ナショナリズムと政治意識 中井諒 要約

本の要点、概要

 政治的な姿勢を右派、左派と表現することは知っていても、実態とどうにも合わないと感じている人も多いと思います。

 また、ナショナリズムを利用した、自国ファーストや反グローバルリズムの台頭なども話題になっています。

 これらの現象からナショナリズム=右派という漠然としたイメージを持ってしまいがちですが、このようなイメージだけでは、国際社会で起きていることを正しく理解することはできなくなっています。

 そもそも、右派や左派、ナショナリズムとは何なのかを理解できている人は少ないと思いますし、ナショナリズムはきれいに分類できるものではなく、多様性があり、政治的な姿勢との結びつきかたも複雑なものです。

 様々な国のデータをもとに、ナショナリズムと政治意識の結びつき方の多様性や右派、左派などの政治的な姿勢、ナショナリズムとは何かなどを知ることができます。

この本や記事で分かること

・ナショナリズムとは何なのか

・政治的な姿勢の左右だけで説明できない現象はどう説明されるのか

・ナショナリズムをどう捉えるべきなのか

政治の世界で今、何が起きているのか

 現在、世界中の政治で外国人排斥や反グローバルリズムの台頭が起きています。 

 この動きはナショナリズムと結ぶ付けて考えられることが多く、保守化、右傾化、権威主義化と表現されることもありますが、正しい表現といえない場合があります。

外国人排斥や反グローバルリズムの台頭をナショナリズムと結びつきがちですが、必ずしもナショナリズムが要因とは限りません。

ナショナリズムとは何か

 ナショナリズムとは同じ文化を共有する人々がいるという信念のもと、同じ文化の人々で公的な営みを進めていきたいという意識や運動のことです。

 共有される文化が様々である以上のナショナリズムに関わる主張にも多様性があります。

 そのため、右翼≒ナショナリズム≒反リベラル≒権威主義」という連想だけでは説明できない現象も多くあります。

ナショナリズムとは同じ文化を共有する人々がいるという信念のもと、同じ文化の人々で公的な営みを進めていきたいという意識や運動のことです。

文化に多様性がある以上、ナショナリズムにかかわる主張にも多様性があります。

政治の右左にはどんな意味があるのか

 政治的な右と左の違いは、フランス革命の際に生まれたものです。

 議長から見て右側に王政の維持や復権を目指す勢力が座っていたため、右は現状維持、保守、秩序、などと結びつけられました。

 議長から見て左側には、革命を推し進め王政廃止や平等を目指す権力が座っていたため、左は進歩、変化、革新、平等、抵抗、共産主義などの諸概念と結び付けられてきました。

右は現状維持、保守、秩序、などと

左は進歩、変化、革新、平等、抵抗、共産主義などの

諸概念と結びつけられました。

政治的な左右を考えるときに重要なことは何か

 政治的な左右とどんな概念とが結びつくかの構造は普遍的なものではありません。

 共産主義を経て自由化した国では、平等の概念が、かつての体制への憧憬となるため、平等=左となたないこともあります。

 日本でも若い世代では、憲法改正に反対する共産党=保守と捉えたり、維新の会を現状の政治システムの改革を訴えていることから革新ととられる動きもあります。 

 現状を正しく判断するには、経済的な争点と社会文化を巡る争点を切り分けることが重要です。

 社会文化の変化に関しては保守的だが、経済的には平等を志向するような政党も多くみられるため、経済的な平等に対する態度と社会変化に対する保守・革新の態度の2軸から考えることが必要です。

経済的な争点と社会文化を巡る争点を切り分け、経済的な平等に対する態度と社会変化に対する保守・革新の態度の2軸から考えることが必要です。

ナショナリズムはどのようにとらえるべきなのか

 ナショナリズムは主に

・帰属意識

・ナショナルプライド/愛国心

・排外主義

 から構成されています。ただし、ナショナリズムははっきりと分類できるものではなく、3つの要素がグラデーション状に位置し、多様性があるものです。 

 ナショナリズムの結びつきは複雑であるため、「すべてのナショナリズムが排外性を帯びる」とも言えませんし、「自国を愛することと排外的になることは違う」とも言い切れません。

 また、ナショナリズムは伝統と平等の双方を大切にする理念であるため、単純にナショナリズム≒右傾化と捉えることはできません。

 ナショナリズムの強さと政治的な姿勢には、大まかな傾向があるものもありますが、国による違いも多き、普遍的なモノではありません。

 右派vs左派、保守vsリベラルという特定のパターンがあると理解しているとうまく捉えることのできない現象も多くなっています。

ナショナリズムははっきりと分類できるものではなく、3つの要素がグラデーション状に位置し、多様性があるため、ナショナリズムに関する主張にも多様性があり、単純に言い切ることはできません。

民主主義の後退と権威主義化はナショナリズムによるものなのか

 近年、民主主義の後退と権威主義化の要因をナショナリズムとする動きもあります。

 政府が自分たちに都合の悪い意見や放送を押さえつけ、政敵や異論を国民の敵とラベリングし、ナショナリズムを刺激することで、自分たちの行動を正当化させる動きは定番でもあります。

