これからの時代に生き残るための経済学 倉山満 要約

本の概要

日銀総裁の人事がニュースとなっていますが、日銀が実際にどんなことをしてきたのか、政府の経済政策がどんなものなのかを理解している人は多くありません。

その理由は経済学が複雑で難しいことにありますが、実は経済学の本質は難しいものではありません。

しかし、政治家もそれを選ぶ国民もその本質を理解していません。経済学への本質的な理解のなさが日本経済の低迷を招いています。

高度成長期に日本はなぜ大きく発展できたのか、平成期になぜ長い低迷をしたのか、アベノミクスはなぜ、成功しきれなかったのかなどから経済学の本質を学ぶことができる本になっています。

この本がおすすめの人

・経済学とは何か知りたい人

・日本の低迷の原因をしりたいひと

・金融政策とは何で、なぜ重要なのか知りたい人

世界インフレと日本経済の未来の要約はこちら

本の要約

要約1

経済学は難しい学問ですが、本質はそれほど難しいものではありません。しかし、その本質は政治家も政治家を選ぶ国民も理解していません。

経済学を突き詰めることで得られる本質は、政府は外交、防衛、治安に関することや最低限の公共事業を行い、 その他のことは民間に任せ、いかに民間の活力を活かせるかに注力すべきと考えました。

要約2

古代の経済は大きさの決まった富や資源=パイを分け合う方法を考えることでした。そのため政府が民間を管理し、適切な分配を行うことが重要と考えてきました。

しかし、アダムスミスは人々の欲望を管理するのではなく、うまく発散できる仕組みを作れば、民間の活力によってパイを大きくすることができると考えました。

そのためには、政府は民間にできないことだけを行い、他は民間の活力を最大限発揮できるようにすることが重要であると考えていました。

ケインズはアダムスミスの考え方をベースにしながらも、不況時には政府が民間の後押しをしても良いという考えかたを示しました。

要約3

アダムスミスとケインズの経済理論は世界の経済学の正統派になっていますが、日本では異端的な考えとされてしまいます。

財務省を中心にした緊縮財政は民間の活力をそいでしまっていますし、政治家もパイを大きくするのではなく、どう分配するかを決めることが政治や経済政策だと考えてしまっています。

日銀も景気の悪いときには利下げなどの積極的な金融緩和が求められますが、いかに利上げするかが組織としての目的になってしまい、民間の活力を活かす方向には向かっていません。

近年はこれらが複合的に作用し、日本経済の低迷がみられたり、好景気になるチャンスで増税を行うなど浮上のチャンスを逃してしまっています。

要約4

日本でも池田勇人首相の元、円安による輸出拡大、低金利による投資の活発化、減税と規制緩和での自由経済の推進で消費を活発化によって大きく経済規模を拡大した所得倍増計画の経験があります。

景気を良くするには政治が強い意志を発し、国民にそれを信じさせることが重要です。アベノミクスも物価2%上昇を訴え、インフレになるまでお金を擦り続けることを表明しましたが、消費増税で人々の消費意欲を失わせてしまいました。

黒田総裁の金融緩和は、良い方向でしたが、消費増税が民間の活力をそいでしまいました。

植田新総裁は基本的には反リフレ派ですが、世間の潮流を見て立場を変えてきた過去があります。世論によって正しい金融政策が行われているか監視することの重要性が増しています。

今の日本経済に必要なことは何か

 経済学が難しい学問ですが、その本質はそれほど難しいものではありません。

 しかし、その本質を政治家が理解していないため、実質的な経済政策が誤った形の官僚主導で行われている状況が続いています。

 政治家とそれを選ぶ国民にも最低限の経済理解を持っておくことが重要です。

経済学の本質を政治家とそれを選ぶ国民が知っておくことが必要なことです。

経済を考えるうえで知っておくべきことは何か

 経済学にはマクロとミクロがあります。

 ミクロ経済学は家計や企業などの個々の経済主体に焦点をあてたもの、マクロ経済学は個々の経済主体の集計的な経済量に焦点を当てたものです。

 マクロ経済とミクロ経済の混同や勘違いが経済で多く見られる間違いの一つです。マクロ経済はミクロな現場で取材しても実態が分かるものではありませんし、マクロ経済に良いこととミクロ経済に良いことが違うことも(特に短期的には)多くあります。

 物価の上昇は家計からすればマイナスですが、それによって経済がよくなれば給与が上がるなど巡ってくれば最終的には家計にもプラスになるはずです。ただし、給与の上昇は最後になるので短期的には家計に負担がかかることはあります。

