この記事で分かること
- MEMSデバイスとは:センサーやアクチュエーターなどの機械部品と電子部品を、微細加工技術でシリコン基板上に集積した微小なデバイスです。小型・低電力で、スマホの加速度センサーなどに使われます。
- 直接接合が必要な理由:MEMSは可動部が微小で環境に敏感なため、直接接合で気密封止し、信頼性を確保します。また、熱歪みなく高精度な異種材料の積層を実現するためです。
- 異素材同士の接合に必要な要素:表面の極限的な清浄度・平坦度が不可欠です。また、熱膨張率の差による歪みを避けるため、低温または常温での接合と界面の化学的活性化が特に重要です。
MEMSデバイス
チップの微細化による性能向上の限界が見え始めていることから、半導体製造において前工程から後工程へと性能向上開発の主戦場が移り始めています。複数のチップを効率的に組み合わせて性能を引き出す「後工程」の重要性が増しています。
前回はSOI (Silicon On Insulator) 基板に関する記事でしたが、今回はMEMSデバイスに関する記事となります。
MEMS(微小電気機械システム)デバイス とは何か
MEMSは「Micro Electro Mechanical Systems」の略で、日本語では「微小電気機械システム」と呼ばれます。
これは、センサーやアクチュエーター(駆動装置)などの機械要素部品と、各種の電子部品を、シリコンやガラスなどの基板上に、微細加工技術を用いて集積したデバイスのことです。
特徴
- 極めて小さいサイズ: 全長が数ミリメートル程度で、部品はマイクロメートル(μm$10-6メートル)オーダーという非常に微小な構造を持っています。これにより、機器の小型化に大きく貢献します。
- 立体構造と可動部: 一般的な半導体素子(ICやLSI)が電気信号の処理を主とするのに対し、MEMSデバイスは立体的な構造を持ち、機械的に動作する可動部を有することが大きな特徴です(可動部を持たないタイプもあります)。
- これにより、物理的な動き(加速度、圧力、光など)を検知したり、微細な動き(スイッチの切り替え、鏡の角度変更など)を行ったりすることが可能になります。
- 低消費電力・低コスト: 微細化により資源や消費エネルギーが節約され、半導体製造技術を応用して一度に多くのデバイスを製造できるため、低電力化と低コスト化が可能です。
応用例
MEMSデバイスは、小型化、省電力化、高機能化が求められる多くの製品に不可欠なものとなっています。
| 分野 | 代表的なMEMSデバイスの例 | 機能・用途 |
| スマートフォン・IoT機器 | 加速度センサー , ジャイロスコープ, 圧力センサー, MEMSマイクロフォン | 画面の自動回転、傾きの検知、位置情報の取得、高音質な通話・録音 |
| 自動車 | 慣性センサー、圧力センサー | エアバッグの作動制御、横滑り防止、タイヤの空気圧監視 |
| 医療 | 圧力センサー、マイクロポンプ、DNAチップ | 血圧測定、微量な薬液の供給、遺伝子解析 |
| プリンター・ディスプレイ | プリンタヘッド(インクジェット用)、デジタルミラーデバイス(DMD) | インクの噴射、プロジェクターなどでの光の制御 |
| 通信 | 高周波スイッチ、フィルター、発振器用振動子 | 通信速度の高速化、低損失な切り替え |
MEMSは、私たちの身の回りにある様々な製品の「センサー(神経)」や「アクチュエーター(筋肉)」のような働きを担っていると言えます。

