科学技術の軍事利用 橳島次郎 要約

本の概要

戦争は人間の本質に根差す行為であり、古来から科学技術と戦争は密接にかかわってきました。

科学、技術の成果が戦争の結果に直結するようになると、軍事機関が民間へ助成を行い、軍事的に利用可能な技術の発見に努めるようになっています。

軍事技術と民生分野で両方利用される技術であるデュアルユースも増加しており、科学技術の軍事利用と民生分野での技術開発の境界はあいまいになりつつあります。

技術開発の軍事利用と聞くと、目をそむけたり、軍事機関からの助成は受けるべきでないという意見も見られます。

しかし、民間の研究者が国防関連機関と一切手を切ってしまえば、軍事研究がすべて内部で行われ、社会の目が届かなくなり、政府と国防機関に忠実に従うだけの科学者集団ができてしまいます。

健全な民主社会の存続のために一般市民が身に着けるべき知識を知り、どのように監視、意見をしていくべきかを知ることができる本になっています。

この本や記事で分かること

・戦争と科学技術の関係

・デュアルユースとは何か、軍事機関から民間への助成で注意すべきこと

・一般の人が知識を付けることの重要性

AIとゲノムテクノロジーの脅威について書かれた「人類滅亡2つのシナリオ」の要約はこちら

本の要約

要約1

人間の歴史は絶え間ない戦争の歴史でもあり、残念ながら戦争は人間の本質に深く根差す行為と言わざるを得ません。

人間の本質に根差すもうひとつの行為として自然を理解しようとする営みがあり、この行為は科学研究のもとになってなり、科学技術へとつながっています。

戦争と科学、技術はどちらも人間独自の営みであり、古代から密接に結びついてきました。

近代になると、その関係性はさらに強くなり、科学技術が国力に直結するようになり、国家による科学の管理と振興が行われるようになっています。

要約2

科学、技術の成果が戦争の結果に直結するようになると、軍事機関が民間へ助成を行い、軍事的に利用可能な技術の発見に努めるようになっています。

研究者は、DARPAから助成金を受け取っても、戦争行為に加担しているとは考えないのが普通ですが、このような状況では、自身の研究が軍事的にどんな意味を持っているのか理解しておくことが重要です。

また、軍事機関からの補助金を受け取るべきではないという考え方もありますが、民間の研究者が国防関連機関と一切手を切ってしまえば、軍事研究がすべて内部で行われ、社会の目が届かなくなり、政府と国防機関に忠実に従うだけの科学者集団ができてしまいます。

そのため、助成金を受け取ることで、国防関連機関をアカデミックな研究の場に結びつけ、開かれた社会にとどめておくことも必要です。

科学、技術の軍事利用は目をそむけたくなるものですが、一般市民が知識を身に着け、監視、意見をすることが、健全な民主社会の存続のために必要です。

要約3

近年特に、科学、技術から軍事利用が進んでいる分野に自立兵器と兵士や軍人の人体の機能を強化するエンハンスメントが挙げられます。

人工知能の発展によって兵器のシステムは自動化から、自律化へと進み、人間の指令や関与なしに敵を識別し、殺傷を伴う攻撃を持つ兵器の開発も進んでいます。

また、薬物の投与や外科手術、各種装置の埋め込みにより身体的、心理的、認知能力を強化する処置を人体に施すような強化改造技術、エンハンスメントも多くの場面で検討されています。

規制が必要視されていますが、軍事にかかわる議論は行き詰りやすく、議論は難航しています。

人間の生殺与奪の権を機械にゆだねることを避け、副作用や身体機能への悪影響、依存症リスクなどを考慮し、兵士で亡くなった後に社会生活への復帰が困難なエンハンスメントも避けるべきです。

また、軍人や兵士は服従義務があり、個人の自由が制限されることが前提になっていることや民間以上に強化への同調圧力が強くなる可能性があることを考慮に入れる必要もあります。

