グローバルサウスの地政学 宮家邦彦 要約

本の要点、概要

この本や記事で分かること

・グローバルサウスの実情

・グローバルサウスと日本はどう向き合うべきか

グローバルサウスは国際社会に大きな変化をもたらすのか

 世界秩序を塗り替えるのが、アメリカと中国の覇権争いだけでなく、新興国であるグローバルサウスの台頭にもあり、国際政治に革命的な変化をもたらすとの見方がありますが、懐疑的な面もあります。

 そもそも、グローバルサウスという組織は存在せず、世界各地の開発途上国の集合体に過ぎず、責任者もリーダーも議長も存在しませんし、グローバルサウス自体に一体感があるわけでもありません。

 このような形で世界秩序を塗り替えられるほど国際情勢は甘いものではありません。

責任者もリーダーも議長も存在しないグローバルサウスが世界秩序を塗り替えるほど国際情勢は甘いものではありません。

グローバルサウスを論じることに意味はないのか

 グローバルサウスを議論すること自体に意味がないわけではありません。

 現在の国際秩序の基本は欧米を中心とした民主主義、自由市場経済、法の支配、人権人道主義ですが、グローバルサウスには、これらの欧米の価値感に不満を持つ国も存在しています。

 グローバルサウス自体は一枚岩でなくても、議案や内容次第では国連などで拒否勢力となる可能性があります。

 また、グローバルサウスの実像に迫ることで、その正確な影響力がどこまで拡大し、日本がグローバルサウスとどのように向き合うべきかを考えることができます。

グローバルサウスの実像に迫ることで、日本がグローバルサウスとどう向きあうかを考えるという意味でもグローバルサウスを論じることに意味があります。

グローバルサウスはどのように分類できるのか

 グローバルサウス諸国には程度の差はあっても、旧宗主国や欧米主導の世界秩序に対する憤怒や嫌悪、違和感をもっています。

 この嫌悪や違和感が政治体制で言えば、欧米型の自由民主主義とは異なる国が存在することにつながっており、中国やロシアのような共産主義やインドのような非同盟、軍事、宗教的独裁などが挙げられます。

 経済面では自由主義だけでなく、統制色の強い国家重商主義経済、原油などの一次産品に依存する独裁国家経済など様々です。

 文化面でも宗教的、文化的背景が大きく異なるため、グローバルサウスといっても様々な国家が存在しており、決して一枚岩でない状況を作り出しています。

 グローバルサウスは政治体制とキリスト教かで以下の4つに分類が可能です。

自由民主で非キリスト教:インド、マレーシア、インドネシア
自由民主でキリスト教:フィリピンやウルグアイなど多くの国が該当。欧米諸国との関係が強い

統制、独裁で非キリスト教:中国や中東のイスラム諸国、中央アジアの国々が該当             

統制、独裁でキリスト教:アフリカ諸国に多い。植民地時代の宗教が残っている                (厳密にはグローバルサウスではないがロシアもここに該当する。)

旧宗主国や欧米主導の世界秩序に対する憤怒や嫌悪、違和感をもっているという共通点はあっても、政治体制、文化的、宗教が大きく異なっており、決して一枚岩とは言えない状況です。

ウクライナやガザ地区での戦争は何を示しているのか

 ウクライナ戦争ではロシアは西側諸国への憤りを前面に押し出すことで、グローバルサウスを取り込む動きを見せ、ある程度の成果を上げています。

 また、パレスチナ問題などのガザ地区での戦争の長期化は英仏などの植民地政策が作り出した未解決問題であり、グローバルサウスが欧米の価値観への嫌悪感、違和感を持つ要因になっています。

 ただし、グローバルサウス全体で統一的な戦略を持っているわけではなく、その時々の状況に応じて、自国の利益を最大化する行動をとっており、その判断や行動はやや近視眼的でもあります。 

 このようにグローバルサウスの戦略がうまくいってグローバルサウスが台頭したというよりは欧米の大国による戦略ミスが影響力を低下させ、その結果グローバルサウスが台頭したともいうことができます。

ウクライナ戦争やガザ地区の戦争は、グローバルサウスの戦略がうまくいってグローバルサウスが台頭したというよりは欧米の大国による戦略ミスが影響力を低下させた結果、グローバルサウスが台頭したともいうことができます。

経済面からグローバルサウスはどう見れるのか

 経済面でのグローバルサウスの台頭は政治面以上のものになっています。経済面での挑戦は質だけでなく、量もモノをいうため、大きな成果を上げやすいといえます。

 BRICSを中心とした国々の経済状況は大きく発展しています。ただし、その発展具合に大きな格差があること、グローバルサウス内でも競争関係にあり、相反する思惑を持っているなど一枚岩とは遠い状況です。

 また、中国やインドは特に大きな経済発展を成し遂げていますが、今後は中所得国に罠にはまってしまう可能性があります。

 中所得国の罠とは新興国が低賃金を背景に、飛躍的に経済成長し、中所得に達すると人件費が向上し、工業品輸出の競争が失われ、成長が鈍化してしまうことです。

経済的にも、グローバルサウス内でも競争関係にあり、相反する思惑を持っているなど一枚岩とは遠い状況です。

中国やインドでは、中所得国に罠にはまってしまう可能性があります。

中所得者の罠を抜け出すことができるのか

 中所得国の罠を回避するには、産業の高度化、内需拡大、規制緩和、イノベーションなどによる経済構造や政策の大幅な転換が必要です。
 台湾や韓国はITなどの産業の高度化で高所得国入りを果たしましたが、中国は現状真逆の政策を実行しており、中所得国の罠を避けることは難しいと思われます。

