この記事で分かること
- マイコンとは:CPU、メモリ、入出力などを1つのチップに集積した「小さなコンピュータ」です。家電や自動車など、あらゆる電子機器の頭脳として、機器の動作を効率的に制御する役割を担っています。
- 一体化の利点:一体化は、小型化、低コスト化、低消費電力化、高速化、信頼性向上、開発簡素化を実現するためです。
マイコンとは何か
ルネサスエレクトロニクスは、2025年7月1日にエッジAI向け32ビットマイコン「RA8P1」の量産を開始したと発表しました。
https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/df8b6a9ad9cc87b84fed14ddad63a3c2790bf3d4
この「RA8P1」は、機械学習アプリケーションやリアルタイム解析をターゲットとしており、エッジAIアプリケーション向けに最適化されています。特に、英アーム社のコアを搭載しており、使用するニューラルネットワークの種類によっては、従来の製品と比較して最大35倍の推論性能を発揮するとされています。
前回の記事は、エッジAIについての解説でしたが、今回はマイコンとは何かについての記事となります。
マイコンとは何か
マイコンとは、マイクロコントローラ(Micro Controller Unit: MCU)の略称で、CPU(中央演算処理装置)に加えて、メモリ(RAMやROM/フラッシュメモリ)、入出力(I/O)ポートなどを一つの半導体チップに集積した、いわば「小さなコンピュータ」です。
パソコンのCPUが「頭脳」にあたるのと同様に、マイコンは家電製品や産業機器、自動車など、様々な電子機器の「頭脳」として、その機器全体の動作を制御する役割を担っています。
マイコンの主な構成要素と役割
- CPU (Central Processing Unit): マイコンの中核となる部分で、プログラムの指示(命令)を解読し、計算や判断、制御など、あらゆる処理を実行します。
- RAM (Random Access Memory): 一時的にデータを保存するメモリです。プログラム実行中の計算結果や変数の値を一時的に記憶します。電源を切るとデータは消えます。
- ROM / フラッシュメモリ: プログラム(ソフトウェア)や設定データなどを恒久的に保存するメモリです。電源を切ってもデータは消えません。
- I/O (Input/Output) ポート: 外部のセンサーからのデータを取り込んだり(入力)、LEDを点灯させたり、モーターを動かしたりする信号を出力したりする(出力)ためのインターフェースです。
- 周辺回路: タイマー(時間計測)、割り込みコントローラ(緊急時の処理)、アナログ-デジタル変換器(ADコンバータ:アナログ信号をデジタル信号に変換)、通信インターフェース(UART, SPI, I2C, USBなど)など、用途に応じて様々な機能が搭載されています。
マイコンの役割と特徴
マイコンの大きな役割は、「入力された情報に基づいて、あらかじめプログラムされた通りに処理を行い、適切な出力を出すこと」です。
- 炊飯器: 「スタートボタンが押された」という入力を受け、プログラムに従って「水の量を測る」「ヒーターを温める」「ご飯が炊き上がったことを知らせる」といった処理を制御します。
- 洗濯機: 「衣類の量や汚れ具合を感知する」という入力を受け、「適切な量の水と洗剤を入れ、洗濯・すすぎ・脱水を最適な時間で行う」といった処理を制御します。
- 自動車: 「アクセルが踏まれた」「ブレーキが踏まれた」「ハンドルが切られた」といった入力を受け、エンジンの回転数、変速、ブレーキの強さなどを制御します。
このように、私たちの身の回りにある多くの電子機器にマイコンが組み込まれており、その機器の複雑な機能を効率的かつ自動的に実行するために不可欠な存在となっています。

マイコンは、CPU、メモリ、入出力などを1つのチップに集積した「小さなコンピュータ」です。家電や自動車など、あらゆる電子機器の頭脳として、機器の動作を効率的に制御する役割を担っています。
なぜ、一体化させるのか
マイコンにおいて、CPUだけでなくメモリや入出力、様々な周辺回路を「一体化」させるのは、主に以下のメリットを追求するためです。
- 小型化・省スペース化:
- 複数のチップを個別に基板に実装するよりも、1つのチップに集積することで、基板面積を大幅に削減できます。これにより、製品全体の小型化、特にスマートフォンやウェアラブルデバイスのような小型機器において非常に重要です。
- 低コスト化:
- 個別の部品を製造・調達するよりも、1つのチップとして大量生産することで製造コストを抑えられます。また、部品点数が減ることで、基板設計や実装の工数も削減され、総合的なコストダウンにつながります。
- 消費電力の削減:
- 複数のチップ間でデータをやり取りする際には、その都度電力を消費します。しかし、これらを一体化することでチップ間の配線長が短くなり、信号伝送にかかる電力消費を抑えることができます。バッテリー駆動のデバイスでは特に大きなメリットとなります。
- 高速化・低遅延化:
- チップ間の通信経路が短くなることで、信号の伝送遅延(レイテンシ)が減少します。これにより、処理速度が向上し、特にリアルタイム性が求められるアプリケーション(例:自動運転の制御、産業ロボットの精密制御)で威力を発揮します。
- 信頼性の向上:
- 部品点数が減ることで、故障のリスクが低下します。また、チップ内部の設計は外部環境の影響を受けにくいため、全体としてのシステムの信頼性が向上します。
- 設計・開発の簡素化:
- 必要な機能がワンチップに集約されているため、システム全体の設計が簡素化されます。外部配線や部品選定の手間が減り、開発期間の短縮にも寄与します。
このような一体化された半導体チップは、特に「System on a Chip (SoC)」と呼ばれ、スマートフォンやタブレット、IoTデバイスなど、今日の多くの電子機器の核となっています。エッジAI用のマイコンにおいても、AI推論に必要なNPUや高速メモリなどをCPUと一体化させることで、上記のメリットを最大限に享受し、高性能かつ低電力で、様々なエッジAIアプリケーションを実現しています。

