サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは何か?そのメリットや課題は何か?

この記事で分かること

  • サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは:資源を投入したら、できるだけ長く使い続け、資源に戻して再び活用するという循環を繰り返すことを目的とした考えかたです。
  • メリット:資源制約や環境負荷の低減などの環境面だけでなく、新たな経済機械の創出と経済の強化というメリットももあります。
  • 課題:既存の経済からどう脱却するのか、技術不足、消費者側の意識不足、インセンティブの設定方法、国際協調のなさなどが課題として挙げられています。

サーキュラーエコノミー(循環型経済)

 電子情報技術産業協会(JEITA)は「第11版 電子部品技術ロードマップ」を3月末に発刊しました。

 https://newswitch.jp/p/45382

 このロードマップは、日本のエレクトロニクス産業が2050年を見据えてどのような技術的進展や社会的課題に対応していくかを示したものになっています。 

 今回はJEITAが推進する分野の一つであるサーキュラーエコノミー(循環型経済)についての解説となります。

サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは何か

 サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは資源を投入したら、できるだけ長く使い続け、資源に戻して再び活用するという循環を繰り返すことを目的とした考えかたです。

サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは?

 サーキュラーエコノミーは、従来の直線型経済(リニアエコノミー)とは対照的な考え方です。リニアエコノミーは、「採取(資源を採って)→生産(モノを作って)→消費(使って)→廃棄(捨てる)」という一方通行の流れでした。

 このモデルは、地球の有限な資源を使い続け、大量の廃棄物を生み出すため、持続可能ではありません。 

 一方、サーキュラーエコノミーは、「資源を投入したら、できるだけ長く使い続け、最終的には廃棄するのではなく、資源に戻して再び活用する」という、資源が循環する経済システムを目指します。まるで、自然界の生態系のように、無駄なものを極力なくし、資源がループを描きながら利用されるイメージです。

サーキュラーエコノミーの核となる考え方

サーキュラーエコノミーを実現するためには、いくつかの重要な考え方があります。

デザインによる廃棄物の削減(Design out waste and pollution)

 製品の設計段階から、耐久性、修理可能性、再利用性、リサイクル性を考慮し、そもそも廃棄物が出にくいように工夫します。有害物質の使用を避け、環境負荷を最小限に抑えることも重要です。

製品と材料の循環(Keep products and materials in use):

長寿命化: 製品の寿命を長くすることで、買い替えの頻度を減らし、資源の消費を抑えます。

修理・メンテナンス: 製品が故障しても、修理して長く使えるようにします。

再利用・再販: 不要になった製品をそのまま、あるいは手を加えて再び利用します(例:中古品市場)。

リファービッシュ・リマニュファクチャリング: 使用済みの製品を回収し、部品交換や修理を行い、新品同様の性能に再生して販売します。

リサイクル: どうしても再利用できない製品から、有用な資源を取り出して、新たな製品の材料として活用します。

自然システムの再生(Regenerate natural systems)

  生物由来の資源(例:木材、食品廃棄物)を持続可能な方法で管理し、土壌や生態系の再生を促します。

サーキュラーエコノミー(循環型経済)とは資源を投入したら、できるだけ長く使い続け、資源に戻して再び活用するという循環を繰り返すことを目的とした考えかたです。

なぜ、サーキュラーエコノミー(循環型経済)が重要なのか

 サーキュラーエコノミー(循環型経済)は以下のような理由から非常に重要視されています。

資源制約への対応

 地球の資源は有限であり、現在の消費ペースでは枯渇する可能性があります。サーキュラーエコノミーは、資源の効率的な利用を促し、資源依存度を下げることを目指します。

環境負荷の低減

 廃棄物の削減、有害物質の抑制、エネルギー消費の効率化などを通じて、環境汚染や気候変動といった地球規模の課題の解決に貢献します。

新たな経済機会の創出

 サーキュラーエコノミーへの移行は、修理・メンテナンス、リサイクル、リファービッシュなどの新たな産業や雇用を生み出す可能性があります。また、革新的なビジネスモデルや技術の開発を促進します。

