大人のための生物学の教科書 要約10 免疫

要約9 自律神経とホルモン

この記事で分かること

・免疫の仕組み

・自然免疫と獲得免疫の違い

・どんな時に免疫がマイナスに働くのか

免疫は何のためにあるのか

 生物は常に多くの 細菌、ウイルス、毒素などの外来物にさらされており、これらの侵入を防いだり、侵入した外来物を排除するシステムが免疫です。

 免疫のおかげで健康な生きものの体内は基本的に無菌状態が保たれています。(腸内には無数の細菌がいますが、腸管は外界と接しているため体外となります。)

どのようにして外来物の侵入を防いでいるのか

 異物が体内に侵入することを防ぐことが免疫に第一の防衛線であり、以下の様なもので、異物の侵入を防いでいます。

・物理的バリア:幾層にも重なる細胞からなる皮膚や粘液で異物を絡めとる粘膜、異物を外に追い出す       繊毛でバリア機能を果たしています。

・化学的バリア:粘膜の分泌する粘液には化学的バリアの作用も持っている。強酸とタンパク質分解酵素の作用でウイルスを死滅させる胃液や涙や唾液に含まれるリゾチームという抗菌作用を持つ酵素などが存在しています。

・微生物バリア:皮膚表面の表皮ブドウ球菌や腸内の共生細菌によっても異物は排除されています。

体内に侵入した異物はどのように除去しているのか

 体内への異物の侵入を許した場合は、異物を除去するための防御機構が発動します。

 生体防御機能の主役は白血球です。白血球は顆粒球、リンパ球、単球に分類され、それらの中でさらに多くの種類に分類されています。

 自然免疫とは、生まれつき備わった免疫機構です。自然免疫は主に、顆粒球グループ、リンパ球のNK細胞、単球のマクロファージ、樹状細胞の働きで成り立っています。

 顆粒球の好中球は細菌表面の抗原を認識し異物と判断し、丸ごと自分の中に取り組み、自身の消化酵素や殺菌物質で殺菌、溶菌する貪食で異物を除去しています。

 マクロファージも同じように細菌を貪食で取り込みますが、それと同時に、情報伝達物質であるサイトカインを放出します。

 好中菌はサイトカインの濃度の高いほうへ移動するため、マクロファージには貪食だけでなく、援軍を呼ぶ抗原提示という作用も持っています。

 好中菌は細胞を貪食し、無害化した後自分自身も死んでしまいます。この死骸が集まったものが膿や痰、鼻水の黄色い成分となります。 

 ウイルスに感染した細胞はマクロファージとは別種のサイトカインを放出します。このサイトカインはNK細胞を活性化させます。

 NK細胞はウイルスに感染した細胞やたがん細胞を認識し、対象となる細胞に自死を促す物質を送り込むことで、無害化しています。

免疫がマイナスに働くことはあるのか

 免疫系による感染細胞の除去は、病原体の排除に欠かせませんが、組織そのものを破壊する可能性も秘めています。

 結核菌は肺に入り込んで寄生する菌であり、これを免疫系が細胞ごと破壊してしまうため、肺に穴が開き肺機能が低下してしまいます。肺の組織を破壊しているのは結核菌ではなく、自身の免疫反応によるものです。

 免疫は重要で強力な防衛手段ですが、度を越えると自分自身も傷つけるものになってしまいます。 

獲得免疫とは何か

 生得的な免疫である自然免疫以外にも、後天的に獲得する獲得免疫も重要な免疫機構です。 

 獲得免疫はリンパ球のT細胞とB細胞の働きによって機能しています。 

 抗原提示を受けると、その抗原細胞を認識できるキラーT細胞が活性化したり、ヘルパーT細胞がサイトカインを放出し、キラーT細胞やマクロファージを活性化させることで細胞の除去、無害化を行っています。

 ヘルパーT細胞には免疫全体を制御する役割も持っています。ヘルパーT細胞を狙って感染するウイルスがHIVウイルスであり、免疫全体が正常に機能しなくなり、通常なら問題ないウイルスや細菌の感染で病気になってしまいます。これがAIDSとなります。

 ヘルパーT細胞は抗原に対する抗体を作るB細胞を活性化させ、抗体を作ったB細胞はT細胞のところに移動します。抗体を産生可能なB細胞はT細胞によって活性化され、急増殖させ抗体を作り出すことで病原菌の無害化、感染力低下、貪食の活発化などを行い免疫機能を発揮しています。

獲得免疫の特徴は何か

 獲得免疫の特徴は相手を厳密に識別する特異性にあります。ヘルパーT細胞やB細胞などは異常事態が収まると消滅しますが、その一部はメモリーT細胞、メモリーB細胞として長い期間残っています。

 再び抗原に触れると自ら増殖し、抗原を速やかに排除します。この免疫記憶を利用することで予防接種による病原菌の記憶が可能になっています。

 一方で、免疫系による攻撃は強力なため、抗原ではなく、自身の細胞へ攻撃する自己免疫疾患やサイトカインの過剰放出による感染部位以外での免疫反応の促進による炎症や血管拡張などを起こすサイトカインストリーム、攻撃の必要のないターゲットまで攻撃し、炎症を起こすアレルギーなどの要因にもなります。

 免疫反応の暴走ともいえる状況であり、その要因や仕組みについてはまだ明らかになっていない部分も多くあります。

 清潔すぎる環境で働く必要のない免疫細胞が力を持て余して暴走したり、過剰な殺菌などで物理的バリアがうまく働かないことでも病原菌の侵入を許す可能性もあるため、ほどほどの環境が必要なのかもしれません。

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