ネイチャー資本主義 夫馬賢治 要約

本の概要

 夏の気温上昇、ゲリラ豪雨、天候不順など異常気象の増加など環境問題は我々の生活に近い部分でも影響を感じるほど広がっています。

 環境問題の原因は利益重視の資本主義にあると考えがちですが、資本主義の世界でも経済発展と環境負荷低減の両立=デカップリングを求める動きが活発化しています。

 資本家、特に機関投資家は長期的にリターンを得ることを求められるため、出資する企業に対しても環境負荷を低減を要求し始めています。

 投資家がデカップリングを追求することで、その動きが企業に派生し、企業がイノベーションを起こすことでデカップリングを実現することができるようになっていきます。

 資本主義を否定したり、敵視することなく多くの人が現状を理解し、経済発展と環境負荷低減のデカップリングを目指すことで希望が見えてくることとなります。

この本がおすすめの人

・経済発展と環境負荷の低減の両立が可能か知りたい人

・環境負荷の原因が資本主義にあると思っている人

・社会全体で経済発展と環境負荷の低減の両立を目指すために必要なことを知りたい人

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本の要約

環境問題の解決には何が必要か

 環境に配慮するという言葉には人を惑わす力があります。

 善意による行動は大事ですが、現代の環境問題は少しの善意で解決できるレベルではなくなっています。

 環境問題ついて語られる際に資本主義批判されることも多いが、ESG投資などのように資本主義の中から環境問題解決の糸口がみられています。

 資本主義はものすごいスピードで変化しており、その変化を知らなければ環境問題を語ることはできなくなっています。

環境問題は環境に配慮する程度で解決できるものではありませんが、ESG投資など資本主義の中から解決の糸口が見つかっています。

環境問題の深刻さをどのようにうけとめるべきか

 資本主義は徒に利益を追い求め、不要なものを作るため環境破壊を引き起こすという批判は多いですが、環境破壊がどれくらい深刻なのかはいまいち理解できていません。

 そこで生み出されたのは環境問題を9つに分けどれくらいの危機なのかを地球が耐えられる限界を基準に可視化したプラネタリー・バウンダリーです。

 プラネタリー・バウンダリーで挙げられた9つの環境問題は企業経営や金融の世界での重要性が急速に高まっています。

1.気候変動

 温室効果ガスの増加によって異常気象、天候変化、海面上昇などをもたらす。

2.新規化学物質

 有害かつ長寿命の物質の排出で地球を汚染してしまう。

3.成層圏オゾンの破壊

 フロンなどでのオゾン層の破壊。オゾン層破壊物質は99%削減されており、イノベーションで環境破壊を阻止した一例。

4.大気エアロゾルの負荷

 PM2.5やNOxなど大気汚染物質の放出。

5.海洋酸性化

 二酸化炭素の排出による海洋が酸性化し、海洋生物への悪影響が起こる。

6.生物地球化学的循環

 炭素や水などの地球上での移動。農業のための窒素やリンの循環がうまくいかず、問題を引き起こしている。

7.淡水利用

 気候変動、ライフスタイルの変化によって水の希少性が高まっている。

8.土地利用変化

 森林、湿地、湿原などの減少。

9.生態系の一体性

 生物多様性の喪失、生物種の減少や生態系サービスが失われる。

 私たちの生活は地球環境に依存しており、地球の限界を超えたままでは飲む水の確保も健康な生活の維持もままならなくなってしまいます。

私たちの生活は地球環境に依存しています。地球が耐えられる基準を9つの環境問題で示したプラネタリー・バウンダリーが提唱されています。

資本主義は環境破壊の元凶なのか

 資本主義を否定する根拠として、産業革命と資本主義が環境破壊を引き起こすしたとする人は多くみられます。

 しかし、産業革命が直接環境破壊の原因となっているわけではなく、技術の進歩によって人口が増加したことで、必要な資源が増加したことに起因しています。

 大量生産、大量消費にも問題はありますが、私たちのライフスタイルが産業革命前に戻ったとしても、人口が6.7倍に増えており、必要な資源量も6.7倍に増えてしまっています。

