バカと無知 人間、この不都合な生きもの 橘玲 要約

本の概要

世の中がぎすぎすとし、他人に対して攻撃的になったり、孤独を感じる人も増えています。

これらは人間の本性がバカと無知の壁を持っているからにすぎません。

自身の能力を実際より大きく見せたり、上の立場の人を引きずりおろすことに快感を覚えることも、差別的な考えを持ってしまうことも脳の持つ機能のためです。

ここにSNSなどテクノロジーの発展で簡単に自分の意見を表明したり、他者批判ができるようになったことで世の中がぎすぎすとしているだけで、このように考えることは人間の本性です。

脳も進化してきましたが、進化の目的は幸せではなく生存と生殖のため、現代社会とのギャップで多くの部分で問題を起こしてしまいます。

本書で私たちの持つ傾向を知ることで少しでも多くの人が、謙虚になり、言動に注意を払うことができれば今より良い社会につながっていきます。

この本がおすすめの人

・なぜ他人のスキャンダルをたたく人がいるか知りたい人

・正義、共感、話し合いが必要とされる風潮に疑問がある人

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本の要約

なぜ我々は世の中をよくなったように感じられないのか

 世の中がぎすぎすとし、明るい話題がないと感じている人が多いと思います。あらゆる生物は生存と生殖を最適化するように進化してきています。

 進化の目的は幸せではないため、我々は安全と快適さを比較した際に安全を望むようにできています。そのため、良いニュースよりも悪いニュースに強く反応するように進化してきています。

進化の目的は幸せではなく、生存と生殖であるため、良いニュースよりも悪いニュースに強く反応するため、世の中がよくなったとは感じにくくなっています。

なぜ、芸能人のスキャンダルを批判するのか

 自分に関係のない芸能人などのスキャンダルに起こったり、批判することは不合理に思えます。しかし社会的な生きものである人類はこのような反応を起こしやすくできています。

 社会生活を円滑に進めるうえで、抜け駆けとフリーライダーを許すことはできません。脳は抜け駆けとフリーライダーを防ぐために、

・自分より下位の者と比べる下方比較では報酬を感じる部分

・上位の者と比較する上方比較では損失を感じる部分

を活性化することが分かっています。自分より上の人を正義の名のもとに引きずり下ろすことを好むのことは脳の進化上のはたらきといえます。

自分よりも上の人を引きずり下ろすことを脳は好むため、正義のもとに他者を批判することは快感を生むようにできています。

近年他者を批判する傾向が強いのはなぜなのか

 社会性の高い人類は社会性を維持するために、公平さを重視しています。公平さから外れた行動を批判することに脳は報酬を出すため、社会が維持されていきます。

 しかし、テクノロジーの力で何のリスクも負わず、SNSなどコストをかけずに関係のない他者を批判できるようになったため、他者への批判は快感を得る簡単な方法になったため、行き過ぎた批判につながっています。

 多くの人が過去の言動によって公的な地位を辞任させられるキャンセルカルチャーは大きな問題になっています。

SNSなどテクノロジーの発展でコストをかけずに他者を批判することが可能になったため、行き過ぎる批判が目立つようになっています。

みんなで話し合って決めることは本当に良い方法なのか

 大多数の人は自分を人並み以上と判断することが少なくありません。この楽観主義バイアスの問題はバカは自分がバカであることに気づかないことにあります。

 人類は長い期間150人ほどの共同体で地位をめぐり争ってきたため、自分に能力がないことを他者に知られることは致命傷となります。そのため自分の低い能力に関して自己評価は高くなります。

 一方で、自分の高い能力が他者に知られることも排除の危険があります。そのため自分の高い能力については低く見積もり集団内で目立ちすぎないようにする傾向も、持っています。 

 この傾向は複数で課題に協力する際に話し合いで解決すべきかの指標となります。

・一定以上の能力を持つ者同士の話し合いは問題の解決にプラスになります

・片方が一定の能力以下の場合、話し合いは能力以下の者に引っ張られ、マイナスになってしまいます

自分の能力を低く見せることも高く見せすぎることも生存と生殖にマイナスに働きます。そのため能力が低い人は高く見せ、高い人は低く見せる傾向があります。

そのため能力の低い人がいる集団で話し合いをすると能力の低い人に引っ張られ、マイナスになってしまいます。

どのように話し合いをすべきか、

 集団の能力が低い人の意見を聞くことが解決につながらないことが、政治的な意味を持つのは

・みんなで話し合う=民主制

・有能な人間が決める=独裁制、貴族政

をイメージさせるためになります。

 人類は自尊心を高く保ち、自己肯定感が下がることを避けるように進化しているので、能力が低い人はそれを悟られないように振る舞うため、話しあいはどうしてもマイナスの結果となる。

優秀な人たちだけで、話し合えば問題解決に役立ちますが、どのように優劣を見極めるかの判断は非常に難しいものです。

自尊心が高いほど物事がうまくいくのか

 自尊心が重要であり、自尊心を高めると物事がうまくいくという常識にはエビデンスがなく、うまくいくと自尊心が高まり、うまくいかないと自尊心が低くなるに過ぎない。

 自尊心が低くなると、元の位置まで戻そうとするがその際に自尊心が高い人は自らの能力を誇示することで、低い人は周囲に同調することで失われた自信を取り戻そうとします。

 ここから自尊心が高い人=個人主義、低い人=集団主義とされることが多いが、自尊心には潜在的、顕在的の二つが存在し、周囲に誇示しない人が必ずしも自尊心が低いとは限りません。

