この本や記事で分かること
・アルケンへのハロゲン化水素の付与がなぜカルボカチオンを経由しているといえるのか
・反応機構が正しいかを確かめるためには、何が必要なのか
・カルボカチオンのヒドリド移動はなぜ起きるのか
反応機構が正しいかはどのように確かめるのか
アルケンに塩化水素などのハロゲン化水素(HX)を付加した際には、水素が置換基の少ない炭素と結合したカルボカチオンを経由し、単一の生成物を与えます。
反応中間体であるカルボカチオンは単離することはできないため、カルボカチオンを確実に通過して反応が起こっているとはいえません。
ある反応機構が誤っているかを示すには、観察された結果と反応機構が合わないことを示すことで行うことができます。しかし、反応機構が正しいかどうかを完全に証明することは難しく、できる限り多くの化合物で同じ反応機構に従うかを確かめることが大事になります。

3-メチル-1-ブテンへの塩化水素の付加反応はどのように起きるのか
3-メチル-1-ブテンに塩化水素を付加させると、プロトンと置換基の少ない1位の炭素が結合を生成し、カルボカチオンとなります。
その後、2位のカルボカチオンが塩化物イオンが結合を生成し、2-クロロ-3-メチルブタンが生成するものと思われます。
しかし、この反応を実際に行うと、2-クロロ-3-メチルブタンとほぼ同じ割合で2-クロロ-2-メチルブタンも生成することが分かっています。

2-クロロ-2-メチルブタンが生成するのか
3-メチル-1-ブテンの二重結合がプロトンを攻撃して生成したカルボカチオンの炭素は一つの水素と結合しているため、置換数が2となります。
カルボカチオンは置換数が増加するほど安定する性質を持っており、生成したカルボカチオンはヒドリドイオン(H–)の移動によって3置換のカルボニルへと転移を起こします。
転移反応によって、2種類の反応中間体が生成し、それぞれのカルボカチオン中間体に対し、塩化物イオンが付与されることとなります。
そのため、2-クロロ-3-メチルブタンだけでなく、2-クロロ-2-メチルブタンも生成することとなります。
カルボカチオン中間体の転移はヒドリドの移動だけで起きるわけではなく、メチル基などでも発生することがあります。

2-クロロ-2-メチルブタンが生成は何を意味するのか
もしも、3-メチル-1-ブテンに塩化水素への付与が一段階の反応で起こっているとすれば、2-クロロ-2-メチルブタンが生成することはありません。
カルボカチオン中間体が転移することで2-クロロ-2-メチルブタンが生成していることはアルケンへのHXの付与がカルボカチオン中間体を介した2段階の反応であることの証拠になるといえます。
このように様々なデータを積み重ねていくことで、その反応機構が正しいものであるという根拠が強くなっていきます。
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