RANGE 知識の幅が武器になる ディビッド・エプスタイン 3分要約

3分要約

知識の幅とはなにか

 専門に特化した知識ではなく、様々な領域についての知識を持つこと。近年多くの分野で知識の幅を持つことの重要性が明らかになっている。

知識の幅ではなく、専門特化したほうが良いのでは?

・同じパターンが繰り返される

・正確なフィードバックがすぐに提供される

 ような親切な学習環境では経験が能力を向上させやすいが、

・ルールが不明確

・フィードバックが遅い

 ような意地悪環境では特定の経験は間違った学びを強化してしまう。

知識の幅はなぜ必要なのか

 世界の大抵のことは意地悪な学習環境であるため、狭い知識だけでは対応できない。

 幅広い知識は概念的な知識を得ることを可能にし、概念的な知識を持つことで表面的には似ていないが、根本的に似ている部分を結び付けることができる。この結び付けはクリエイティブな思考に欠かすことができない。

 専門特化がないますに働いている世界も

幅はどのようにすれば身につけられるのか

・長期的に関係性を認識するようにする

・探求する期間をもち、曲がりくねったキャリアパスを持つ

・旺盛な好奇心を持つ

・習慣を捨て、いつもの手法にしがみつかない

 変化の大きく意地悪な環境では、何か一つのことをずっとやるのではなく、様々な経験と子横断的な思考を持てるようにすることが何よりも重要。

複雑化した社会では多様な経験と横断的な思考が重要になる

 タイガーウッズは父親が子供の才能を信じ幼少期からゴルフをやらせることで、偉大な選手へと成長していった。一方でフェデラーは様々なスポーツを経験したのちにテニスを選び偉大な選手になった。

 タイガーの育て方は専門に特化した練習の時間数がスキルを伸ばすという考え方を象徴するもの。早いうちに何に取り組むべきかという考えはスポーツ以外にも広がっている。どの分野でも知識は急速に膨らみファーカスするものを限定して絞り込むことが必要だといわれている。

 しかし、スポーツの世界でのエリート選手には、体験期間に様々なスポーツを経験し、自分の力や性質を知った後に専門とするスポーツを決めて、練習に取り組んでいる場合も多く見られる。テクノロジーでも芸術でも専門性の深さよりも幅が成功につながったケースも多い。

 タイガーのような早熟さや明確な目的意識からくる専門特化が必要な場面も確かにあるが、複雑化した世界ではフェデラーのような幅広さの必要性は大きくなる。専門特化が推奨される中でどのように多様な経験と横断的な思考を維持するかが課題になっている。

親切な学習環境では経験が重要だが、大抵のことは意地悪な学習環境

 第二次世界大戦後のハンガリーで生まれたラズローは従来の教育は役にたたず、とにかく訓練を早く始めれば天才に育てられると考えた。生まれた子供たちをチェスのチャンピオンにするため、小さいときからチェスの訓練を続けた。

 3人の子供たちはチャンピオンにはなれなったものの、傑出したチェスプレイヤーとなった。ラズロー自身の成功から早期専門特化のアプローチを用いれば人類の問題を解決できるのではと発言している。

 しかし、チェスは同じパターンが明確に繰り返されるため、そのパターンを認識し、直感的に意思決定を行うことが重要となる。同じパターンが繰り返され、正確なフィードバックがすぐに提供される親切な学習環境では経験が能力を向上させやすい。

 一方で、ルールで不明確で、フィードバックの遅い意地悪な学習環境では経験は間違った学びを強化してしまう。世界のたいていは意地悪な学習環境であり、早期の専門特化は成果を出すのに適していない。意地悪な学習環境で成果を出す人ほど幅の広さを持っており、ある分野で得た知識を別の分野に応用するのが巧く、従来の効果がないかもしれない解決法に依存する傾向を遮断している。

