買い負ける日本 坂口孝則 要約

本の概要

日本企業、特に多くのメーカーが様々な部品、材料の入手がしにくくなったことで、大きな混乱に陥っています。

これまで、買い負けるというと食料品を高騰などで買うことができないニュースが多かったものですが、その範囲は様々なものに広がっています。

半導体不足、外国人労働者の減少、貿易船の日本寄港の減少など様々な分野で買い負けているようになっています。

買い負けの原因は世界的なモノの供給不足もありますが、それ以上に日本の産業が没落したことが大きな原因です。

どんな買い負けが起きているのか、なぜ買い負けが起きてしまうのか、どうすれば日本の産業構造を変え買い負けを避けることができるのかなどを知ることができる本になっています。

この本や記事で分かること

・日本の買い負けがどれくらい深刻なのか

・なぜ、買い負けが続いてしまうのか

・日本の産業構造を変化させ、買い負けを防ぐにはどうすれば良いのか

世界のインフレと日本の経済について書かれた「世界インフレと日本経済の未来」の要約はこちら

日本が安くなったことを別の側面から知ることのできる「中国人が日本を買う理由」の要約はこちら

本の要約

要約1

日本企業、特に多くのメーカーが様々な部品、材料の入手がしにくくなったことで、大きな混乱に陥っています。

材料の入手困難は世界的な供給量が減ったことも要因ですが、日本のモノ不足は海外勢と日垣してもひどく、日本企業の買い負けも大きな要因になっています。

これまで、買い負けは主に食料品関連のニュースで使われてきましたが、食糧以外の分野でも日本が買い負けることが目立ち始めています。

自動車の納品が遅れているのも、半導体の買い負けが要因になっています。コロナによる景気後退を見込んだ自動車メーカーは半導体の購入をキャンセルしましたが、予想に反して需要は急回復しました。

しかし、一度キャンセルした半導体を入手することが難しかったため、半導体不足による製造の遅れが発生してしまいました。

買い負けによる影響は自動車メーカーという大企業にまで広がっています。

要約2

日本の車メーカーが半導体不足に陥った理由は政府の動きの遅さや納品されて当たり前という日本企業の認識のずれにあります。

また、半導体以外でも、木材やLNG(液化天然ガス)マグロや牛肉などの食料品、また、物だけでなく貿易船の日本への寄港の減少や外国人労働者の減少など、モノ以外での買い負けも目立っています。

日本が様々な分野で買い負けてしまう、直接的な原因は日本産業の没落で買う力が低下したことにあります。

日本がここ30年経済成長できていないなかで、他国は経済成長したため、同じものでも価格が上がっています。

日本の国民が購入できる金額変わらない中で、他国民が購入金額を高くなるのであれば、海外企業から買う力が弱くなるのは当然といえます。

要約3

日本産業の没落は買い負けの原因となりますが、日本産業の没落の原因は以下のようなものになります。

・多層構造による買い手の慢心

・品質追求による調達品固定化

・全員参加主義、全員納得主義による横並び意識

ピラミッドのような裾野の広いサプライチェーンによる多層構造はコミュニケーションコストを省く半面、ピラミッドの上部にいる買い手は納品してもらって当然という慢心を生みました

