病が分断するアメリカ 平体由美 要約

本の概要

コロナ対策で大きな注目を浴びたものの一つに公衆衛生があります。

公衆衛生にどうしても、自由を制限する部分があるため、常に反発が起こるもので、日本でも行動制限やワクチン接種、マスクなどで大きな議論を巻き起こしています。

しかし、アメリカでは日本以上に大きな議論が起きています。アメリカは近年の政治的イデオロギーや所得格差、価値観などで分断が起きていること、自分たちのことは自分たちで決めるというアイデンティティが公衆衛生と相性が悪いことなどが大きな原因です。

分断の結果、コロナによる被害は他の先進国と比較しても、ひどい状況となってしまいました。

社会の分断がどう病に影響するのか、また、病がどのように社会を分断していくのかを通じて、公衆衛生とはなにか、分断を防ぐために必要なことは何かなどを知ることのできる本になっています。

この本や記事で分かること

・公衆衛生と何か

・なぜ、公衆衛生には反発が大きいのか

・アメリカのコロナ被害の大きさや健康状態の悪さの要因

アメリカの問題について書かれた「問題はロシアよりむしろアメリカだ」の要約はこちら

Z世代のアメリカの考えから今のアメリカの状況を知ることのできる「Z世代のアメリカ」の要約はこちら

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本の要約

要約1

病は社会を分断するものですが、社会の分断が病の種類や軽重を左右する側面も持っています。

現在のアメリカは政治イデオロギー、所得格差、価値観など様々な分断が起きており、病と健康に大きな影響を及ぼしています。

分断による影響もあり、アメリカは医療のレベルの高さや医療分野への投資の多さにもかかわらず、他の先進国と比較した時の健康状態が優れているわけではありません。

分断に以外にも公衆衛生にどうしても、自由を制限する部分があるため、常に反発が起こるものですが、自由を信条とし、自分たちのことは自分たちで決めるというスタンスを持つアメリカ人とは相性の悪うものになりがちであることも健康状態の悪さの要因になっています。

要約2

公衆衛生とは地域やコミュニティを病から防衛し、住民の健康を維持するための公共的な取り組みのことです。

病の治療以上に病の拡散を防ぎ、健康な人が病に罹患しないように対策を打つことを重要視するものであるため、病院よりも政治と行政が大きな役割を担っていることが特徴といえます。

公衆衛生は以下の要素から成り立っています。

・数を数え、分析する

・健康教育を行う

・行動制限を行う

特に健康な人に対し、制限を付けるという、個人の利益、自由よりも集団の健康を重視することが基本であるため、人の認識と欲求の移り変わりに左右され、最適な公衆衛生対策の運用が難しくなることもあります。

要約3

アメリカは自分たちのことは自分たちで決め、自分たち以外がした決定を押し付けられることを強く否定する意識が強くアメリカの強さの要因になっています。

公衆衛生そのものがある程度の自由を制限するものであるため、どの国においても反発は起こるものですが、アメリカは公衆衛生による行動制限や強制に極端な反発を持つ面があります。

このこともあり、コロナへの対応ではマイナスとなり、コロナによる感染者数、死亡者ともに世界一となっています。

また、ワクチンは感染症の脅威を接種に対する減らしてきましたが、多くの混乱を招いてきました。ワクチンの忌避というと非科学的な反発と思いがちですが、以下のような原因でワクチンを拒否する人もいます。

・過去のワクチンの質が悪く、被害を受けたイメージが残っている

・副反応で仕事を休むと収入が減ってしまう人が避ける

・19世紀に新薬の開発や新しい治療法の実験台にされた過去から黒人は新しい医療を忌避している

経済的な問題や過去の人種差別などの影響の場合もあり、一概に非科学的な人による反発と決めつけるべきではありません。

要約4

公衆衛生は科学に立脚しつつも、政治、経済、思想といったものの影響を受けざるをえないものです。

正しい情報を伝えれば、人は認識や行動をかえるはずという態度は、アメリカに限らず、かえって反発を呼び起こす可能性があります。

このことを理解しておかないと、アメリカでのマスクの着用のように、衆衛生の対策の是非が政治的な対立で左右されてしまう状況になってしまいます。

正しい情報を伝えるだけでなく。相互のコミュニケーションが非常に重要になってきます。議論と政治的決断によって、何を政策として、選択し、どこを諦め、どれに自由と選択を保証するのかを集団として選び取っていく必要があります。

病と社会はどのような関係にあるのか

 病は社会を分断するものであり、社会の分断が病の種類や軽重を左右します。

 現在のアメリカは共和党と民主党的なイデオロギー的な分断、所得格差、行動を導く価値観などで分断が起きており、病と健康に大きな影響を及ぼしています。

 医療への投資の多さとレベルの高さを持つアメリカ人全体の健康状態は他の先進国と比較し、良好とはいえない状態です。

 また、公衆衛生は自由を制限する部分があるため、常にある程度反発が起こるものです。

 アメリカの社会と病の関係を観察することで、アメリカ社会の成功と失敗を学ぶことができる本になっています。

病は社会を分断し、社会の分断は病の種類や被害の軽重と左右します。

アメリカは医療への投資の多さ、レベルの高さ、豊かさに割りに健康状態が良好とはいえませんが、その理由に社会的な分断が関わっています。

公衆衛生とは何か

 公衆衛生とは地域やコミュニティを病から防衛し、住民の健康を維持するための公共的な取り組みのことです。

 個人よりも集団を対象としているため、病院よりも政治と行政が大きな役割を担っており、病の治療以上に病の拡散を防ぎ、健康な人が病に罹患しないように対策を打つことを重要視するものです。