 パターンを認識し、狭い範囲の専門特化することは人間ではなくコンピュータの得意な部分。人間は幅広く情報や知識を統合し、全体の戦略を立てることが強みになるため、専門特化はAIの発達でさらに重要性が低下してしまう。

抽象的思考の重要だが、現代の教育ではトレーニングされていない

 近代化、教育など様々な要因で、抽象的な思考力が強化されている。具体的な経験を思考の基準とすることは減り、類似性など物事の関係性理解やパーセントのような概念を表す言葉の多用などが起きている。今でも辺境の地に住む人々は概念や関係性を理解することは難しいことから、複雑な世界への適応の結果と考えられる。

 より複雑な世界へ適応するには概念的な知識や一つのカテゴリーから別のカテゴリーに自由に動ける抽象的思考が必要だが、現代の教育ではこれらのトレーニングはされず、専門特化が推進されている。このような教育では学校の成績が良くても概念的な思考ができない場合が多い。

 概念的な思考は経験なしで学ぶこと、つまり新しいアイディア同士を結び付け、領域を超えて考えることを可能にし、急速に変化する意地悪な世界で求められている。

楽器の成熟には練習量よりも複数の楽器を演奏したかが影響する

 17世紀のベネチアではフィーリエ・デル・コーロという女性だけからなる音楽家のグループが多くの人を魅了し、ビバルディのクリエイティビティを刺激し、オーケストラの基礎になったともいわれている。

 彼女たちは捨て子で、ピエタと呼ばれる慈善施設で育てられ、そこで音楽を学んでいた。ピエタの音楽プログラムは特に厳しいものでははなかったが、複数の楽器を取得し、神聖的なものから世俗的なものまであらゆるスタイルの音楽を練習していた。

 音楽の世界でも早い段階からの専門特化が進んでいるが、トップクラスの音楽家の中には他の楽器を練習する体験期間を持つ人も少なくなく、楽器の成熟には正味の練習量や練習時間が優秀さを表す適切なパラメータにならないことがはっきりしている一方で、優秀な子は異なる楽器を練習していたことが多い。

 プロの子供時代の多くは間違いを修正するような正式な練習ではなく、即興や人をまねるななどで徐々に染み込んでいくような練習を積んでいた。

 幅の広さは応用の広さにつながり、多くの文脈で学べば学ぶほど抽象的なモデルを獲得しやすく、見たことのない状況に対応できるようになる。これがクリエイティビティの根源となる。

関係性を認識させる難しい授業が長期的には深い理解を与える

 国によって授業の内容は大きくことなるが、主に先生の教え方は解法を用いる場合と関係を認識させる二つに分けられる。解法を用いる場合、習ったばかりのことを練習させ、関係性を認識させる場合はより大きな概念につながる質問をする。公式を教えて同じような問題を解くのが前者、なぜ公式が機能するか尋ねたり、条件が異なっても公式が利用できるかを聞くのが後者となる。

 どちらの手法も有効だが、解法を用いるだけで関係性を認識させないと、応用が利かず似た問題しか解くことができない。また、解法を教えると問題がとけるようになはなるが、ある程度学習が難しく時間のかかるほうが長期的にはより高い学習効果を示す。

 短時間で学んだ知識やスキルはその効果も短期間しか持たない。関係性を認識させるような授業は難しく、生徒の満足度が低いケースも多いが、長期的には深い理解を与えている。

 狭い範囲を短期間で学ぶよりも広い範囲を時間をかけて学んだ方が、困難で生徒の満足度も低くなるが、結果的には深い理解となり長期的な効果が高くなる。

根底が似ている部分を結び付ける思考がクリエイティブにつながる

 ケプラーは惑星が太陽の周りをまわる時に太陽に近い惑星ほど早く動くことに疑問を持っていた。この疑問は今までにないもので、思考の起点になるものがなかったため、類推(アナロジー)を使うしかなかった。においや熱、光、磁気、渦など様々なアナロジーを片っ端から調べ、天体が互いに引き合っているという結論に達した。

