22世紀の民主主義 成田悠輔 要約

本の内容

ポピュリストの増加や民主主義の限界が多くの場面で指摘されている。

民主主義の限界と向き合うには選挙に行くだけでは足りず、新たな民主主義を構想することが必要。

投票で意思表示するのではなく、無意識的なデータを取得し、それをもとにアルゴリズムが意思決定を行う無意識民主主義が民意と政治の間のゆがみを取り去る可能性がある。

この本がおすすめの人

・民主主義に矛盾や限界を感じている人

・民主主義に代わるものを知りたい人

・アルゴリズムが政治を行う構想を知りたい人

日本の停滞を打破するために必要なものはなにか

 日本には停滞と衰退が漂っており,それを打破するために政治を変える必要があり,政治を変えるためには若者が選挙に行って政治の目を未来に向けさせるべきという話がよく聞かれる。

 しかし,若者が選挙に行って政治参加してもマイノリティーであることに変わりはなく,政治を変えることは難しい。

 我々は今ある選挙や政治というゲームにどう参加すべきかばかりを考えてしまうが,ゲームのルール自体をどう作りかるか考えることがより重要。 

政治を変えるために若者が選挙に行くべきとの声もあるが、若者がマイノリティであることは変わらない。

選挙という既存のゲームにどう参加するかではなく、ゲームのルールをどう変えるか考えるかも重要。

民主主義の原因はどのようなところにみられるのか

 民主主義に限界が見られていることはさまざまなデータが示している。

民主主義が資本主義とセットになることで,資本主義の不平等をなだめる手綱のような役割を果たしていた。しかし,アラブの春は一瞬だけ火花を散らして挫折し,フェイクニュースや陰謀論が選挙を侵食し,ポピュリスト政治家の台頭など民主主義の敗北が目立っている。

最近20年では民主的な国ほど経済成長が低迷しており,コロナ禍の初期に命を落とした人も多かった。民主主義によってもたらされた社会が経済発展をもたらすという前提が21世紀に入り大きく崩れている。

民主的な国ほど経済成長の伸びが低い、コロナでの死者が大きいなど民主主義の社会が経済発展するという前提が崩れている。

民主主義の限界は要因はなにか

大きな要因はインターネットやSNSの発展で政治が人々の声により早く,強く反応するようになり,むやみに過激化されてしまったこと。民主国家ほど政治家や政党のポピュリスト的言動やヘイトスピーチが増え,政治的な分断が高まっている。

民主国家ほど世論に監視されてしまい,政治が本当に行うべことを行うことができず,ポピュリストにならざるを得ない状況になっている。

 しかし,情報通信環境の変化は人類の避け難い進化。本当に問題なのは情報通信環境が進化したにも関わらず,選挙設計と運用がほとんど変化できていないこと。人間は本質的に周りに流されてしまう動物でSNSはその性質を集約し,増幅してしまう。また技術が発展し、政策論点も多様化しているが,未だに投票の対象が政党,政治家でしかないことも政治家が単純明快で極端なキャラを作るしかなくなってしまう大きな要因。

インターネットやSNSで政治が人々の声に反応しやすくなり、ポピュリスト化したことが民主主義衰退の大きな要因。

情報通信環境の進化に選挙設計と運用を合わせられなかったことが大きな問題となった。

民主主義の次はどのような姿か

 重症の民主主義が生き延びるためには何が必要なのか。独裁や専制でないことはロシアや中国を明らかで民主vs専制の二項対立を超えた民主主義への次の姿への脱皮が必要。その処方箋は主に3つに分けれられる。

1.民主主義との闘争

2.民主主義からの逃走

3.新しい民主主義の構想

民主主義に代わるのは専制や独裁ではない。

民主主義の脱皮こそが必要。

民主主義との闘争で脱皮できるのか

闘争は民主主義の現状と向き合い,その問題と戦い、呪いを解こうとする試み。現状の民主主義の仕組みや考えからを前提としながら調整や改良を施していく方向。

・政治家をいじる

 政治家の目を世論よりも成果へと振り向けるため成果報酬や成果を出した場合に再選を補修するなどのやり方。シンガポールなどではすでに導入されている。複雑で長期にわたる成果指標を導入することで目線が短期になりすぎることを防ぐことも可能になる。

・メディアをいじる

 コミュニケーションの速度制約の導入,質の確保,表示されるニュースや情報の成分をバランス良くすることで反対勢力との分断を和らげることなどが有効と思われるが,表現の自由の介入と表裏一体。

・選挙をいじる

政治家への定年の適用,現役世代の投票に重みをつける,インセンティブを導入するなどで未来を重視する姿勢を強める,政党や政治家を選ぶための選挙ではなく,個別の論点ごとに投票する,電子投票の導入などが挙げられる。