要約4

先端技術が利用される軍事目的での科学技術を考えることは、人間の機械化と機械の人間化がもたらす問題を考えることにもつながります。

自律兵器が進歩すれば、人間に機械化と機械の人間化が進み、人間をアルゴリズムに従うだけの存在へと変化させ、人間の尊厳を損なってしまう可能性があります。

科学、技術の進展の中で人間の占める位置、人間の在り方が変容させられていく文明的な問題を考えるためにも、軍事目的での科学技術を考えることが必要になっています。

国と国防機関が行うことに対し、背を向け、タブー視するべきではありません。平時から軍のやっていることを偏りのない観点からとらえ、評価することは軍事への技術の利用の問題を防ぐためにも、科学、技術の進展の中で人間の占める位置を考える上でも欠かすことができません。

一般市民が知識を身に着け、監視、意見をすることが、健全な民主社会の存続のために必要です。

科学技術と戦争はどうかかわってきたのか

 人間の歴史は絶え間ない戦争の歴史でもあり、残念ながら戦争は人間の本質に深く根差す行為と言わざるを得ません。

 人間の本質に根差すもうひとつの行為として自然を理解しようとする営みがあり、この行為は科学研究のもとになっています。

 科学研究から得られた知識をもとに、自然にあるものを手に加え、自分たちの生活に役立つものを創り出すことが技術開発です。

 人間独自の営みである戦争と科学、技術は古代から密接に結びついてきました。

 幾何学や天文学による航海術は物流商業だけでなく、軍事上も有用な技術であり、数学と力学の知識は投石器の設計に応用されてきたように、古代から科学、技術は戦争と密接に結びついてきています。

戦争も科学技術も人間の本質に深く根差す行為であり、人間独自の営みでもあります。

古代から科学、技術は戦争と密接に結びついてきました。

近代になって、科学技術と戦争の関係はどのようなものになったのか

 近代になっても科学、技術と戦争の結びつきは強く、国家による科学の管理と国益のための科学の振興は続きました。

 第一次世界大戦では航空機、潜水艦、毒ガスのような化学兵器が第二次世界大戦では弾道計算や暗号解読のための電子計算機、ミサイル技術とそれに対抗するレーダーや妨害電波、原子爆弾などが投入されています。

 冷戦期では宇宙開発を通じた核弾道ミサイルとその迎撃技術などのものだけでなく、心理学の利用など人間に関するものに広がっています。

 軍事技術が民間で応用されることで、社会が発展した部分も大きく、科学、技術の振興と利用が軍事的優位を保っていることも事実です。

 現在では、軍事部門から直接軍事目的でない科学研究に助成が行われる場合もあり、科学研究と技術開発の戦争、軍事との関りを戦争だけでなく、平時の問題として捉える必要が出てきています。

近代になっても、科学、技術と戦争の結びつきは強く、国家の権力のために、科学の管理と国益のための科学の振興が続きました。

化学兵器や電子計算機、原子爆弾など物体の適用範囲が広がっただけでなく、心理学どの技術も戦争へ利用されるようになっています。

デュアルユースとは何か

 科学研究と技術開発の成果が民生目的と軍事目的の両方に使われることを軍民両用、デュアルユースと呼びます。

 大量破壊兵器のも発電にも使われる原子力などはデュアルユースの最も深刻な例といえます。

 インターネットのように軍事研究の結果が民生に転用されることは大きな問題にはなりませんが、民生目的の技術が軍事的な目的に利用される際には大きな問題になることもあります。

 ゲノム編集、人工知能、IoTなども民生目的の研究開発ですが、もし軍事に転用されれば、破壊的になり、安全保障上の脅威となるものと認識されています。

科学研究と技術開発の成果が民生目的と軍事目的の両方に使われることを軍民両用、デュアルユースと呼びます。

軍事研究の結果が民生に転用されることは大きな問題にはなりませんが、ゲノム編集、人工知能、IoTなど民生目的の技術が軍事的な目的に利用される際には大きな問題になる可能性を秘めています。

軍事機関から民間への補助をどのようにとらえるべきか

 アメリカの国防高等研究計画局(DAPRA)などは民生での研究を助成し、軍事的に利用可能な技術の発見に努めています。

 研究者は、DARPAから助成金を受け取っても、戦争行為に加担しているとは考えないのが普通ですが自身の研究が軍事的にどんな意味を持っているのか理解しておくことが重要です。