 公衆衛生で重要な要素は以下の3つです。

・数を数えて分析すること

 どの地域で発生しているのか、どの年齢性が多いのか、増えているのか減っているのか、死亡率はどれくらいなのかなどの基礎的なデータの収集と分析を行います。

 分析の結果から重点的に対応すべき地域、対象などを特定します。

 病化をどう特定するかが難しい場合や統計データの未熟な国などもあり、数を数えることは難しい面もあります。

 人々の詳細なデータを集めることで、精度を上げることはできますが、プライバシー侵害との抵抗が起きることが予想されます。

・健康教育を行うこと 

 病の特徴や防ぎ方、罹患した際の対応などの情報提供と啓発で認識を変え、行動を変化させます。

 個人の欲望や社会の当為と衝突することもあり、どこまで管理すべきかという問題は難しいものです。また、偽情報も拡散しやすいため、情報発信のやり方も重要となります。

・行動制限を行うこと

 域外からの移動制限や検疫の実施、隔離などを行うことです。自由やプライバシーを侵害するため公衆衛生で最も疎まれる分野でもあります。

 個人の自由との衝突、ビジネスへの影響、経済の停滞、人々のストレスの増大などを招くくため、コストとベネフィットのバランスを探り続ける必要があります。

 公衆衛生の3要素を実施するには機構を整備し、運用することが必要です。日本では厚生労働省や保健所、市区町村の区役所、研究機関、病院などが連携しています。

 公衆衛生は常に人の認識と欲求の移り変わりに左右されるため、困難に直面することも少なくありません。

公衆衛生とは地域やコミュニティを病から防衛し、住民の健康を維持するための公共的な取り組みのことであり、主に下記の3つの要素から成り立つものです。

・数を数え、分析する

・健康教育を行う

・行動制限を行う

病の治療以上に病の拡散を防ぎ、健康な人が病に罹患しないように対策を打つことを重要視するものです。

健康な人に負担を強いる側面があるため、人の認識と欲求の移り変わりに左右されやすくなっています。

アメリカにおける公衆衛生の特徴は何か

 アメリカを象徴する言葉の一つに「自由の国」であるというものがあることは、アメリカ人自身も強く意識しています。

 自分たちのことは自分たちで決め、自分たち以外がした決定を押し付けられることを強く否定していることは、国家の権限以上に州の権限が強いことなどからも観ることができます。

 ダイエットや健康な生活が個人でも長続きしないことからも明らかなように、集団レベルでの健康維持と病の予防は総論賛成、各論反対の典型になりがちです。

 新型コロナへの行動制限でも、アメリカではどうやって決めたのか、誰が決めたのかという疑問を多くの人が持っており、遠いところで自分たちのことを決めることへの拒否感は強いものでした。

 連邦政府の権限の小ささと自由への強い意識はアメリカの大きな特徴ですが、コロナの対応においてはマイナスとなって面もあり、感染者数、死亡者ともに世界一となっています。

アメリカは自分たちのことは自分たちで決め、自分たち以外がした決定を押し付けられることを強く否定する意識が強くアメリカの強さの要因になっています。

しかし、公衆衛生による行動制限や強制に極端な反発を持つため、コロナへの対応ではマイナスとなる部分もあり、コロナによる感染者数、死亡者ともに世界一となっています。

感染症と人はどのように戦ってきたのか

 19世紀後半から医学研究の発展、特にワクチンと抗生剤はパンデミックを大きく減少させました。

 ほかにも上下水道の整備、衛生知識の普及、影響状態の改善などの要因で感染症の脅威は大きく減少しています。

 一方で、ワクチンは社会の様々な混乱を生み出してもきました。

 初めてワクチンが作られたのは、天然痘によるものでしたが、その品質は安定しておらず、効果も副作用もばくちのようなもので、副反応による障害や死亡例、逆に全く免疫のつかない例も報告される状態でした。

