インドの正体 伊藤融 要約

本の概要

「人口世界一」「IT大国」として注目され、西側と価値観を共有する「最大の民主主義国」とも礼賛されるインドですが、その実態には謎が多く見られます。

特にウクライナ侵攻を行ったロシアに対する批判決議を棄権したことには、クアッドなどで連携を深めていたと感じていた西側諸国からは多くの不満が持たれました。

では、インドと距離を置いてしまえば?とも思いますが、各国にそのような動きは見られません。

インド外交や南アジアの国際関係に関わる著作を多数持つ筆者がなぜ、インドの謎や分かりにくさ、民主主義国家としての問題点、これらを踏まえてインドとどのように付き合っていくべきかが知ることができる本になっています。

この本がおすすめの人

・なぜ、クアッドがあるのにインドがロシアの非難決議を棄権したのか知りたい人

・インドと中国やロシアンとの関係を知りたい人

・インドがどのような外交を行う国か知りたい人

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本の要約

要約1

台頭する中国への脅威に対抗するためにインドへ投資を行うべきと考えたり、価値と利益を共有するパートナーになれると考える人も多くなっていますが、インドと付き合ったことのある人はこのような考え方に懐疑的です。

事実、近年インドは日米豪印による4か国の枠組みであるクアッドの一員になるなど、西側への傾斜を強めてきましたが、ロシアへの非難決議を棄権しています。

ロシアとインドの関係はクアッドよりもはるかに古くからあり、ロシアの侵攻自体はひはんしていますが、インドにとってロシアが重要であることに変わりはありません。

インドは西側諸国についたわけではなく西側諸国、ロシアのどちらにも関与することで自分たちの利益を実現しようとしています。

要約2

また、インドの民主主義の中身にも多くの問題がみられます。

確かに独裁ではなく、自由な選挙制度を採用し続けていますが、ムスリムの排除などマイノリティの排除をためらわないインド人民党(BJP)が躍進しています。

インド人民党の躍進によって、自由度や自由民主主義指数、報道自由度指数などは大きく低下し、自由や平等の度合いは大きく低下しています。

古くからのカーストをもとにした差別が残るなど、インドは民主主義で重要なことは選挙などの制度を維持することであって、自由や平等を達成するための手段とは考えられていません。

要約3

どっちつかずの態度や価値観の相違があれば、インドと距離を置くという考えもありますが、それを許さないのが、中国の存在です。

日本やアメリカは発展を続ける中国を脅威に思っており、中国に対抗する意味でもインドとの関係を深める必要があると考えています。

インドも中国と国境を接しており、周辺国への中国の関与が強くなっているため、西側諸国との関係を強化しておきたいという思惑があります。

世界一の人口と若い世代の多さによる人口ボーナスに伴って、GDPも着実に伸びており、経済力、軍事力で米中に次ぐ3番手につく可能性は極めて高くなっています。

インドが米中どちらにつくかでインド太平洋地域の経済、安全保障の行方が決まる状況といえ、インドから距離を置くことなく、こちら側に引き寄せるしかありません。

要約4

インドの重要なイシューの大半で価値や利害が一致するパートナーは存在しないため、どの国とも積極的に付き合うという多同盟を推進しています。

このような実利的な外交姿勢はインドの伝統的なものであり、まずは、インドが状況によってどちらにでもつくことを受け入れる姿勢が必要です。

経済的な面からインドに食い込み、相手にとって欠かせない存在になったうえで、人権問題などのセンシブルな問題について無視せずに指摘することが重要です。

日本もできる限りインドを自由民主主義の理念に引き戻す役割を担うべきです。

価値観の強要ではなく、対等な友人として意見交換を始めることがも求められています。

インドとはどういう国なのか

 インドは自由や民主主義の信奉者であり、台頭する中国への脅威に対抗するためにインドへ投資を行うべきと考えたり、価値と利益を共有するパートナーになれると考える人も多くなっています。

