本の概要
半導体のニュースを聞く機会も増え、大きな注目が集まっています。
日本でも多くの半導体が製造され、高いシェアを誇っていましたが、徐々に海外企業に移り、多くの企業が撤退していましたが、ラピダスの設立など再び半導体製造に力を入れ始めています。
しかし、多くの人が半導体とはなんなのか、どのように製造されているのかを理解できておらず、日本が半導体製造にどのようにかかわるべきか、世界の半導体製造がどうあるべきかを正しく考えることができていません。
半導体製造とはどんなものなのか、何が重要なのか、世界の半導体製造の現状と日本のとるべき戦略などを知ることができる本になっています。
この本がおすすめの人
・半導体やその製造方法を知りたい人
・世界中で半導体をめぐる綱引きがどのように行われているか、なぜ行われているか知りたい人
・ラピダスの設立など日本の半導体戦略が正しいのか知りたい人
本の要約
半導体は生活に欠かせないだけでなく、安全保障上でも重要な面があり、半導体に大きな注目が集まっています。
アメリカによる中国への禁輸処置やTSMCのある台湾をめぐる綱引き、各国で起きている半導体製造工場の建設ラッシュなど半導体をめぐるニュースが増加しています。
人類の文明が今後も、進化できるかには人々が半導体を正しく理解し、正しい行動をとることができるかにかかっているため、これらのニュースが意味することや半導体の製造に関する知識を身に着けることはとても重要になっています。
半導体の微細化には集積量増加による計算能力の向上、高速化、消費電力やコストの低減などの利点があるため、各企業で微細化が進められてきました。
2010年代中盤までは微細化でインテルが優位に立っていましたが、現在は台湾のTSMCの独走状態になっています。
TSMCは最先端の微細な半導体だけでなく、32nm以上のレガシーと呼ばれる半導体の生産量も多く、最先端とレガシーを多量に生産できる唯一のメーカーになっていることから唯一無二の存在になっています。
しかし、中国も徐々に微細化に成功してきているため、アメリカは中国の半導体産業の発展を防ぐために高性能半導体や必要な装置や部品の禁輸を実施しています。
ただし、中国が追い込まれたことで台湾進攻の引き金となる可能性も秘めています。
TSMCが微細化に成功している理由の一つに最先端の露光機の使用技術の高さがあります。最先端の露光装置であるEUVを世界で唯一製造しているASMLから露光機を大量に購入し、練習を重ねることで微細化技術を向上させてきました。
日本にも半導体分野で高い競争力を持つ製造装置や材料を製造している企業もあり、このような分野を強くする政策を掲げるべきですが、現状では半導体製造工場の建設が優先されています。
ラピダスの設立もニュースになっていますが、多くの懸念があります。また、日本の強い分野でも徐々にシェアが減少してるため、正しい政策が求められています。
現代の文明を維持するには、半導体が不可欠であり、今後の発展にも半導体の進化が欠かせません。
半導体には、無数の装置とその部品、原料などが必要であり、どれかが欠けても半導体を製造することはできません。
半導体の製造能力を各国が囲い込む不毛な競争をしていては、世界の半導体製造が止まってしまう可能性もあるため、グローバルな協力体制を築いていくことが重要になってきます。
なぜ、半導体に大きな注目が集まっているのか
ここ数年、半導体に大きな注目が集まっています。
自動車などでの半導体不足は半導体受託生産で世界トップシェアのTSMCから半導体を調達できなくなったことに起因しています。
そのTSMCをめぐって、各国での綱引きが行われアメリカ、日本、ドイツ、シンガポールがTSMCの工場が誘致しています。
さらには、アメリカによる半導体関連の物質に対する厳しい禁輸処置が中国による台湾への軍事侵攻を誘発する危険が浮上するなど、半導体に関する話題が多くなっています。
半導体は生活になくてはならないものであり、今後も人類の文明が進化できるかには人々が半導体を正しく理解し、正しい行動をとることができるかにかかっています。
半導体は生活になくてはならないものであり、導体受託生産で世界トップシェアのTSMCをめぐる米中の対立など各国の綱引きが話題なったため半導体に注目が集まっています。
なぜ、アメリカは中国へ禁輸処置をしたのか
中国は2015年に軍事技術と宇宙産業でアメリカを凌駕することを目標として掲げています。
軍事兵器にも半導体は欠かせないため、アメリカは国家安全保障上の理由から中国の半導体産業を抑える必要が出てきました。
アメリカはTSMC、サムスンなどの企業をアメリカに誘致しています。その際に補助金を出すものの、補助金を受けた企業が今後10年、中国での最先端半導体チップ製造施設へ投資することを禁じています。
また、中国への高性能半導体、製造装置の輸出禁止などを行うことで中国の半導体製造に致命的な影響を与えました。
この処置は中国内の韓国などの外資企業、さらにはアメリカ以外の製造装置も含めるなど中国を強く追い詰めるものであるため、中国の台湾への軍事侵攻の引き金となる可能性もあります。