インドの方が自由経済の要素が強いため、中所得国の罠を回避しやすい状況ではあるといえます。

中国は中所得者の罠を抜け出すために必要な政策の真逆を実行しており、抜け出すのは難しいと思われます。

インドの方が自由経済の要素が強いため、中所得国の罠を回避しやすい状況です。

宗教からグローバルサウスを見るとどうなるのか

 宗教影響が大きい国が大きいものの、イスラム諸国とキリスト教国家が入り混じっており、一枚岩になることの難しさを表しています。

 バチカンは現在、184の国や地域と外交関係を有しており、多くのグローバルサウスと関係をもっています。カトリック系援助団体(FBO)による援助を行っており、FBOは普通の国の外交使節とは異なり、活動する国が危機に瀕しても最後までその現場を離れないという原則があり、現地社会から絶大な信頼を得ています。

 イスラム諸国でも宗教の影響は強く、信仰によるまとまりが期待できない状態ではあります。またキリスト教圏、イスラム諸国内のグループでは一定のまとまりはあるものの、強力なリーダーはおらず、
ロシア、中国、インドなどの大国と渡り合うような状態ではありません。

グローバルサウスに普遍的な思想や信条、文化、宗教は存在していないといえます。

グローバルサウス内でも宗教も多様で、一枚岩とはいえません。

宗教自体の影響は大きいものの、キリスト教圏、イスラム諸国内のグループでは一定のまとまりはあるものの、強力なリーダーいないという状態です。

日本はグローバルサウスとどう向き合うべきか

 日本政府もグローバルサウスとの連携を望んでいますが、日本の経済成長という目線が強く、グロー バルサウス側の利益に見合っているかは疑問です。

 2050年には世界人口の3分の2を占めるようになり、食料、資源、エネルギーも豊富なグローバルサウスとの連携には大きな意味がありますが、援助の見返りに直接的に経済的な結びつきを強くするという視点だけでは中国の規模や金額に勝てる見込みはありません。

 以前の日本がODAで行ってきたように、インフラ整備などで相手国の自助努力を促し、経済成長によって貧困削減を目指すこことが必要といえます。

 また、各国の状況は様々であるため、日本が取るべきアプローチも状況に即したものである必要があります。

例えば以下のような各国の状況に応じた政策が考えられます。

・非同盟のインドに対しては、緩やかな対話の仕組みの構築を優先し、無理に同盟国にすることを目的としない

・ブラジルのように経済に問題を抱える国には経済的な支援を行う

・経済的な問題の少ないサウジアラビアには政治的、軍事的連携を行う。

 グローバルサウス諸国の一致団結を防ぎ、グローバルサウス諸国の特性に応じて、アプローチの濃淡をつける事、限られた政治、経済的資源を賢く選択的に投入し、グローバルサウスへのパワーシフトを遅らせる必要があります。

援助の見返りに経済的な結びつきを強くするというやり方では、中国の規模に太刀打ちできません。インフラ整備などで相手国の自助努力を促すことで経済成長を促すやり方が有効です。

また、グローバルサウス自体多様であり、各国の状況に応じた支援、政策を行うことが不可欠です。

先進国の影響力は今後どうなっていくのか

 世界が有事になる中で国際社会で影響力を発揮するには、経済つまりカネ以外の要素も重要であり、
領土、人口、資源、軍事力という要素も重要になってきます。

 4つの要素を高い基準で満たしているのは、アメリカだけであり、他の先進国は圧倒的に劣っています。
 今後、先進国の経済力が低下する中でアメリカ以外で台頭するのはグローバルサウスのいずれかになる可能性が高いといえます。

現状、経済に加え、領土、人口、資源、軍事力といった要素を兼ね備えているのはアメリカだけです。

他の先進国に4つの要素を満たしている国はないため、先進国の経済力は低下すれば、アメリカ以外で台頭するのはグローバルサウスのいずれかになる可能性が高いといえます。

グローバルサウスではどの国が台頭するのか

 ブラジルは人口、資源はそこそこで、軍事力も南米ではトップであり、地域の大国となる可能性は高い状況です。しかし、グローバルサウス全体の指導的な大国になるかは未知数です。

 ロシアはアメリカに次いで4つの要素を満たしていますが、経済力に難があり、グローバルサウス諸国にとって魅力があるかは未知数です。

 インドは人口と領土は問題がありませんが、資源と軍事力が課題といえます。

 中国は人口、軍事力、領土は申し分ないものの、エネルギーや食糧を輸入に頼っており、資源に難があります。

 南アフリカは人口と軍事力の不足が問題といえます。
 

 現状ではどの国もアメリカ以上に4つの要素を満たしているわけではありません。

中国、ブラジル、ロシア、インドなどは台頭する可能性は高くなっています。しかし、領土、人口、資源、軍事力のすべてをアメリカのように満たしている国が存在しないことも事実です。

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