 様々な関係を理解することは人間に特有で、高い理解力の要因になっている。実際に難しい問題にアナロジーでヒントを出すと答えをだせる人は増える。表面的には似ていないが、根底部分が似ている部分を見つけ、結び付けることがクリエイティブになるにも欠かせない。

 学生を対象にした調査では、根底部分の共通点に気づきやすいのは専門特化しておらず様々な領域に触れている学生であった。また根底部分の共通点に気づく能力が高い人ほど優れた問題解決者でもあり研究室内で研究者のバックグラウンドが多様なほど、アナロジーが多くなり、成果を挙げる確率も高かった。

スタートの遅さが不利にならない例は無数にある

 ゴッホは現代美術への橋渡し役を果たし、どんなアーティストよろも様々な人にインスピレーションを与えている。ゴッホは様々な職を歩んだのちに画家になり成功している。スタートが遅いにもかかわらず成功したのは例外的なものではなく、スタートが遅いことが不利に働いたわけでもない。

 その人の能力や性質と仕事の相性はマッチクオリティーと呼ばれ、多くの調査が行われている。専門特化が早い人のほうが遅い人に比べ、マッチクオリティーの低い職につき別の分野に仕事を変えている割合が高い。

 専門特化の遅れによるマッチクオリティーの向上はスキル取得の遅れによるマイナス分を上回る結果となっている。ただし、マッチクオリティーの低い職から別の職に移ること自体も次の仕事での成長を早めることがわかっている。合っていないものでも長く続けるべきというアドバイスはよくあるが、やめる決断をできる人が成功しやすい。

 広い世界でマッチクオリティーの高い仕事を見つけるのは難しく、その過程で粘り強さ、グリットは障害になることもある。情熱と忍耐力は重要でひどいことがあったからすぐにやめるべきではない。しかし関心やフォーカスが変わることを不利と考える必要はない。

探索の期間をもち、寄り道することがキャリアにプラスになる

 ヘッセルバインは様々なボランティア活動に従事したのち、54歳にして初めて報酬のある仕事につき、経営者として活躍している。彼女は長期的な計画を持たずに、その時々に興味のある活動から学ぶことを意識している。

 曲がりくねったキャリアパスは専門特化からするとマイナスに見えるが、探索の期間を持ち、寄り道をすることは キャリアに必要な場合も多い。

 人は将来の自分が実際よりも変化が少ないと勘違いしがち。また、自分がどんな人間かは実際に生きることでしか知ることができないため、探索の期間は非常に重要。

専門家でない人がブレイクスルーを起こすことは多い

 専門家集団に解決が難しかったことをウェブを通じて、外部に広くアイディアを募ることで、解決できたケースは驚くほど多い。歴史的にも缶詰や原油の回収などのアイディアは専門家ではない人が思いついており、オウトサイダ―や素人が技術的なブレイクスルーを起こすことは珍しくない。

 人は問題を解決しようとするときに自分がよく知っている方法に引きずられてもっと優れた方法を無視してしまう。難しい問題ほど専門家によって解決しようとするが、大きなイノベーションはその問題から離れた人が別の角度から捉えなおして、もたらされることも多い。

 専門家がたくさんの情報を生み出すことで、好奇心の強いオウトサイダーや素人が広く公開されているが分散している情報をつなぎ合わせることでできるようになる。

幅を広げることは難しいが、専門特化以上に有用

 任天堂は花札を販売する会社としてスタートしたが、花札の需要が少なくなり、他の事業を始めようとしたが、失敗が続いていた。そんななか、新入社員の横井が自作していたおもちゃを製品化し、ヒットを生み出した。