 また、当時は有給制度や休業補償などがない時代であったこともあり、副反応で仕事ができないことが収入源に直結したこともワクチンの普及を妨げる要因でした。

 ワクチンを接種する人は基本的に健康であることが、病気の治療との大きな違いです。リスクと利益を天秤にかけてリスクが上回ると考えた人は打たないと判断してしまいます。

ワクチンと抗生剤、上下水道の整備、衛生知識の普及、影響状態の改善などの要因で感染症の脅威は大きく減少しています。

一方で、ワクチンは社会の様々な混乱を生み出してもきました。リスクと利益を天秤にかけてリスクが上回ると考えた人は打たないと判断してしまいます。

なぜ、黒人のコロナワクチン接種率が低いのか

 技術が進歩したコロナワクチンでも、アメリカでのワクチンの有効性の疑問と義務化への反対は幅広い地域で見られました。

 また、外で働く必要があるにも関わらず、副反応による休業というリスクを避けたいと考えたいという考えもみられました。実際に貧困層の多いヒスパニックや黒人はワクチンの接種開始後しばらくは、白人やアジア系の人々に比べ、接種率が低いという特徴もみられました。

 ヒスパニックはその後接種率が伸びますが、黒人は他の人種と比較し、接種率が低いままでした。

 黒人は、19世紀に新薬の開発や新しい治療法の実験台にされた過去があり、新しい医療に対する警戒感を持っており、今でもその影響が残っています。

 ワクチンに対する忌避は多くの国で見られる一般的なものですが、アメリカでは一般的な感情に加え、自由を重視し、強制へ強い反発を持っていることでワクチンの論争は激しいものになります。

 また、反ワクチン=非科学的な論理を持つ人々というイメージも強いですが、実際には経済的な問題や過去の人種差別などの影響の場合もあり、一概には言えません。

黒人はエッセンシャルワーカーが多く、副反応を嫌ったことだけでなく、19世紀に新薬の開発や新しい治療法の実験台にされた過去があり、ワクチンだけでなく新しい医療に対する警戒感を持っているため、接種率が低くなっています。

反ワクチン=非科学的な論理を持つ人々というイメージも強いですが、実際には経済的な問題や過去の人種差別などの影響の場合もあり、一概には言えません。

なぜ、アメリカの健康状態は他の先進国と比較し悪いのか

 アメリカの経済成長をもたらしてきた自由は豊かさを実現し、人々の健康状態を改善してきましたが、公衆衛生の介入を困難にしてきた面もあります。

 医療技術への投資による進歩やインフレの整備、生活水準の向上は人々に健康をもたらしてきました。

 しかし、平均で見るとアメリカの健康状態(平均寿命や乳児死肪率)は他の先進国と比較し、劣ってしまっています。この主な要因は以下の通りです。

・経済格差が大きく、医療費も高額であり、貧困層の健康状態が悪いことや労働条件が悪い

・都市スラムばかりの対策でそれ以上に深刻な非都市部の貧困層が見過ごされている

・非都市部の医療へのアクセスの悪さ

 コロナにおいても、低所得者ほど、雇用が不安定であり、所得の減少を避けるためにワクチンの摂取をさけるなど、経済格差は大きな問題になっています。

自由はアメリカの経済成長による生活水準の向上や医療技術の進歩をもたらしてきましたが、他国と比べ、健康状態は良くありません。

経済格差、健康状態の悪い非都市部への対応不足などが原因になっています。

マスクについてアメリカはどのような反応を示してきたか

 日本では、あまり反発のないマスクもアメリカでは、なるべく着用したくないと多くの人が考えていました。

 強制を嫌うという考えによるものだけでなく、顔を覆った人への不信感、犯罪を犯すのでは?という疑問からもマスクの忌避感が強いものになっており、反マスク法が存在している州があるほどです。

 コロナにおいても、マスクに着用を巡る議論は多くの場面で見らえれています。

 マスクを着用するかは政治的な分断の一員にすらなっています。大統領選でもマスクをしないトランプとするバイデンによる対比がみられ、トランプ支持の大きい地域ではマスクの着用率が低く、バイデン支持の大きい地域では、着用率が高くなっています。

 公衆衛生の対策の是非が政治的な対立で左右されてしまう状況は、アメリカのコロナの感染者の多さの背景の一つと考えられます。

アメリカでは、顔を覆った人への不信感や着用の義務への反発からマスクを付けたくないと考える人が多くいました。

また、マスクを着用するかが政治的な議論になってしまっているように、公衆衛生の対策の是非が政治的な対立で左右されてしまう状況になっています。

公衆衛生で重要なことはなにか

 公衆衛生は科学に立脚しつつも、政治、経済、思想といったものの影響を受けざるをえないものです。

 正しい情報を伝えれば、人は認識や行動をかえるはずという態度はアメリカに限らず、かえって反応を呼び起こす可能性があります。

 専門家権力への反発はどこの社会でも見られるもので、知識の伝達だけでない、相互のコミュニケーションが非常に重要になってきます。

 誰もが好き好んで病気になりたいわけではありませんが、リスクがあると分かっていてもやりたいこと、やりたくないことはあります。

 議論と政治的決断によって、何を政策として、選択し、どこを諦め、どれに自由と選択を保証するのかを集団として選び取っていく必要があります。

誰もが好き好んで病気になりたいわけではありませんが、リスクがあると分かっていてもやりたいこと、やりたくないことはあります。

そのため、公衆衛生は科学でありながら、政治、経済、思想といったものの影響を受けます。

正しい情報を伝えるだけでなく。相互のコミュニケーションが非常に重要になってきます。

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