未来倫理 戸谷洋志 要約

本の概要

人類の地球へ与える影響は地球の持つ回復力を上回るようになり、現在世代の行動が遠い未来の世代にまで影響を及ぼすようになっています。

 そのような状況は現在世代は未来世代に向けても、倫理的な行動をとることが望まれています。

 未来世代への倫理的な行動をとるには未来倫理という考え方が必要です。

 哲学者である筆者の立場から専門家だけでなく、多くの人が倫理的な行動をとるために必要な知識を得ることのできる本になっています。

この本がおすすめの人

・未来倫理とは何か知りたいひと

・なぜ、未来世代に配慮する必要があるか知りたい人

・漠然と環境問題が大変とは分かっているが、なぜ解決すべきか腑に落ちない人

本の要約

要約1

人間が自然に与える影響が大きくなるにつれ、私たち現在世代の行動が遠い未来世代にまで影響を及ぼすようになってきています。

現在世代は未来世代へ倫理的な行動をとることが求められており、そのためには未来倫理という考え方が必要になります。

要約2

倫理とは人間が何をすべきかを説明する規範の体系ですが、一般的な倫理は行為と問題が同時に起こることを想定しています。

そのため、環境問題のような未来世代に対して何をすべきかを考える際には未来倫理が必要です。

要約3

環境問題を考えるのは当たり前で、倫理は必要ないのでは?と思いがちです。

しかし、多くの人が納得する形で議論を行い、首尾一貫した解決策を講じるためにはなぜ、現在世代が未来世代に配慮しなければならないのかを丁寧に明らかにする必要があり、未来倫理はその助けとなります。

要約4

未来を正確に予測することはできませんが、当たり前を問い直し、想像力を拡大し、他者と未来像を共有することで未来を予見することができます。

未来倫理の考えは未来を予見し、未来世代に配慮した行動をとる助けとなります。

未来倫理とは何か

 私たちの現在に行動は遠い未来にまで影響を与えることがあり、その影響はまだ生まれていない世代を脅かす可能性もあります。

 現在世代が未来世代に対する倫理的な責任をどのように考え、どのように実践するかは未来倫理と呼ばれる倫理学の一部です。

 環境問題などの深刻化によって未来倫理の重要性が大きくなっています。未来倫理を専門家だけが考えるべき問題ではなく、多くの人が理解しておく必要があります。

未来倫理とは現在世代が未来世代に対する倫理的な責任をどのように考え、どのように実践するかを決めることです。

倫理と未来倫理の違いはなにか

 倫理とは「人間がよりよく生きるために何をすべきなのかを説明する、ある規範の体系」と定義できます。

 倫理学では、倫理や規範が妥当であるか、説得力のある規範とない規範を区別することで、首尾一貫した意見や考えを説明するため有用なものになります。

 一般的な倫理では、行為と行為によって引き起こされる問題が同時に発生するものとして対処します。そのため、行為と問題に差異がある場合には、根本的に違うものになる必要があり、未来倫理が必要となります。

一般的な倫理は行為と行為が引きおこす問題は同時に起こると想定しています。行為と問題に時間的な差異がある場合は根本的に考えが異なるため、未来倫理が必要になります。

未来倫理を考えるうえで一般的な倫理との違いは何か

 未来倫理は以下のような点で、一般的な倫理と異なっています。

・誰に影響するかわからない=他者性

・どの行為がどのように影響するか特定できない=予測不可能性

・現在世代は未来世代に影響を与えるが、未来世代は現在世代に影響を与えられない=非相互性

 このような相違のため、未来倫理とよばれる新しい倫理が必要になってきます。

 未来を完全に予見することは不可能ですが、不確実性を前提にし、想像することで適切な対応をすることができるようになります。

誰に影響するかわからない他者性と予測不可能性、影響を与える方向が現在から未来の一方的である非相互性などが未来倫理と一般的な倫理の違いです。

不確実性を前提とし、想像することで適切な対応が可能になります。

なぜ未来倫理が重要なのか

 人類は昔から自然に手を加えたり、影響を与えてきました。

 伝統的な技術は自然を観察し、模倣するものでしたが、徐々に自然をコントロールするものへと変化してきました。

 人類は次女に自然が分解できない人工物を作り出し、産業活動が自然の修復能力を変えるになってきました。人新世ともよばれるように人類の自然へと与える影響はどんどん大きくなっています。

 産業革命以降、現在世代が未来世代に与える影響もどんどん大きくなっており、未来世代への責任を持つことが必要があります。

 様々な課題に対し首尾一貫した解決策を講じるためには、なぜ現在世代が未来世代を配慮しなければならないのかを考え必要があり、その疑問に答えるものが未来倫理となります。

