使用し、4段階の基準が設定)。
例外製造から5年未満のバイクと原付は、現在のところ排ガス検査が免除されます。

 これらの規制は、ベトナムの主要都市において、電動バイクや公共交通機関への転換を加速させることを目指しており、多くの市民や日系企業を含む関連業界に大きな影響を与えています。

ベトナムは環境対策として、ハノイ市で2026年7月より中心部(環状道路1内)のガソリンバイク乗り入れを段階的に禁止する計画を進めています。また、製造から5年以上のバイクには排ガス検査を義務化し、電動車への移行を促します。

日本側が見直しを申し入れた理由は何か

 日本側(駐ベトナム大使や日本企業の関係団体)が、ベトナムのガソリン二輪車規制(特にハノイ市の乗り入れ禁止計画)の見直しを申し入れた主な理由は、「性急な導入による社会・経済的な混乱と、日本企業への深刻な影響への懸念」です。

  1. 経済・雇用への深刻な影響
    • 業界の混乱と雇用喪失: ベトナムの二輪車市場で大きなシェアを持つ日本企業(ホンダ、ヤマハなど)は、生産・販売・修理など広範なサプライチェーンを構築しており、急な規制導入は関連産業全体に混乱を招き、多くの雇用が失われる可能性があります。
    • 事業計画への影響: 規制が性急すぎると、日本企業が電動化への切り替えや在庫処理、生産ラインの調整を行う十分な準備期間が確保できないと指摘しています。
  2. 市民生活への混乱
    • 代替交通手段の不足: 規制区域からガソリンバイクを締め出す一方で、代替となる公共交通機関(地下鉄、バスなど)の整備が追い付いていないため、市民の日常的な移動に大きな支障が出ることが懸念されます。
    • 低所得層への負担: バイクはベトナム市民の主要な移動手段であり、特に低所得層にとって、高価な電動バイクへの切り替え費用が大きな経済的負担となる点。政府の補助金だけでは不十分であるとしています。
  3. 政策の透明性と段階的導入の必要性
    • 環境対策自体には理解を示しつつも、市民や関連業界との十分な対話を通じた透明性のあるロードマップを策定し、規制を段階的かつ現実的な方法で実施するよう求めています。

 日本側は、規制の実施時期や方法について、社会や産業への影響を最小限に抑えるため、より慎重な検討をベトナム当局に要望しています。

日本側が見直しを申し入れたのは、ハノイ市の急な規制導入が、ベトナムの日本企業や関連産業に混乱と雇用喪失を招き、代替公共交通や電動化インフラが未整備なため市民生活にも支障が出ると懸念したからです。

関連産業への混乱と雇用喪失の内容は

 日本側が見直しを申し入れた際の懸念の根拠として、以下の点から多数の雇用喪失リスクが指摘されています。

1. 影響を受ける業界の広さ

 雇用喪失のリスクは、単にメーカーの工場従業員に留まらず、広範囲に及びます。

  • 製造・組立: ホンダやヤマハなど、ベトナムで大きなシェアを持つ日本企業とその部品サプライヤーの製造部門。
  • 販売・流通: 全国の二輪車ディーラー、販売店。
  • 修理・整備: ガソリンバイクの修理・メンテナンスを行う個人経営の整備工場。
  • 関連サービス: バイクタクシー(Grab Bikeなど)の運転手や、配達員といったサービス業の従事者。

2. ベトナム経済における二輪車の重要性

 ベトナムは世界有数の二輪車市場であり、国民の移動手段として極めて重要です。

  • 保有台数: ベトナム全土で数千万台の二輪車が登録されており、関連産業に従事する労働者も膨大です。
  • ハノイ市の状況: ハノイ市内のバイク関連業界だけでも、その規制が急激に進めば、数万人規模の雇用に影響が出る可能性が考えられます。

3. 日本側の懸念内容

 日本側は、この規制の性急さが、関連企業が事業転換(電動化への移行など)を行う時間的余裕を奪い、結果として大規模な解雇や事業縮小に繋がることを最大の懸念として、見直しを求めています。

 したがって、具体的な数字は不明であるものの、ベトナム経済における二輪車産業の規模を考慮すると、規制が強行されれば数万人単位の雇用が影響を受けるリスクがあると見られています。

雇用喪失の正確な予測人数は未発表ですが、ベトナムの二輪車市場は巨大なため、規制が急進すると、日本企業を含む製造・販売・修理業などで数万人規模の雇用が失われるリスクが指摘されています。