TSMCが各国に半導体生産拠点を分散させているのは、中国による侵攻に対する保険にもなっています。
中国は軍事技術でアメリカを凌駕することを目標としており、アメリカは軍事兵器に欠かせない半導体や半導体製造に必要な装置を禁輸とすることで中国を軍事産業、半導体製造の発展を防ごうとしています。
半導体とは何か
半導体とは電流が流れる導体と流れない絶縁体の中間にある物質のことですが、世間一般に半導体と呼ばれるものは半導体集積回路のことを示しています。
半導体集積回路はシリコン上にトランジスタという素子を集積した電子回路のことです。
トランジスタは薄い絶縁膜、電子が蓄えられたソース、電子を受け取るドレインの上にゲート電極を搭載したもので、ゲート電力に電圧がかかると、ソースからドレインに電流が流れるようになっています。
電流が流れている状態を1、電流が流れない状態を0として定義しており、コンピュータはこの2進法ですべての演算を行っています。
世間一般で言われる半導体はシリコン上にトランジスタを集積した半導体集積回路のことを指しています。
トランジスタは電流が流れている状態を1、流れていない状態を0と定義し、2進法で様々な演算を行っています。
なぜ、微細化する必要があるのか
複雑な演算を行うためには、なるべく多くのトランジスタを集積する必要があるため、トランジスタを微細化することが求められます。
また、トランジスタを微細化すると高速化や低消費電力化、コスト低減といった多くの利点があるため、トランジスタの微細化、集積数の増加が進められてきました。
1965年以降におよそ2年で集積量が2倍になるとするムーアが発表すると、その通りに集積量が向上され、ムーアの法則と呼ばれるようになっています。
トランジスタの微細化には集積量増加による計算能力の向上、高速化、消費電力やコストの低減などの利点があるため、微細化が進んできました。
半導体はどのように作られているのか
半導体の製造は、設計、前工程、後工程の3段階から成り立っています。
すべての段階を一社で行う場合もありますが、各工程を別企業が行うことも多く見られます。
別企業が行う際には、ファブレス企業が行った設計をもとに、前工程を行うファウンドリーがシリコン上に半導体を作りこみ、後工程を行うアッセンブリが切り出し、パッケージ、テストを行うことで製造されています。
前工程では、シリコン上に微細な回路を形成するには以下のような手順を踏んでいます。
1.薄膜の塗布:シリコン上に薄膜を塗布する
2.レジスト塗布:レジストを薄膜上に塗布する
3.露光:薄膜を除去したい箇所に光を照射し、現像液に溶けやすくする
4.現像:現像液で露光されたレジストを除去する
5.ドライエッチング:レジストのない箇所の薄膜を削り取る
6.ドライエッチング2:残った薄膜上のレジストを除去する
この工程によって、シリコン上に微細な薄膜パターンを形成することができます。この工程を繰り返すことで、微細な回路を持つトランジスタを作り出すことができます。
半導体の製造は、設計、前工程、後工程の3段階からなり、すべてを一貫で行う企業や別々の企業が行う場合があります。
微細なパターンを形成しているのは前工程になります。
現在、半導体製造メーカーで高い技術を持っているのはどこなのか
半導体製造メーカー各社が微細化を検討していく中で、2010年代中盤まで優位に立っていたのはインテルでした。
しかし、その後インテルが10nmに苦戦している間にTSMCやサムスンがさらなる微細化に成功しています。
TSMCはサムスンと比較しても、生産量、歩留まりで大きな差があることもあり、TSMCが半導体の微細化で独走状態になっています。
また、TSMCは最先端の微細化された半導体だけではなく、32nm以上のレガシーな半導体を生産量も多く、最先端とレガシーを多量に生産できる唯一のメーカーになっています。
2010年代中盤まではインテルが優位に立っていましたが、現在は台湾のTSMCの独走状態になっています。
TSMCはなぜ、微細化技術で独走しているのか
最先端の露光装置EUVの導入量、使用技術が優れていることがTSMCの微細化の大きな要因になっています。
EUVを製造しているのはオランダの露光装置メーカーであるASMLのみとなっています。TSMCはASMLの露光機を購入し、大量の練習を積み重ねることで微細化を可能にしてきました。
ASMLの供給量に限界がある中で、TSMCは微細化のカギとなる露光機を他のメーカーよりも多く持っており、技術力も高いため、微細化での独走が続くと予想されています。
半導体の微細化では最先端の露光装置の使用技術がカギになっています。
TSMCは最先端の露光装置であるEUVを世界で唯一製造しているASMLから露光機を大量に購入し、練習を重ねることで微細化技術を向上させてきました。
なぜ、自動車業界で半導体不足が起きたのか
半導体不足の影響が特に大きかったのは自動車業界でした。
自動車に使用される半導体はそれほど微細なものでない、レガシー半導体が多くなっています。
