世界インフレの謎 渡辺努 要約

本の概要

徐々にコロナの影響は落ち着いてきましたが、世界では今物価上昇、インフレが問題になっています。

今回のインフレはコロナによる行動変容が起こした供給不足によるものと考えられます。

これまでのインフレは主に需要の増加に起因していたため、各国の中央銀行は金利を上げることで需要を下げ、インフレを抑えてきましたが、中央銀行は供給不足を解決するすべをもっていないため、多くの国が高いインフレに手を焼いている状況です。

日本でも一部の商品ではインフレがみられていますが、世界とは状況が違い、慢性デフレを脱却できているわけではありません。

日本は賃金と物価が30年間均衡してきましたが、この均衡が安い日本の原因となっています。

世界的なインフレで人々がインフレを当たり前のものとして受け入れ、賃金と部物価の均衡が崩れれば慢性デフレを脱却できる可能性もあります。

コロナによる行動変容は人々が考え選んだものです。行動変容を否定せず、変革の原動力とする姿勢が重要となります。

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この本がおすすめの人

・なぜ、世界でインフレが起きているか知りたい人

・日本と世界の違いを知りたい人

・日本が程よいインフレを達成するために必要なことを知りたい人

本の要約

いま世界ではなぜ、インフレが話題になっているのか

 現在、世界的に物価が上がり経済や生活にダメージを与えるインフレに見舞われています。

 リーマンショック以降世界は低インフレで推移してきていましたが、大きくな変化が見らています。低インフレ解消のために各国の中央銀行は様々な金融政策を行ってきましたが、先進国のインフレが充分な水準に上がることはありませんでした。

 近年、低インフレ状態が長かったことと、急激なインフレが進んだ際にも金利引き締めなどの対策があったためインフレに対しては充分に対応できると思われていました。

 しかし、いま世界中でインフレが大きな問題になっています。

リーマンショック後、世界は低インフレに悩まされてきましたが、コロナ後に激しいインフレがみられています。また激しいインフレに対応する対策の効果が薄いこともあり話題になっています。

インフレの要因はロシアによる戦争なのか

 インフレの原因はロシアによるウクライナ侵攻とみられがちですが、実際には戦争が始まる前から欧米のインフレがはすでに始まっていました。

 戦争によるインフレだけでは説明できないようなインフレ要因があることが分かっています。

戦争もインフレに影響していますが、それだけでは説明できません。

コロナは経済にどのような影響を与えのか

 コロナによるパンデミックによる経済停滞も、多くの専門家はパンデミックによる被害はそれほど大きいものではなくすぐに元に戻ると考えていました。

 しかし、ある程度パンデミックが終息しても予想に反して生産が追い付かない状況が続き、需要が供給を上回ることでインフレが生じています。

 今回のパンデミックでは資本、労働、技術の基盤は失われていないにも関わらず、生産はなかなか復活していません。

コロナがある程度終息して、生産設備が失われていないにも関わらず、生産がなかなか復活していません。

コロナは我々の行動をどう変えたか

 コロナによるパンデミックはリモートワークやソーシャルディスタンスなど新しい行動を我々に植え付けています。

 これらの行動変容はすぐに元にもどるといわれていますが、現状なかなか元に戻っていません。

 

コロナはリモートワークやソーシャルディスタンスなど新しい行動をもたらしました。このような行動変容はすぐに戻るとも言われていますが、なかなか元に戻っていません。

なぜ今回のインフレは特別なのか

 多くの中央銀行は、金利の引き上げなどでインフレの対応を行っていますが、多くの中央銀行にとって今回のインフレは予想外で、自信をもって対策を行っている国は多くありません。

 これまで中央銀行はフィリップス曲線をもとにインフレ対策をおこなってきました。

 フィリップス曲線は失業率とインフレ率の関係を示したもので、失業率が高いとインフレは低く、失業率が低いとインフレ率が高くなるという傾向が示しています。

 しかし、2021年以降に起こったインフレではフィリップス曲線を大きく外れたものでした。従来よりも失業率が改善した時のインフレ度合いがとても大きいものとなってしました。

 今回のインフレは供給が少ないため起きていることを示唆されていますが、中央銀行の金融政策で需要を抑えることはできますが、供給をあげることはできません。

 金利を上げることで需要を抑えれば少ない供給に需要を合わせることはできますが、縮小均衡に向かうことであり、望ましいことではありません。

これまでのインフレに対し中央銀行は金利の変更で需要をコントロールしてきました。

今回のインフレは供給減少による可能性があり、中央銀行は需要を減らすことはできても、供給を上げることはできないため今回のインフレは特別といえます。

コロナによる経済への影響はほかに事例があるのか

 パンデミックによる経済的な影響を予測する際にリーマンショックとの比較がおこなれました。

 しかし、リーマンショックは需要を大きく抑えましたが、パンデミックは供給を抑えるという違いがありました。

 また、震災などとの比較も行われましたが、地震ではモノやサービスを生み出す機械や設備の破壊によって経済にダメージを与えますが、パンデミックは設備ではなく、労働力に大きな影響を与えるため、災害ともまた異なるものとなります。 

