この記事で分かること
- 核融合発電とは:太陽の原理を応用し、軽い原子核を融合させて莫大なエネルギーを取り出す発電方法です。燃料となる水素の同位体は海水からほぼ無尽蔵に得られ、二酸化炭素も出さないため、次世代のクリーンエネルギーとして期待されています。
- 核融合炉の構造:核融合炉の主流は、超高温のプラズマをドーナツ型の容器に閉じ込める「トカマク型」です。強力な超伝導コイルで磁場のカゴを作り、プラズマを宙に浮かせることで、容器壁に触れさせずに核融合を起こさせます。
- 膨大なエネルギーを得られる理由:反応前の原子核の合計質量が、反応後の原子核の質量よりわずかに減少します。この失われた質量(質量欠損)が、アインシュタインの式E=mc²に基づき、莫大なエネルギーとして放出されるためです。
核融合発電の実用化
米国の核融合スタートアップ企業であるコモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS)は、2030年代後半に日本で核融合炉の商業運転を開始することを検討しています。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-09-03/T1ZXRVGPL3WO00
これは、日本政府がフュージョンエネルギー発電の「早期実現と産業化」を掲げていることと、日本での核融合研究の蓄積を背景にしたものです。
核融合発電とは何か
核融合発電とは、軽い原子核同士を融合させてエネルギーを発生させる発電方法です。これは、太陽の内部で起きている核融合反応を人工的に地上で再現しようとするものです。
仕組み
核融合発電では、水素の同位体である重水素と三重水素を高温(1億度以上)に加熱してプラズマ状態にし、強い磁場などで閉じ込めます。
このプラズマ内で原子核同士が衝突して融合する際に、莫大なエネルギーが放出されます。このエネルギーで水を沸騰させ、タービンを回して発電する仕組みです。
メリットとデメリット
メリット
- クリーンなエネルギー:二酸化炭素(CO2)を排出しません。
- 高い安全性:核分裂反応のような連鎖反応がないため、万が一システムが停止しても反応が自然に止まり、暴走事故のリスクが低いとされています。
- 燃料の豊富さ:燃料となる重水素は海水から、三重水素はリチウムから生成できるため、燃料資源がほぼ無尽蔵に存在します。
- 放射性廃棄物の低減:高レベル放射性廃棄物がほとんど出ません。発生する放射性廃棄物も、放射能の減衰が比較的早く、管理期間が短くて済みます。
デメリット・課題
- 技術的な難易度:1億度を超える超高温のプラズマを安定して閉じ込める技術は非常に難しく、まだ実用化に至っていません。
- 莫大なコスト:実験炉の建設や研究開発に巨額の費用がかかります。
- 実用化までの道のり:技術的な課題が多いため、実用化はまだ先のことだと考えられています。日本では2050年頃の実用化を目指して研究が進められています。

核融合発電とは、太陽の原理を応用し、軽い原子核を融合させて莫大なエネルギーを取り出す発電方法です。燃料となる水素の同位体は海水からほぼ無尽蔵に得られ、二酸化炭素も出さないため、次世代のクリーンエネルギーとして期待されています。
なぜ原子核同士が衝突して融合するとエネルギーが放出されるのか
核融合でエネルギーが放出される理由は、「質量欠損」と呼ばれる現象と、「結合エネルギー」の概念に関係しています。
質量欠損
核融合反応が起こると、融合する前の原子核の合計質量と、融合してできた新しい原子核の質量を比べると、わずかに減少します。この減少した質量を「質量欠損」と呼びます。
結合エネルギー
原子核は、陽子と中性子が「核力」という非常に強い力で結びついています。この結びつきを保つために必要なエネルギーを「結合エネルギー」といいます。結合エネルギーが大きいほど、原子核は安定した状態です。
エネルギー放出のメカニズム
水素などの軽い原子核は、核融合してヘリウムのような少し重い原子核になると、核子(陽子と中性子の総称)あたりの結合エネルギーが大きくなり、より安定した状態になります。このとき、元の原子核の質量は、新しい原子核の質量よりもわずかに大きくなります。
この失われた質量が、アインシュタインの有名な式 E=mc²(E:エネルギー、m:質量、c:光速)に従って、莫大なエネルギーとして放出されるのです。つまり、核融合は、より安定した状態になる過程で、余分な質量をエネルギーに変えて放出する反応なのです。