 一方で、DARPAからの助成金をうけとるべきではないという意見もあります。しかし、民間の研究者が国防関連機関と一切手を切ってしまえば、軍事研究はすべて軍の内部で行われ、社会の目が届かなくなり、政府と国防機関に忠実に従うだけの科学者集団ができてしまいます。

 助成金を受け取ることで、国防関連機関をアカデミックな研究の場に結びつけ、開かれた社会にとどめておくことも必要です。

 助成金の出どころだけでなく、その成果がどのように利用されているかを監視する仕組みが必要になっており、監視は研究者と学術研究機関が主体となって行うべきです。

 また、研究に関わらない一般市民も研究を支える資金には税金も使われているため、研究の結果と使われ方を監視し、意見を言う権利があります。

 科学、技術の軍事利用は目をそむけたくなるものですが、市民が軍事と科学の問題を教養の一環として身に着けることは、健全な民主社会の存続のために必要なことです。

アメリカの国防高等研究計画局(DAPRA)などは民生での研究を助成し、軍事的に利用可能な技術をの発見に努めています。

そのため、自身の研究が軍事的にどんな意味を持っているのか理解しておくことが重要です。

また、民間組織は軍事機関から助成金をうけとるべきではないという意見もあります。しかし、民間の研究者が国防関連機関と一切手を切ってしまえば、軍事研究はすべて軍の内部で行われ、社会の目が届かなくなり、政府と国防機関に忠実に従うだけの科学者集団ができてしまいます。

科学、技術の軍事利用は目をそむけたくなるものですが、一般市民が知識を身に着け、監視、意見をすることが、健全な民主社会の存続のために必要です。

自律兵器についてどのように考えるべきか

 人工知能の発展によって兵器のシステムは自動化から、自律化へと進み、人間の指令や関与なしに敵を識別し、殺傷を伴う攻撃を持つ兵器の開発も進んでいます。

 完全な致死性自律兵器は完成していませんが、研究は進んでいます。しかし、人間の生殺与奪の権を機械にゆだねることへの問題や誤認による非戦闘員の殺傷起こる可能性が懸念されています。

 国連でも規制すべきか検討し、2019年に指針原則が採択されています。しかし、具体的にどのような規制を設けるべきかは議論が難航しています。

 軍事にかかわる議論は行き詰まりやすいものですが、人間の尊厳と機械のバランスをどうとっていくのかという視点からも議論をしていく必要があります。

 民生分野の人工知能の開発研究が活用される分野でもあり、デュアルユースの観点からも問題を考える必要があります。

人工知能の発展によって兵器のシステムは自動化から、自律化へと進み、人間の指令や関与なしに敵を識別し、殺傷を伴う攻撃を持つ兵器の開発も進んでいます。

規制を行うべきと考えられますが、軍事にかかわる議論は行き詰りやすいものであり、議論は難航しています。

人間の強化、エンハンスメントにはどのような懸念があるのか

 薬物の投与や外科手術、各種装置の埋め込みにより身体的、心理的、認知能力を強化する処置を人体に施すような強化改造技術、エンハンスメントも検討されています。

 脳科学、バイオ技術、ナノ技術、ロボット工学などを利用し、長時間睡眠を不要にする薬物や頭部磁気刺激の開発、体内代謝を制御し食事をとらずに活動可能にする、脳内物質の投与での学習能力の向上などが挙げられています。

 医療生命工学技術を人間の能力を向上させる目的で使うべきかという問題は長年、生命倫理の議論の的になっており、治療には利用すべきだが、エンハンスメントには利用すべきではないという線引きがされてきました。

 エンハンスメントを避けるべきとしているのは、エンハンスメントを利用できる人とできない人の差が大きくなり、社会の分断や差別を招くこと、社会全体で強化処置を受けるべきという同調圧力による自由意思を脅かす可能性があることなどが理由です。

 一方で、視力を高める手術や磁器発生装置で記憶力を高めるなどの処置が一般的になり、エンハンスメントの禁止という倫理が揺らいでおり、エンハンスメントによって今ある不平等を解消、緩和するために容認すべきという主張も出ています。

医療生命工学技術は治療にみに利用し、人間の能力を向上させる目的で使うエンハンスメントは、社会の分断や差別を招くこと、強化処置を受けるべきという同調圧力による自由意思を脅かすなどの理由から避けるべきと考えられてきました。