MEMS(微小電気機械システム)デバイスは、センサーやアクチュエーターなどの機械部品と電子部品を、微細加工技術でシリコン基板上に集積した微小なデバイスです。小型・低電力で、スマホの加速度センサーなどに使われます。
ウエハの直接接合はMEMSデバイスになぜ必要か
MEMSデバイスにおいて、ウェハの直接接合(特に常温接合やフュージョンボンディング)は、その特有の微細構造と高い性能・信頼性を実現するために非常に重要な技術です。主な理由は以下の3点に集約されます。
1. センシティブな微細構造の保護(パッケージング)
MEMSデバイスには、加速度センサーの可動部やマイクロミラーなど、環境の変化に非常に敏感な微小な機械構造が含まれています。
- 高信頼性の確保: 直接接合は、これらのデリケートな構造を気密封止(ハーメチックシール)するために不可欠です。これにより、湿気、粒子、その他の汚染物質から内部を完全に保護し、デバイスの長期的な信頼性(例えば20年)を保証します。
- 動作環境の制御: 内部を真空や特定のガス環境に封入することで、可動部の摩擦を減らしたり、デバイスの性能を最適化したりすることができます。
2. 熱歪み・熱応力の回避
MEMSデバイスは、シリコンだけでなく、ガラスや金属など熱膨張率の異なる様々な材料を組み合わせて作られることがよくあります。
- 高精度な接合: 高温での接合を行うと、冷却時に材料間の熱膨張率の違いから熱歪みや熱応力が発生し、デバイスの精度が低下したり、最悪の場合は破損したりします。
- 常温接合の優位性: 直接接合の一種である常温接合は、熱を加えず室温で母材並みの高い強度で接合できるため、熱歪みの影響を完全に排除し、高精度で歩留まりの高いデバイス製造を可能にします。
3. 高機能な構造の実現(集積化)
MEMSデバイスは、機能ごとに異なる複数のウェハを重ねて(積層して)作製することが多く、直接接合はその構造を実現するための基本技術です。
- SOIウェハの製造: MEMSに多用されるSOI(Silicon-on-Insulator)ウェハは、接合技術を用いて製造されます。これは、可動構造を解放(リリース)する際のエッチングストップ層として機能し、複雑な構造の作製を容易にします。
- 異種材料の接合: シリコンとガラス、または異なる半導体材料同士など、接合技術によって異種材料を高強度で一体化させ、高機能で複合的なデバイスを実現できます。

MEMSは可動部が微小で環境に敏感なため、直接接合で気密封止し、信頼性を確保します。また、熱歪みなく高精度な異種材料の積層を実現するためです。
異なる半導体材料同士の直接接合で重要な要素は何か
異なる半導体材料同士を直接接合(ダイレクト・ボンディング)する際に、特に重要となる要素は、主に以下の3点です。
1. 表面状態の極限までの平坦化・清浄化
直接接合は、接着剤や中間層を介さずに、材料表面間の原子レベルの相互作用(ファンデルワールス力、水素結合、共有結合など)を利用して接合します。
- 平坦度と表面粗さ: 接合を成功させるには、ウェハ表面がナノメートルレベル(0.4 nm程度)で極めて平坦かつ滑らかである必要があります。わずかな凹凸や反りがあると、原子同士が近づけず、界面に隙間(ボイド)が生じてしまいます。
- 清浄度: 表面に微細な粒子や有機物などの汚染物質が残っていると、接合が妨げられたり、接合強度が大幅に低下したりします。
2. 熱膨張率の差と熱処理温度の制御
異なる材料を接合する際の最大の課題の一つが、熱膨張率の差です。
- 熱応力の回避: 接合後の熱処理(アニール)温度が高いと、熱膨張率が大きく異なる材料同士の間に大きな熱歪みや熱応力が発生し、デバイスの精度低下や破損を引き起こします。
- 低温または常温での接合: この問題を解決するため、常温接合や低温プラズマ活性化接合など、熱的なダメージを避けるための技術開発が重要となります。これにより、シリコンと熱膨張率が大きく異なる材料(例えば窒化ガリウム(GaN)やダイヤモンド)の接合が可能になります。
3. 界面の化学的活性化
強固な結合を形成するためには、接合する表面を化学的に活性化させる必要があります。
- 表面処理: 酸素プラズマやウェット化学処理などを用いてウェハ表面を活性化し、Si-OH基(水酸基)などの反応性の高い官能基を導入します。これにより、接合界面で強い共有結合(Si-O-Si結合など)を形成し、高い接合強度を実現します。
これらの要素を高度に制御することで、高性能なSOIウェハや、発熱源と冷却層を組み合わせた高熱伝導デバイスなどが実現されています。

表面の極限的な清浄度・平坦度が不可欠です。また、熱膨張率の差による歪みを避けるため、低温または常温での接合と界面の化学的活性化が特に重要です。

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