人新世の「資本論」 斎藤幸平 集英社新書 要約

本の要約

人が地球に与える大きさの増加から現代は人新世と呼ばれる時代に突入しています。

人新世では気候変動など環境問題が多く発生しています。その原因は資本主義にあり、その対策としてマルクスの思想の新しい面を発掘することに効果があります。

資本主義ではど脱成長を成し遂げることはできません。脱成長のためにはコミュニズム=定常型の循環型社会を目指す必要が有効になります。

定常型の循環型社会の実現にはトップダウン式の社会ではなく、市民からのボトムアップ型の社会や労働や生産の仕組みを変え、希少性を排除した社会が求められてます。

新自由主義に反旗を翻す例は増えており、非暴力的な反対が広がっていけば、コミュニズム社会が広がって行く可能性も秘めています。

この本がおすすめの人

・人が地球に与える影響の大きさを知りたい人

・資本主義で環境問題を解決できるか疑問の人

人新世と呼ばれる社会で資本主義はどのような状況か

 SDGsやレジ袋の削減では、温暖化対策として無意味であるばかりか、これらの対策を行ったことで本質的な対策を取ることなく満足してしまうため、害悪にもなります。
 かつてマルクスは資本主義のつらい現実が引き起こす苦悩を和らげる宗教を大衆のアヘンと批判したが、SDGsもまた現代の大衆のアヘンになってしまっています。

 人類の経済活動が地球に与える影響の大きさから、現代は地質学的に人新世と呼ばれています。人新世で気候変動が進めば、一部の富裕層以外は大きな打撃を受けます。気候変動をもたらす原因は資本主義であり、より良い社会を作り出すために資本について考え抜いた思想家であるマルクスの思想の新しい面を発掘することで、資本主義に変わる可能性のある社会を考えることが、本書の目標内容となります。

気候変動は資本主義によってもたらされています。マルクスの思想の新しい面を発掘することで資本主義に代わる可能性を考えることができます。

気候変動を抑えることはできるのか

 気候変動の経済学者であるノードハウスは2018年にノーベル経済学賞を受賞しています。
 しかし、ノードハウスの設定した二酸化炭素の削減目標は経済を優先したため、気候変動を抑えられるような数値ではなくなっています。ノードハウスの影響は多く、パリ協定にも影響を与え、本来必要な気温上昇の抑制を少なく設定させてしまっています。

現在の二酸化炭素の削減目標では気候変動を抑えることができない

なぜ資本主義は行き詰っているのか

 環境負荷の増大は先進国(グローバルノース)による大量生産、大量消費(帝国式生活様式)によるものです。帝国式生活様式グローバルサウスの地域から収奪し、豊かな生活の代償を押し付けることで成り立っています。

 ファストファッションは劣悪な環境で働く労働者がいることでコストを抑えています。外部へ豊かな生活の代償を転嫁することで、犠牲を不可視化することで成り立つため、絶えず新しい外部を作り出すことで反映してきました。
 
 外部には労働者だけでなく環境も含まれるため、無限の成長を目指す資本主義では地球環境が危機に陥るのは当然です。現代では外部を使い尽くしたため大きな危機に直面している、これが人新世の危機の本質です。
 しかし、先進国にも外部化することができなくなり、被害が出始めることで、変わることができるチャンスでもあります。

豊かな生活の代償を外部に押し付け続けてきたが、押し付ける外部を使い果たしたため、資本主義は行き詰っています。

先進国に被害が出始めることは変わるチャンスでもあります。

気候変動に対応するには何が必要か

 技術革新やインフラ整備、生産性向上で環境を維持しながら、経済発展できると言う意見もあるが
実際には不可能で、2030年に二酸化炭素を半減させ、2050年までに0にするという目標を達成できません。
 経済成長は経済規模も拡大するため、環境負荷の小さくなっても総量を減らすことはできなません。GDPを2~3%成長させ、1.5℃の目標を達成するには年10%の二酸化炭素削減が必要となり、現実的でなく経済規模の縮小が必要となります。

 経済規模の縮小を資本主義のもとで実行するのは不可能です。効率化し、節約すれば節約した分を他で利用し、利益を最大化しようとするのが資本主義のルールになります。

 世界の富裕層トップ10%が二酸化炭素の半分を輩出している一方で、下位50%の人々は10%しか排出していません。

 仮に自国で持続可能な経済成長を行っても、他の国につけを回しているに過ぎません。現実的には脱成長が選択肢として考えられます。

効率化すれば節約した分を使用し利益を最大化しようとするため、資本主義下で経済縮小を行うのは不可能です。脱成長が選択肢となります。

すべての国で脱成長を行う必要があるにか

 現在食料不足や電力不足に見舞われている国に対しては、経済成長が必要です。最低源の状態まで到達するために必要なエネルギー量はそれほど大きくないため、問題にはなりにくいです。
 先進国が膨大なエネルギーを使用し、さらなる経済成長を求めるのは不合理で、先進国での脱成長を進める必要があるが、資本主義のまま脱成長を図ることはできません。

