この記事で分かること
- X線回折法とは:物質にX線を照射した際の「回折現象」を利用して、内部の原子配列や結晶構造を調べる手法です。物質固有の回折パターンを照合することで、成分の特定や結晶の状態を非破壊で解析できます。
- 回折パターンの形が物質ごとに固有な理由:物質を構成する原子の種類と、それらが並ぶ規則的な間隔(結晶構造)が物質ごとに異なるからです。原子の種類がピークの強さを、並び方の距離がピークの出る角度を決定するため、唯一無二の回折パターンが生じます。
- X線が改正を発生させる理由:回折には「波の長さ」と「隙間の広さ」が近いことが必要だからです。可視光は原子の間隔より数千倍も波長が長いため素通りしますが、X線は原子の間隔と同程度の波長を持つため、原子にぶつかり回折を起こせます。
X線回折法
機器分析とは、化学反応を用いる古典的な化学分析に対し、物質が持つ物理的・化学的性質を精密な機器で測定し、その物質の成分や構造を分析する方法の総称です。
高感度で迅速な分析が可能であり、微量な成分や複雑な混合物も精度高く分析できるため、現代の科学技術分野で広く利用されています。
X線回折法とは何か
X線回折法(XRD:X-ray Diffraction)は、物質にX線を照射したときに起こる「回折」という現象を利用して、物質の結晶構造や原子の並び方を調べる分析手法です。
物質の「指紋」を確認して、それが何であるか、どのような状態であるかを特定する技術です。
1. 原理:ブラッグの法則
物質にX線を当てると、原子が規則正しく並んでいる場合、特定の方向に強い反射光(回折光)が現れます。これは、隣り合う結晶面で反射したX線が互いに強め合うために起こります。
この現象はブラッグの法則として知られる以下の式で表されます。
nλ= 2d sinθ
- λ X線の波長
- d: 結晶の格子面の間隔
- θ: X線の入射角
- n: 反射の次数(整数)
この式により、回折が起きた角度(θ)を測定することで、目に見えないほど微細な原子の間隔(d)を計算で求めることができます。
2. この分析でわかること
XRDを用いると、主に以下の情報が得られます。
- 物質の同定(何でできているか):回折パターンの形は物質ごとに固有であるため、データベースと照合することで、未知の試料が何であるかを特定できます。
- 結晶化度の評価:試料が綺麗な結晶か、あるいはバラバラな状態(アモルファス)かがわかります。
- 歪みや結晶サイズの測定:ピークの幅や位置のズレから、材料内部に溜まっているストレス(歪み)や、結晶粒の大きさを推定できます。
3. 主な用途
非常に汎用性が高く、多くの産業・研究分野で必須のツールとなっています。
| 分野 | 具体的な活用例 |
| 材料開発 | 新しい電池材料や半導体の構造解析 |
| 製薬 | 薬の有効成分の結晶状態(薬効に影響)の確認 |
| 考古学・地質学 | 土器の粘土成分や岩石に含まれる鉱物の特定 |
| 品質管理 | 金属加工品やセラミックスの品質チェック |
4. 特徴とメリット
- 非破壊検査: 試料を破壊せずに測定できることが多いです。
- 粉末でも測定可能: 大きな塊だけでなく、粉状の試料(粉末X線回折)でも分析が可能です。
- 高い信頼性: 結晶構造に直接アプローチするため、化学分析(元素分析)だけでは分からない「物質の形態」まで判別できます。