但し,これらの方法を既存の選挙制度で勝つことで今の地位を築いた政治家が改革を行う可能性は低い。選挙の病を選挙で解決することは極めて難しいと予想される。

また,これらの方策が導入されたとしても,本質的に流されやすい人間の欠点が克服さていないため,正しい判断がなされるとは思えない。

民主主義の現状と向き合い、調整や改良を行うのが闘争。

政治家、メディア、選挙を調整、改良しても根本的な改善は難しい。

民主主義からの逃走で問題を解決できるのか

 民主主義を内側から改善することは難しい。では,民主主義を見捨てて外部へと逃げてしまう逃走はどうか。

 タックスヘイブンは税法上での国家からの闘争であり,同じような仕組みで政治的な逃走=デモクラシーヘイブンの試みを行うことも考えられる。

海上への自治区の作成,既存地域への移民を送り込みジャックしてしまうなどの方法はいくつかの場所ですでにおこなわれている。

多くの試みは資本主義にブレーキをかける民主主義を嫌うもので資産家による運動という面が強い。そのため,民主主義に内在する問題の解決にはつながらない。

民主主義からの闘争は一部で行われているが、資産家による運動という面が強く、民主主義に内在する問題にはつながらない。

民主主義をどのように再発明すべきか

大衆という仮想敵を作り出すような敵友の区別に固執する人間の癖から逃れ,民主主義の理念を純粋に体現するために必要となるのは民主主義の再発明。

新しい民主主義の形として選挙なしで民主主義を行う無意識民主主義。選挙で意思を示すのではなく,人々の意識,無意識の欲望や意思を掴むデータ源を元に人々も民意データとし,そのデータをアルゴリズムで機械的に意思決定を行うというもの。

民主主義とは詰まるところ,民意を示すデータを入力し社会的な意志決定を出力するルールであると視ることもできる。

技術的な問題からこれまでは投票という極めて情報量の少ないものでしか,民意を集めることができなかった。そのため民意が歪んだり,民意と実際の意思決定に差が生じていた。

 民意や多様な情報やデータを元に意思決定できるようになれば,民意の解像度を上げ,多様なデータを利用することで歪みを解消できる可能性を秘めている。

民主主義を民意を示すデータを集め、社会的な意思決定をするルールと規定できる。

選挙では集まる情報量が少ないため、民意と意思決定に差が生じてしまう。

情報量を増やすことで民意の解像度を上げ、ゆがみを解消できる可能性がある。

どのように民意の情報量を増やすことができるのか

民意や意思をデータから抽出し,政策に活かすことができればよりエビデンスに基づいた意思決定が可能になる。

無意識下でのデータを集め,それを元にアルゴリズムで意思決定を行うことができれば,無数の政策や論点に同時並行に対処可能になる。

アルゴリズムが間違いを犯す可能性への指摘もあるが,人間も間違いを犯す。またなかなか変われない人間と違い,アルゴリズムは猛烈な速度で学習していく。

アルゴリズムが人間の偏見や差別を取り除いて意思決定できれば,同調や分断などの緩和も可能となる。

 無意識民主主義は現在の民主主義を沈没させ、新たな民主主義となっていく。

無意識化でデータを集め、それをもとにアルゴリズムが意思決定するようにすれば、無数の政策や論点を同時に並行処理できるようになる。

アルゴリズムは人間を上回る速度で学習し、偏見や差別を取りぞくことができる可能性もあり、新たな民主主義を作り出していく。

感想

 民主主義の限界とその対応を書き話題になっている本です。そもそも現状の民主主義はポピュリスト化せざるを得ない仕組みであり、それを逃れるためには民主主義と闘争するのでも、逃走するのでもなく新しい民主主義を構想することが重要になります。

 そして新しい民主主義の構想とは選挙というごく限られた民意で政治を行うのではなく、民衆の様々な無意識のデータを集め、アルゴリズムがそれを分析し、結果をもとに政治を行っていくこととなります。

 スマホなどで政策ごとに投票を行うようなことはイメージできますが、様々な無意識化のデータを無意識化集めることで民意の解像度を上げ、エビデンスに基づく政治を可能にするという視点は面白かったです。

 選挙の仕組みを少し変えるくらいでは、結果を変えることができない、そもそも現行の選挙制度で勝っている議員が仕組みを変えようとすることは難しいとう記述もあります。政治を人間の手から離し、アルゴリズムで行うことが重要という部分をどう実現していくのかが難しい部分になるのではとは感じました。

 遠隔投票すら実現していない中ではありますが、新しい民主主義の形としてまずは、民意を収集する数を増やし、それをアルゴリズムで公平に判断させるような試みは見てみたいと思いました。

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