最低限の状態まで到達するための成長すべきで、先進国が脱成長すべきになります。

持続可能な社会とはどんなものか

 マルクス主義はソ連や中国の共産主義のイメージが強く、日本での拒否感が強いが世界では資本主義の限界から注目を浴びています。

 マルクスの提唱するコモンはあらゆるものを商品化するのではなく、水や電力、住居、医療などを公共財として 自分たちで管理することを目指すものです。 

 マルクスは生産力至上主義で考えていた時期もあるが、晩年の研究では生産性至上主義が環境危機を招くとして決別し、コミュニズムによる持続可能性と社会平等の可能性を強く意識するようになりました。

 コミュニズムはゲルマン民族やロシアのミールで見られ、循環型の定常型経済のことで、経済成長を追わず、持続可能な社会を作り出すことができます。

 資本主義は自然科学を自然力を搾り取るために利用するため、生産性の向上が掠奪を強めてしまいます。資本主義を最大限進めた先にコミュニズムがあるわけではなく、コミュニズムを考慮した社会に復帰する必要です。

循環型の定常型経済は経済成長を追わずに、持続可能な社会を作り出すことができます。

公共財やコミュニズムの考えが重要となります。

脱成長を進めるに必要なものはなにか 

 政府に任せていると資本を超えるような法律を施行することはありません。市民の民主的な政治への参加がカギとなります。

 黄色いベスト運動は低所得者の反発と捉えられていますが、政府の気候変動対策への反発でもあります。政治家と資本が結託するトップダウン型の社会では、資本主義と決別するようなことはありません。

 資本主義は潤沢さを嫌い、希少性を好みます。コミュニズム社会によって潤沢さを増し、希少性をなくすことが新しい社会を実現するカギとなります。

現在のトップダウン型での資本主義との決別は不可能です。脱成長のためには市民の民主的な政治参加が大事になります。

資本主義はどのように発展するのか、コミュニズム社会はどう違うのか

 近年、投機による影響で土地の高騰で見られています。マンハッタンなどでは中流層ですら住むことが難しくなっています。
 資本主義は豊かさではなく、欠乏を生み出すシステムといえます。投機を禁止し、土地の価格を安くすることで潤沢さを増すことができます。

 どこにでもある潤沢なもの(土地など)から潤沢性を排除し、希少性を持たせることで生活するために労働者が賃金を得る必要が出てきました。労働者の立場が資本よりも低くなり、資本主義は大きく発展しました。

 物にはそのものの使用価値と商品価値があります。希少性は使用価値には影響ないが、商品価値には大きく影響します。資本主義の発展は使用価値と商品価値の対立をもたらす。ブランドは商品価値が使用価値を大きく上回ったものです。

 新自由主義では相互扶助の関係をも貨幣価値に置き換え、商品価値を重視してきました。商品価値は危機においては役に立たず、機能不全に陥ることもあります。

 コミュニズム社会では商品価値ではなく使用価値を重視します。

資本主義は希少性を持たせることで使用価値ではなく、商品価値を重視し発展してきました。

コミュニズム社会では使用価値を重視し、希少性を排除することで持続可能な社会を実現できます。

コミュニズム社会を生み出すにはどうすればよいのか

 資本主義による脱成長には生産と労働を和える必要があります。

 生産の目的を使用価値の増大とすることで、大量生産、大量消費をやめ、人々の基本的ニーズを満たすことを重視します。

 使用価値の小さいものを作ることや過度な分業をやめ、エッセンシャルワーカーの評価を高めることで、エネルギーや労働時間の削減し、相互扶助を可能とします。

過度な分業や大量生産大量消費をやめ、生産と労働を抑えることでコミュニズム社会を築くことができます。

世界は資本主義にどう反応しているのか

 市民の中から国家が押し付ける新自由主義的な政策に反旗を翻すような例もみられます。バルセロナでは市民から生まれた政党から市長が誕生しています。

 水道や電力、住居に対する問題などで様々な市民活動が行われてきましたが、それらの活動が気候変動問題でつながることで大きな力となります。

 グローバルサウスに目を向けることで、気候変動を止めるために脱成長を選択することも可能になります。

 3.5%の人々が非暴力的なやり方で本気で立ち上がると社会が変わるというデータもある。1%の富裕層やエリートへNoを突きつけることができる可能性も充分にある。

新自由主義的な政策に反旗を翻す例は増えています。非暴力的なやり方で人数が増えれば社会が変わる可能性は充分にあります。

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