 また災害はごく一部の地域の出来事ですが、コロナによる経済被害は世界中の国で同じようにみられているという違いもありました。

 過去のパンデミックとの比較では、死者の数が少ないため比較は難しい結果となっています。またコロナによる被害の大きい国=経済被害というわけでもないため病気が直接、経済被害を招いたとも言えない状況です。

リーマンショック、震災、過去のパンデミックとも異なる影響を及ぼしています。

病気が直接、経済被害を招いたわけでない傾向もみられています。

コロナと過去のパンデミックの違いは何か

 コロナ渦で人々は世界中の健康被害の情報を得ることで自分の行動を変えます。

 この行動変容が大きな経済被害をもたらすことが分かっています。ロックダウンを行う国から日本のように自粛まで各国の政府の対応は異なりますが、多くの国で人々は自ら入手した情報をもとに、外出自粛を行っていることが明らかになっています。

 コロナによる死亡者や重症者の数は国によって異なり政府の対応も異なりますが、どの国でも同じような影響を受けています。

 多くの人の行動を変えたのは恐怖心の伝播によるものと考えられます。

コロナによる被害や政府の対策は国によって異なるものの、多くの国で同じような影響をうけています。

世界中の情報を入手できるようになったことで恐怖心が伝播し、行動を変えたとみられています。

コロナはどのように経済に影響を与えてきたか

 パンデミックによる恐怖心はまず、外出や外食を控えるなど消費者の行動を変えました。これらは需要を低下させ、デフレへとつながる動きとなります。

 一方で人々は労働者としての一面も持っており、職場への復帰を拒んだりするなど生産能力を低下させ、物価上昇を招くと考えられます。

 パンデミック初期にデフレが起き、2年目以降はインフレが起きているのは消費者と労働者という2つの顔が別の反応を示したためと考えられます。

コロナ初期では自粛による大幅な需要減でデフレの動きが起きました。その後、労働者が職場に戻らないなど生産能力が低下し、インフレが発生しました。

なぜ、インフレは進行してしまったのか

 パンデミックによる影響はすぐになくなると予測されることも多かったのですが、いまだにその影響はなくなっていません。

 物価が上がるか下がるかは人々のインフレ予想、失業率、供給要因などで決まってきます。人々のインフレ予想や失業率の変化からはインフレが進行しないはずですが、実際にはインフレが起きています。

 現在のインフレは供給要因でおきていると考えられます。

 各国の中央銀行は需要が高まったのインフレに対抗する手段を持っていますが、供給が下がって起きるインフレに対抗する手段を持っていないため、各国でインフレが進行していると考えられます。

今回のインフレは中央銀行の対応できない供給要因で起きているため対抗できず、進行していると考えられます。

人々の行動変容は経済にどのような影響を与えたのか

 人々の行動変容は特にサービス消費からモノ消費へとシフトさせています。

 パンデミックによる行動変容は一部の地域ではなく、世界的にモノ消費への突然シフトを起こしています。

 世界中で「同期」が起きたことがパンデミックによる行動変容の特徴。平時でこれほどの同期が、同時に突然起こることはありませんでした。 

 モノ消費が増え、サービス消費が減っても急にモノを作る設備を増やせるわけではありません。またモノ消費はサービス消費に比べ、人経費の割合が低く、価格柔軟性が高いためモノの価格はすぐに上がっていきます。

 労働者もコロナ前に完全に戻るつもりはなく職場に戻らない、密な仕事は避けるなどの変化はある程度残ると考えられます。

行動変容はコト消費→モノ消費へのシフトを起こしました。モノは急激に生産設備を増やせるわけでもなく、価格柔軟性が高いため価格の上昇がすぐにみられました。

パンデミックはグローバル化にどのような影響を与えたのか

 パンデミックはグローバルに広がった供給網をずたずたにしてしまいました。これらの影響は2023年に解消するといわれています。

 しかし、供給網の機能不全を経験した企業はグローバルな供給網を見直し、生産拠点の自国への回帰や近隣国への移転などを進めており、その動きが広がれば脱グローバル化へ向かう可能性もあります。

