この記事で分かること
- WDXRFとは:分光結晶を用いて蛍光X線を波長ごとに物理的に分光し、1つずつ測定する方式です。装置は大型で高価ですが、分解能と感度が極めて高いという利点を持っています。
- 分光結晶とは:原子が規則正しく並んだ板で、ブラッグの法則を利用して特定の波長のX線だけを反射・選別する装置です。角度を変えることで、混ざり合ったX線から狙った元素の信号だけを極めて高い精度で取り出すことができます。
- WDXRFの検出器:軽元素に適した「ガスフロー型比例計数管」と、重元素に適した「シンチレーション計数管」の2種を併用します。これらを前後に並べることで、全ての元素を高感度かつ正確にカウントできる仕組みになっています。
機器分析とは、化学反応を用いる古典的な化学分析に対し、物質が持つ物理的・化学的性質を精密な機器で測定し、その物質の成分や構造を分析する方法の総称です。
高感度で迅速な分析が可能であり、微量な成分や複雑な混合物も精度高く分析できるため、現代の科学技術分野で広く利用されています。
今回は蛍光X線分析のひとつである波長分散型(WDXRF)に関する記事となります。
分光分析とは何か
分光分析は、光と物質の相互作用を測定する手法です。紫外可視分光光度法で濃度、赤外分光法で構造、原子吸光分析法で金属元素の定量、蛍光X線分析法で元素組成、核磁気共鳴分光法で分子構造の解析など、使用する光の種類や原理によって多岐にわたります。
波長分散型(WDXRF)とは何か
波長分散型(WDXRF)とは、試料から発生した蛍光X線を、「分光結晶」というプリズムのような部品を使って物理的に色分け(波長分離)してから測定する、非常に高精度な分析方式です。
前述のエネルギー分散型(EDXRF)が「検出器の性能に頼ってデジタル的に仕分ける」のに対し、WDXRFは「物理的な仕組みで1つずつ丁寧に取り出す」イメージです。
1. 仕組み(ブラッグの法則)
WDXRFは、「分光結晶」にX線を当て、特定の角度で反射させることで、目的の波長(元素)だけを取り出します。
- 分散: 試料から出たバラバラな波長のX線を、分光結晶に当てます。
- 回折: 結晶の角度を調整すると、特定の波長のX線だけが「ブラッグの法則(2dsinθ = nλ」に従って特定の方向に強く反射されます。
- 測定: その反射されたX線だけを検出器でキャッチします。
2. WDXRFの圧倒的な強み
EDXRF(エネルギー分散型)と比較して、以下の点が非常に優れています。
- 分解能(見分ける力)が格段に高いEDXRFでは重なってしまう隣り合った元素のピークも、WDXRFならクッキリと分離できます。
- 微量な成分も逃さない(高感度)バックグラウンドのノイズを物理的に排除できるため、数ppm(100万分の数個)レベルの微量元素まで正確に測れます。
- 「軽い元素」に強いベリリウム(Be)や炭素(C)といった、EDXRFが苦手とする軽い元素も高感度に分析可能です。
3. デメリット
- 装置が大型で高価: 角度を精密に動かすメカ(ゴニオメータ)や高出力のX線管、冷却設備が必要なため、装置は巨大になり価格も数千万円クラスになります。
- 分析に時間がかかる: 1つの元素ごとに結晶の角度を変えて測る(順次測定)ため、全元素を測るには数分以上の時間がかかります。

WDXRFは、分光結晶を用いて蛍光X線を波長ごとに物理的に分光し、1つずつ測定する方式です。装置は大型で高価ですが、分解能と感度が極めて高く、微量成分や軽元素の精密な定量分析(研究・品質管理)に不可欠です。
分光結晶とは何か
分光結晶(ぶんこうけっしょう)とは、試料から発生した多種多様なX線の中から、特定の元素に由来する波長のX線だけを「物理的に選び出す」ためのフィルターのような役割を果たす結晶です。
波長分散型(WDXRF)において、最も核心となる部品です。
1. 仕組み(ブラッグの法則)
分光結晶は、原子が規則正しく並んだ構造をしています。ここにX線が入射すると、「ブラッグの法則」という物理現象によって、特定の角度で特定の波長だけが反射されます。
- 角度を変えて選別: 結晶の角度(θ)を微調整することで、プリズムが光を虹色に分けるように、X線を波長(元素)ごとにバラバラに分解します。
- 決まったものだけ通す: 狙った元素の波長に合わせた角度の時だけ、そのX線が検出器に届きます。
2. なぜ色々な種類の結晶があるのか?
元素によって放出されるX線の波長は大きく異なります。一つの結晶ですべての元素をカバーすることはできないため、測定したい元素(波長の長さ)に合わせて複数の結晶を使い分けます。
| 結晶の名称(例) | 特徴・得意な元素 |
| LiF (フッ化リチウム) | 重い元素(チタン〜ウランなど)に最適。最も一般的。 |
| PET (ペンタエリスリトール) | 中程度の元素(アルミニウム、ケイ素など)に適している。 |
| 多層膜ミラー (人工結晶) | 軽い元素(ベリリウム、炭素、窒素など)の微弱な信号を拾うのに必須。 |
この「物理的に分ける」仕組みこそが、WDXRFがEDXRFよりも圧倒的に分解能が高い理由です。