 また、世界の人口は増えており、世界にはまだ満足な生活をできていない人も多いため、今後も必要な資源量は増えていくことが予想されています。

産業革命が直接環境破壊につながったわけではなく、技術の進歩で人口が増加し、必要な資源が増えたことが最大の原因になっています。

環境問題の解決に必要なものはなにか

 資源の消費を減らすには人口を減らすか、一人当たりの消費量を減らすしかありませんが、人口を減らすことはあまりにも非人道的です。

 一人当たりの消費量を減らすことの難易度も非常に高いことです。そのために必要なことはイノベーションになります。

 化石燃料を再生可能エネルギーに置き換えることで、温室効果ガスの排出は減少しています。またイノベーション=技術の発展と普及で必要なコストも徐々に下がっています。

 これらのイノベーションの実現は主にメーカーの技術開発によるもので、国家の関与も不可欠ですがメーカーの取り組みも欠かすことはできません。

人口を減らすことは非人道的であるため、一人当たりの消費量を減らすしかありません。

一人当たりの消費量を減らすにはイノベーションを起こす必要があります。

経済発展と環境負荷の低減は両立が可能なのか

 従来の考えでは、経済発展は必ず環境破壊を伴っていました。しかし、様々なイノベーションのよって経済発展しているにもかかわらず、環境負荷が上昇しないようなデータも出始めています。

 経済発展がおこっても環境負荷が上昇しない状況を切り離しを意味するデカップリングと呼び、大きな注目を集めています。

 特に経済が発展しても、環境負荷が限界位置を超えないような絶対的デカップリングの傾向がみられている部分もあります。

様々なイノベーションで経済発展と環境負荷の低減の両立=デカップリングが可能になっている。

経済発展と環境負荷が限界位置を超えないような絶対的デカップリングの傾向もみられる部分もあります。

グローバル企業は環境破壊を気にせず、経済発展を追い求めているのか

 資本主義を否定する人たちは資本主義の象徴とみなされるグローバル企業を悪者とみて、否定することが少なくありません。

 産業革命後のグローバル企業は環境破壊を気にせず利益を追求し、労働者からの搾取し資本家だけが利益を得ている部分がありましたが、現代はこのような資本家は減少しています。

 この変化をもたらしたのは機関投資家と呼ばれる存在が登場したためです。

過去には利益のみを追い求める投資家もいたが、機関投資家の出現で、このような投資家は減少している。

機関投資家とはなにか

 機関投資家は自己資産ではなく、年金や保険の掛け金や個人資産家から預かった資産で投資を行う会社の総称で、その運用資産の規模は個人資産家よるもの比べて桁違いに多くなっています。

 機関投資家は年金や保険料など一般市民のお金を預かり、運用していますので私たち一般の人が気づかないうちに投資家になっているといえます。

 多くの機関投資家は環境破壊を止めるために残された時間がわずかであることを認識しており、世界の主要国政府に対し、カーボンニュートラルを要求する姿勢をとっています。

 出資する企業にもカーボンニュートラルをはじめとした、環境対策を行うことを求め、対策が不十分であれば、投資の取りやめを行うことを表明することで企業に本気で環境対策を行うことを求めています。

機関投資家は一般市民のお金を預かり、投資を行っています。個人の資産家と比べ、けた違いの運用資産でありその影響力は非常に多いものになっています。

機関投資家は出資企業に環境対策を行うことを求めています。

なぜ、機関投資家は環境対策に熱心なのか

 機関投資家は出資者から高いリーターンを求められています。

 機関投資家は環境破壊が進み、生態系サービスを利用できなくなれば経済は大きく停滞し、金融システムに大きな混乱があると考えています。

 また、経済の発展を止めることで、環境破壊を止めても、同じく高いリーターンを得ることはできません。

 そのため、機関投資家はデカップリングによって経済発展と環境破壊を止める両立を強く求めるようになっています。

 これまでは環境と経済、社会の3つのバランスをとることが重要と考えられていたが、現在は経済を持続可能にするためには社会と環境も持続可能にしなければならないという考え方が広がっています。

 現在ではデカップリングの傾向はみられても、地球環境の限界値以下には達していませんが、機関投資家とイノベーションの担い手である企業がデカップリングを目指すようになったこと意義は極めて大きいことになります。