 横井は様々なヒット商品を生み出したが、そのアイディアは枯れた技術の水平思考と名付けられたアプローチだった。水平思考は一見ばらばらなコンセプトや領域を結び付けることで、横井は古くから存在し、簡単に手に入り、専門的な知識の必要のない技術をこれまでにない方法で使うことで様々な商品を生み出した。電卓のスクリーンを利用したゲームウォッチは大ヒットし、後のゲームボーイに続くアイディアとなった。

世界は広くて深いため、専門に特化した分野であっても深く見るだけでなく、広く見ることも重要になる。開発者のどんな要素が発明に貢献したか調べる研究では、一つの分野で得た知識を新しい分野に応用し、広げていくタイプのポリマスと呼ばれるタイプの人がスペシャリスト、ゼネラリスト以上の貢献をすることがわかっている。

 専門特化はまっすぐ進めばよいため、取り組みやすいが、幅を広げるのは難しい。それでも不確実で意地悪な環境には、幅広い経験はとても貴重になる。

予測の精度には経験やその分野での知識、実績よりも幅の広さが重要

 多くの専門家の予測はその分野の知識が豊富にもかかわらず、間違っている場合が非常に多い。経験や手にできる情報、実績などもすべて予測には役に立っていない。

 予測の精度が高めるにも、幅の広さが重要で、旺盛な好奇心をもち幅広い分野を知る人のほうが専門家よりも予測の精度が高い。

 チームでオープンな議論をしたり自分の予測が外れた際に考えを修正することで測の精度は高まるが、人間は自分に意見と違うものは本能的にうけいれにくい。とくに専門特化した人は自分の意見を変えにくい。

 専門家は自分の専門分野に基づくシンプルかつ、決定論的な因果関係のルールをみつけようとするが意地悪な学習環境では決定論的なルールが存在しないことも多いため、間違ってしまうことが多い

いつもと違う状況で同じ道具にしがみつけば失敗する

 データが不足した状況で判断を行うことは非常に危険だが、データに捉われすぎることが失敗につながることもある。 

 人間が自分の道具を手放すことは、習慣を捨てることでなかなか難しいため、実際には間違っていてもいつもの手法にしがみついて失敗することは多い。NASAは定量的なデータを基に判断する習慣が強く、データに表れなかった傾向や意見を参考にしなかったため、大きな事故につながってしまった。

 いつもと違う状況で、いつもの道具にしがみつけば大きな過ちを犯してしまう。組織文化に整合性をもたせ、一つの方向に進むことが推奨される場合も多いが、一貫性を持ち過ぎた場合は不整合性を持ちこむことで、別の視点を持つことができるようになる。型にはまった支持体系が行き過ぎると、多様な意見や違和感を共有できなくなる。万能なツールなどなく全ての鍵を開けるマスターキーも存在しないため、一つの道具に頼りすぎることは危険。

あらゆる分野で幅の広さが成果につながる

 専門特化は科学技術の分野でも進んでいるが、科学技術の進歩度合いが遅くなっているという調査結果もある。クリエイティブな仕事で大きな仕事を上げるのはチーム間の境界線が緩い組織であることがわかっている。論文の引用数も、その論文が通常は一緒に表れないような分野の論文を引用していると多くなることがわかっており、幅の広さはやはり重要になる。

 イノベーションを起こすには意図的に幅と非効率を持たせた体制で進めるべきだが、専門特化が推奨される社会では難しい。多くの科学者が効率性を求めすぎることは独創性の強い発見をすることは難しいと指摘している。

寄り道と実験で幅を広げることが大きな力になる

 寄り道をし、実験をし、レンジを広げることで得るものはとても大きい。そのためには自分を誰かと比べ後れを取ったと思うのではなく、自分自身と比べること。多様な経験を持つ人は専門家のグループよりもクリエイティブに優れている。

 早期の専門特化が生き残るコツで様々な経験や実験は無駄だというヘッドスタートは過剰評価され過ぎており、複数の分野で示されたように不確実性の高い現代では実験が大きな力をもつ。

 

 

 

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