化学.30-2 求電子反応の位置特異性

この本や記事で分かること

・アルケンとHXの反応がどのように起きるのか

・位置特異的な反応とは何か、なぜ位置特異的な反応が起きるのか

・Markovnikov則とは何か

2-メチルプロペンと塩化水素の反応では、どのような生成物が生成するのか

 アルケンと求核試薬による付加反応は様々な化合物で発生するものとなっています。

 2-メチルプロペンと塩化水素も二重結合炭素への水素付加と塩化物イオンのカルボカチオン中間体への電子供与という2段階の反応によって、2-クロロ-2-メチルプロパンを生じます。

 この反応では、水素がメチル基に結合した炭素に負荷したものと、水素だけと結合した炭素の付加する2つのパターンが考えられますが、実際には前者の反応しか生成しません。

 このように二つの反応が起こる可能性がありながら、片方の反応しか起きない反応は位置特異的な反応とされます。

なぜ、2-クロロ-2-メチルプロパンのみが生じるのか

 2-メチルプロペンと塩化水素の反応では、二重結合の電子がプロトンに付与され、結合を生成し、カルボカチオン中間体が生成します。

 中間体には、メチル基が結合した炭素がカルボカチオンになる場合と水素が結合した炭素がカルボカチオンになる場合がありますが、水素が結合した炭素がカルボカチオンとなる中間体が生成することはありません。

 そのため、メチル基が結合した炭素がカルボカチオンとなった中間体と塩化物イオンが結合を生成した2-クロロ-2-メチルプロパンが生成することとなります。

なぜ、メチル基と結合した炭素のみがカルボカチオンになるのか

 カルボカチオン中間体は水素のアルキル基への置換数が増加するほどエネルギー状態が低い=安定であることも分かっています。

 水素が結合した炭素がカルボカチオンはカルボカチオンのアルキル置換数は3、メチル基が結合した炭素がカルボカチオンになる場合は置換数は1となります。

 カルボカチオンの置換数が多いほど、安定=反応に必要なエネルギーが少ないため、優先的に生成することとなります。

 アルケンへのHXの付加において、Hは置換基の少ない炭素と、Xはアルキル置換基の多い炭素と結合を作ることは多数の反応で確認でき、この法則をMarkovnikov則と呼びます。

なぜ、カルボカチオンは置換基が多いほど安定なのか

 置換数が多いほど、カルボカチオンが安定になる理由の一つは誘起効果です。

 誘起効果とは隣接する原子の電気陰性度の違いによって、結合中の電子の偏りのことです。 

 水素とアルキル基を比べると、アルキル基のほうが、分極しやすく、カルボカチオンへ電子を供与する割合が増加します。

 また、カルボカチオンは正電荷を帯びているため、電子の供与が増加するほどより安定化します。

 そのため、アルキル基の置換が多いほど、カルボカチオンへの電子供与が増えるため、より安定になることが可能です。

超共役とは何か

 カルボカチオンの安定性には、その構造も大きく影響しています。

 カルボカチオンは平面構造をとることが様々なデータから明らかになっています。

 カルボカチオンは3つの原子と結合を生成しており、その3つが同一平面上に存在し、その平面から垂直な方向に空のp軌道が存在しています。

 アルキル基のC-H結合の電子は平面から突き出した空のp軌道と相互作用を起こします。この相互作用によってカチオンの安定化がもたらされます。水素との結合では平面的であり、空のp軌道と相互作用をおこすことはできないため、置換数が多いほどカルボカチオンが安定化することになります。

 空の軌道とσ結合の電子が相互作用することは、超共役と呼ばれカルボカチオンの安定化の要因になっています。

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