品質追及の自己目的化や既存維持と前例踏襲は、不要なほどの高品質や本質的でない過剰な機能の追加を目指すことや入手の難しい古い部材の使用を招いています。

責任を取りたくない横並び意識の強さは供給量が少なくなった際に即決できないことによる買い負けや優秀な人材の確保を妨げるなどの問題で没落の原因になっています。

高度成長期には武器になったことが、時代の変化に対応できない要因になってしまっています。

要約4

戦後、産業構造は農業から工業への大幅に変化しましたが、農業従事者的な安定と継続を前提とする働き方は引き継がれていきました。

高品質なものを製造することが難しかった時代だったこともあり、全員参加主義、同質性の高い組織が追い風となり、高度成長を実現しました。

しかし、いつしかだれも責任を取らないと組織へと変化し、新しいことを始めることができず、次につながる投資を行うことができませんでした。

日本企業の没落をもたらした多層構造、品質追求、全員参加主義、全員納得主義の払拭は特定の施策だけでできるものではありません。

買い負けは、日本の経済の没落、物価と賃金の停滞が表出した1つの事象にすぎません。

日本企業の停滞の理由を見出し、成長につなげていけば過去30年の停滞も意味を持ち、失敗が報われるかもしれません。

日本のメーカーでなぜ混乱が起きているのか

 日本企業、特に多くのメーカーが様々な部品、材料の入手がしにくくなったことで、大きな混乱に陥っています。

 半導体不足で自動車メーカーが工場の稼働を停止するなど、部材不足の影響は日本の大企業であってもみられるものになっています。

 新型コロナの流行やウクライナ戦争などで供給量が減少していることで、世界的にモノ不足になっていることは事実ですが、日本のモノ不足は諸外国と比較してもひどく、買い負けていることが大きな要因です。

 これまで、買い負けは主に食料品関連のニュースで使われてきましたが、食糧以外の分野でも日本が買い負けることが目立ち始めています。

日本企業、特に多くのメーカーが様々な部品、材料の入手がしにくくなることで、大きな混乱に陥っています。

世界的なモノ不足も要因ですが、それ以上に日本は諸外国に買い負けているため、モノ不足になっています。

なぜ、新車の納品が遅れているのか

 2021年に半導体不足による自動車メーカーの工場稼働停止や生産台数減などが相次いで発表され、新車の納車が遅れる状態が続いています。

 コロナによる景気後退を見込んだ自動車メーカーは半導体の購入をキャンセルしましたが、予想に反して需要は急回復しました。

 また、巣ごもり需要で多用途の半導体需要が増加したため、一度キャンセルした自動車メーカーが半導体を入手することが難しかったため、半導体不足が発生しました。

コロナによる景気後退を見込んだ自動車メーカーは半導体の購入をキャンセルしましたが、予想に反して需要は急回復しました。

一度キャンセルした半導体を入手することが難しかったため、半導体不足による製造の遅れが発生してしまいました。

日本の半導体不足の背景には何があるのか

 日本が半導体不足に陥った背景には以下のようなものがあります。

・政府の動き

 アメリカは官民を挙げた半導体の調達、自国工場への投資、TSMCなどの誘致を行いました。日本も同様の動きは見せましたが、大統領直々に半導体確保に動くなど姿勢に差がみられています。

・日本企業の認識のずれ

 在庫を少なくするジャストインタイムの弊害、自動車用途の半導体の生産量がすくなさ、購入量が少なく、納入先の優先順位が下がっていることを認識しておら、納入されて当たり前という認識のずれが半導体の確保をできなかった要因の一つになっています。

日本の半導体不足の要因は以下の通りです。

・政府の動きの弱さ

・納品されて当たり前という認識のずれ

半導体以外にも買い負けているものはあるのか

 半導体以外でも木材やLNG(液化天然ガス)マグロや牛肉などの食料品、また、物だけでなく貿易船の日本への寄港の減少や外国人労働者の減少など、モノ以外での買い負けも目立っています。

 日本が買い負けしている要因には以下のようなものが挙げられます。

・過剰な品質要求

 他国ではOKでも、日本ではNGの場合が多く見られます。購入量が多く、買い取り額が高い時代にはそれでも買うことができましたが、少子高齢化、人口減などでの購入量減少、日本の停滞と他国の経済成長で日本の優先順位が下がっています。

・価格の安さ

 値上げを抑止する空気、経済的な停滞による価格の安さなどで価格が安くなっています。中国などの需要増加と価格の上昇が日本の優先順位を下げてしまっています。

 貿易船の減少には空洞化による輸出量の減少、給与の低迷や雇用の硬直性によって高度人材が日本に来てもらえなかなくなく、閉鎖性によるハラスメントなどは技能実習生を遠ざける原因になっています。