 しかし、インドと少しでも付き合ったことのある人であれば、このような考え方には懐疑的になってしまいます。

 実際に、ロシアによるウクライナ侵攻を受けたロシアへの経済制裁の参加拒否や人権侵害が放置されている点などパートナーになれるのか不安になる点も多くあります。

インドは自由や民主主義の国と思う人も多いですが、インドと少しでも付き合ったことのある人はこのような考え方に懐疑的です。

なぜ、インドはロシアの批判決議を棄権したのか

 インドは日米豪印による4か国の枠組みであるクアッドの一員になるなど、西側への傾斜を強めてきましたが、ロシアへの非難決議を棄権しています。

 インドにとってロシアは冷戦期から事実上の同盟を結ぶなど、長く深い関係にあり、非常に大事な国であり、昔から日本やアメリカなどよりも信頼できるパートナーでした。

 また、中国、パキスタンなどユーラシア大陸の中で孤立しているインドにとって、ロシアを敵に回したくないとの考えもあり、非難決議を棄権することとなりました。

 以前のようにロシアしか頼る相手がいないという状況でなく、侵攻自体には批判していますが、今でもインドにとってロシアが重要な国であることに変わりはありません。

近年、インドはクアッドの一因になるなど、西側への傾斜を強めてきましたが、ロシアとは冷戦期から深い関係にあり、今でも重要な国であることには変わらないため、ロシアへの非難決議を棄権しています。

インドは本当に自由や民主主義の国なのか

 西側諸国はインドの態度に落胆し、いらだちを持っていますが、インドは西側諸国についたわけではなく西側諸国、ロシアのどちらにも関与することで自分たちの利益を実現しようとしています。

 また、民主主義についてもその中身に問題も多く見られます。確かに独裁ではなく、自由な選挙制度を採用し続けています。

 しかし、カーストによる差別が残るなど、インドでは民主主義にとって大切なのは選挙などの手続きや制度であって、自由や平等が達成されたかはあまり問題になっていません。

 また、近年はヒンドゥー国家を目指し、ムスリムの排除などマイノリティの排除をためらわないインド人民党(BJP)が躍進しています。

 これらの流れで、インドの自由度や自由民主主義指数、報道自由度指数などは大きく低下し、宗教の自由に関しても特に懸念される国として挙げられるなど、自由や平等の度合いは大きく低下しています。

インドは独裁でなく、自由な選挙制度こそありますが、差別の改善がされる動きはなく、最近ではマイノリティの排除や報道の自由度の低下なども見らえています。

民主主義にとって大切なのは選挙などの手続きや制度であって、自由や平等が達成されたかはあまり問題になっていません。

なぜ、各国はインドとの関係を深めたいのか

 インドと自由や平等といった価値観を共有できないのではという疑問があっても、インドとの関係性を拡大深化していきたいと思わせる根底には中国の存在があります。

 日本やアメリカは発展を続ける中国を脅威に思っており、中国に対抗する意味でもインドとの関係を深める必要があると考えています。

 インドにも中国とは国境を接していること、周辺国への関与を強めてこと、インドへの挑発行為の増加など中国への脅威を強めています。

 周辺国からすれば、インドが地域の超大国でありながら、その責務を放棄してきたため、中国の参入を歓迎する向きもあります。

日本やアメリカは発展を続ける中国を脅威に思っており、中国に対抗する意味でもインドとの関係を深める必要があると考えています。

しかし、インドの周辺国からはインドが大国としての責任を放棄してきたため、中国の参入を歓迎する向きもあります。

中国をめぐってインドとアメリカや日本の立場の違いはあるのか

 一帯一路などによってこれまで、インドの影響力が圧倒的であった南アジアやインド洋諸国にも中国の勢力が拡大しています。しかし、中国とインドでは資金力で大きな差があり、インド一国で中国に対抗することは難しくなっています。

 そこで、インドとしてはインド太平洋の概念を利用して、クアッドの枠組みで非軍事的な連携を行うことで中国に対抗したいと考えています。

 ただし、日本やアメリカにとって最も警戒すべきは中国の海洋進出である一方で、インドは中国の大陸進出にも警戒する必要があります。

 インドがもし、国境で中国と戦争になったとしても、同盟関係にあるわけではないアメリカの援助は期待できません。

 そのため、インドは中国を必要以上に刺激することを避け、対中の姿勢でも日本やアメリカに比べ、慎重になりやすくなります。

中国はインドの影響力が圧倒的であった南アジアやインド洋諸国にも進出し始めたため、インドとしてはインド太平洋の概念を利用して、クアッドの枠組みで非軍事的な連携を行うことで中国に対抗したいと考えています。

