この記事で分かること
・β-グルカンとは何か:グルコースが結合してできた多糖類であり、キノコの細胞壁を構成する重要な成分です。
・なぜ、インフルエンザに効果があるのか:β-グルカンなどの成分によって 好中球の働きを調整し、過剰な炎症を防ぎながら免疫を強化するためインフルエンザによる肺炎を防ぐことが可能です
「β-グルカン」のインフルエンザウイルスによる肺炎の予防効果
カナダのマギル大学の最新研究によると、キノコに含まれる食物繊維「β-グルカン」が、インフルエンザウイルスによる肺炎を防ぐ可能性があることが明らかになりました。

この研究では、インフルエンザ感染前のマウスにβ-グルカンを投与したところ、肺の損傷が少なく、死亡リスクが低下することが確認されました。
どのようなインフルエンザに効果があるのか
現在の研究では、キノコに含まれるβ-グルカンが、インフルエンザA型ウイルスに対して予防効果を示す可能性があることが示唆されています。
カナダのマギル大学の研究では、β-グルカンがマウスの肺の炎症を抑制し、インフルエンザA型ウイルス感染による肺損傷を軽減する効果が確認されました。
また、舞茸に特有の成分であるマイタケα-グルカンが、インフルエンザA型ウイルスに対して効果を持つ可能性があるとする研究もあります。
この研究では、インフルエンザA型ウイルスに感染したマウスにマイタケα-グルカンを摂取させた結果、ウイルス量の減少が確認されました
ただし、これらの研究は主に動物実験に基づいており、人間における効果についてはさらなる研究が必要とされています。また、β-グルカンが他の型のインフルエンザウイルス(例えばB型やC型)に対して同様の効果を持つかどうかは、現時点では明らかになっていません。

β-グルカンは、インフルエンザA型ウイルスに対して予防効果を示す可能性があることが示唆されています。
他のグルカンについてもインフルエンザに効果がある可能性があります。
グルカンのαとβの違いは何か
α-グルカン(アルファグルカン)とβ-グルカン(ベータグルカン)は、どちらもグルコース(ブドウ糖)が結合してできた多糖類ですが、結合の仕方が異なるため、それぞれ特性や働きが違います。
1. 結合の違い
- α-グルカン:グルコース同士が α-1,4結合 や α-1,6結合 でつながっている。
- β-グルカン:グルコース同士が β-1,3結合 や β-1,6結合 でつながっている。
この違いにより、α-グルカンは消化されやすく、β-グルカンは消化されにくい(食物繊維の性質を持つ)。
2. α-グルカンの主な種類と特徴
- デンプン(米、パン、ジャガイモなど):エネルギー源として使われる。
- グリコーゲン(動物の肝臓や筋肉):エネルギーの貯蔵。
- マイタケα-グルカン:免疫活性化作用があるとされる。
3. β-グルカンの主な種類と特徴
- キノコ由来のβ-グルカン(シイタケ、マイタケ、ブナシメジなど):免疫機能の調整、抗ウイルス・抗がん作用の可能性。
- 穀物由来のβ-グルカン(オーツ麦、大麦):コレステロール低下作用、血糖値の上昇抑制。
4. 役割の違い
α-グルカン | β-グルカン | |
---|---|---|
消化 | されやすい | されにくい(食物繊維) |
主要な働き | エネルギー源(糖質) | 免疫調整、血糖・コレステロール低下 |
代表的な食品 | ご飯、パン、イモ類 | キノコ、オーツ麦、大麦 |

