本の概要
リスキリングという言葉に大きな注目が集まっています。
デジタルシフトや労働環境の変化によって業務上の技術や専門スキルを新しく取得する必要性が高まったことで、世界中でリスキリングを推進する動きが進んでいます。
しかし、日本人は世界的にみても、社会人の学びが少ないことがわかっており、このままでは、ただのブームで終わってしまいます。
労働・組織・雇用に関する多様なテーマを研究してきた筆者が、リスキリングに必要なことは何か、日本人が学ばない理由を明らかにすることで、日本人にあったリスキリングの方法を詳細に書いた本になっています。
この本がおすすめの人
・リスキリングとは何か知りたい人
・なぜ、日本ではリスキリングがうまくいかないのか知りたい人
・組織のリスキリングを推奨するために必要な仕組みが知りたい人
多くの企業でリスキリングが必要な分野であるDXについての本「世界のDXはどこまで進んでいるのか」の要約はこちら
本の要約
デジタルシフトや労働環境の変化によって業務上の技術や専門スキルを新しく取得するリスキリングが大きな話題になっています。
しかし、日本人特に社会人は世界的にみても学ばないこともあり、ただリスキリングの号令をかけたり、学習訓練の機会提供を増やすだけではうまく機能せずに、ブームで終わってしまいます。
日本人が学ばない理由を知り、日本にあった施策を行うことが求められています。
日本人の学びが少ない理由には以下のようなものがあります。
・人材への投資が少ない、学ぶ環境が少ない
・変化が速いにもかかわらず、必要なスキルを明確化し、取得しようとしてしまう
・個々のやる気や努力に頼っている
・変化を嫌う組織が多く、新しいスキルを発揮することを避けてしまう
・費用や負担から企業も積極的に学ばせようとしてこなかった。
リスキリングを行うには以下のような学びの行動が必要ですが、日本の慣習はこの行動を妨げやすい面があることも指摘されています。
・従来の仕事にかかわる知識やスキルを捨て新しいものに変えていく
・他者を巻き込みながら、ともに学んでいく
・学んだこと同士や学びと仕事をむずびつける
学びの行動をもたらすには学習機会の提供は前提であり、以下のような学びの行動を起こしやすくする仕組みが必要になります。
1.変化を抑制する因子を減らし、行動変化を促す
2.個々での学びだけではなく、学びの共同体を作り、協働をおこなう
3.従業員との対話から学びを継続させるための意思の創出する
個に頼った施策ではなく、仕組みづくりこそがなによりも重要になります。
日本人のリスキリングにおける、なんとなく学ばない、変化抑制、他者への薄い信頼などの問題を解決しなければ、リスキリングの効果は一部の人にとどまるものになってしまいます。
企業側が従業員に学ぶ仕組みを作ることができれば、人的資本の向上につながり企業にとっても大きな利点になります。
社会は日本の最後のブルーオーシャンであり、社会を開拓していくことは個人だけでなく、組織にとっても多きなメリットがあります。
リスキリングとは何か
リスキリングという言葉がここ数年大きく広がっています。
リスキリングとは業務上の技術や専門スキルを新しく獲得することやそれを従業員に促進することを意味しています。
デジタルシフトや労働環境の変化を背景に各国の政府や企業がリスキリングを後押しする施策を次々と打ち始めています。
しかし、日本のビジネスパーソンは世界的にみても、学ぶ習慣がなく、リスキリングの号令だけでうまくいく状況ではありません。
日本の学びをブームで終わらせないためにも、日本にあったリスキリングの施策の議論が必要になっています。
リスキリングとは業務上の技術や専門スキルを新しく獲得することやそれを従業員に促進することを意味しています。
労働環境の変化から政府や企業が従業員のリスキリングを行っていますが、日本人は世界的にみても学ばないため、ただ号令をするだけではうまくいきません。
なぜ、日本でリスキリングがうまくいかないのか
リスキリングはDXによる環境変化、投資家投資判断を行う際に人材育成を重視始めたことなどを背景に各国で注目されています。
しかし、日本はGDPに占める人材投資の規模が極めて小さい国になっています。また、金額の不足だけの問題ではなく、実際に学びを行う習慣や環境も全く整っていません。
