化学.17-7 全固体電池

この本や記事で分かること

・全固体電池とは何か

・全固体電池のメリットと課題

・全固体電池の仕組みや構造

電解質に液体を使用するデメリットは何か 

 多くの電池が生み出され、様々な用途で利用されています。

 しかし、ダニエル電池のような初期型の電池であれ、リチウムイオン電池であれ、イオンの通り道である電解質が液体であるという部分は変わっていません。

 乾電池であっても、固体に液体の電解質を吸着させたものを使用しているだけで、本質的に電解質が液体であることに変わりはありません。

 液体には、運搬や貯蔵が面倒、気温が高いと蒸発しやすい、低いと凍結してしまう、分解しやすい、液漏れしやすいなど様々な問題があります。

全固体電池の利点は何か

 電解質に固体を用いることができれば、これらの問題を解決することができるため、大きな注目を浴びています。

 特に、EV化の進む自動車では、以下のような利点から全固体電池への期待が大きく、自動車メーカーによる積極的な投資が進んでいます。

・有機溶媒不使用のため、安全性が高い

・液体の蒸発がなく高温での動作も可能

・耐熱性が液体と比較して高いため冷却機構が不要であるため、電池容器の比率が高く、エネルギー密 度を高くでき、省スペース化、航続距離の延長や軽量化などが可能

・電解液内をリチウムイオン以外が移動せず、副反応が少ないため劣化しにい

 また大型の蓄電池としての利用にも期待が集まっています。

全固体電池はどのような構造をしているのか

 現在の一般的な全固体電池は、リチウムイオン電池の電解質を固体にしたものを指します。

 基本的な構造は通常のリチウムイオン電池と同じで、電解液とセパレータが固体電解質に置き換わった構造をしています。

 バルク型の全固体電池は固体電解質中に電極が存在しており、通常のリチウムイオン電池と類似した構造になっています。

 固体は液体と比較し、イオンの動きが遅いため高い導電性を持っていることや電極と密着性が高いことなどが求められます。

 イオンの輸送距離を短くすることで、動きの遅さをカバーしたものが、薄膜型です。真空蒸着などで金属の固体薄膜を積層することで作成されるもので、すでに実用化もされています。

固体電解質にはどのようなものがあるのか

 全固体電池の性能を決めるもっとも重要な要素は優れた固体電解質であり、様々な固体電解質が試されています。

 現在有望とされて固体電解質にセラミックス型(酸化物型)と硫化物型が挙げられます。

 セラミックスは無機物を加熱、焼結したものの総称で、固体電解質には無機酸化物が利用されています。

 セラミック型は素材としての耐熱性が高いというメリットはありますが、焼結時に高温が必要になるため、電極などの部品に耐熱性が求められます。

 また、化学的に安定であるため、電極材料などに新規に開発されたものを使用しても問題が起きにくいという利点があります。

 硫化物型の固体電解質は、粉体に圧力をかけて作られるため、製法が低温であるというセラミック型にはない利点があります。

 しかし、粉体同士が接触した構造のため、セラミック型ほどは構造が一体化しておらず、抵抗が高くなりやすく出力が低下しやすいという欠点があります。

 また、水と反応すると有毒ガスである硫化水素が発生することが大きな問題となっています。

全固体電池の課題にはどんなものがあるのか

 全固体電池は液体を使用しない大きな利点がありますが、現状では広い範囲での使用は見られていません。その理由は以下のようなものが挙げられます。

・コストの高さ

 固体電解質や電極材料の製造コストが高いため、リチウムイオン電池との置き換えが難しくなっています。

・導電性の低さと界面抵抗

 固体電解質は液体と比較し、導電性が低いため、電池の内部抵抗が高く、効率が低下してしまいます。また、電極と固体電解質の界面で発生する界面抵抗も出力を低下させてしまいます。

・材料の安定性

 硫化物型の固体電解質では、水と反応で有毒ガスが発生するなど材料自体の安定性も課題の一つになっています。また、充放電の際に電解質や電極が劣化を起こさないようにすることも求められています。

・大型化の難しさ

 小型の全固体電池を研究室レベルで作成することができても、製造プロセスが複雑なため、大型化しても、均一でムラのない製品を製造することが難しくなっています。

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