 人件費の安い国に製造拠点を作ることで徹底的なコストパフォーマンスの追求というグローバル化から、供給網の安定と安全性を重視する流れになりつつあります。

パンデミックは世界中の供給網に大きな影響を与えました。その影響は解消しますが、グローバルな供給網を見直し、自国への生産拠点の回帰などコストパフォーマンス重視から安定を求める動きもみられています。

パンデミックがなぜインフレにつながったのか

 パンデミックによって

・消費者の行動変容(コト消費→モノ消費へのシフト)によるモノ価格の上昇

・労働者の行動変容

・グローバル供給網の機能不全

 が起き、インフレが原因となり、起きています。特に供給網の安定化によるコストアップが続く場合、インフレはさらに続くと考えられます。

 新たな価格体系への移行はいつか終了するため、インフレは一過性のものですが、その期間はまだわかりません。

パンデミックが

・モノ消費の需要増

・労働者の行動変容

・グローバル供給網の機能不全

をもたらし、モノの需要増と供給減によってインフレが発生しています。

日本状況は世界とどう違うのか

 日本で物価高は進んでいますが、他国と比べて圧倒的に低いインフレ率になっています。

 現在、高すぎるインフレが問題になっていますが、低すぎるインフレ率にも多くの問題があります。

 日本でもガソリンなど一部の商品では急性インフレが進んでいますが、今でも多くの商品は前年比で価格が変わっていません。 

 欧米は急性インフレに対応する必要がありますが、日本は一部の急性インフレとともに慢性的なデフレにも対応する必要があります。

 日本のデフレは1990年代後半以降続いていますが、それ以前は正常なインフレ状態を維持してました。

日本でも物価高は進んでいますが、いまだに多くの商品で価格の上昇は見られていません。

いまだに1990年代後半からのデフレを脱却できていません。

なぜ、日本のインフレ率は極端に低いのか

 日本は1990年代後半に起きた金融機関の破綻による金融危機によってデフレ状態となります。2000年代には金融機関の経営も安定し、景気も持ち直したのですが価格、賃金ともに膠着したままになっています。

 インフレが起こらない理由は人々のインフレ予想が低すぎることにあります。

 価格の上昇が起こらない日本では、いつもよりも価格が高いと安い他の物やほかの店で購入するようになりますが、インフレ予想の高い国は値上げそのものを当たり前のことととらえているため、多少値上げしてもまた同じ店で購入します。

 長期間にわたるデフレでモノの価格が固定されることに慣れてしまうと企業は値上げができなくなります。その結果賃金も上がらずに固定されていきます。

長い期間、モノの価格が固定化されると、値上げができなくなり、賃金も固定化されてしまい長期のデフレが続いています。

大きな要因は人々のインフレ予想が低いことに起因します。

日本の慢性デフレは克服できるのか

 最近は米欧でのインフレの報道やガソリンの値上げによって日本人のインフレ予想が高まりはじめ、高くても同じものを同じ店で買う消費者も増えています。

 インフレ予想の高まりは長年のデフレを克服できる可能性を秘めていますが、その一方で、賃金が上がる見込みについてはいまだにみられません。

 物価が上がり、賃金は上がらないスタグフレーションとなってしまう可能性もありますが、一部の商品の急性インフレで日本人のインフレ予想が高まり企業が値上げをすることができるようになり、賃金も上昇していけば、慢性デフレを克服できる可能性もあります。

賃金が上がる見込みはまだありませんが、消費者のインフレ予想はたかまっており、賃金上昇につながれば克服できる可能性があります。

日本が2%のインフレを実現するためには何が必要か

 人々のインフレ予想は2%程度で安定させることで、物価と賃金が程よく上昇していくこととなりますが、労働者と経営者に整合的な行動をとらせることは難しいことです。

 日本で2%のインフレを実現するためには以下の3つが必要となります。

1.物価が上がるという予想が共有され、賃上げ要請が正当であるという理解が社会に広まる

2.多くの企業が人件費の増加を価格に転嫁できると考えること

3.人手不足など労働需給の圧迫が起こること

 賃金が固まった状態が解消されるかは、まだわからないものの、今後の分かれ道になっているのはまちがいありません。

 パンデミックによる行動変容は経済にマイナスとなる面もあるが、私たち一人ひとりがこれまでの働き方でよかったのか、もっと自分に合った働き方があるのではなどを自らに問い、選択したもの。 

 行動変容を否定したり、止めるのではなく、行動変容を手掛かりに社会と経済をよりよく変えていく変革の原動力として活用すべきです。

1.物価が上がるという予想が共有され、賃上げ要請が正当であるという理解が社会に広まる

2.多くの企業が人件費の増加を価格に転嫁できると考えること

3.人手不足など労働需給の圧迫が起こること

の3つが必要となります。

パンデミックによる行動変容を否定するのではなく、変革の原動力としていくべきです。

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