半導体以外でも木材やLNG(液化天然ガス)マグロや牛肉などの食料品、また、物だけでなく貿易船の日本への寄港の減少や外国人労働者の減少など、モノ以外での買い負けも目立っています。

なぜ、日本が買い負けてしまうのか

 日本が様々な分野で買い負けている直接的な原因は、日本産業の没落によって買う力が低下していることにあります。

 GDP、購買力などからも分かるように世界の経済が成長する中で、日本はここ30年経済成長できていません。

 日本の国民が購入できる金額変わらない中で、他国民が購入金額を高くなるのであれば、海外企業から買う力が弱くなるのは当然のことです。

 経済成長できてない理由は日本企業は付加価値の高いものを作れていないことも要因であり、日本産業の没落で日本企業の発言力が低下してることも明らかになっています。 

買い負けの直接の原因は日本産業の没落です。

日本がここ30年経済成長できていないなかで、他国は経済成長したため、同じものでも価格が上がっています。

また経済の低調、空洞化で購入量が少なくなったことも諸外国からの優先順位が下がり、買い負けにつながる原因になっています。

なぜ、日本産業は没落したのか

 日本産業が没落した大きな要因は、以下の3つになります。

・多層構造による買い手の慢心

 日本企業は裾野の広いサプライチェーンを特徴とし、多くの零細企業が日本を支えています。このようなピラミッド構造ではピラミッドの上部にいる買い手は納品してもらって当然という慢心を呼んでしまいます。

 あいまいな需要予想や値上げを認めない姿勢や過剰なサービスや品質をも求める姿勢

 また、事業による上流から下流まで自社や系列会社で担う垂直統合による弊害も出ています。垂直統合によるすり合わせによる高品質やあうんの呼吸で仕事が進むことによるコミュニケーションコストの減少を可能にします。

 しかし、契約条件などの曖昧さやすり合わせの通用しない新規の相手との仕事を困難にする、下層組織とのコミュニケーション不足などの問題が目立つようになっています。

・品質追求による調達品固定化

 品質追及が自己目的化してしまっていることも問題です。

 不要なほどの高品質や本質的でない過剰な機能の追加を目指すあまり、品質が少し悪くてもコストを下げられないかという検討を行ってきませんでした。

 技術の伝承不足で全体を把握しているひとがいないため、新しい製品を作る際に、どの部分を削れるのか判断できず、これまでの製品を踏襲して機能を足す形をとることも多く見られます。

 そのために、入手の難しい古い部材を使い続けなくてはならないなどの状況も創り出しています。

 日本企業の目的は品質追求というよりは既存維持と前例踏襲になっており、0ベースでの見直しなど、行うべきことを行えませんでした。

・全員参加主義、全員納得主義による横並び意識

 全員が納得しないと行動できない姿勢も、買い負ける要因になっています。

 供給量が少ない状況で、多少高くても購入するという判断ができなけらば即決する海外勢に買い負ける可能性は高くなります。

 リスクを負うことや責任を取りたくないという意識が強いことは、意思決定と行動を遅くする要因になっています。

 責任を取りたくない横並び意識の強さは優秀な人材の確保も妨げています。どんなに優秀で、利益をもたらすと予想できても社長や役員よりも高い給与を与えることはできないため、優秀な人材を引き付けることができていません。

日本産業が没落した大きな要因は、以下の3つです。

・多層構造による買い手の慢心

・品質追求による調達品固定化

・全員参加主義、全員納得主義による横並び意識

これらの姿勢が武器になった時代もありましたが、時代は変化しています。

変化に対応することができなかったため、経済が停滞し、日本産業は没落していきました。

日本産業の没落の原因はなぜ生まれたのか

 日本の産業の没落を招いた、多層構造、品質追及、全員参加主義、全員納得主義は以下のような流れで生まれたものと考えられます。

 日本は戦後、農業従事者が50%を占めていましたが、高度成長期に急速に工業化に邁進しています。そのため、農業従事者的な安定と継続を前提とする働き方を引き続いでいきました。