X線回折分析(XRD)とは、物質にX線を照射した際の「回折現象」を利用して、内部の原子配列や結晶構造を調べる手法です。物質固有の回折パターンを照合することで、成分の特定や結晶の状態を非破壊で解析できます。
なぜ回折パターンの形は物質ごとに固有なのか
回折パターンの形(ピークの「出る位置」と「強さ」)が物質ごとに固有なのは、物質を構成する原子の「並び方(距離)」と「種類(重さ)」が、物質ごとに唯一無二だからです。
具体的には、以下の3つの要素が複雑に組み合わさることで、その物質特有の「指紋」のようなパターンが形成されます。
1. 原子同士の「距離」がピークの場所を決める
結晶の中では、原子がジャングルジムのように規則正しく並んでいます。この原子同士の間隔(格子面間隔)は物質によって異なります。
- ブラッグの法則: nλ= 2d sinθ
- 原子の間隔(d)がわずかでも違うと、X線が強め合う角度(θ)が変わります。そのため、ピークが現れる位置がズレるのです。
2. 原子の「種類」がピークの強さを決める
X線は原子の周りにある電子によって散乱されます。
- 重い原子(電子が多い鉄や金など)はX線を強く跳ね返します。
- 軽い原子(水素や炭素など)は跳ね返す力が弱いです。どの位置にどんな重さの原子が配置されているかによって、各ピークの「高さ(強度)」が大きく変わります。
3. 「結晶の形」が全体の配置を決める
同じ炭素からできていても、ダイヤモンドと黒鉛(グラファイト)では原子の組み方が全く異なります。
- ダイヤモンド: 立方体のような複雑な組み方
- 黒鉛: 平面が重なったような組み方このように構造が変わると、X線を反射できる「面」の向きや数そのものが変わるため、パターンの形は全く別物になります。
まとめ
「どこにピークが出るか」は原子の間隔で決まり、「どれくらい強いピークが出るか」は原子の種類と配置で決まります。この組み合わせが完全に一致する物質は他にないため、XRDは「物質の指紋」と呼ばれます。

物質を構成する原子の種類と、それらが並ぶ規則的な間隔(結晶構造)が物質ごとに異なるからです。原子の種類がピークの強さを、並び方の距離がピークの出る角度を決定するため、唯一無二の回折パターンが生じます。
X線が回折光を発生させる理由は
X線が回折光を発生させる理由は、「X線の波としての性質」と「原子の規則的な並び」が組み合わさることで、特定の方向にだけ光が強め合う現象が起きるからです。
1. 原子による「散乱」
X線が物質に当たると、それぞれの原子の周りにある電子がX線に揺さぶられ、X線をあらゆる方向へ跳ね返します。これを「散乱」と呼びます。この時点では、光はバラバラな方向に飛んでいます。
2. 波の「干渉」
X線は「波」なので、重なり合うと強め合ったり打ち消し合ったりします。
- 強め合う: 波の山と山が重なる(位相が揃う)
- 打ち消し合う: 波の山と谷が重なる
3. 「規則正しい並び」による整列
結晶の中では原子が一定の間隔(d)で並んでいます。特定の角度(θ)で入射したX線だけが、各原子で跳ね返った後にちょうど波の山と山が重なる状態になります。この「特定の条件で一斉に強め合って出てくる強い光」が、回折光の正体です。

X線が原子に当たると四方に散乱されますが、原子が規則正しく並んでいると、特定の角度で散乱された波同士が山と山が重なって強め合います(干渉)。この「特定の方向にだけ現れる強い光」が回折光です。
X線以外で発生しにくいのはなぜか
X線以外の光(例えば目に見える「可視光」など)で原子レベルの回折が起きにくい最大の理由は、「光の波長」と「原子の間隔」の大きさが違いすぎるからです。
回折現象が起きるためには、「波の長さ(波長)」と「障害物の隙間(原子の間隔)」がほぼ同じくらいである必要があります。
1. サイズの圧倒的な違い
- 原子の間隔: およそ 0.1ナノメートル(10-10m、1オングストローム)
- 可視光の波長: およそ 400〜700ナノメートル
- X線の波長: およそ 0.01〜10ナノメートル
可視光の波長は、原子の間隔に比べて数千倍も長すぎます。 イメージでいうと、砂利(原子)が敷き詰められた地面に対して、巨大な津波(可視光)が押し寄せるようなものです。
波が大きすぎて小さな砂利の隙間を認識できず、そのまま通り過ぎるか、ただ反射するだけで、細かな「回折」は起きません。
逆にX線は、ちょうど砂利の間を通り抜けられるサイズの小さなさざ波のようなものなので、隙間に反応して回折を起こすことができるのです。
2. 回折が起きる条件(回折格子の原理)
光が回折して特定の模様を作るには、その光を散乱させる対象(スリットや原子)が波長と同じスケールで規則正しく並んでいる必要があります。
- 可視光の場合: 数百ナノメートル間隔の溝(CDの表面など)があれば回折し、虹色に見えます。
- 原子の場合: 間隔が狭すぎるため、可視光には反応せず、極めて波長の短いX線(または電子線や中性子線)だけが反応します。

回折には「波の長さ」と「隙間の広さ」が近いことが必要だからです。可視光は原子の間隔より数千倍も波長が長いため素通りしますが、X線は原子の間隔と同程度の波長を持つため、原子にぶつかり回折を起こせます。

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