高いリターンを持続的に得る必要のある機関投資家にとって、経済発展と環境負荷の低減の両立が欠かせません。

機関投資家とその出資先でイノベーションの担い手である企業がデカップリングを目指すようになな意義は大きい。

デカップリングを目指すことに障害はあるのか

 環境規制を強化することでグローバル企業と戦ってきたリベラル政党などは、企業によるイノベーションがデカップリングが欠かせず、グローバル企業が環境負荷の低減に取り組みだしたことで、支持を失う傾向がみられています。

 一方で、気候変動は欧米や中国などが自分たちに有利なようにルールを作り変えたいだけと考える陰謀論を指示する人たちも増えています。

このような新しい対立構造は長期的な思考を持つニュー資本主義と短期的な思考を持つ現状維持派によって起きてしまっています。

 経済の構造変化は短期的な不利益を起こすことが少なくありません。また低所得層ほど短期的な思考を持たざるを得ないため、より不利益をこうむりやすく、さらに短期的な思考になっていくという悪循環になってしまいます。

 イノベーションによるデカップリングは技術的、経済的な問題以上にどこまで社会の支持を得られるかにかかっているとも言われています。

 絶対的デカップリングを成し遂げられるかどうかには、短期的に不利益を被る人々を前もって予測し、フォローすることで社会全体が強調していけるかどうにかかかっている。

経済の構造変化は短期的な痛みを伴うため、不利益を被る人からの反対を受けています。

デカップリングの実現には、短期的に不利益を被る人々を予測し、フォローすることで社会全体で協調できるにかかっています。

デカップリング実現のために必要な視点はなにか

 世界の人口が増える中で、誰一人取り残されないを実現することは非常に困難ですが、絶対的デカップリングなどの希望も見えてきました。

 しかし、その重要性が十分に広まっているとはいえず、長期思考と短期思考の対立を招くことも少なくありません。

 重要となるのは長期思考を軸としながら、目の前で困っている人を助ける短期的な対策を怠らないことで、短期的対策が長期思考と矛盾するときはきちんと説明をすることが重要となります。

 変革を起こせるイノベーションが起こせても、公正な移行を遂行しなければ実現しなければ、長期思考を実現してくことはできません。

 ・企業にはイノベーションを起こすこと

・投資家や金融機関にはイノベーションを起こす企業へ投資、支援すること

・メディアには深い情報を伝え社会を正しい方向へ導くこと

・政府、自治体には長期思考をもち、短期志向との対立を解消すること

・市民には資本家としての自覚を持ち、長期的な思考を持つこと

など、様々な立場の人々が適切な行動をとることで、社会変革を実現することができるようになっていきます。

変革を起こすイノベーションを起こすことと、イノベーションをもとに起こる社会変革にともなって短期的に不利益を被る人々をフォローすることが欠かせません。

企業、投資家、金融機関、メディア、政府、市民それぞれが長期的な目線を持つことができるかがカギになっています。

感想

 環境問題を耳にしない日はないほど、その深刻度は増しています。その原因を大量生産、大量消費のイメージから資本主義とすることも少なくありません。

 しかし、資本家特に、長期的な利益を求める機関投資家を中心に経済発展と環境負荷の低減の両立を可能にするデカップリングを目指す動きが加速しています。

 環境に配慮する程度では効果はなく、企業がイノベーションを起こすことで一人当たりの消費量を減らすことで環境負荷を減らすことが重要であり、その動きが進んでいるということがよくわかる本でした。

 一方で、懸念となるのは短期的に不利益を被る人々の反対が問題になりそうです。環境負荷は大きいけどコストの安いものを使用し製造できる場合、どうしてもコストの安い方法をとってしまいがちです。

 一部地域で環境負荷の少ない手法を採用しても、残った地域でコストの安く環境負荷の高い手法を採用し、後者が得する状況が続けば、低環境負荷への移行はなかなか進みません。

 特に世界規模で、環境負荷の小さいものへの移行をどうやって行くかは大きな問題になりそうです。世界的に長期の目線を持てるかどうか、そして多くのイノベーションを起こし一早くコストを下げた低環境負荷社会へ移行できるかが重要になっていくことが改めて理解できました。

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