環境問題をはじめとして、人間が自然に与える影響が大きくなり、未来世代への配慮が必要となりました。

様々な問題の解決にはなぜ未来世代への配慮が必要を明確にする必要があるため、未来倫理が重要となっています。

未来倫理にはどんな理論があるのか

 未来倫理として本書では、6つの理論が紹介されています。 

 天然資源に一定の制限をかける環境保護政策を実施するべきかを正当化する例でそれぞれの理論を見ると以下のようになります。

・契約説

 たとえ自分の利益が制限されても、人々がその規範に従うのであれば、その規範が妥当であるという考えです。

 未来世代への配慮を、現在世代における正義と一体に考え、規範を考えることができるようになります。

・功利主義

 全体にとっていかに幸福をもたらすのかを考える理論です。現在世代の幸福と未来世代の幸福にも同じように考慮すべきと考えることで未来世代への配慮が可能になります。

・責任原理

 他者を気遣うことが人の責任であり、多くの人が責任能力を持つことを重視する理論です。環境問題が悪化することで、責任能力を持つ人が少なくなることを避けるために環境保護を実施すべきと説明します。

・討議倫理

 人類は遠い未来まで存続すべきという考えにもとづいた理論です。民主主義は永続的に進化するため、存在すべきであり、そのために未来世代への配慮が必要と考えます。

・共同体主義

 人間が世代を超えた共同体と考える理論です。今の判断が経済的に不利をもたらしたとしても未来世代の繁栄を私の人生を有意味にすると考えることで環境保護を支持します。

・ケアの理論

 誰もが子供や老人のときにケアを受けるため、ケアを行う人が必要であるとする考えです。未来世代でもケアをしたりされたりする場や人が必要となるため環境保護を支持します。

 それぞれの理論には個性や強みがあり、問題によって最適な理論を用いることで最善の答えを導く出すことができます。

未来倫理には契約説、功利主義、責任原理、討議原理、共同体主義、ケアの理論などあり、それぞれの理論には個性や強みがあります。

未来倫理では環境問題をどう考えるのか

 産業革命以降、気候変動が大幅に進み、多くの自然災害が増加しています。洪水、海水面の上昇など今後もその影響がは広い範囲で見られるものと思われます。

 未来倫理の問題として考える環境問題はグローバルな規模で未来の生活環境に影響を与えるという点が特徴です。

 そのため多様な人々が共生する環境を総合的に考える契約説と功利主義が有効となります。

 現在世代の負担と未来世代に与える影響のバランスをどう設定するかは現実の世界を考慮して行われるべきです。

環境問題はグローバルな規模で未来に影響を与えるため、多様な人々が共生する環境を総合的に考えることが重要です。

放射性廃棄物の問題を未来倫理はどう考えるのか

 放射性廃棄物も遠い未来に影響を与える課題ですが、その影響の及ぶ未来がけた外れに長い期間であることが特徴です。

 放射性廃棄物の放射線量が自然放射レベルまで下がるまでには、10万年という歳月がかかるため、最終処分場をどこにするのか、国家が崩壊した場合にどうするのかなどが大きな問題となります。

 共同体主義とケアの倫理がこの問題を考えるうえで有効になります。

 補助金を約束するだけでなく、将来的な世代も自分たちの共同体であり、子供たちをケアするための場所を提供すべきという考えを持つことが最終処分場の建設や住民への説明で重要です。

放射性廃棄物の問題は影響を及ぼす未来が桁外れに長く、国家が崩壊することを考慮に入れる必要があります。

将来的な世代も自分たちの共同体と考えたり、将来的な世代の子供をケアすべきと考えることが有効です。

ゲノム編集を未来倫理はどう考えるのか

 クリスパーキャス9などの誕生でゲノム編集の精度の向上もあり、その技術への倫理的な不安も高まっています。特に生殖細胞の改変は未来世代への影響も大きく未来倫理で考える必要があります。

 ゲノム編集には責任原理と討議倫理が有効となります。

 人類の存続と責任の主体性を維持することコミュニケーションの共同体を人類が担う能力をゲノム編集で奪われるようなことがないようにしていくことが求められます。

ゲノム編集は特に倫理的な不安が大きい分野です。ゲノム編集によって人類の主体性やコミュニケーション能力を奪うことがないようにしていくことが求められます。

未来を予見するために必要なことはなにか

 未来を正確に予測することはできませんが、未来世代に対する倫理的な配慮をするためには未来を予見することは非常に重要です。

 未来を予見するために必要となるのは以下の二つです。

・想像力を拡大し、未来をイメージすること

・他社と対話し未来像を共有すること

一人ひとりが主体的に考え、他者と議論したり、共有したりすることで未来を予見する想像力を高めることができ、新しいテクノロジーの倫理的課題を導き出すことも可能となります。

想像力と対話が未来を予見するためには欠かせません。

未来

 未来倫理はとてつもなく壮大であり、身近な問題でもあります。

 思考とは当たり前を疑い、当たり前が壊される未来を想定し、未来世代をどう配慮するかを判断しなければなりません。

 当たり前を問い直す思考が未来倫理には必要不可欠です。未来倫理についての知識によって様々な思考の道しるべが得られるようになっていきます。

未来倫理には当たり前を問い直す思考が欠かせません。当たり前が壊される未来を想定し、未来世代にどう配慮するかを未来倫理で考えることで、思考の道しるべを得ることができます。

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