リスキリングを進めるには以下のような手順が考えられがちです。
1.未来に必要なスキルを明確化する
2.スキルを新しく身に着ける
3.ジョブとマッチングする
このような工場モデルの手順は、これまでも学び直しとして、何度も話題になってきましが、うまくいっていませんでした。
人材投資額の少なさ、環境や習慣の欠如、工場モデルのようなリスキリングの手順などが要因となり、日本でのリスキリングはうまくいっていません。
なぜ、工場モデルはうまく機能しないのか
工場モデルによるリスキリングは以下のような問題があり、うまく機能していません。
・個への過剰なフォーカス(他者との相互作用の軽視)
・学びの偏在性(学ぶ人とそうでない人の差が激しく、固定化されてしまう)
・スキルの明確化の難しさ(どんなスキルが必要になるかを判断できない、スピードが速い)
・スキルの発揮ではなく獲得に力を入れてしまっている(行動を変えることができない)
現在のリスキリングでも工場モデルを採用している企業も多くみられますが、限界があります。工場モデルからの脱却には個人のやる気頼みのリスキリングをやめ、リスキリングのための動機づけを仕組化することが求められています。
工場モデルは個々の努力、やる気に頼っているため、多くの人へのリスキリングを行う仕組みとしては不向きです。
また、学ぶべきスキルの明確化が難しくなったことやスキルを発揮することではなく、獲得に力をいれてしまうことも工場モデルの欠点です。
なぜ、日本人の学びが少ないのか
日本で社外学習や自己啓発をまったくやっていないと答える人は非常に多くなっています。
日本人が学ばない明確な理由はなく、学びへの消極性が学ぶ人の少なさの原因になっています。
学びたいが障害があるわけでもなく、学ばないことを主体的に選んでいるわけでもなく、なんとなく学んでいないのが多くの日本の人々の実情です。
また、企業側も一括採用などで画一的な研修を行っていたほうが、簡便で費用も掛からないため、学びたくない従業員と学ばせたくない企業という利害が一致したため、長くこのような状態が続いています。
このような状態で主体的な学びや自律的なキャリア形成などと煽っていることは、個の力への過剰な期待でしかありません。
働くことや学ぶことについて個の意思を発芽させるような仕組みを企業側が作っていくことが求められています。
多くの日本人は特に理由があって、学んでいないわけではありません。学ぶメリットがちいさいく、企業側も特に学ばせたくないため、この状態が長く続いてきました。
この力に依存したリスキリングではなく、企業側が意識的に従業員がリスキリングを行う仕組みを作ることがもとめられています。
なぜ、日本では学びによるメリットが少ないのか
日本でリスキリングが進まないもう一つの要因に、変わらなさが挙げられます。
組織の中で業務上の変化を起こすことを負担=コストとして捉えてしまい、変化を起こすことを避ける傾向が非常に強くあります。
研修などで新しいスキルを身に着けても、それを職場で発揮することができない状態では、リスキリングの意味はほとんどありません。
日本企業のように助け合いの文化が強い組織ほど変化を抑制する力が強いことが分かっています。部門横断的な助け合いの姿勢はものつくりや品質の向上には適していますが、個人発の思い切った変化にはマイナスであることを示唆しています。
また、変化に対する適応力が年齢を追うごとに低くなることもわかっています。変化の激しさが増す中で変化適応力が重要なことは明らかで、誰もに変化適応力が求められるようになっています。
高い変適応力を持つ人々にみられる特徴として以下のようなものが挙げられます。
・目標達成思考
・新しいことへの挑戦や学びへの意欲
・興味の柔軟性
日本の職場では変化を起こすことを嫌うため、新しいスキルで職場に変化を起こすことを避けるようになります。
このような状態では新しいスキルを学ぶメリットがないため、学ばなくなっています。
リスキリングを行うために必要な学びはどのようなものがあるのか
そもそもリスキリングという言葉自体がとても広い意味を持つため、効果のあるリスキリングを行うには具体的な学びの行動言葉の解像度を上げる必要があります。
