地政学と歴史で読み解くロシアの行動原理 亀山陽司 要約

 

本の概要

 ロシアによるウクライナ侵攻は冷戦後の安全保障が機能不全に陥っていることを示し,世界に衝撃を与えている。

ウクライナ侵攻は国際政治の実態を開示したものだが,ロシアの危険性やプーチンの異常性ばかりに目が言ってしまうと事態を正確に把握することはできない。

本書ではロシアへの7年間のロシア駐在経験をもつ筆者が,歴史を振り返り,国際関係論や地政学的な見地から見たロシアの行動原理や歴史と文化のもたらすアイデンティティについて書いた本になっている。

この本がおすすめの人

・ウクライナ侵攻はなぜ起きたのか知りたい人

・ロシアの歴史を通じてどのような国か知りたい人

・外交の持つ重要性を知りたい人

ロシアはどのような立地の国なのか

 ロシアは広大な面積を持つ国だが,その領土を歴史的に争い,その度に国境線が変わってきた。ロシアにとって重要となるのは地域は北方のバルト海,南方の黒海,西方の東欧平原,東方方面の4つである。

地政空間とは直面する主敵が存在する地域にある独立した地域のことで,小国や部族,国境線などが存在している。ウクライナはポーランドとロシアの間の地政空間に位置している。

ロシアは隣接する4方の地域と領土争いを行ってきた歴史を持ち、ウクライナは西方の東欧平原に位置している。

ヨーロッパとロシアは歴史的にどのような関係だったのか

東欧平原はロシア,ウクライナ,ベラルーシ,バルト三国を含む広大な平原で西に向かってポーランドへと繋がっている。

ポーランドとの国境には山脈もあるものの平地でつながっているため,東欧平原をめぐる争いは歴史的にも何度も繰り返されてきた。

その他の地域でもバルト海ではスウェーデン,黒海ではオスマン帝国やペルシャ,トルコなどとの領土戦争の時代は長く続いてきた。

ウクライナののある東欧平原をめぐるポーランドとの戦いは歴史的に何度も繰り返されてきた。

19世紀のヨーロッパはどのような国際情勢だったのか

19世紀のロシアはナポレオンとの戦争で幕を開けた大きな変革の時代となる。フランス革命のよって生まれたリベラリズムとナショナリズムの時代と言っても良い。

外交によって国家間の均衡がと保たれていた時代でもあり,ロシアは国際社会の一員となるか,ヨーロッパとは異なる地域として自立するかの分岐点に立っていた。

フランス革命の影響を恐れた周辺国はフランスとの戦争を決意するも民衆軍が思いのほか強く、イギリスを中心にナポレオンの失脚まで戦争が続くこととなった。  

 ロシア遠征にナポレオンは失敗し、失脚したため、フランスが敗れたのちもロシア抜きではヨーロッパの秩序を決めることができなくなり、ロシアのヨーロッパでの地位が確立していった。

 この時期のヨーロッパは大国のパワバランスによって均衡状態がたもたれていた。

 フランスのような覇権国家を出さない様にすることで、平和と独立を保とうとし、どこかが突出しようとすれば残りの国が協調し阻止しようとした。

 パワーバランスは武力だけでなく、外交で利害を調整することでなりたっていた。

 軍事力と外交を使い分けて、対外政策を遂行する政治手法が確立されていった。

 フランス革命後のフランスの躍進はロシアの地位を高めたと共に、突出する国を他国が協調しし阻止することで均衡を保つ仕組みを作り上げた。

 この時代は外交で利害を調整することで協調と均衡を実現していた。

均衡状態はなぜ崩れてしまったのか

ヨーロッパの一員となったロシアだが、勢力圏の確定されなかったバルカン地域をめぐるクリミナ戦争や宗教の違いで他のヨーロッパ国はロシアの台頭を抑える方針を取る様になっていく。

 突出しようとするロシアを抑えこむ流れはパワーバランスが上手く機能していたが、他の国も徐々に目先の利益を優先するばかりになっていってしまい、第一次世界大戦に繋がっていく。

 国際情勢が複雑化する中で共通の価値観に基づく秩序、秩序感が失われることで、各国は自制心を失い、目先の利益の追求を優先してしまう。

 冷戦が大きな戦争にならなかったのは自由民主主義と社会主義の間で均衡という秩序を共有していたためでもある。

 ロシアが台頭する中で他国が協調し、抑え込むはずがほかの国も目先の利益を優先し、パワーバランスが崩れてしまった。

現在国家間はどのように均衡を保っているのか

 ロシア史は地政空間の勢力の均衡を実現しようとする歴史であり、その結果北、西、南方でドイツ帝国と争うこととなった。

19世紀に見られた地域ごとの均衡,連携による安定はナショナリズムとリベラリズムによって崩壊した。それまで外交は損得をメインとしたビジネスの問題だったが,国民の意思を無視できなくなったため,国家の威信に関わる問題になったことで外交で均衡を取ることができなくなっていった。

