大人のための生物学の教科書 要約3 遺伝子、DNAとは?

この本や記事で分かること

・遺伝子、セントラルドグマとは何なのか

・遺伝子はどのように生命活動に関与しているのか

・進化がどのようにして起こるのか

要約2 タンパク質、酵素についてはこちら

DNAとは何か?

 DNAは遺伝情報を保持する物質であり、すべての生命活動の根底にあるものです。

 DNAの遺伝情報をもとにタンパク質が合成され、形質が発現する流れはすべての生物の生命活動の根底にあるものであるため、セントラルドグマ(中心教義)とも呼ばれているほど重要なものです。

 20世紀の生物学の中でも遺伝の仕組みを明らかにし、進化の原動力を理解したことはもっとも偉大な発見といえます。

DNAはどんな構造をしているのか?

 DNA(デオキシリボ核酸)はアデニン(A)、チミン(T)グアニン(G)、シトシン(C)の4つのの塩基が連なった化合物です。

 つらなった塩基鎖同士が水素結合を形成することで、2重らせん構造を形成しています。塩基鎖間の結合部では、アデニンは必ずチミンと、グアニンは必ずシトシンと結びついています。

 これによって 片方の鎖が決まればもう片方の鎖の塩基も自動的に決めることができ、この相補性によって完璧なコピーが可能となります。DNAが複製される際には、2重らせんが解かれ、片方の鎖から新しいもう片方のコピーを作ることため、精度の高いコピーを作ることができます。

遺伝子の役割は何か?

 DNA上の情報が遺伝子として機能することを形質発現と呼びます。

 細胞分裂や遺伝の際には、DNA全体がコピーされますが、形質発現はDNAのごく一部の情報を引き出すことで行われます。

 DNAの塩基配列はタンパク質のアミノ酸配列を指定するものです。DNAの情報は同じ核酸の一種であるRNAにコピーされ、RNAがタンパク質の製造場に移動します。

 このRNAは遺伝情報を伝える役割を持つことから、メッセンジャーRNA(mRNA)と呼ばれます。

 DNA→mRNA→タンパク質という情報の流れは、遺伝子の本体としてDNAを有するすべての生物に共通する原理であり、セントラルドグマとも呼ばれいます。

 DNA→mRNAの情報伝達は核酸から核酸への塩基配列の移し替えであるため、転写、mRNA→タンパク質の流れは塩基配列を読み取り、タンパク質を合成しているため、翻訳と呼ばれます。

DNAの突然変異はどのように広がるのか

 DNAの塩基配列は突然変異を行すことがあり、合成されるアミノ酸が変化し、タンパク質の機能が変化することがあります。

 この変化は有利に働くことも、不利に働くこともありますが、生物の進化の原動力となっています。 

 DNAの塩基配列の変化がもたらす疾患として、鎌状赤血球貧血症が挙げられます。酸素を運ぶヘモグロビンというタンパク質をコードする遺伝子に変異が起こり、赤血球の球状の形態が崩れ、酸素運搬能力が低下することで、貧血になりやすくなります。

 この変異は生存上不利なものとして淘汰されるはずですが、アフリカや地中海沿岸、中近東、インド北部などでこの遺伝病は多く見られます。

 この遺伝病が多くみられる地域はマラリアが流行する地域と重複しています。実は、鎌状赤血球貧血症の人はマラリアに感染しにくくなっており、貧血になりやすいというデメリット以上に生存に有効であったため、この遺伝子型が維持されています。

 マラリア耐性を持っていなければ、デメリットしかなくなくなっていたはずの遺伝子型ですが、環境への適応で残ることがあるという事例であり、今後地中温暖化が進み、マラリアを媒介する蚊の生息域が広がれば、未来の人類の多くが鎌状の赤血球を有しているかもしれません。

タンパク質をコードしないDNAの領域は何をしているのか

 DNAには60億塩基対もの塩基を有していますが、タンパク質をコードする遺伝子領域は2%にすぎません。

 残りの98%はジャンク領域と考えられていた時代もありましたが、実際には、遺伝子の発現に様々な役割を担っていました。

 ジャンクといわれた領域からタンパク質をコードしないRNAが作られており、様々な機能を有していることが明らかになっています。

 また、バクテリアやウイルスはゲノムの中のジャンクが少ないことが知られています。ゲノムの中のジャンクの少なさはタンパク質をコードする領域で突然変異が行る可能性を大きくし、タンパク質の機能の突然変異を起こりやすくしています。

 抗生物質などへの耐性菌が出現しやすい理由の一つに、このジャンク領域の小ささが関わっています。。ジャンク領域が小さく、遺伝子をコードする領域の割合が多いため、突然変異が遺伝子の機能に直結する可能性が高くなるため、大きく性能の違う個体が誕生しやすくなっています。

 逆に言えば、私たちはジャンク領域を大量に持つことで、突然変異による遺伝子の働きの変化を緩衝しているとも言えます。

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