ベトナムの二輪車市場のシェアはどうか

 ベトナムの二輪車市場は、長年にわたり日本のメーカーが圧倒的なシェアを占めており、特にホンダ(Honda Vietnam)が市場を支配しています。

 規制の見直しが日本側から申し入れられる背景には、この日本企業の巨大な市場シェアが深く関わっています。

1. ガソリン二輪車市場(内燃機関車)のシェア

 ベトナム二輪車製造業者協会(VAMM:Honda、Yamaha、Piaggio、Suzuki、SYMの5社が加盟)のデータによると、市場シェアの大部分は以下のようになっています。

メーカーシェア率特徴
ホンダ(Honda Vietnam)約77%〜86%圧倒的な首位。市場の8割以上を占め、「ベトナムのバイク=ホンダ」と言われるほど普及している。累計生産台数も非常に多い。
ヤマハ(Yamaha Vietnam)約10%〜20%弱ホンダに次ぐ2位。デザイン性や操作性に強みがある。
その他(Piaggio、Suzuki、SYMなど)残りのシェア欧州・台湾系メーカーなどが市場の一部を占める。

2. 電動バイク市場(EV)の台頭

 近年、政府の電動化推進政策とガソリン車規制の動きにより、電動バイク市場が急速に成長しています。

メーカー特徴
VinFast(ビンファスト)ベトナム最大の複合企業ビングループ傘下の地場メーカーで、電動バイク市場をリードしている。配車・配送サービスへの納入も多い。
Yadea(ヤディア)中国ブランドで、電動バイク市場で高いシェアを獲得し、市場競争を激化させている。
日系メーカーホンダやヤマハも電動バイクの国内生産・販売を開始しており、電動化シフトに対応しようとしている。

まとめ

 ガソリン二輪車規制は、圧倒的なシェアを持つホンダとその関連サプライヤーに特に大きな影響を与えるため、日本側が経済的な懸念から見直しを申し入れていると言えます。規制の強化は、ベトナム市場におけるガソリン車から電動車への転換を加速させる要因となっています。

ベトナムの二輪車市場は、年間約300万台規模で推移し、ASEANでインドネシアに次ぐ世界有数の巨大市場です。国民100世帯あたり約170台を保有し、ホンダ(8割超)など日系メーカーが圧倒的なシェアを占めています。

ホンダが高いシェアを持つ理由は

 ホンダがベトナムの二輪車市場で圧倒的なシェア(8割前後)を持つ理由は、主に品質への高い信頼性早期からの徹底した現地化戦略にあります。

  1. 品質と耐久性への絶大な信頼
    • 「ホンダ神話」の確立: 過去、道路状況が悪かったベトナムにおいて、ホンダのバイク(特に「スーパーカブ」や「ドリーム」など)が「頑丈で壊れにくい」「高い耐久性」で広く認知され、その信頼性が確立しました。
    • 現地での修理の容易さ: 地方の小さな修理工場でもホンダ車の部品交換や修理が容易にできるほど、部品供給網と技術が広く浸透しているため、実用車として非常に優れています。
  2. 早期の市場参入と現地生産
    • 合弁企業設立: 1990年代にベトナム国営企業と合弁で「ホンダ・ベトナム」を設立し、早期から現地生産を開始しました。
    • 「需要のある所で生産」: 現地生産によりコストを抑え、価格競争力のあるモデル(例:低価格で高品質な「Wave α」など)を投入し、市場シェアを一気に拡大しました。
  3. ブランドの浸透度
    • フルライン戦略: あらゆる所得層・ニーズに対応できる多様な車種(スクーター、実用車など)を豊富に取り揃える「フルライン戦略」を採用しました。
    • 「ホンダ=バイク」: あまりにもホンダ車が普及した結果、ベトナムではバイク全般を指して「ホンダ」と呼ぶ人がいるほど、ブランドが一般名詞化し、高い市場支配力(独占的地位)を築きました。

 これらの要因が複合的に作用し、ホンダは長期にわたりベトナム二輪車市場の絶対王者としての地位を維持しています。

ホンダは高い品質と耐久性でベトナム人の信頼を獲得し、「ホンダ=バイク」と言われるほどブランドが浸透。早期の現地生産と多様な車種展開(フルライン戦略)によるコスト競争力と修理の容易さも要因です。

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