しかし、日本やアメリカにとって最も警戒すべきは中国の海洋進出である一方で、インドは中国の大陸進出にも警戒する必要があります。

そのため、必要以上に中国を刺激しないように、対中姿勢は慎重になってしまいます。

なぜ、インドは中国に慎重な姿勢をとるのか

 いくら海洋域で味方を作っても、大陸で孤立してしまっては意味がありません。

 インドがロシアや中国へ中立的な姿勢を保っているのには、大陸国家としての振る舞いといえます。

 また、経済面でも中国との関係性を保つことが不可欠である点も、アメリカや日本と立場が違う点になっています。

いくら海洋域で味方を作っても、大陸で孤立してしまう可能性があり、経済面での関係が不可欠である点で中国に慎重にならざるを得ない状況です。

インドと付き合わないという選択肢はあるのか

 インドは自由や民主主義の看板を掲げていますが、その中身を見ると価値観を共有しているといえるのか疑わしい部分もあります。

 しかし、インドは今、世界一の人口と若い世代の多さによる人口ボーナスに伴って、GDPも着実に伸びており、GDPの拡大とともに、軍事費も上昇しています。

 中国の台頭で米中の対立が高まる中で、経済力や軍事力で3番手につく可能性は極めて高くなっており、インドがどちらにつくかでインド太平洋地域の経済、安全保障秩序の行方がきまるようになります。

 だからこそ、自由闇主主義、人権などリベラルな国際秩序を維持するにはインドをできる限り、こちら側に引き寄せるしかありません。

インドは経済力や軍事力で3番手につく可能性は極めて高くなっており、インドがどちらにつくかでインド太平洋地域の経済、安全保障秩序の行方がきまるようになるため、できるかぎりインドをこちら側に引き寄せる必要があります。

インドはどのような外交を志向しているのか

 インドが我々と同じ価値や利益を共有していることは疑わしいものですが、中国やロシアと比較すると近いとことが多いことも事実です。

 インドの影響が大きくなる中で、インドを引き込むためには、クアッドの枠組みを同盟関係まで広げることですが、中国やロシアとの関係もあり、現実的ではありません。

 インドは戦略的自立性と概念を意識しており、中国が脅威だからと言って、安易にアメリカなどと関係を深め過ぎれば、支配従属関係が構築されてしまうと考えています。

 また、重要なイシューの大半で価値や利害が一致するパートナーは存在しておらず、特定のパートナーだけに頼ること得策ではないと考えています。

 アメリカと組めば安全保障上の利益を得る代わりに、インドに有利な通商、金融環境を作り出すことができなくなる、気候変動や人権の問題で対立する可能性が出てきてしまいます。

 そこで、インドはどの国とも積極的に付き合うという多同盟を推進しています。多くの国と連携を深めることで、戦略的自立性を損なわず、利益を引き出すことを目的としています。

インドの重要なイシューの大半で価値や利害が一致するパートナーは存在しないため、どの国とも積極的に付き合うという多同盟を推進しています。

インドと向き合う上で大事になる考え方はどのようなものか

 インドの実利主義は伝統的なものであり、我々も現実的な選択肢として、多同盟をとらえる必要があります。

 その際には、まずインドがどちらにも着くという姿を受け入れる必要があります。

 また、日本とインドは固いきずなで結ばれているはずだという前提に捉われないようにし、ドライに接することも重要です。

 ただし、自由で開かれたインド太平洋の実現のためにも、人権問題などの価値観をめぐるセンシブルな問題を無視して、経済的な協力を行うことは避けるべきです。

 できる限りインドを自由民主主義の理念型に引き戻す役割は日本も果たすべきです。まずは、インドの必要な分野に食い込み、自らの製品や技術がインド側に欠かせないものだと思わせるとともに、ビジネスと人権が不可分であることを伝えていくことが必要になります。

 我々の価値観を強制するのではなく、対等な友人として素直に意見交換を始めることがインド太平洋の未来のためになるはずです。

インドの実利的な外交は伝統的なものであり、インドがどちらにも着くという姿を受け入れ、ドライに接することも重要です。

ただし、できる限りインドを自由民主主義の理念型に引き戻す役割は日本も果たすべきです。

価値観を強制するのではなく、対等な友人として素直に意見交換を始めることがインド太平洋の未来のためになるはずです。

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