コロナ初期に自動車メーカーは生産量の落ち込みから、半導体の注文をキャンセルしました。キャンセルした分もすぐに他の半導体製造で埋まったしまったため、自動車の生産量が回復した際に自動車洋の半導体が足りなくなってしまいました。
自動車メーカーのジャストインタイムが半導体不足の原因となっています。
また、今後もEV化などで半導体の使用量が増加するだけでなく、自動運転には高度なAIのための最先端チップが必要となります。
TSMCの生産量にも限界があり、自動車メーカーが半導体不足に悩まされる現象が続く可能性が高くなっています。
コロナ初期に自動車メーカーは生産量の落ち込みから、半導体の注文をキャンセルし、その分もほかの半導体製造で埋まってしまったため、半導体が不足してしまいました。
ジャストインタイムが不足の原因となってしまいました。
各国は半導体製造をどのように考えているのか
半導体不足を受けて、世界中で半導体工場の建設が数多く発表されています。
中国は世界一の半導体使用国ですが、半導体の製造はあまり強くなく、国策として強化を目指してきました。
その中でEUVを使用せずに、7nmの開発に成功したという情報もあり、アメリカが禁輸処置を行う要因ともなっています。
アメリカは禁輸処置だけでなく、自国内での生産量増加のために補助金を使い、TSMCやサムスンの誘致など自国内での工場建設を多数計画しています。
世界中で半導体工場の建設が多く発表されています。特にアメリカは自国内での製造を行うため、TSMCやサムスンを誘致しています。
日本は半導体分野でどのような戦略をとるべきなのか
筆者は日本が半導体分野で高い競争力を持つ製造装置や材料をより強くする政策を掲げるべきと考え、衆議院での意見陳述も行っています。
しかし、この意見陳述が政策に生かされている様子はなく、半導体製造工場の誘致や建設などが優先されています。
ラピダスの設立も話題となり、2nmの開発を目標とし、先進半導体の国内製造を目指していますが下記の点が懸念されています。
・世界的な半導体製造工場ラッシュによる供給過剰
・前工程のみで国産化出来たとは言えない
・一度撤退した状態から最先端の微細化技術を追いつく技術的な困難
・EUVなど不足気味の装置の入手困難
・技術者不足
特に技術者不足に対しては教育現場で半導体に触れる機会を増やすことが地道ではありますが、有効な方法です。
また、TSMCは明確なロードマップを持たずに、大口の顧客であるappleの要求に答えるために微細化を進めてきました。
TSMCはAppleの要求に対して、どのようなスペックが必要考え、開発や設備へ投資しても利益がでると計算したうえで微細化の研究と製造を行っています。
ファウンドリーの本質である顧客の要望なしに、微細化技術を高めるだけでは、DRAMで失敗した過剰品質や技術の過信を繰り返してしまいます。
日本が半導体分野で高い競争力を持つ製造装置や材料をより強くする政策を掲げるべきですが、現状は半導体工場の建設に力が向いています。
ラピダスの設立などもありますが、多くの懸念があります。
日本の強い分野は今後も安泰なのか
日本が前工程で高いシェアを持っているのは一部の製造装置と各種材料です。液体、流体、粉体など形のないものを扱う分野で優位性を持つものが多くなっています。
形のないものを扱う上ではマニュアル化できない暗黙知も多く、現場での改善、改良などボトムアップ型の開発を得意とする日本の気質に合っているためと考えられます。
しかし、装置メーカーの売り上げはのびていますが、その成長率は欧米や韓国に劣っており、徐々にシェアは低下傾向にあります。
各種の装置が複雑化、高精度化する中で開発手法にもマーケティングやリーダーシップなど欧米型開発の良い部分を取り入れる努力が必要になっているのかもしれません。
日本が前工程で高いシェアを持っているのは一部の製造装置と各種材料ですが、そのシェアは徐々に低下しています。
形のないものを扱う分野であり、日本人の特性が生かしやすいことで強みを発揮してきましたが、欧米型の開発手法を取り入れる必要があるのかもしれません。
今後世界の半導体製造はどうなっていくのか
現代の文明を維持するには、半導体が不可欠であり、今後の発展にも半導体の進化が欠かせません。
半導体の製造能力を各国が囲い込む不毛な競争をしていては、世界の半導体製造が止まってしまう可能性もあります。
ウクライナ侵攻による希ガスの不足や冷媒として利されるフロリナートの製造危機などは半導体製造に大きな影響を及ぼしました。
半導体製造には製造装置とその部品や材料、製材材料やその原料などが必要です。
無数のどれかが欠けても、半導体を製造することはできません。グローバルな協力体制を築き、非常事態を乗り越えていくとが求められています。
今後の文明の発展にも、半導体の進化は欠かすことはできません。
半導体には、無数の装置とその部品、原料などが必要であり、どれかが欠けても半導体を製造することはできないため、グローバルな協力体制を築いていくことが重要になってきます。
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