 このような場合には、ナショナリズムが民主主義を破壊するために利用されています。

 しかし、一方で、民主主義を自分たちのことを自分たちで決めるものと理解するなど、自分たちの境界を定め、一体性をもたらすものもナショナリズムです。

 民主主義か権威主義化とナショナリズムを抱くかは別の問題といえます。

民主主義か権威主義化とナショナリズムを抱くかは別の問題です。

今後、ナショナリズムはどう変化していくのか

 国際化が進む中で、ナショナリズムを巡る問題は、政治のおいて重要な争点になっています。しかし、ナショナリズムそのものもグラデーションで多様性のあるもので、左右の政治意識との関連も単純なものではありません。

 また、政治意識の結び付き自体も多様で可変性を持っているため、今の政治意識そのものが気に食わない場合は、変化させることができる可能性があるチャンスとも言えます。

政治意識の結び付き自体も多様で可変性を持っているため、変化させることができる可能性があるものです。

本の要約

要約1

世界中の政治で外国人排斥や反グローバリズムの台頭といったナショナリズムと結びつけられやすい現象が多くみられています。

このような政治の動きは保守化、右傾化、権威主義化と表現されていますが、正しい表現とは言えない場合もあります。

政治の対立や争点を単純な左右の評価軸だけで判断しようとしても、わからないことも多くあります。

そもそも、ナショナリズムとは同じ文化を共有する人々がいるという信念のもと、同じ文化の人々で公的な営みを進めていきたいという意識や運動のことです。

ナショナリズムに関わる主張には多様性があり、よくある「右翼≒ナショナリズム≒反リベラル≒権威主義」という連想だけでは説明できない現象も多くあります。

要約2

政治的な「右」と「左」という概念はフランス革命で議長から見て右側に王政の維持、復権を目指す勢力が、左側に革命を推し進め王政廃止や平等を目指す権力が座っていたことで始まりました。

その結果、右は現状維持、保守、秩序、資本主義、ファシズムなどと、左は進歩、変化、革新、平等、抵抗、共産主義などの諸概念と結ぶ付けられてきました。

しかし、これらの構造は不変なものでなく、変化していくものです。共産主義を経て自由化した国では平等をかつての体制への憧憬となるため、平等の概念=左といえない場合もあります。

日本でも、若い世代では憲法改正に反対する共産党を保守と捉え、維新の会などを現状の政治システムの改革を訴えていることから革新と捉える人も増えています。

経済的な争点だけでなく、社会文化を巡る争点も重要になっているため、現状を正しく判断するには、左右の判断を経済的な平等に対する態度と社会変化に対する保守・革新の態度の2軸から考えることが必要です。

社会文化の変化に関しては保守的だが、経済的には平等を志向するような政党が現れるなどこのような傾向は多くの場面で見られています。

要約3

ナショナリズムは主に「帰属意識」「ナショナルプライド/愛国心」「排外主義」から構成されています。

ナショナリズムはくっきりと分かれるものではなく、3つの要素がグラデーション上に位置し、多様性があるものです。

また、ナショナリズムの結びつきは複雑で、簡単に「すべてのナショナリズムが排外性を帯びる」とも言えませんし、「自国を愛することと排外的になることは違う」とも言い切れません。

ナショナリズムは伝統と平等の双方を大切にする理念であるため、単純にナショナリズム≒右傾化と捉えることはできません。

実際に、ナショナルな意識の強さと政治的な左右認識がつながっていない国もみられています。また、ナショナリズムの意識が強い人ほど同性愛に保守的な考えを持つという傾向は見られますが、国による違いも大きく、普遍的なものではありません。

環境保護にも左派よりで右派の行動であるナショナリズムと対立関係にあると考えがちですが、ナショナル・アイデンティティが強い人ほど環境保護思考も強かったり、関連のない国も多く見られます。

右派vs左派、保守vsリベラルという特定のパターンがあると理解しているとうまく捉えることのできない現象も多く存在しています。

要約4

近年、民主主義の後退と権威主義化が進んでおり、その要因をナショナリズムにみる動きもあります。

政府が自分たちに都合の悪い意見や放送を押さえつけ、政敵や異論を国民の敵とラベリングし、自分たちの行動を正当化させる動きは定番でもあります。この時ナショナリズムは民主主義を破壊するために利用されています。

一方で、民主主義を自分たちのことを自分たちで決めるものと理解するなど、自分たちの境界を定め、一体性をもたらすものもナショナリズムです。

民主主義か権威主義化とナショナリズムを抱くかは別の問題です。実際に排外主義が強いほど、民主主義志向が下がる傾向はありますが、帰属意識やナショナルプライドが強いほどと民主的規範も強くなる傾向も多くの国で確認されています。

また、選挙前に政治家がナショナルなアイデンティティを煽り、ナショナリズムを強めることがあり、民主主義とナショナリズムの関係性は一方向だけの物でもありません。

国際化が進む中で、ナショナリズムを巡る問題は、政治のおいて重要な争点になっています。しかし、ナショナリズムそのものもグラデーションで多様性のあるもので、左右の政治意識との関連も単純なものではありません。

政治意識の結びつき方は多様で可変なため、2~30年後に言葉の使われ方が変わる可能性もあります。つまり今の政治意識が気に入らないのであれば、変えるチャンスがあるともいえます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました