本の要点、概要

この本や記事で分かること
・自然界にはどのような互恵的な関係性が存在しているのか
・互恵的な関係がどれほど多くのことをもたらしているのか
・人類が自然互恵的な関係を築くために必要なことは何か
自然界は凶暴な生存競争の場なのか?
ダーウィンの進化論による適者生存という考え方は人々に、生きものは乏しい資源をめぐり凶暴な生存競争を繰り広げているというイメージを与えてしまっています。
しかし、これはダーウィンの洞察を誤ったやり方で世界に当てはめてしまっているものです。
実際の自然界では、植物などの生命体はとても顕密に、協力し合っています。
人間が自然から得られるものに対し、充分な敬意を払っているとは言えません。
生物界の互恵に触れることで、人間社会とその周辺で生きものと生態系を団結させる協力関係を結ぼうとする機会になります。

進化論の適者生存という考えは人々に自然界が奪いあい、競争による生存競争というイメージを抱かせています。
しかし、実際の自然界では、多くの協力関係が見られます。自然の協力関係を知ることで、自然から得るものへの敬意を得て、生態系と人間社会でも協力関係を構築する機会となります。
現在の植林の問題点は何か?
森林破壊による炭素排出量は地球全体の20%ほどと非常に大きなものとなっていおり、気候変動対策からも森林の持つ力に注目が集まっています。
現状の植林は、区域内にある樹木を皆伐し、微生物のいない土壌で育てられた苗を単一で移植するという方法がとられています。
しかし、森林は多くの生物による協力関係によって成り立っています。この協力関係を無視したやり方では、森林と気候を長期的に健全に保つことはできないと考えられています。
陸生植物の90%には菌類が定着しており、植物が光合成で生み出した炭素燃料を与え、菌類は水と土壌の栄養素を与えています。
根粒菌と呼ばれる種類の菌は植物の成長に欠かせない窒素を植物に提供するという働きを担っています。
また、多様な樹木は地下の菌類の力を借りて、つながっており、影になって成長できなたった若木に炭素燃料を与えていることも明らかになっています。

現状の植林は、区域内にある樹木を皆伐し、微生物のいない土壌で育てられた苗を単一で移植するという方法がとられていますが、これは森林に住む生物の協力関係を無視した手法です。
微生物、菌類などとの協力関係がなければ樹木は育たず、森林と気候を長期的に健全に保つことはできません。
生物の互恵関係はなぜ、注目されてこなかったのか?
互恵的で相利共生な関係は植物だけでなく、動物でも見られる幅広いものです。
しかし、生物の互恵的な相互関係が適切に研究、評価されてこなかったことには社会的な状況も影響しています。
・第2次世界大戦以降、競争を求める風潮が蔓延してきたこと
・相利共生が社会主義や無政府主義で支持されたことでを、西側諸国を躊躇させた
・関係性の構築よりも競争を重視する男性が科学を支配していた
などの影響が考えられています。
このような背景から協力関係こそが生命の基本原理であり、競争よりも広くいきわたっているという主張は長い間生物界での研究の中心となることはありませんでした。

自然界では生物同士の互恵的な関係は一般的なモノですが、競争を求める風潮が蔓延してきたことや関係性の構築よりも競争を重視する男性が科学を支配していたなど社会的な事情もあり、あまり注目されてきませんでした。
我々と微生物はどのような関係にあるのか?
微生物と微生物の与える影響に関する研究は現代の科学の中でも人気のある領域の一つで、多くのことが理解され始めるにつれその影響力の大きさはが明らかになっています。
微生物が発見された当初、病原菌などが多く発見されたこともあり、微生物は私たちに悪さをするものというイメージがありました。
しかし、実際にはほとんどの微生物は私たちに害をあたえておらず、一部の微生物は生きていくために不可欠な存在となっています。
人間の体温が36℃であることは、体内を細菌の働きやすい温度にしているためです。腸内細菌は私たちの健康に大きな影響を持っており、これらの細菌を殺してしまう抗生物質の悪影響が注目を浴びている理由でもあります。
微生物に適切に栄養を与えることができれば、大型生物は様々な恩恵を受け取ることができ、互恵的な関係にあるといえます。