リスキリングを支えている具体的な学びの行動には以下のようなものがあります。
学びの行動 | 内容 | 行動を阻害する日本の慣習 |
アンラーニング | 従来の仕事にかかわる知識やスキルを捨て新しいものに変えていく | 日本は人事評価で差をつけないため、中途半端に良い成果の人が多い |
ソーシャル・ラーニング | 他者を巻き込みながら、ともに学んでいく | 個に特化した動機づけ |
ラーニング・ブリッジ | 学んだこと同士や学びと仕事をむずびつける | 社外との関係性の構築が苦手 |
リスキリングにはアンラーニング、ソーシャルラーニング、ラーニングブリッジが必要ですが、日本の慣習はこれえらの行動を阻害してしまいます。
工場モデルではない、リスキリングとはどんなものか
リスキリングを阻害するものが何か、また言葉の解像度をあげたことで、リスキリングとは漠然とした勉強や詰め込み教育ではなく、他者を含んだ環境の相互作用の中で起こる創発的な取り組みであることが見えてきます。
企業が従業員の学びを創発するために必要となるのは、知識の詰込みや意識改革ではなく、スキル獲得を通じて、変化の創出を最大するための仕組み作りになります。
このようなリスキリングのやり方は工場モデルと比較し、変化創出モデルということができます。
スキル獲得を通じて、変化の創出を最大化する変化創出モデルが工場モデルに代わるリスキリングとして必要になっています。
変化創出モデルを推進するには何が必要なのか
変化創出モデルによるリスキリングにおいて、学習、訓練の機会提供は前提条件となります。
前提条件となる機会を用意したうえで、以下の3つの領域での工夫が必要になります。
1.行動変化を促す
変化を抑制する要因を排除することで、行動変化を促します。行動変化へ報酬を出すよりも挑戦を組織全体で後押しすることが有効です。
従業員が変化した後に起こる予測をネガティブなものから、ポジティブなものへと変革する仕組みが必要になります。
2.学びの共同体
学びには個だけなく、協働で行うことが必要ですが、他者への信頼が低い日本での実現は難しいものです。
企業が仕事の場であるとともに、継続的に学びあうキャリアの学校のような仕組みを持つことで、学びをコミュニティ化することが可能になります。
3.学ぶ意思の創出
主体的な学びの意思は組織が待っていれば、勝手に現れるわけではありません。学ぶ仕組みとともに学びを継続的に行う仕組みも必要です。
日本企業は従業員との対話を節約し、ジョブローテーションによる都合の良い配置転換を行ってきましたが、対話はベースにしたジョブマッチングこそが変わり続けることのできる個人、組織を作っていいます。
学習訓練の機会提供は前提であり、それに加え、以下の3つが必要です。。
1.変化を抑制する因子を減らし、行動変化を促す
2.個々での学びだけではなく、学びの共同体を作り、協働をおこなう
3.従業員との対話から学びを継続させるための意思の創出する
3つの行動を起こす仕組みを整備することが求められています。
日本でリスキリングが成功するためには何が必要か
日本のリスキリングにおける大きな問題は以下の3つです。
・なんとなく、学ばない
・変化を抑制してしまう
・他者への信頼が薄い(社会関係資本が薄い)
これらの問題を解決するには、企業側がリスキリングをただの教育機会を増やすだけでなく、問題を解決する仕組みを作ることが重要です。
学びを目的としながら、従業員同士の自発的な人間関係蓄積を狙うことができれば、人的資本の向上にもつながるため、企業にとってもリスキリングの仕組み作りには大きな利点があります。
社会関係資本が薄い日本人にとって、社会は最後のブルーオーシャンともいえ、社会について行動、開拓することは組織や人生にとって大きなメリットがあります。
リスキリングを学びを共に行う仲間を作るものととらえれば、人生を豊かにする言葉になっていきます。
日本の問題を解決するにはただ、教育機会を増やすだけでなく、仕組み作りが重要です。社会的な資本が薄い日本では社会は最後のブルーオーシャンでもあり、社会的資本を増やすことは自分自身だけでなく、組織のも大きなメリットがあります。
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