ナショナリズムは大衆が自己を国家と同一化しようとしようとすることからはじまっており、社会が不安定なほど大衆は国家との同一化を望む傾向にある。

こうした中で国連は均衡による安定ではなく,加盟国が侵略行為にあった場合,他の加盟国が一致団結して,その侵略に対抗する集団的安全保障という形で安全を確保しようとしている。

外交が損得だけでなく、国の威信をかけた問題となったことで、外交で均衡をとることは難しくなっている。

国連では均衡ではなく、集団的安全保障という形で安全を確保しようとしている。

ロシアによるウクライナ侵攻はなぜ国内で支持されているのか

 ロシアによるウクライナ侵攻は日本だけでなく,欧米の自由主義国家からすれば理解できないが,ロシア国民はプーチンを支持し祖国ロシアの行動を肯定している。

プーチン個人への信頼というよりはロシアという国家への信頼によって見られるもの。

ロシアの歴史,特に対外関係は数々の戦争に彩られている。ロシア国民にとって戦争は歴史の一コマではなく,ロシアの偉大さを守るという愛国的なイデオロギーを形作る重要な要素で戦勝はロシアの偉大さの証でもある。

ロシア以外の国でも愛国的なイデオロギーを持つ国はあるが,戦争を正当化し,戦闘行為を躊躇なく行う国は少ない。

イデオロギーが戦争を正当化し,戦争がイデオロギーの実践して戦われることで相互作用し,国家として成長してきたため,ロシアから戦争を引き離すことは容易ではない。

ロシアを戦争から引き離すには,新たな国際秩序観を大国間で共有し実現する外交を行う必要がある。

ロシアの歴史は戦争によって彩られており、ロシアの偉大さを守る愛国的なイデオロギーになっており、戦争を正当化する傾向にある。

戦争からロシアを引き離すには大国間で秩序を共有する外交を行う必要がある。

外交交渉で重要となることはなにか

今回のウクライナ侵攻はアメリカがロシアとの外交を軽視し,ロシアのリアルな実情を把握していなかっった部分も大きい。

国家間の争いには明確な法や警察や裁判で正義を明らかにできるわけではない。そのためにも外交によって異なる立場と主張を調整することが必要。

外交交渉で法や正義に関するイデオロギー的な主張は禁物。イデオロギーのぶつかりになれば妥協が許されず,主張のぶつかりあいになってしまう。外交交渉は最後にはビジネスライクにならなければ決して成功しない。

外交交渉でイデオロギー的な主張をするとお互いに妥協が許さなくなり、主張のぶつけ合いになってしまうため、ビジネスライクにならなければならない。

国家間の争いは法や裁判で正義が明らかになるわけではないため、外交によって異なる立場と主張を調整することが非常に重要な役割になる。

感想

 連日のニュースでロシアによるウクライナ侵攻が報じられています。現代になぜこんなことをするのか理解できない人も多いと思います。

 また、そもそもロシアという国についてどういう国なのか知らない人も多く、ただロシアは危険な国、プーチン大統領が危険な人という印象を持ってしまいますが、筆者はそのような印象をもってしまうと、ロシアの背景を理解しないと実態を理解することはできないとしています。

 ロシアは広大な面積を持つ国であり、4方向で国境を接する国々とどうしても歴史的に争いを繰り返してきたため、戦争が一種のイデオロギーとなり偉大なロシアを象徴するものになってしまっていることが今回の侵攻を起こした原因の一つであることが印象に残りました。

 今回のウクライナ侵攻はウクライナの西側諸国への歩み寄りが原因とされています。

 これも4方向で争いにさらされ、アジアとヨーロッパのどちらでもないような関係であるため、それぞれの方向で国境を接した国が反ロシアになれば安全保障上大きな危機になってしまうことが、根底にあることが、よく理解できました。

 そのうえでの解決には国家外交が重要な役割を果たすとされています。外交でイデオロギーではなく、ビジネスライクに徹しお互いの妥協点を探ることでなんとか均衡を保とうとすることができるという部分を読むと外交に対する見方も変わると思います。

 ただたんにプーチン大統領の暴走とみるのではなく、どうしてそのような状況になってしまうのかを分かりやすく理解することができました。

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