微生物が発見された当初は、悪さをするものというイメージもありましたが、今では微生物なしでは生きていくことができないことが分かっています。
腸内細菌の重要性など微生物と微生物の与える影響に関する研究は現代の科学の中でも人気のある領域の一つになっています。
過度な放牧は何を招くのか?
自然環境の維持にも生物同士の互恵的な関係は非常に重要です。
川沿いで牛を過剰に放牧すれば、草を食べつくしてしまい、蹄によって土中の根茎を踏み砕き、充分な光合成ができなくなり、植生は死に絶えてしまいます。
植生が死滅すると川の流れを緩やかにする植物がなくなり、定期的に起こる水位の上昇で土手が削られ、流れが速くなり、途中の土壌への浸透が少なくなり、川沿いの土地は乾燥してしまいます。
土手が削られ、川が低い位置を流れるようになれば地表に暮らす生きものを支えることはできなくなってしまいます。
ただし、劣化してしまった地であっても、牛を定期的に移動することやダムを作ることで川の流れの速さを緩めるビーバーを導入することで改善することが可能です。

牛の過剰な放牧は、川周辺の植生を死滅させ、川の流れの増加、川沿いの土地の乾燥を引き起こします。流れの増加で土手が削られ、川が低い位置を流れるようになれば地表に暮らす生きものを支えることはできなくなってしまいます。
ただし、劣化してしまった地であっても、適切な放牧法やビーバーの導入で改善することは可能です。
互恵的な関係を無視した農業の問題点は何か?
単一作物を植え、肥料や農薬、除草剤などの化学物質で管理するような現代農業は、生物同士の互恵関係を無視することで、大きな悪影響を受けている分野といえます。
植物は光合成で得た炭素エネルギーの一部を微生物に供給し、微生物は植物に無機物、水、病気や昆虫に対処できる化学物質を提供しています。
窒素肥料が与えられれば植物と微生物の共生関係を断ってしまい、窒素以外に必要となる物質を微生物から得ることができなくなってしまいます。
これらの農業から脱し、植物を多様化し、動物取り入れた農業での成功例も増えています。成功の要因は有機炭素の増加、保水力の向上、動物による害虫駆除など様々です。

植物は光合成で得た炭素エネルギーの一部を微生物に供給し、微生物は植物に無機物、水、病気や昆虫に対処できる化学物質を提供しています。
窒素肥料があると、窒素肥料が与えられれば植物と微生物の共生関係を断ってしまい、窒素以外に必要となる物質を微生物から得ることができなくなってしまいます。
都市への自然の導入にはどんな意味があるのか
都市に住む人口の割合が大きく増える中で、都市緑化という考え方が大事になっています。実際、都市への自然導入もやり方によっては大きな効果を生みます。
都市をつながり合った生態系の一部と捉え、自然が存在する場所として再考し、都市設計と計画の中心に自然を置くことができれば、大きな効果を上げることができます。
樹木は影を作り出し、路面の熱から人を守り、保水によって洪水の被害を防ぎます。また、葉は様々な微粒子を除去することで大気汚染を減少させることも知られています。
また、植物などの自然は心身の健康を高める効果もあり、都市の少しの自然であってもそのような効果を得ることは可能です。

樹木は影による路面の熱の軽減、保水による洪水の被害を防ぎます。また、葉は様々な微粒子を除去することで大気汚染を減少させます。また植物などの自然は心身の健康を高める効果もあるため、都市緑化という考え方が大事になっており、自然導入のやり方によっては大きな効果を生みます。
都市緑化を実現するために必要なことは何か
都市緑化を実現するためには、環境教育格差をなくし、自然に対し、胸を躍らせる市民が必要です。
暮らしの中である自然を見たいと願う気持ちは、自然を守ろうとする意欲につながりやすいものです。
イギリスでは個人の庭がすべて自然に優しいものになれば、国立自然保護区の4倍の面積の規模になるという計算もあります。
都市の住民に所有地を手入れする方法を変えること(殺虫剤、化学肥料を避け、多様性を維持する)でも大きな効果が期待できます。
私たちは人間の創造力と賢さに大きな期待をしていますが、求めている答えの多くは自然の中に存在しています。生態系のどこにでも、人間の想像もつかないような方法で、修復を引き受けてくれるパートナーが存在しています。
生態系の競争ではなく、協力と共存に目をむけ、生態系を維持しようとする自然の邪魔さえしなければ、想像よりもはるかに簡単に自然は豊かに立ち直ることが可能です。

都市緑化を実現するためには、自然に対し、胸を躍らせる市民が必要です。環境教育格差をなくし身近に自然に触れることのできる環境で、自然を守ろうとする意欲を持つことができれば大きな効果が期待できます。
生物同士の協力関係に目を向け、自然の邪魔をしないようにするだけで、自然は想像よりもはるかに豊かに立ち直ることが可能です。
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