経済の強靭性向上

 資源価格の変動や供給途絶のリスクを低減し、経済の安定性を高めます。

 サーキュラーエコノミーは、単なるリサイクルの推進ではなく、経済システム全体の変革を目指す、より包括的な概念です。

資源制約や環境負荷の低減などの環境面への対応だけでなく、新たな経済機械の創出と経済の強化のためにも注目されています。

サーキュラーエコノミーの具体的な事例

 様々な分野で、革新的な取り組みが進んでいます。

1. 製品の長寿命化・修理・メンテナンス

  • パタゴニア(アパレル): 高品質で耐久性の高い製品を作り、修理サービスを提供しています。「Worn Wear」という中古品販売・買取プログラムも展開し、製品の寿命を最大限に延ばしています。
  • フェアフォン(スマートフォン): モジュール式で設計されており、ユーザー自身が部品交換や修理をしやすいスマートフォンです。ソフトウェアのアップデートも長く提供することで、製品の長寿命化を図っています。

2. 製品の再利用・再販

  • IKEA(家具): 家具の買取り・再販サービス「As-Is」コーナーを設けています。顧客が不要になったIKEA製品を引き取り、修理や手入れをして再販することで、資源の有効活用と新たな価値創造につなげています。
  • メルカリなどのフリマアプリ: 個人間で不要になったものを売買するプラットフォームは、製品の再利用を促進する重要な役割を担っています。

3. リファービッシュ・リマニュファクチャリング

  • Apple(電子機器): 使用済みのiPhoneやMacなどを回収し、クリーニングや修理、部品交換を行い、「整備済製品」として新品よりも安価に販売しています。
  • キャタピラー(建設機械): 使用済みの建設機械を回収し、分解・洗浄・再組み立てを行い、新品同様の性能に再生した「Cat Certified Rebuild」製品を提供しています。

4. シェアリング・サービス

  • カーシェアリング: 必要な時だけ車を利用できるサービスは、個人の所有台数を減らし、資源の有効活用につながります。
  • シェアサイクル: 自転車を共有して利用するサービスも同様の効果があります。
  • 洋服のレンタルサービス: 高価な服や特別な機会にしか着ない服をレンタルすることで、購入頻度を減らし、資源の無駄を省きます。

5. 製品のサービス化(Product-as-a-Service)

  • フィリップス(照明): 照明器具を販売するのではなく、「明るさ」という機能を提供するサービスを展開しています。これにより、顧客は初期投資を抑えられ、フィリップスは製品の回収・リサイクルまで責任を持つことができます。
  • ミシュラン(タイヤ): トラックなどのタイヤの走行距離に応じて料金を課金するサービスを提供しています。これにより、ミシュランはタイヤのメンテナンスやリトレッド(再溝加工)、最終的なリサイクルまで管理し、資源効率を高めます。

6. 産業共生(Industrial Symbiosis)

  • カルンボルグ(デンマークの工業団地): 複数の企業が連携し、ある企業の廃棄物を別の企業の資源として活用しています。例えば、発電所の排熱を地域の暖房に利用したり、製薬会社の汚泥をセメント製造に利用したりしています。

7. バイオベースマテリアルとコンポスタブルデザイン

  • 生分解性プラスチック: 植物由来の原料で作られ、使用後は微生物によって分解されるプラスチックは、海洋プラスチック問題の解決策の一つとして注目されています。
  • コンポスタブルな包装材: 食品などの包装材に、家庭や産業用のコンポストで分解可能な素材を使用する動きが広がっています。

多くの事例から、サーキュラーエコノミーが様々な産業やビジネスモデルにおいて実現可能であることを示しています。重要なのは、「捨てる」という概念をなくし、あらゆるものを資源として捉え、その価値を最大限に引き出すための工夫を凝らすことです。

