聞く技術 聞いてもらう技術 東畑開人 要約

本の概要

聞くには言葉をそのまま捉えるという意味があります。裏にある気持ちを察する聴くに比べ、簡単と思いがちですが、言葉をそのまま捉えることはおもったよりも難しいことです。

社会でも聞くが機能不全に陥っている場合が多くみられます。聞くが機能不全に陥いるのは相手との関係が難しくなったときです。

機能不全を治す方法はいろいろですが、まずは相手の苦しみを理解し、聞くことが重要になります。

ただし、相手の話を聞くには自分の話も聞いてもらう必要があります。聞くと聞いてもらうのループが聞くことが日常的な営みとしてうまくいくために必ず必要なことになります。

社会のリソースが限られている以上当事者同士の対立を避けることはできません。当事者あるときには第3者に話を聞いてもらい、第3者のときは当事者の話を聞く。

聞くと聞いてもらうの循環が社会がうまくいくために欠かせなません。まずは、聞いてもらって聞くことの力を感じてみてほしい。

この本がおすすめの人

・周りの人とのコミュニケーションの困っている人

・精神的な余裕がなくなりどうしてよいかわからなくなることがある人

・相手の話をうまく聞けない人

本の概要

聞くと聴くの違いは

 聞くと聴くは似た意味ではありますが、少しニュアンスが異なります。

 聞くは声が耳に入ることやことばをそのままとらえること、聴くは声に耳を傾けることや裏にある気持ちに触れることというニュアンスの違いがあります。

聞くに比べ、聴くのほうが難しいと思いがちだが、実際に言葉をそのまま受けとることは思っているよりも難しいことです。

 心の奥底に触れるよりも懸命に訴えられていることをそのまま受け取るほうが難しいため、どうすれば聞くことができるかが本書では書かれています。

聞くは言葉をそのまま捉えること

聴くは裏にある気持ちに触れようとすること

聴くのほうが難しいと思いがちですが、言葉をそのまま受け取ることは思っているよりも難しいことです。

聞くは今、どんな状況か

 日常の中で話を聞けなくて困ったり、聞いてもらえない人は多く、聞くことが社会全体で機能不全に陥ってしまっています。

 話を聞いてもらうことは、話を聞くことの裏返しでもあり、話を聞くためにはあなたの話を誰かに聞いてもらう必要があります。

 人の話を聞くにはまず、話を聞いてもらい自分自身が安全であることを確認しなければなりません。

社会全体で聞くことが機能不全に陥っています。人の話を聞くためにはまず、聞いてもらう必要があります。

聞くためにはどんな技術が必要か

 話を聞くための小手先の技術には以下の12個があげられます。

1.時間と場所を決めてもらう

2.眉毛にしゃべらせよう

3.正直でいよう

4.沈黙に強くなろう

5.返事は遅く

6.7色の相槌

7.奥義オウム返し

8.気持ちと事実セットで

9.「わからない」を使う

10.傷つけない言葉を考えよう

11.なにも浮かばないときは質問しよう

12.また会おう

 小手先の技術によって話を聞きやすくなりますが、小手先の技術は余裕があるときしか使うことができません。

 余裕があるときは小手先の技術がなくても、話を聞くことができますが、余裕がないときは小手先の技術を使う余裕もなく、話を聞くことができません。

小手先の技術で話を聞きやすくすることができる。

小手先の技術は有用だが、余裕のないときには技術を使用することができません。

余裕がなくなって、聞けなくなるとはどういう状況か

 余裕がなくなると私たちは普段のように話を聞くことができなくなっていきます。

 余裕がなくなくなるのはどういうときかというと、相手との関係が難しくなっているときです。相手との関係が難しくなると、小手先の技術も使えなくなり、話を聞くことができなくなってしまいます。

 話は聞けないのは、言葉の中身の問題や技術がないからではなく、関係が悪くなっているからです。それでも話を聞くためには、まずは聞いてもらうことから始める必要があります。

余裕がなくなる=相手との関係が難しくなっているときです。

話を聞くことが難しくなるのは技術や言葉の中身ではなく、関係性の悪化によります。

聞くが難しくなったときにどうすればよいのか

 うまくいって当たり前のことが失敗すると目立つように、聞くことも普段意識しなくても、そこそこうまくできているため、聞くことができなくなるとその失敗が目立ってしまいます。

 失敗がなにかの欠乏をもたらし、それが簡単には埋められないとき、相手に痛みを強いらざるを得ず、不信感が生じ関係はこじれてしまいます。

 このような場合には不快感に耳を傾け、相手がどのような痛みに苦しんでいるか聞くしかありません。

 心にとって最大の痛みは自分のことを分かってくれる人がいないことです。目の前に欠乏があっても誰かが苦しみを聞いてくれ、わかってくれるのであれば、人はその痛みに耐えることができます。