経済には家計など個々の主体に焦点をあてたミクロ経済学と個々の経済主体の集計に焦点を当てたマクロ経済学があります。

マクロ経済とミクロ経済の混同や勘違いは経済的に誤った対策を選ぶ原因になってしまいます。

国の財政はどのように考えるべきか

 国の財政と個人の家計を同じ感覚で語ることも経済を間違えてしまう大きな原因です。

 国の借金という言い方で危機感をあおることが多く見られますが、家計にお金が足りなくなるとことは問題ですが、国は政府の信用でお金を発行したり、税金をとることができる点で家計と国には大きな違いがあります。

 マクロ経済は目に見えないため、経済学とは目に見えない経済を可能な限り説明する学問といえます。

国の財政と家計を同じ感覚で語ることも経済を見間違うため、避けるべきです。

経済学にはどんな考え方があるのか

 経済学を突き詰めることで得られる本質は、通常時はアダムスミスの考えを使いと不況時にはケインズの考え方を使うことになります。

 古代から続いてきた経済は、大きさの決まったパイ(富や資源など経済規模)をどう切り分けるかを中心に考えてきました。

 このような考えでは、政府は民間を管理し、適切な分配を行うことがなによりも重要になります。

 アダムスミスはこのような考えから脱し、パイを大きくすることを考えました。

古代から経済は、決まったパイを分け合うやり方を考えてきましたが、アダムスミスはパイを大きくすることを考え出しました。

アダムスミスはどうすればパイを増やすことができると考えたのか

 アダムスミスは人々の欲望をうまく使えば、パイそのものを増やすことができると考えました。

 人間の欲望を道徳で縛るのではなく、欲望のままに発散できる仕組みを作れば、民間の活力によってパイが増大すると考えました。

 政府は外交、防衛、治安や最小限の公共事業を行い、それ以外を民間に任せるというのがアダムスミスの考え方です。

 共産主義は政府による管理を重視する思想で、資本主義の矛盾を突くことには優れていますが、ソ連での失敗のように国の経済に適用するとうまくいきません。

アダムスミスは人間の欲望を政府が道徳で縛るのではなく、欲望のままに発散できる仕組みを作れば、民間の活力によってパイが増大すると考えました。

ケインズの考え方はどのようなものか

 ケインズの考えは、政府が積極的に経済をコントロールすべきと考えられがちですが、実際には不況の時には少し、政府が民間の背中を押してもよいという考え方です。

ケインズも政府でしかできないこと以外の分野は民間に任せるべきで、余計な規制で縛り上げたり、何かと理由をつけて税金をとることはやめ、民間の活力に任せたほうが結果的に税収は増えると考えていました。

 アダムスミスの考えを基本にしつつ、不況で個人や民間ではどうにもできないときには政府が後押しすることの重要性を訴えたのがケインズの考えになります。

 古代の経済(ガラパゴス)、アダムスミス、共産主義、ケインズの4つが主な経済学理論であり、まともな経済学と呼べるものはアダムスミスとケインズによるものだけでになります。

ケインズは基本的にはアダムスミスと同じように考えますが、不況の際には政府が民間の背を押しても良いという風に考えました。

アダムスミスもケインズも政治が経済にできるたった一つのことは、民間の邪魔をしない=民間が経済活動をしやすい環境を作ることだと考えていました。

日本では経済はどのように考えられているのか

 スミス、ケインズの流れを組む経済学者は日本では、リフレ派と呼ばれます。リフレとはリフレーションの略でデフレから脱却し、インフレに至らない段階のことを指します。

 リフレ派の中には当たり前のことを言っているだけであるため、リフレ派と呼ばれることを嫌う人もいますし、世界ではこのような考えはリフレ派ではなく、普通の経済学者、正統派と考えられています。

 日本ではリフレ派の考えが珍しいため、特別視されてしまいますが、諸外国などではごく正統派の考えであり、適度なインフレを最適と考え、金融緩和や減税などで適度なインフレとなるような工夫をしてきました。

