ベトナムのGDPの大幅成長 成長の理由は何か?どんな製造業が好調なのか?

この記事で分かること

  • 高い成長率となっている理由:主に製造業とサービス業の力強い回復、輸出の拡大、および積極的な外国直接投資の流入に牽引されています。若い労働力と自由貿易協定も成長を支えています。
  • 好調な製造業:主に電子・電気機器(スマートフォン、コンピュータ部品)です。これらは外国直接投資に支えられ、輸出の最大品目となっています。
  • 今後の見通し:2025年以降も年率6%台の高成長が継続見込みです。公共投資とFDIが牽引しますが、インフラ整備の遅れや労働コスト上昇への対応が持続的成長の課題となります。

ベトナムのGDPの大幅成長

 ベトナムのGDPが7-9月期に前年比8.23%成長だったと報道されています。

 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM062O70W5A001C2000000/

 これは、直近10年で最も高い成長率の一つであり、経済全体の回復基調が鮮明になっていることを示しており、パンデミックからの反動が大きかった2022年を除けば、非常に力強い経済回復を示していると言えます。

高い成長率となった理由は何か

 この高い成長は、主に以下の分野に牽引されています。

  • 工業・建設業: 9.46%増となり、特に製造業が9.98%増と経済を力強く牽引しています。
  • サービス業: 成長率に関する具体的な数値は報告されていませんが、工業・建設業とともに好調な伸びを示し、経済回復に貢献しています。
  • 農林水産業: 3.74%増と安定した伸びを示しています。

ベトナムの経済成長を支える主要因

 ベトナムが高い成長を持続している背景には、構造的な要因があります。

  1. 外国直接投資(FDI)の増加:
    • 戦略的な立地と優遇政策により、ベトナムはFDIの主要な受け入れ先となっています。
    • 特に電子機器製造業の分野で、サムスン電子などの大手外資系企業が大規模な生産拠点を設けており、これが製造業の成長と輸出拡大の原動力となっています。
  2. 輸出主導型成長と国際貿易:
    • 包括的かつ先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)やEU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA)などの自由貿易協定を積極的に活用し、国際市場へのアクセスを容易にしています。
    • 世界的なサプライチェーン再編(チャイナ・プラスワン)の動きの中で、ベトナムが有力な生産移管先として選ばれていることも、輸出拡大に寄与しています。
  3. 内需拡大と若い労働力:
    • 若年層が豊富で、労働力コストが競争力のある水準にあります。
    • 雇用の増加と所得環境の改善により、中間層が台頭し、デジタル経済の進展も相まって個人消費(内需)が堅調に伸びています。
  4. ドイモイ(刷新)政策:
    • 1986年に導入された市場経済への移行を促す改革開放政策が、長期的な経済成長の基盤を築いています。

ベトナムの高いGDP成長は、主に製造業とサービス業の力強い回復輸出の拡大、および積極的な外国直接投資の流入に牽引されています。若い労働力と自由貿易協定も成長を支えています。

チャイナプラスワンに選ばれている理由は何か

 ベトナムが「チャイナ・プラスワン」戦略の主要な移転先として選ばれている理由は、主に地政学的リスクの回避コスト競争力に加えて、以下の複数の要因が組み合わさっているためです。

1. 地理的・地政学的優位性

  • 中国との近接性:中国と国境を接しているため、サプライチェーンの一部として、中間財の調達や物流において中国との連携を比較的維持しやすいという大きなメリットがあります。
  • リスク分散: 米中対立や、過去の新型コロナウイルスによる中国のロックダウン政策などの地政学的・供給網リスクを回避するための代替生産拠点として機能します。

2. コスト競争力と労働環境

  • 競争力のある人件費: 中国と比較して人件費が相対的に低い水準にあり、労働集約型産業にとって大きな魅力です。ただし、近年は賃金上昇傾向にあるため、この優位性は徐々に薄れつつあります。
  • 豊富な若年労働力:約1億人に迫る人口を有し、若年層が多いため、長期的な労働力の供給が期待できます。
  • 政治的安定性:共産党一党体制下の政治が安定しており、長期的な事業展開を計画しやすい環境です。

3. 経済開放政策と市場の魅力

  • 積極的な貿易協定(FTA): 環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)やEU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA)など、多数のFTAを締結しており、輸出市場へのアクセスが容易です。
  • 外国直接投資(FDI)の優遇:政府が積極的な投資優遇政策を導入し、外資企業を誘致しています。
  • 市場としての成長性:中間層が拡大し、所得水準が向上しているため、単なる生産拠点としてだけでなく、消費市場としての将来的な魅力も高まっています。

 これらを背景に、サムスンやLGなどの電子機器メーカー、およびアップル関連のサプライヤーなどが、製造拠点をベトナムに移管・拡張する動きが顕著になっています。

チャイナプラスワンにベトナムが選ばれる理由は、中国と近く物流が容易な点、安価で豊富な若年労働力、多数のFTA締結による輸出優位性、そして政治の安定性から、リスク分散とコスト効率を両立できるためです。

