この本や記事で分かること
・アルケンと求電子試薬の反応例
・アルケンとハロゲンの反応がどのように起きるのか
・シクロペンテンとハロゲンの反応でトランス1,2ジブロモシクロペンタンのみが生成する理由
アルケンの反応にはどのようなものがあるのか
アルケンの二重結合は電子豊富であり、求核試薬として働きやすいため、以下ののように様々な求電子試薬と様々な反応を起こすことが可能です。
・ハロゲンの付加
・水とハロゲンと反応することでのハロヒドリンの生成
・触媒や存在下で水を付加することでやヒドロホウ素化反応を経たアルコールの生成
・還元反応による水素化
・カルベンの付加によるシクロプロパンの生成
・ジオールの生成
・ラジカルの付加による高分子化
アルケンにハロゲンを付加するとどのような反応が起きるのか
塩素や臭素をアルケンに付加させると、付加反応によってジハロアルカンを生じます。
エチレンに臭素を付加すると、1,2-ジブロモエタンを生成しますし、塩素を付加すれば、1,2-ジクロロエタンを生成します。
1,2-ジクロロエタンは有機反応の溶媒としてやポリ塩化ビニルの原料として幅広く使用されています。
エチレンと臭素の反応は、二重結合の電子が臭素を攻撃し、C-Br結合を生成、その後Br–が求核試薬としてカルボカチオンを攻撃するという機構で起こるように思えますが、実際の結果とは異なっています。

シクロペンテンへの臭素付加はどのように進行するのか
シクロペンテンへ臭素を付加すると二重結合を持つ両方の炭素が臭素との結合を生成し、1,2ジブロモシクロペンタンを生成します。
シクロペンタンに置換基が存在する場合には、シクロペンタン平面から置換基がどちらの方向に結合しているかで立体異性体が存在します。
同じ方向に置換基が結合していれば、シス体、別の方向であればトランス体となります。
もし、シクロペンタンの二重結合が臭素を攻撃し、カルボカチオンを臭素イオンが攻撃するという機構であれば、シス体とトランス体の混合物が生成すると考えられます。
しかし、実際には、シス体は生成せず、トランス体のみが生成することが分かっています。

なぜ、トランス体のみが生成するのか
トランス体のみが生成されるのは、臭素イオンが攻撃している中間体がカルボカチオンでないことを示しています。様々な実験結果から、中間生成物は三員環であるブロモニウムイオンであることが明らかになっています。
シクロペンテンの二重結合が臭素を攻撃すると、C-Br結合が生成します。この時にカルボカチオンがし生成しますが、C-Br結合のBrがカルボカチオンの空のp軌道と相互作用を起こすことで、三員環であるブロモニウムイオンを生成しています。
このブロモニウムイオンのC-Br結合のCを臭素イオンが攻撃し、もう一つのC-Br結合が生成することで、付加反応が進行しています。
Br–がCを攻撃する際には三員環が形成している側からは臭素イオンが近づくことができなくなりため、Br–は三員環が形成されていない側から攻撃することとなります。
そのため、Br同士が逆方向となるトランス体のみを生成することとなります。

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