この本や記事で分かること
・実際の高分子の構造
・高分子の異性体
・分子量はどのように測定され、どんな意味があるのか
高分子は実際にはどんな構造をしているのか
高分子は主にC-C結合でつながった長いヒモ状の分子です。C-C結合は熱運動によって回転することができるため、直線状ではなく、折れ曲がった構造をしています。
ポリマー鎖が長くなると、全体の形はランダムに折れ曲がった球状になっていくため、このような構造をランダムコイルと呼びます。
分子鎖同士がどのように絡まっているかは高分子の持つ特徴に大きくかかわっています。高分子の溶液や溶融体が持つ流れにくいという性質や引き伸ばした高分子がもとに縮もうとする力も高分子の分子鎖が絡まっているために発生しています。

ポリマーの単位構造が同じであれば、構造はすべて同じなのか
高分子の化学構造はモノマーから示されます。ポリプロピレンであれば、プロピレン(CH2=CH-CH3)が重合してできたものです。
しかし、同じモノマー単位で示されるポリマーであっても、実際の構造は複数存在しています。
ポリプロピレンは主鎖であるC-C結合平面から飛び出す形でーCH3基が結合しています。このメチル基がどちら側に飛び出しているかで様々な構造をとっています。
メチル基が常に同じ方向に飛び出しているものは「イソタクチック」、交互に逆方向に飛び出している場合は「シンジオタクチック」、ランダムの場合を「アタクチック」と呼びます。
完全なイソタクチックやシンジオタクチックの構造を持ち、配列の規則性の高い高分子鎖は結晶を作りやすいなど、同じ構造式でも大きく異なる性質を占めることがあります。

他にもポリマーの異性体は存在するのか
1,3ブタジエンを重合させると、ポリブタジエンが生成します。ポリブタジエンはモノマーであるブタジエンの2-3の位置に二重結合をもち、重合を繰り返すことで合成されます。
中央の炭素が二重結合をもつため、二重結合のどちら側に1,4位の炭素が結合しているかでシス体とトランス体の二つの幾何異性体が存在しています。
主鎖がC=C結合と対角でつながっていれば、トランス体、同じ側でつながっていれば、シス体となります。
トランス体は分子が直線的な構造になりやすいため、結晶になりやすい、硬く、高い強度を持ちやすいなどの特徴があります。
シス体はトランス体に比べ、C-C結合の自由度が高く、回転しやすいこともあり、弾力性や柔軟性に優れるといった違いがあります。
ただし、構造中すべての幾何配置がシス体、トランス体になっているわけでありません。シス体の割合が多いものは高シスタイプと呼ばれ、その特性からゴムやタイヤなどに利用されています。
幾何異性体の割合も高分子の特性に大きな影響を与える因子の一つになっています。

ポリマーの分子量はどのように測定されるのか
高分子の分子量はモノマーの分子量に重合度(いくつのモノマーが重合しているか)をかけ合わせることで求められます。
高分子の分子量は粘度など様々な物性に影響を与えるため、材料として用いる場合は、必要な分子量のものを使用する必要があります。
しかし、多くの高分子鎖を集める場合、すべての高分子鎖の長さをそろえ、分子量にを同じにすることは不可能であり、分子量にばらつき、分子量分布が生じます。
高分子鎖は球状であり、分子量が大きくなるほど、サイズが大きくなることを利用し、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)で分子量の分布を知ることができます。
小さな穴の開いたゲル状の粒子が詰まったカラムと呼ばれる管に高分子の溶液を流し込むと、小さな高分子はゲル粒子の穴に入ったり、出たりを繰り返して管を通過します。一方、大きな高分子はゲル粒子を素通りするため、出口まで素早く到達します。
大きさによって、出口までにかかる時間が異なるため、かかる時間によって、分子量を測定することができるようになります。

分子量の数値から何がわかるのか
分子量の分布を数値化して比較する際には多分散度という数値を利用します。
まず、分子量の測定結果の内、ポリマーの各分子量をその分子数で割り、その結果を全体の分子数で平均した分子量をMn:数平均分子量を算出します。
次に、分子量の大きい分子の影響を重視したMw:重量平均分子量を算出します。Mwは各分子量と分子数で評価し、それを全体の重さで平均します。
Mwは大きな高分子の分子量の影響を受けるため、一般的にMwのほうがMnよりも大きくなります。もしも、全く高分子の分子分布がなく、同じ分子量の物しか持たなければ、MnとMwの値は同じになります。
逆にMwとMnの差異が大きければ、分子量のがばらつきが大きいことを意味することとなります。そこで、多分散度をMw/Mn と定義し、分子量分布の広がり、バラツキの指標としています。

分子量分布狭い=良い高分子材料なのか
分子量分布が狭いほど良い高分子材料となるとは限りません。
一般的に、高分子となるほど粘度が高く、流動性が低くなるため、加工性が低下してしまいます。そこで、低分子量を存在させることで、流動性をあげるようなこともあります。
また、分子量分布が狭いよりも広いほうが強度に優れることがあるなど、物性面でもある程度の分子量分布が必要な場合もあります。
分子量やその分布を制御することは高分子材料を取り扱う上でとても大切なこととなっています。
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