しかし、強化と治療の境界があいまいになっており、今ある不平等を解消、緩和するために容認すべきという主張も出ています。

エンハンスメントの軍事目的での懸念は何か

 エンハンスメントの軍事目的領域での議論はあまりなされてきませんでした。

 個人の場合には自由意思でエンハンスメントを行うかどうか選択できますが、軍人や兵士には犠牲の精神と命令への服従義務があるため、個人の自由と権利が制限されることが前提となっている点を考慮する必要があります。

 そのため、副作用や身体機能への悪影響、依存症リスクなどを考慮していくことが重要です。

 軍では民間以上に同調圧力が働きやすい側面や強化を受けたものと受けないものの間に差別をもたらす可能性もあります。

 また、兵士も一生兵士なわけではなく、市民に戻る日も来ます。社会生活への復帰が困難なエンハンスメントも同じように避けるべきです。

軍人や兵士は服従義務があり、個人の自由が制限されることが前提になっていることや民間以上に強化への同調圧力が強くなる可能性があります。

副作用や身体機能への悪影響、依存症リスクなどを考慮し、兵士で亡くなった後に社会生活への復帰が困難なエンハンスメントも同じように避けるべきです。

軍事技術の動向とどうかかわるべきなのか

 人間の機械化と機械の人間化の同時進行は軍民ともに進む可能性があります。

 エンハンスメントがどこまで許されるのか、自律機械は人間をアルゴリズムに従うだけの存在へと変化させ人間の尊厳を損なってしまう可能性があることも問題になってきます。

 先端技術が利用される軍事目的での科学技術を考えることは、科学、技術の進展の中で人間の占める位置、人間の在り方が変容させられていく文明的な問題とみることができます。

 兵士のエンハンスメントと自立兵器システムの問題は科学技術文明を生活の基盤とする将来にかかわる問題の一環であるため、一般の人が広く議論に加わる事には大きな意義があります。

先端技術が利用される軍事目的での科学技術を考えることは、人間の機械化と機械の人間化がもたらす問題を考えることにもつながります。

科学、技術の進展の中で人間の占める位置、人間の在り方が変容させられていく文明的な問題を考える上でも、軍事目的での科学技術を考えることは必要です。

科学技術文明を生活の基盤とする将来にかかわる問題の一環であるため、一般の人が広く議論に加わる事には大きな意義があります。

人体実験にはどのような規制が必要か

 科学、技術開発を進めるには人体を対象とした人体実験が必要になることがあります。

 生命医学研究が軍民両用の技術開発の最先端になっているため、軍事目的での人体実験が行われる機会も増えるものと思われます。

 人間を対象とした実験は被験者の生命、健康、人権、尊厳を損なわないように適正に行わらなければなりません。

 リスクを評価し、監視する外部機関を設置することは民間同様に有効です。また軍は民間以上に同調圧力が働きやすいため、実験に協力するかを自由意思で決めることができる仕組みも重要になってきます。

人間を対象とした人体実験は被験者の生命、健康、人権、尊厳を損なわないように適正に行わらなければなりません。

リスクを評価し、監視する外部機関を設置することや実験に協力するかを自由意思で決めることができる仕組みが重要になってきます。

軍事技術とどう向き合うべきなのか

 日本は名目上軍隊を持っていないため、軍に関するものは市民社会と相いれないものとして、頭から否定しがちです。

 しかし、国と国防機関が行うことに対し、背を向け、タブー視するべきではありません。平時から軍のやっていることを偏りのない観点からとらえ、評価すべきです。

 軍事大国の覇権争いが激しくなる中では、軍人、兵士であれど同じ市民社会の一員として捉え、国防上の要請と基本的人権の保護をどう両立できるかという観点から、どのような配慮と処置が必要か考える姿勢がもとめられています。

国と国防機関が行うことに対し、背を向け、タブー視するべきではありません。平時から軍のやっていることを偏りのない観点からとらえ、評価すべきです。

国防上の要請と基本的人権の保護をどう両立できるかの観点から、どのような配慮と処置が必要か考える姿勢がもとめられています。

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