 まずは相手の話を聞くことが重要になりますが、不信感が生じた状態で聞くことはとても難しいことです。

失敗が何かの欠乏を生み、相手に痛みを強いらざるを得なくなると、不信感が生じてしまいます。

このような時は不快感に耳を傾け、相手の苦しみを聞くしかありません。苦しみがあっても聞いてもらう人がいると耐えることができます。

孤立と孤独はどう違うのか

 聞くうえで重要となるのは孤独と孤立の違いです。孤独は安心感がありますが、孤立には不安感があります。 

 孤独も孤立も外から見ればポツンとひとりでいる状態ですが、心の世界で違いがあります。

 孤独は心の中でも一人ですが、孤立は心の中では悪い人に囲まれてしまっている状態です。

 現実が不安定で安心感がないと人は孤立を感じやすくなります。心に侵入し、攻撃する他者はトラウマ、現実に他者から攻撃された記憶から生み出されます。

外から見ると同じですが、心の中に違いがあります。

孤独は心の中でも一人で、安心して一人でいることのできる状態です。

孤立は心の中で悪い人に囲まれてしまっている状態です。

孤立してしまったときにはどうすればよいのか

 社会全体で進む見える化など組織の透明化が求められていますが、透明化することで、自分が安心していられる個室がなくなってしまい、孤立しやすくなっています。

 孤立して話を聞けなくなった人は、誰かに話を聞いてもらわなくては聞くことはできません。何かを聞いた人は別の誰かに話を聞いてもらう必要があります。

 聞く、聞かれるのつながりの連鎖こそが聞くことに必要になり、まず話を聞いてもらう必要があります。

 話を聞いてもらう技術=心配される技術になります。人に心配されることで、「なにかあった?」と声をかけてもらうことができますので、少しいつもと違う雰囲気や行動をして心配されるような言動をしてみることが有効です。

 もし身近で聞いてもらう技術を使っている人がいたら、「なにかあった?」と尋ねるだけでも良いので聞いてあげて欲しいと思います。

孤立してしまった状態のときには、誰かに話を聞いてもらう必要があります。

話を聞いてもらうには、心配されるのが一番になります。周囲に心配になる人がいたら、まずは「なにかあった?」と聞いてあげて欲しいです。

聞く専門家と周囲の人の違いは何か

 周囲の人とする人生相談とプロの心理士の行うカウンセリングの境界線はあいまいものです。

 聞くことは日常的な営みで、うまくいかないときに専門家の出番がありますが、ほとんどの場合は身近な人間関係でうまくいっています。

 人が人を理解する根本は、専門家が知識を通じて理解するというよりは、普通に生活している中で知人と「それつらいよね」という会話にあります。

 周囲にある普通のつながりが最初にケアを提供してくれて、たいていのことがそれで治ってしまいます。ローカルで共有された知である世間知は周囲の人と共有しやすく、心の問題の多くのことが解決できます。

 世間知で解決できなくなったときに、専門家の出番となります。その場合でも専門家であるカウンセラーが特別な聞き方をして心を癒すわけではなく、クライアントの回復をもたらすのは周囲の人々です。

 危機状態にある人は周囲の人から理解できないことが増えて、世間知が通じなくなってしまいます。

 カウンセラーの仕事は通訳のようなもので、クライアントの心の言葉を翻訳して、伝えることができると周囲の人は再びその人を理解できるようになります。

 理解には愛情を引き起こす力があり、理解できるようになれば再び世間知がきちんと働くようになり、回復することができます。

聞くことは日常的な営みで、専門家なしでもうまくいっています。ローカルで共有される世間知でも多くの問題を解決できます。

世間知で解決できない場合に、カウンセラーの出番となりますが、カウンセラーの仕事はクライアントの心の言葉を翻訳して、周囲の人に伝え、いつもの営みに戻すことになります。

世間知とは何か?

 世間知とはいわゆる「ふつう」と言っていることで、そこから外れたときに苦しくなっていると周囲の人から共感を得やすくなります。

 しかし、「ふつう」という感覚はローカルなものであり、唯一の基準があるわけでもないため、違った世界の人に押し付けると毒にもなっていまいます。

 毒と薬を分けるのは理解をもたらすかどうか。理解することですべてが変わるわけではありませんが、理解することでその人を見る目を少し変えることができます。

 みんなが聞こうとしていて、本人も聞いてもらうことを恐れていない、そういう時に心が回復していくものです。これが聞くことの力になっています。

世間知とはいわゆるふつうのこと。そこから外れたときに苦しくなっていると周囲から共感を得やすくなる。

しかし、ふつうには明確な基準がなく、押し付ければ毒になることもある。

薬と毒を分けるのは理解をもたらすかどうか。理解は愛情をもたらし、その人を見る目を変える力があります。

 社会のリソースが限られている以上、すべての人の要望に応えることはできないため、意見の対立による社会の分断は避けられません。

 そのなかで、対話を続ける必要があるが、利害関係にある当事者同士での対話は難しい。

 当事者同士ではなく、第3者に聞いてもらうことで、現実的な問題解決に役立つわけではなくても、聞いてもらうことが心に作用し、現実を変えていくような力になっていきます。

 当事者であるときは第3者に話を聞いてもらい、第3者のときは自分の話を誰かに聞いてもらう。聞くことがぐるぐると循環することで社会が成り立つようになります。

 まずは、聞いてもらうことから始め、聞き事の力を感じることで、聞くことができるようになり、徐々に聞くことと聞いてもらうことの循環が出来上がっていきます。

感想

 聞く技術というとカウンセラーが心理学などの専門的な知識を利用し、苦しんでいる人を治すようなイメージがあると思います。

 しかし実際には聞くことは日常的な営みで誰もが周囲の人と行っていることになります。しかし、聞くことは相手との関係が利害の対立などで難しくなると上手くいかなくなります。

 利害の対立による社会の分断が起こることは避けられず、対話が必要ですが、聞くことの機能不全はブレグジッドやトランプ大統領の当選などでも見られています。

 人の話を聞くためには、自分の話を誰かに聞いてもらう必要があるという部分が最も重要だと思います。話を聞くことはふつうのことですが、いつでも簡単にできることではなく、話を聞く人をフォローすることで社会全体がうまく回っていく、そんなイメージが重要なことがよくわかりました。

 聞く技術と聞いてもらう技術を意識して、聞いてほしそうな人の話を聞くことで、自分も聞くと聞いてもらうの循環に入ることができれば聞くことの機能不全を回避できることがよくわかる本でした。

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