一体化は、小型化、低コスト化、低消費電力化、高速化、信頼性向上、開発簡素化を実現するためです。複数の機能を1チップに集約することで、特にエッジAIのような複雑な処理を効率的に行い、製品競争力を高めます。
一体化されていない半導体もあるのか
一体化されていない半導体も数多く存在し、これらは一般的に「ディスクリート半導体(Discrete Semiconductor)」と呼ばれます。
マイコンやSoC(System on a Chip)が複数の機能を1つのチップに集積しているのに対し、ディスクリート半導体は単一の機能に特化した個別の半導体素子を指します。
代表的なディスクリート半導体の例
- ダイオード: 電流を一方向にしか流さない素子。整流、逆流防止などに使われます。
- トランジスタ: 電流を増幅したり、スイッチング(ON/OFF)したりする素子。電子回路の基本的な構成要素です。
- LED (Light Emitting Diode): 電流を流すと光を出すダイオード。照明や表示灯に使われます。
- フォトダイオード: 光を電気信号に変換する素子。光センサーなどに使われます。
- サイリスタ: 大電流を制御するスイッチング素子。電力制御などに使われます。
- IGBT (Insulated Gate Bipolar Transistor): 高電圧・大電流のスイッチングに適したパワー半導体。インバーターやEVなどに使われます。
ディスクリート半導体が一体化されない理由
ディスクリート半導体が一体化されないのは、マイコンのように多機能を必要としない、あるいは、一体化することのメリットよりも個別の機能を特化させるメリットが大きい場合があるためです。
- 特定の機能に特化: 例えば、大電流を流すパワー半導体や、非常に高い周波数で動作する高周波用トランジスタなどは、その機能に最適化されたプロセスで製造され、個別のパッケージに封止されることで、その性能を最大限に引き出します。
- 柔軟な設計: 個別の部品として存在することで、回路設計者は必要な機能を持つ半導体を自由に組み合わせて、多様な回路を構築できます。
- コスト効率: 非常にシンプルな機能であれば、汎用的に利用できるディスクリート半導体として大量生産されることで、極めて低コストで提供されます。
- 放熱性: 大電力を扱う半導体は発熱が大きいため、個別のパッケージにすることで、放熱設計が容易になります。
今日の電子機器は、マイコンやSoCといった「一体化された半導体」と、ダイオードやトランジスタといった「一体化されていない(ディスクリート)半導体」の両方を組み合わせて構成されています。それぞれが異なる役割とメリットを持ち、用途に応じて使い分けられているのです。

ディスクリート半導体とは、単一の機能に特化した、個別の半導体素子のことです。CPUやメモリ、入出力などが一体化されたマイコンやSoC(System on a Chip)とは異なり、ディスクリート半導体は、例えば「電流を一方向にしか流さない」「電流を増幅する」「光を出す」といった、特定の役割だけを担います。
マイコンの製造シェアは
2024年の世界のマイコン市場のシェアに関する最新の調査結果によると、いくつかの主要なメーカーが市場を牽引しています。
2024年の世界のマイコン市場で首位を獲得したのは、ドイツのインフィニオンテクノロジーズ(Infineon Technologies)です。
市場調査会社Omdiaの報告によると、インフィニオンは2024年に市場シェアを21.3%に拡大し、2023年の17.8%から大きく伸ばしました。これは同社にとって、世界のマイコン市場で初めての首位獲得となります。
主要なマイコンメーカーとしては、他にも以下のような企業が挙げられます。
- インフィニオンテクノロジーズ (Infineon Technologies)
- NXPセミコンダクターズ (NXP Semiconductors)
- STマイクロエレクトロニクス (STMicroelectronics)
- マイクロチップ・テクノロジー (Microchip Technology)
- ルネサスエレクトロニクス (Renesas Electronics)
- テキサス・インスツルメンツ (Texas Instruments)
これらの上位メーカーが、世界のマイコン市場の大部分を占めている状況です。特に、自動車分野のマイコン市場では、インフィニオンが引き続き強いリーダーシップを発揮しています。
マイコン市場は、IoT、自動車、産業機器などの分野での需要拡大により、今後も成長が予測されています。
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