分光結晶は、原子が規則正しく並んだ板で、ブラッグの法則を利用して特定の波長のX線だけを反射・選別する装置です。角度を変えることで、混ざり合ったX線から狙った元素の信号だけを極めて高い精度で取り出すことができます。
ゴニオメータとは
ゴニオメータとは、波長分散型(WDXRF)において、分光結晶と検出器の角度を精密に動かすための「回転駆動メカニズム」のことです。
分光結晶では「角度を変えることで、狙った元素のX線だけを選別すしますが、その「角度を変える作業」を正確に実行するのがこのゴニオメータです。
1. ゴニオメータの動き(θー2θ 関係)
ゴニオメータは、単に回るだけではなく、「分光結晶」と「検出器」を連動させて動かすのが最大の特徴です。
- 分光結晶の回転(θ): 試料から来たX線に対して、結晶の角度を θ だけ動かします。
- 検出器の回転(2θ): 結晶が θ 動くとき、検出器はその2倍の 2θ の位置へ移動します。
- なぜ?: 鏡で光を反射させるのと同じ理屈です。鏡を10度傾けると、反射した光の方向は20度変わります。X線も同様に反射(回折)させるため、常に 2θの位置に検出器がいないと、反射したX線をキャッチできないのです。
2. ゴニオメータの重要性
WDXRFの精度はこのゴニオメータの「停止精度の高さ」で決まります。
- 極めて精密: 角度のズレがわずか0.001度あるだけで、測定したい元素のピーク(山)を外してしまいます。そのため、非常に高精度なモーターと歯車で作られています。
- 元素の切り替え: 「次は鉄、その次は銅」というように、測りたい元素に合わせて結晶と検出器を高速かつ正確に目的の角度へ移動させます。
100字まとめ
ゴニオメータは、WDXRFで分光結晶と検出器の角度を精密に制御する回転台です。ブラッグの法則に従い、結晶をθ 、検出器を 2θの比率で連動させて動かすことで、混ざり合ったX線から狙った元素の波長だけを正確に捉えます。
「1つずつ動かして測る」のがゴニオメータを使うシーケンシャル型ですが、動かさずに複数の元素を同時に測るサイマル型という方式もあります。その違いについても興味がありますか?

ゴニオメータは、WDXRFで分光結晶と検出器の角度を精密に制御する回転台です。ブラッグの法則に従い、結晶を θ、検出器を 2θ の比率で連動させて動かすことで、混ざり合ったX線から狙った元素の波長だけを正確に捉えます。
波長分散型の検出器はどのような仕組みか
波長分散型(WDXRF)では、測定したい元素(エネルギーの強弱)に合わせて、主に「ガスフロー型比例計数管」と「シンチレーション計数管」の2種類を使い分けます。
エネルギー分散型(EDXRF)が1つの半導体検出器ですべてをこなすのに対し、WDXRFは得意分野が異なる2つの検出器を組み合わせて、最高精度を引き出します。
1. ガスフロー型比例計数管 (F-PC)
軽い元素(炭素、アルミニウムなど)の、エネルギーが低い(波長が長い)X線を測るのが得意です。
- 仕組み: 検出器の中にアルゴンとメタンの混合ガスを流し、入ってきたX線がガスを電離させることで生じる電気信号を捉えます。
- 特徴: 窓(受光部)が極めて薄いため、弱いX線も効率よく中へ取り込めます。ガスを常に流し続ける(フロー)のが一般的です。
2. シンチレーション計数管 (SC)
重い元素(鉄、銅、鉛など)の、エネルギーが高い(波長が短い)X線を測るのが得意です。
- 仕組み: X線が当たると光を発する「シンチレータ(結晶)」を使い、その光を「光電増倍管」で電気信号に変換します。
- 特徴: 透過力の強い(エネルギーが高い)X線をしっかり受け止めて、正確にカウントできます。
3. タンデム配置(二段構え)
多くのWDXRF装置では、この2つが「縦」に並んで配置(タンデム配置)されています。
- 効率的な測定: 手前のガスフロー型を通り抜けてしまったエネルギーの高いX線を、後ろのシンチレーション型で確実に仕留めるという、無駄のない構造になっています。

WDXRFでは、軽元素に適した「ガスフロー型比例計数管」と、重元素に適した「シンチレーション計数管」の2種を併用します。これらを前後に並べることで、全ての元素を高感度かつ正確にカウントできる仕組みになっています。

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