サーキュラーエコノミーの課題と対策

 サーキュラーエコノミーは持続可能な社会の実現に不可欠ですが、その実現には様々なハードルがあります。

サーキュラーエコノミーへの移行における主な課題

  1. 既存の直線型経済からの脱却:
    • 課題: 長年にわたり確立されてきた大量生産・大量消費の経済システムや、それに基づいたインフラ、法規制、消費者の行動様式を変える必要があります。
    • 対策: 政府による明確な政策目標の設定と法整備、企業へのインセンティブ付与、消費者への啓発活動などを通じて、段階的な移行を促進します。
  2. 技術開発とイノベーションの促進:
    • 課題: 製品の長寿命化、修理・再利用の効率化、高度なリサイクル技術、バイオベース素材の開発など、サーキュラーエコノミーを実現するための技術がまだ十分に確立されていない分野があります。
    • 対策: 研究開発への投資の促進、産学官連携の強化、スタートアップ企業の育成などを通じて、革新的な技術やビジネスモデルの創出を支援します。
  3. サプライチェーンの再構築:
    • 課題: 製品のライフサイクル全体を考慮した設計や、使用済み製品の回収・再資源化のための新たなサプライチェーンを構築する必要があります。これには、企業間の連携強化や情報共有が不可欠です。
    • 対策: サプライチェーン全体でのトレーサビリティの確保、企業間の協業を促進するプラットフォームの構築、リバースロジスティクス(回収物流)の効率化などが重要になります。
  4. 消費者の意識改革と行動変容:
    • 課題: 消費者の使い捨て文化や、安価な新品を求める傾向を変え、修理して長く使う、中古品を選ぶ、シェアリングサービスを利用するなど、持続可能な消費行動を促す必要があります。
    • 対策: 環境教育の強化、サーキュラーエコノミー製品・サービスの認知度向上、ライフサイクルコストに基づいた製品選択の推奨、行動経済学の知見を活用したインセンティブ設計などが考えられます。
  5. 経済的インセンティブの不足:
    • 課題: 短期的なコストで見ると、リサイクル素材の利用や修理サービスの提供が、新品の大量生産よりも割高になる場合があります。
    • 対策: 資源価格の適正化、環境負荷に応じた課税(例:炭素税)、サーキュラーエコノミーに貢献する企業への税制優遇措置、補助金制度の導入など、経済的なインセンティブを設計することが重要です。
  6. 国際的な連携の遅れ:
    • 課題: グローバルなサプライチェーンを持つ製品も多く、一国だけの取り組みでは限界があります。
    • 対策: 国際的なルール作りへの積極的な参加、技術やベストプラクティスの共有、途上国への支援などを通じて、国際的な連携を強化する必要があります。
  7. データの収集・分析と標準化の遅れ:
    • 課題: サーキュラーエコノミーの進捗状況を把握し、効果的な対策を講じるためには、製品のライフサイクル全体にわたるデータの収集・分析が不可欠ですが、そのための仕組みや標準化がまだ十分ではありません。
    • 対策: データ収集・分析のための技術開発の推進、トレーサビリティシステムの構築、製品や素材に関する情報共有の標準化などが求められます。

課題解決に向けた総合的なアプローチ

 これらの課題は相互に関連しているため、個別の対策だけでなく、政府、企業、消費者、研究機関、NGOなど、様々な主体が連携し、総合的なアプローチで取り組むことが重要です。

 政策、技術、ビジネスモデル、消費行動の変革を同時並行で進めることで、サーキュラーエコノミーへの円滑な移行が可能になります。

既存の経済からどう脱却するのか、技術不足、消費者側の意識不足、インセンティブの設定方法、国際協調のなさなどが課題として挙げられており、様々な主体が連携し、総合的なアプローチで取り組むことが重要です。

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