この記事で分かること
- ファウンダリ事業放棄の理由:巨額の赤字と、TSMCなどとの激しい競争により外部顧客を獲得できていないためです。多額の設備投資に見合う収益を上げられず、経営を圧迫していることが主な理由です。
- 技術的な遅れが生じた理由:10nmプロセスの開発が難航し、製造歩留まりの問題が解消できなかったことが主因です。その間にTSMCが順調に技術を進化させ、インテルは製造技術のリーダーシップを失いました。
- 注力するとみられる分野:、AI分野とコア事業であるCPU・GPUの開発に注力します。特にAI PCやデータセンター向けAIチップを強化し、収益性の高い中核事業へ回帰することで、競争力を高める方針です。
インテルのファウンドリ事業の完全放棄の可能性
インテルのCEOであるリップ・ブー・タン氏が、ファウンドリ事業の完全放棄の可能性について言及したとの報道があります。
https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2508/20/news047.html
これは、インテルがファウンドリ事業の現状と将来性について、より現実的なアプローチを取っていることを示唆するものです。
完全放棄を検討する理由は何か
インテルがファウンドリ事業の完全放棄を検討する理由は、巨額の赤字と外部顧客獲得の難しさによるものです。ファウンドリ事業は長年にわたり、インテルの収益を圧迫する要因となっていました。
巨額の赤字
インテルはファウンドリ事業で巨額の赤字を計上しています。2024年の第2四半期だけでも、約16億1000万ドルの純損失を計上し、6四半期連続の赤字を記録しました。
インテルは、2024年にファウンドリ事業で130億ドルの損失を出し、2027年までには損益分岐点に達したいと考えているものの、実現には不確実性が高い状況です。このような巨額の赤字は、インテルの経営全体を圧迫しており、投資家からの懸念も高まっています。
外部顧客獲得の難しさ
ファウンドリ事業の成功には、外部からの受注が不可欠ですが、インテルは顧客獲得に苦戦しています。その主な原因は以下の通りです。
- 技術的な遅れ: インテルは過去にプロセスノードの開発で遅れをとり、半導体製造のリーダーシップをTSMCに奪われました。これにより、外部顧客からの信頼を失い、TSMCやサムスンといった競合他社に顧客が流出しました。
- 自社との競合: インテルは、NVIDIAやQualcommといった顧客と、CPUやGPUの分野で競合しています。このため、顧客側が機密性の高い設計情報をインテルに共有することに抵抗を感じる場合があります。
- 新CEOによる現実主義的な方針: 新CEOであるリップ・ブー・タン氏は、前任者のパット・ゲルシンガー氏が掲げた積極的なファウンドリ投資戦略を見直し、「顧客からの具体的な量産コミットメントが得られるまで、大規模な設備投資は行わない」という現実的な方針に転換しました。この方針は、ファウンドリ事業の収益性を重視する一方で、投資を抑制することで将来的な成長が遅れる可能性も示唆しています。
これらの要因から、インテルはファウンドリ事業からの撤退も視野に入れ、コスト削減や事業の合理化を進めています。