どんな製造業が好調なのか

 ベトナム経済の高い成長を牽引しているのは、主にハイテク製造業と伝統的な労働集約型産業です。特に好調な製造業は以下の通りです。

1. 電子・電気機器製造業(ハイテク分野)

 この分野は、ベトナム経済を牽引する最大の柱となっています。

  • コンピュータ・電子製品・部品: 輸出額が最も大きく、継続して高い伸びを示しています。特に米国中国向けの輸出が好調です。
  • スマートフォン・部品(電話機): サムスンなどの大手外資系企業が大規模な生産拠点を設けており、輸出全体に占める割合が高いです。
  • 牽引役: 外国直接投資が集中しており、韓国のサムスンやLG、台湾のフォックスコンなど、グローバルな電子機器メーカーが生産を主導しています。ベトナムは「世界の工場」から「ハイテク・イノベーションハブ」への転換を図っており、半導体産業も次の成長エンジンとして注目されています。

2. 伝統的な労働集約型産業

 依然としてベトナム経済の重要な部分を占め、輸出に大きく貢献しています。

  • 繊維・アパレル産業: 大量の雇用を創出しており、主に輸出向けに生産能力が高く、特に欧米市場へのアクセスが良いです。
  • 履物・靴製品: 繊維・アパレルと同様に、安価な労働力を活用した生産が盛んです。

3. その他

  • 自動車・機械製造業: 新興分野として成長が加速しており、内資・外資ともに投資が増加しています。特に国内電気自動車メーカーのVinFastなどの動向が注目されています。
  • 木材・木製品、家具製造: 国際市場向けに高品質な家具を提供する分野として拡大しています。

 これらの製造業部門の成長は、外国からの投資流入自由貿易協定による輸出環境の整備によって力強く後押しされています。

ベトナムで好調な製造業は、主に電子・電気機器(スマートフォン、コンピュータ部品)です。これらは外国直接投資に支えられ、輸出の最大品目です。その他、繊維・アパレル自動車部品も成長を牽引しています。

今後の見通しはどうか

 ベトナム経済の今後の見通しは、短期的には非常に力強い成長が継続すると予測されていますが、中長期的にはいくつかの重要な課題への対応が求められます。

1. 成長の見通し(2025年〜2026年)

機関2025年 成長率予測(GDP)2026年 成長率予測(GDP)
ベトナム政府目標8.0%以上(意欲的な目標)10.0%(財務省案)
市場関係者(中央値)6.7%6.0%〜6.5%
IMF/世銀/ADB6%台6%前後

 国際機関や市場関係者の予測では、年率6%台堅調な高成長が継続すると見られています。これは、アジア新興国の中でもトップクラスの水準です。

成長を牽引する主要因

  • 公共投資の加速: 政府は公共投資の予算を過去最高水準に設定しており、インフラ整備による経済波及効果が期待されます。
  • FDIの継続流入: 米中対立などを背景とした「チャイナ・プラスワン」の流れは継続し、特にハイテク分野や高付加価値製造業への投資が経済を支えます。
  • 内需の拡大: 中間層の増加と所得向上により、消費市場としての魅力が増し、小売やサービス業が成長を後押しします。
  • 輸出の回復: 世界経済の回復に伴い、主力の電子製品などの輸出が再び加速すると見られています。

2. 主要な課題とリスク

 高成長を続ける一方で、ベトナム経済が持続可能な発展を遂げるためには、以下の課題への取り組みが必要です。

  • インフラ整備の遅れ: 道路、港湾、電力供給などのインフラが急速な経済成長に追いついておらず、これがサプライチェーンのボトルネックとなり、企業の生産活動や物流コストに影響を与える可能性があります。
  • 労働コストの上昇と人材不足: 人件費の上昇が続いており、安価な労働力という従来の優位性が薄れつつあります。高付加価値産業へのシフトには、IT人材管理職クラスの熟練労働者の育成が急務です。
  • 外部環境の不確実性: 米国の貿易政策(迂回輸出への監視強化など)、地政学的緊張、世界的なインフレや金利高騰が、ベトナムの輸出や為替レートに影響を与えるリスクがあります。
  • 国内企業の競争力とFDI依存: 輸出の多くを外資系企業が占めており、国内企業の競争力向上や産業の現地化(ローカリゼーション)が長期的な課題となっています。
  • 国営企業の改革: エネルギーや金融などの重要セクターにおける国営企業の非効率性が、経済全体の効率性を阻害しています。

2025年以降も年率6%台高成長が継続見込みです。公共投資FDIが牽引しますが、インフラ整備の遅れ労働コスト上昇への対応が持続的成長の課題となります。

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