核融合では、反応前の原子核の合計質量が、反応後の原子核の質量よりわずかに減少します。この失われた質量(質量欠損)が、アインシュタインの式E=mc²に基づき、莫大なエネルギーとして放出されるためです。
核融合炉の具体的な構造は
核融合炉には様々な方式がありますが、現在主流となっているのは、磁場閉じ込め方式の「トカマク型」と「ヘリカル型」です。これらの炉は、超高温のプラズマを強力な磁場の”カゴ”で閉じ込めることを基本構造としています。
1. トカマク型 (Tokamak)
トカマク型は、プラズマをドーナツ型(トーラス)の真空容器内に閉じ込める方式です。
構造の主要な要素
- 真空容器 (Vacuum Vessel):プラズマを閉じ込めるためのドーナツ型の容器。
- 超伝導コイル (Superconducting Coils):プラズマを閉じ込めるための強力な磁場を生成する役割を担います。
- トロイダル磁場(TF)コイル:ドーナツの周りを囲むように配置され、ドーナツ状の磁力線(トロイダル磁場)を形成し、プラズマをドーナツ状に保ちます。
- ポロイダル磁場(PF)コイル:ドーナツの上下に配置され、プラズマを内側に押し込む磁場(ポロイダル磁場)を形成します。
- 中心ソレノイド(CS)コイル:ドーナツの中心にあり、変圧器の原理でプラズマ中に電流を誘導します。この電流も磁場を生成し、プラズマを安定させます。
- ブランケット (Blanket):プラズマの周囲を覆う構造物で、核融合反応で発生した高エネルギーの中性子を捕獲して熱に変換し、発電に利用します。また、リチウムを含んでおり、中性子との反応で核融合の燃料となる三重水素(トリチウム)を生成する役割も担います。
- ダイバータ (Divertor):プラズマ中に発生する不純物を排気し、熱を処理する機器です。プラズマの熱や粒子に直接さらされるため、非常に高い耐熱性が求められます。
2. ヘリカル型 (Helical)
ヘリカル型も磁場閉じ込め方式ですが、トカマク型とは磁場を生成するコイルの形状が異なります。
構造の特徴
- ヘリカルコイル:ドーナツ型の真空容器の周りに、らせん状にねじれたコイルを配置します。この特殊なコイルだけで、プラズマを閉じ込めるのに必要な磁場を生成します。
- 定常運転:トカマク型のようにプラズマ電流を必要としないため、長時間にわたる安定した運転に適しているとされています。日本の核融合科学研究所にある「大型ヘリカル装置(LHD)」は、この方式を採用しています。

核融合炉の主流は、超高温のプラズマをドーナツ型の容器に閉じ込める「トカマク型」です。強力な超伝導コイルで磁場のカゴを作り、プラズマを宙に浮かせることで、容器壁に触れさせずに核融合を起こさせます。
プラズマをドーナツ状にする意味は何か
トカマク型でプラズマをドーナツ状にするのは、プラズマを安定して閉じ込めるためです。
磁場の”かご”でプラズマを捕まえる
プラズマは、プラスの電荷を持つイオンとマイナスの電荷を持つ電子が入り混じった状態です。これらの荷電粒子は、磁力線に沿って螺旋運動をする性質があります。
この性質を利用し、強力な磁場でプラズマを容器の壁に触れさせずに閉じ込めるのが「磁場閉じ込め方式」です。
なぜドーナツ型なのか?
もし磁力線が直線状だと、プラズマは磁力線の端から外へ逃げてしまいます。そこで、プラズマの端がなくなるように、磁力線を輪っかの形にして閉じ込める必要があります。この「端がない」形状がドーナツ型(トーラス型)なのです。
これにより、プラズマ中の粒子は磁力線に沿ってドーナツの輪の中をぐるぐると回り続け、外部に逃げ出すことなく、長時間閉じ込められるようになります。

トカマク型でプラズマをドーナツ状にするのは、プラズマを容器の壁に触れさせずに閉じ込めるためです。磁力線に沿って運動するプラズマの性質を利用し、端がないドーナツ状にすることで、粒子が外部に逃げないようにしています。
核融合発電の課題は何か
核融合発電の主な課題は、技術的課題と経済的課題に大別されます。特に、1億度以上の超高温プラズマを長時間安定的に維持する技術や、炉の材料開発が大きなハードルとなっています。
1. 技術的課題
- プラズマの安定的な閉じ込め: 核融合反応を継続させるには、超高温のプラズマを磁場で長時間安定して閉じ込める必要があります。しかし、プラズマは不安定になりやすく、乱流などが発生してエネルギーが漏れ出してしまうため、これを制御する技術が非常に難しいです。
- 炉の材料開発: 核融合反応で発生する強力な中性子線は、炉の壁や内部の部品を劣化・脆化させます。長期にわたって中性子にさらされても、高い強度を保ち、放射性廃棄物の発生を抑える新しい材料の開発が不可欠です。特に、プラズマに直接さらされるダイバータと呼ばれる部品には、非常に高い耐熱性が求められます。
- 三重水素(トリチウム)の増殖技術: 核融合の燃料の一つである三重水素は、天然にはほとんど存在しないため、炉内でリチウムから生成する必要があります。この三重水素の増殖と回収を効率的に行う技術の確立が課題です。
2. 経済的課題
- 莫大な建設・研究開発コスト: 核融合炉の建設や研究開発には、非常に巨額の費用がかかります。国際協力プロジェクトであるITER(国際熱核融合実験炉)でも、建設費は2兆円以上に達しており、商業炉の実用化にはさらなる投資が必要です。
- 発電コストの低減: 建設コストが高いため、実用化された場合、発電コストが化石燃料や他の再生可能エネルギーに比べて高くなる可能性があります。商業的な競争力を確保するためには、コストを大幅に削減する必要があります。
これらの課題を克服するために、世界中で大規模な国際協力プロジェクトが進められていますが、実用化までにはまだ数十年の時間がかかると考えられています。

核融合発電の最大の課題は、1億度以上の超高温プラズマを長時間安定的に閉じ込める技術の確立です。また、強力な中性子線に耐えうる炉材料の開発や、莫大な建設コストも大きなハードルとなっています。
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