インテルがファウンドリ事業の完全放棄を検討しているのは、巨額の赤字と、TSMCなどとの激しい競争により外部顧客を獲得できていないためです。多額の設備投資に見合う収益を上げられず、経営を圧迫していることが主な理由です。
技術的な遅れが生じた理由は何か
インテルに技術的な遅れが生じた理由は、主に以下の3つの要因が複合的に絡み合った結果です。
1. 「Tick-Tock」モデルの失敗
かつてインテルは「Tick-Tock」という独自の開発モデルを成功させていました。これは、プロセスノードの微細化(Tick)と、新しいマイクロアーキテクチャの導入(Tock)を交互に毎年行うことで、常に競争優位性を維持する戦略でした。
しかし、2010年代に入り、半導体製造の物理的な限界に近づくにつれて、このモデルは維持が困難になりました。特に、14nmから10nmへの移行が予定通りに進まず、何度も延期を繰り返したことで、「Tick-Tock」モデルは破綻しました。この遅延により、インテルは新しいプロセッサを市場に投入できなくなり、ライバルであるTSMCやサムスンに追い抜かれることになります。
2. 10nmプロセスノードの開発難航
インテルが特に苦戦したのは、10nmプロセスノード(現在のIntel 7)の開発でした。このプロセスは、従来の技術を大幅に超える複雑な技術を採用しており、歩留まり(製造されたチップのうち、正常に機能するものの割合)の問題が深刻でした。
歩留まりの改善に想定以上の時間がかかった結果、10nmプロセスをベースとする製品の量産開始が大幅に遅延しました。その間にも、TSMCは7nm、5nmといった次世代のプロセスノードを順調に開発・量産し、インテルとの技術的ギャップを広げていきました。
3. 経営戦略の失敗と内部の問題
- モバイル市場への対応遅れ: 2000年代後半から2010年代にかけて、スマートフォンを中心としたモバイル市場が急成長しました。しかし、インテルは従来のPC市場への依存度が高く、この大きなトレンドへの対応が遅れました。AppleとのiPhone向けチップ供給契約を断ったことは、その象徴的な失敗として知られています。
- 研究開発体制の停滞: 10nmプロセスの開発難航は、当時のインテルの研究開発体制の機能不全を露呈しました。プロセス開発部門と製品開発部門の連携不足や、過度に楽観的なロードマップが問題視されました。
- 競合の台頭: インテルが足踏みしている間に、TSMCは半導体受託製造に特化することで、世界の半導体メーカーからの信頼を獲得し、投資を集中させました。これにより、TSMCは製造技術でインテルを上回り、NVIDIAやAMDといったファブレス企業が高性能なチップを開発する基盤を提供しました。
これらの要因が複合的に作用し、インテルはかつての技術的優位性を失うことになりました。パット・ゲルシンガーCEOは、その遅れを取り戻すために「IDM 2.0」戦略を掲げましたが、その道のりは依然として険しいものです。

インテルに技術的な遅れが生じたのは、10nmプロセスの開発が難航し、製造歩留まりの問題が解消できなかったことが主因です。その間にTSMCが順調に技術を進化させ、インテルは製造技術のリーダーシップを失いました。
ファウンダリから撤退し、何に注力するのか
インテルは、ファウンドリ事業から撤退する場合、AI分野とコア事業であるCPU・GPUの開発に注力する可能性が高いです。
AI分野への注力
新CEOのリップ・ブー・タン氏は、AIを今後の成長の柱と位置づけています。特に、AI PCやAIチップの開発を加速させ、NVIDIAやAMDといった競合に対抗する構えです。
- AI PC: パソコンにAI処理用のNPU(Neural Processing Unit)を統合した「AI PC」市場の拡大を狙っており、2025年末までに累計1億台以上のAI搭載システムを出荷する計画です。
- データセンター向けAI: クラウド大手への提案やソフトウェア最適化を通じて、データセンター向けのAI市場でも存在感を高めようとしています。
コア事業への回帰
ファウンドリ事業の赤字を改善するため、自社ブランドの半導体製造・設計という中核事業の強化に回帰します。
- CPU・GPUの設計・開発: これまで培ってきたCPUやGPUの設計・開発能力を活かし、市場競争力を高めることに専念します。
- 外部ファウンドリの活用: 最先端のプロセスノードが必要な場合は、TSMCなどの外部ファウンドリに製造を委託することで、リスクを分散し、コストを最適化します。
この方針転換は、自社の強みを活かし、収益性の高い分野に集中する現実主義的な戦略と言えます。

インテルがファウンドリ事業から撤退する場合、AI分野とコア事業であるCPU・GPUの開発に注力します。特にAI PCやデータセンター向けAIチップを強化し、収益性の高い中核事業へ回帰することで、競争力を高める方針です。
コメント