 終身雇用、メンバーシップ型雇用は個人だけの意識を超え、組織全体の向上を促し、全員参加主義、全員納得主義につながっていきます。

 高品質なものを製造することが難しかった時代だったこともあり、全員参加主義、同質性の高い組織が追い風となり、高度成長を実現しました。

 しかし、全員参加主義、全員納得主義の姿勢はそのうち、だれも責任を取らないと組織へと変化していきます。

戦後、産業構造は農業から工業への大幅に変化しましたが、農業従事者的な安定と継続を前提とする働き方は引き継がれていきました。

高品質なものを製造することが難しかった時代だったこともあり、全員参加主義、同質性の高い組織が追い風となり、高度成長を実現しましたが、いつしかだれも責任を取らないと組織へと変化してしまいました。

高度成長期からなぜ、停滞してしまったのか

 誰も責任を取らない組織では、新しいことを始めることができませんでした。高度成長期に大きな利益を獲得しましたが、次につながる投資を行えなかった企業も少なくありませんでした。

 実際に設備投資の伸びも他国に少なく、徐々に産業は没落していきました。

 多層構造の構築も高度成長期には優位に働き、内部、外部ともに長期的な関係性をもつことを前提にしていきました。

 しかし、いつしか多層構造は変化を拒む土壌を作ることにつながってしまいました。

全員参加主義、全員納得主義による横並び意識は誰も責任を取らない組織となり、新しいことを始めることができず、次につながる投資を行うことができませんでした。

多層構造も長期的な関係性をもつことを前提にしてきましたが、変化を拒む土壌になってしまいまいした。

どうすれば日本企業を復活させることができるのか 

 日本企業の没落をもたらした多層構造、品質追求、全員参加主義、全員納得主義の払拭は特定の施策だけでできるものではありません。下記に示す12の提言を実行することが求められます。

1.仕入れ先への早期発注:納品されて当たり前の意識からの脱却

2.下層仕入先への積極的な関与と情報開示

3.日本企業トップの仕入れ先トップとの交渉:トップ同士の結びつきの重要性の認識と構築

4.品質を売るのではなく価値の販売を:本質的な必要、欲しいものを売る

5.OR設計の徹底を:特定の部材だけでなく、代品を意識する

6.コスト評価の徹底を:品質や良品率の向上を考える際にはコスト評価をしっかり行う

7.結果ではなく、手法と結果幅の合意:交渉に臨む際にあらかじめ合意幅を決めておく

8.リスクをとった行動を:権限と責任をセットにし、リスクをとることを可能にする

9.横並びを脱する企業戦略:優先順位、利益、収益の高い事業へのリソースの振り分け

10.自己を否定し、新たなビジネスモデルを

11.人材の流動化と賃挙げを:優秀な人材が有望な産業に流れる仕組みづくり

12.外国人材にも学びの場を:技能実習生の課題を解決し、外国との懸け橋を造る

 買い負けは、日本の経済の没落、物価と賃金の停滞が表出した1つの事象です。日本企業は過去の成功体験から脱却することができていないことが経済の没落の大きな原因です。

 日本企業の停滞の理由を見出し、成長につなげていけば過去30年の停滞も意味を持ち、失敗が報われるかもしれません。

日本企業の没落をもたらした多層構造、品質追求、全員参加主義、全員納得主義の払拭は特定の施策だけでできるものではありません。

買い負けは、日本の経済の没落、物価と賃金の停滞が表出した1つの事象です。

日本企業の停滞の理由を見出し、成長につなげていけば過去30年の停滞も意味を持ち、失敗が報われるかもしれません。

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