 狭い社会で生きてきた人類は周囲に同調しつつ、自分を目立たせることで遺伝子を残してきたため、自尊心を高くも低くも見せる必要あるため、複雑な見え方となることも少なくありません。

自尊心が高い人ほど物事がうまくいくのではなく、うまくいっている人の自尊心が高いにすぎません。また自尊心には潜在的なものと顕在的なものがあり、自尊心の高低を見極めることも簡単ではありません。

なぜ差別がなくならないのか

 差別や偏見の議論がややこしいのは差別主義者がどこにもいないこと、他者から差別的だと判断されることはあっても自分から差別していることを認める人はいないからです。

 白人を優遇すべきと訴えている人も、黒人を見下しているのではなく、黒人が不当に優遇されており、それを是正すべきと考えていると主張している。

 脳はもともと世界をカテゴリー化して理解するようにできています。脳には認知的な限界があり、複雑なものを簡単に分類しないしてしまうため、性別、年齢、人種などで相手を自動的にカテゴリー化するためどうしても偏見や差別を行ってしまいます。

脳は世界をなるべく簡単に分類し、人を自動的にカテゴリー化するため、差別が発生してしまいます。また差別をしているつもりのある人はほとんどいないことも大きな要因となります。

なぜ、人類は他人を信頼するのか

 私たちが他人を信頼するのはそうしないと生きていけないからです。

 自分が無力であればあるほど他人に頼りしかありません。そのため無意識のうちに相手にどのような利用価値があるかを無意識に見積もっています。

 自分にとって信頼できると判断するとその人の言うことを聞くようになります。その人の言うことを聞くようになれば、服従し無条件に言うことを聞くようになっていきます。

 信頼の裏には必ず服従があり、権威に服従してしまうことも人間の本能です。

信頼がなければ社会は成り立たないため信頼するようになっています。しかし、信頼の裏は権威であり、権威に服従してしまうこともまた避けられない本能といえます。

道徳と損得を切り離して考えることはできるのか

 私たちは無意識にいろいろなことを損か得かで判断し、帳尻を合わせようとしています。古代では長期的な帳尻合わせをしても意味はなかったため、どうしても短期的に帳尻を合わせようとしてしまいます。

 この場合の損得には道徳も含まれており、直前で道徳的に良い行いをした人は次に道徳的に悪い行動をとりやすく、先に悪い行動をした人が帳尻を合わせようとしてよい行動をしやすいなどの結果もあります。

我々は無意識で損得を判断し、帳尻を合わせようとします。帳尻合わせには道徳的な行動をとったかも含まれています。

共感にマイナスはないのか

 共感の重要性が強く唱えられているが、共感がすべてを解決するわけではありません。ある人の共感をもつと、ほかの人を犠牲にしてもその人を助けてしまいます。

 共感はスポットライトのようで愛着の強い対象にスポットライトが当たるとその周囲は見えなくなってしまいます。

 共感自体は悪いものではないが、過度に強調すると世界はより分断されてしまう可能性も秘めています。

共感は悪いものではないが、過度の協調すると世界が分断される可能性があります。

なぜ、陰謀論が増えているのか

 SNSには陰謀論が渦まいています。多くの人々は異常な事態と考えていますが、人の本性を考えれば世界を陰謀論で考えることは当たり前のことです。

 我々は社会性の強い動物で共同体の中で生きていくために共感など向社会性を向上させてきましたが、その一方で遺伝子を残すためには競争に勝ってパートナーを得る必要があります。

 このトレードオフを人類は数十年前から行ってきました。そのため表向きで協力しながら、裏では足を引っ張るような戦略も多く用いてきました。

 知能を持つ目的は自己正当化であるとする説もあり、自分の主張を一貫させようとするために様々な理屈で正当化しようとします。陰謀論では正義を理屈として正当化することがよく見られます。

 人間の本性であるバカと無知の壁に一人でも多くの人が気づき、自らの言動に注意を払うようにすればもう少し生きやすい社会になるのではないだろうか。

陰謀論を信じるのは人間の本能で当たり前のことです。誰もがバカと無知の壁を本性として持っていることを理解することが重要になります。

感想

 思っているけど言いにくいことや、直感的には理解しにくいことを豊富な研究データから裏付ける本が多い筆者の新作となります。

 今回も豊富な内容が書かれていますが、多くの部分で書かれているのは、人間が進化の過程で集団内で身に着けた特徴にがもたらす様々な弊害になります。

・自尊心が高いから物事がうまくいくのではなく、上手くいく人の自尊心が高いだけ

・行き過ぎた共感は分断を生む

・芸能人のスキャンダルを好むのは上の立場の人を引きずり下ろすことに脳が快感を感じるため

・能力の低い人が話し合いに参加すると、マイナスになってしまう

など様々な事例が書かれています。

 本書でも書かれている通り、人類の進化は幸福のためでなく生存と生殖のためにあるということがとてもよくわかる本になっています。

 本書を読むことで、人間が持つ本能的な面を知り、知識として持っておくことで、本能が悪く働きそうなときに少し冷静になれるのではと思います。

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