 一方、日本ではもう少しで、インフレになりそうなタイミングで増税などを行ったことで、経済成長が止まってしまっています。

日本は世界では正統派である適度なインフレを目指す姿勢をリフレ派といって特別視しています。

そのため、近年の日本はインフレになりそうなタイミングでの増税などで経済が停滞してしまっています。

なぜ、日本ではリフレが特別視されるのか

 日本は財務省を中心に健全財政を旨としており、増税や支出の引き締めを行ってきました。

 また、政治家にも決まったパイを分配することが政治や経済政策だと考えている人も多くいます。

 パイを大きくできなければ、新しく分配する必要がある際には増税をして、分配するしかありません。最近の防衛費の増額に対する増税も同じような考え方で行われています。

本来の健全財政とは、いざというときのために民間の活力を上げて税制を増やしておくことであり、とにかく引き締めて政府の債務を少なくしておくことではありません。

 政府の信用でお金を発行できる状態では、気を付けるべきことはインフレであり、政府債務の増大ではありません。現在の財政政策は健全財政ではなく、緊縮財政でしかありません。

財務省や政治家の中には健全財政をうたい、いまだに決まったパイを分配することが重要で、パイを大きくすることを考えない人も多くいるため、リフレ派は特別視されています。

しかし、現在の財政政策は健全ではなく緊縮でしかありません。

なぜ、日本は高度成長期に大きく経済が成長できたのか

 戦後の日本が高度成長によって経済が大きく成長できたのは、池田勇人首相の政策による部分が多くあります。池田勇人は所得倍増計画を打ち出しますが、彼は日本の経済力を熟知しており、以下のような適切な手段を使用しました。

1.1ドル=360円を認めさせた

2.金利を上げたい日銀を抑え込んだ

3.減税と規制緩和で民間の活力を高め、自由経済を推進した

 同時の適正レートよりも円安にすることで、輸出を有利にしたことや企業がお金を借りて投資しやすくしたことで商品の質が上がることで、消費も活発化し、給与があがっていきました。

 10年で所得を倍にするという宣言はインフレターゲットを明確にしたことに加え、景気をよくする政策を続けるという宣言と受け取られたため、消費者も多くものを買い求め、イノベーションも起き続きました。

戦後の日本が高度成長によって経済が大きく成長できたのは、池田勇人首相の政策による部分が大きいです。

円安による輸出拡大、低金利による投資の活発化、減税と規制緩和での自由経済の推進で消費を活発化させたことで最終的に、10年で給与2倍を実現しました。

日銀はどのような考えで金融政策を行っているのか

 日銀には金融緩和が成功し、経済がうまくいったこと以上に利上げをできたか、どうかを組織として重視してしまう面があります。

 バブル末期の無理な利上げやリーマンショック時の対応などの経済低迷の原因になるような判断も少なくありません。

 金融政策と財政出動はどちらも重要ですが、政府の信用でお金をすることのできる管理通貨性のもとでは、金融政策の自由度のほうが高く、重要度は高くなります。

日銀には景気の悪いときに適切に金融緩和できたかよりも、利上げできたかどうかを重視てしまう傾向があります。

適切な金融緩和ができなかったことが経済低迷の原因となったことも少なくありません。

アベノミクスとは何だったのか

 安倍政権になると黒田総裁を送り込むことで大胆な金融緩和を実施し景気回復の兆しがみえてきました。しかし、消費増税によって完全な経済回復やインフレの実現には至りませんでした。

 アベノミクスは基本的には池田勇人政策の現代版であり、金融緩和などによる一定の効果がみられました。

 景気を良くするには政治が強い意志を発し、信じさせることが重要です。池田首相は10年で月収2倍を打ち出しました。アベノミクスでは物価上昇2%を2年で達成することを宣言し、インフレになるまでお金を擦り続けることを掲げました。

 しかし、消費増税は自由経済の締め付けであり、人々の消費意欲を失わせるため、デフレ脱却には大きなマイナスになってしまいました。

アベノミクスは基本的には池田勇人政策の現代版であり、金融緩和などの効果は一定見られました。

しかし、インフレになる前に消費増税するなどが要因で狙った効果を発揮しきれませんでした。

今後、国民は何を見ていくべきなのか

 金融政策の重要性が高まる中で、日銀総裁の人事はとても重要なものになっています。

 黒田総裁の終盤には利上げをおこなう可能性も示唆さましたが、デフレ脱却と経済の回復が完全でない中での利上げは再び長期の停滞につながる可能性もあります。

 植田新総裁は、根は反リフレですが、圧力に弱く時々で立場を変える傾向にあります。

 そのため、国民が経済対策、金融政策の重要性や妥当性を理解し、世論によって総裁人事や金融政策を監視することがこれまでになく重要になっています。

金融政策の重要性が増す中で日銀総裁の人事の重要性が増しています。国民が金融政策の妥当性を判断し、世論で総裁人事を監視する必要性が増しています。

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