α-グルカンはエネルギー源として使われる糖質。β-グルカンは消化されにくい食物繊維で、免疫や健康に関与するため、インフルエンザの予防効果が期待されています。
βグルカンはどのようにして免疫機能を調整しているのか
β-グルカンは、免疫細胞の一種である好中球を再プログラムし、肺での過剰な炎症を抑制する働きがあるとされています。これにより、インフルエンザ感染時の重篤な肺炎の発症を防ぐ効果が期待されています。
好中球の再プログラミング」とは、好中球(免疫細胞の一種)の機能や応答の仕方を変えることで、免疫バランスを調整する現象のことを指します。これは、特定の刺激や環境の変化によって、好中球が持つ性質や働きが変化することを意味します。
好中球とは?
好中球は白血球の一種で、体内に侵入した細菌やウイルスを攻撃・除去する働きを持っています。しかし、過剰に働くと 炎症が強くなりすぎて、健康な組織を傷つける こともあります。
好中球の再プログラミングの具体的な内容
1. 炎症の抑制(抗炎症作用)
- β-グルカンを摂取すると、好中球の炎症を引き起こす能力が適度に調整され、必要以上に炎症が起こらないようになる。
- これにより、インフルエンザ感染時の 過剰な免疫反応(サイトカインストーム) を抑え、肺炎などの重症化を防ぐ可能性がある。
2. 免疫記憶の形成(訓練免疫)
- β-グルカンは好中球の遺伝子発現に影響を与え、次に病原体が侵入したときに より効果的に戦えるような状態にする。
- これは「訓練免疫(trained immunity)」と呼ばれ、ワクチンとは異なる免疫強化のメカニズムとして研究されている。
3. 細胞の代謝変化(エネルギーの使い方の変化)
これにより、炎症反応が急激に強くなりすぎず、長期間にわたって適切に機能する。
β-グルカンは好中球のエネルギー代謝を変化させ、持続的な免疫応答を可能にする。

好中球の再プログラミングとは、β-グルカンなどの成分によって 好中球の働きを調整し、過剰な炎症を防ぎながら免疫を強化するプロセスです。これがインフルエンザによる肺炎を防ぐメカニズムの一つと考えられています。
βグルカンはどんなキノコに多く含まれているのか
β-グルカンを多く含むキノコとして、以下のものが挙げられます。
1. 舞茸(マイタケ)
- β-1,3/1,6-グルカン を豊富に含む
- 免疫活性化作用が強いとされ、サプリメントにも利用される
2. 霊芝(レイシ / ガノデルマ)
- β-1,3/1,6-グルカン に加えて、トリテルペノイドも含む
- 伝統的に免疫調整や抗炎症作用が期待されてきた
3. シイタケ
- レンチナン(β-1,3/1,6-グルカン) を多く含む
- がん治療の補助食品としても研究されている
4. ハナビラタケ
- β-1,3/1,6-グルカン含有量が特に高い(舞茸よりも多いとされる)
- 免疫賦活作用が強く、研究が進められている
5. エノキタケ
- 低カロリーながらβ-グルカンを多く含む
- 水溶性と不溶性の食物繊維が豊富で腸内環境の改善にも役立つ
6. ブナシメジ
手軽に食べやすく、日常的に摂取しやすい
他のキノコほどではないが β-グルカンを含む

舞茸、霊芝、シイタケ、ハナビラタケに多くのβグルカンが含まれています。
なぜ、キノコはβグルカンを作り出しているのか
キノコは真菌類(菌類) に分類され、β-グルカンは 細胞壁 の主成分として作り出されています。これは、キノコが成長し、環境に適応するために重要な役割を果たします。以下のような仕組みでグルカンを作り出しています。
1. β-グルカンの合成の仕組み
(1)原料となるブドウ糖の取り込み
- キノコは 菌糸体(細胞の集合体) を広げながら成長し、周囲の有機物を分解して栄養を吸収する。
- 吸収した ブドウ糖(グルコース) を材料として、細胞壁を作るための多糖類(β-グルカンなど)を合成する。
(2)β-グルカンの合成酵素の働き
- キノコの細胞内では、β-グルカン合成酵素(β-glucan synthase) が働き、ブドウ糖をつなぎ合わせて β-1,3グルカンやβ-1,6グルカン を合成する。
- β-1,3結合を持つ主鎖に、β-1,6結合の側鎖が結合し、立体的な構造を作る。
(3)細胞壁への組み込み
- 合成されたβ-グルカンは、キチン(chitin) や他の多糖類と一緒に 細胞壁の構造 を作る。
- これにより、キノコの細胞は 物理的な強度を持ち、環境ストレス(乾燥、外部からの攻撃)に耐えられる ようになる。
2. β-グルカンを多く作る条件
- 成長段階:キノコが 活発に菌糸を伸ばす時期や、子実体(キノコ本体)を形成する時期 にβ-グルカンの合成が活発になる。
- 環境ストレス:低温や乾燥などのストレスがあると 細胞壁を強化 するためにβ-グルカンの合成が増える。

β-グルカンは、キノコの細胞壁を構成する重要な成分であり、 ブドウ糖を原料に、β-グルカン合成酵素が作り出すことで、細胞の強度を保ち、環境ストレスから守るために重要な役割を果たしています。
コメント