超入門カーボンニュートラル 夫馬賢治 講談社+α新書 要約

本の概要

 カーボンニュートラルを聞く機会は増えましたが、その影響力は多くの人が思っている以上に大きなものです。

 特に、カーボンニュートラルが環境保護団体などではなく、多くの経済界から出始めていることが大きな変化です。

 経済界もこれ以上の地球環境の悪化は長期的な経済へ与えるダメージと考え、投資家や銀行が出資する企業にカーボンニュートラルを達成するように迫っています。

 経済成長と環境負荷の低減の両立が可能とするデカップリングを経済界が追求することで、多くの分野、業種で産業構造の変化が起こっています。

 変化についていかなければ、長期的に大きなダメージを受けてしまいます。本書では現在カーボンニュートラルがどのようにとらえられているのかまとめられています。

この本がおすすめの人

・カーボンニュートラルについて知りたい人

・各国や企業がどのようにカーボンニュートラルを考えているか知りたい人

・経済成長と環境問題解決の両立は不可能ではと考えられている人

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本の要約

カーボンニュートラルは社会にどのような影響を与えるのか

 近年、カーボンニュートラルの潮流が各所で見られるますが、その破壊力はきちんと理解さえれていません。カーボンニュートラルという波を乗りこなさなければ、大企業、中小企業問わず会社や事業が吹き飛んでしまいかねない状況が近づいています。

 デジタル技術を扱う企業の中には、いち早くカーボンニュートラルの潮目を察知した企業も多いですが、この流れはデジタル技術だけでなく、もの作りにも及んおり、日本の企業に与える影響も大きいものになっていきます。

カーボンニュートラルはあらゆる企業に影響を与えて、対応しなければ会社や事業がなりたたなくなっていまいます。

なぜカーボンニュートラルが注目されているのか

 カーボンニュートラルはこれまで環境活動家の言葉でしたが、経済界でも使われることが増えており、環境問題が大きな経済問題として、認識されてきています。

日本でも2050年のカーボンニュートラルを宣言しており、大きな注目を浴びています。

環境問題が環境活動だけでなく、経済問題として認識されたため、世界中で注目を浴びています。

カーボンニュートラルとはなにか

二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出分をプラス、大気からの吸収分をマイナスとし、温室効果ガスの排出をプラスマイナス0とすることがカーボンニュートラルの定義となっています。

カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出分と大気から吸収分を±0にすることです。

なぜ気候変動が経済的な問題となったのか

 温室効果ガスによる気温上昇は大災害を増やし、多くの損害額を出しており、保険損害額も右肩上がりに上昇しています。

気候変動は農作物の収量減少や品質の低下、洪水リスクの増加、熱中症や蚊による感染症の増加など要因となり多くの業界でリスクが増加すると見られています。

気温上昇による災害の増加が経済的な損害を出すため、経済界も大きなリスクと認識するようになったため、気候変動が経済的な問題へと変化しています。

気候変動による金融危機が起こるとどうなるのか

2020年に国際決済銀行がグリーンスワンと呼ばれるレポートを発表しました。このレポートでは気候変動が巨大な金融危機をひき起こすリスクがあると世界に警鐘を鳴らすものでした。

気候変動が金融、経済に与える影響には気候変動による災害などの経済ダメージである物理リスクと気候変動を緩和しようとした際の経済システムの影響である移行リスクの二つがあります。

気候変動による経済危機が起これば金融機関にできることはほとんどないという極めて重い発言であり、これまでの環境保護団体や国連からの警鐘と比較しても重く受け止められ、各国の中央銀行に大きな衝撃を与えた。

気候変動による災害などで経済危機が起きた場合、金融機関にできることがほとんどありません。この発表が環境保護団体ではなく、国際決済銀行という金融機関からされたことで経済界に大きな衝撃を与えました。

気候変動による災害でなにが起こるのか

 災害で打撃を受けた企業の株価の下落は年金や保険の運用資産の減少につながり、企業が倒産してしまえば、融資をしている銀行も倒産する可能性もあります。不測の事態が多くになり過ぎれば保険が成り立たなくなる可能性も指摘されています。

 気候変動のもたらす金融システムへのインパクトの恐ろしさはこれらの影響が世界中で同時多発的に発生してしまうことです。従来ある地域のリスクを別の地域でヘッジしてきたが、気候変動ではこの仕組みがうまくいかなくなってしまいます。

 気候変動によって資源や食料が調達できなくなったことで物価が上昇し、この状態で経済活動が停滞するとスタグフレーションの状態となり、金融政策での対応は困難となります。そのため国際決済銀行は気候変動そのものを止めるためにレポートを発表しています。

アメリカのFRBなども気候変動が金融危機を招くリスクがあると発表するなど、気候変動の防止が金融的にも大きな価値を持つと表明されることが増えている。

災害による被害を受けた企業の株価下落や保険業の収益悪化などが起きてしまいます。また気候変動は世界中で同時多発的に発生するため、地域を変えてリスクヘッジできません。

そのため国際決済銀行は気候変動そのものを止めるべきという発表をしています。

どうやってカーボンニュートラルを達成するのか

温室効果ガスの年間排出量は現在、世界全体で50Gtです。自動車交通、発電、農業、畜産、工場など排出の要因となる業界は多岐にわたっており、人間社会は温室効果ガス排出と密接に関わっています。

至る所で温室効果ガスを排出しているため、排出そのものを0とするのは現実的でありませんし、その目処は立っていません。

現在考えられているのは、排出した分を吸収し排出量を±0とする方法や,できる限り排出量を減らした上で、どうしても減らせない分を大気から吸収しすることで±0とする方法です。

減らせない分を大気から吸収することを二酸化炭素除去(CDR)やネガティブエミッションと呼び、植林や森林の育成、マングローブ林での海藻、植物プランクトンなどの海洋生物、バイオ炭の利用、二酸化炭素を化学反応で除去する方法、バイオ燃料の利用などがあげれられます。

2050年の時点でカーボンニュートラルを達成すれば、2100年の気温を1.5℃の上昇に抑えられるため、2050年のカーボンニュートラが各所で目標とされています。

排出量を0にする目途はたっていません。排出量をできる限り減らしたうえで、吸収する方法が現実的と考えられています。

資本主義による経済成長が気候変動を起こしているのか

資本主義による経済成長が気候変動を起こしているという声もありますが、資本主義以外の政治体制でも経済成長は求められてきており、また経済成長を求める気持ちを止めることはできなません。

 経済成長と気候変動は切り離すことができるとするデカップリング論にも注目が集まっています。新興国ではGDPと排出量は比例する傾向にありますが、中国やアメリカなどの先進国でのGDPあたりの温室効果ガスの排出量は減少傾向にあり、新興国へ技術移転すればデカップリングした状態で経済成長を行うことができる可能性があります。

資本主義以外の国でも経済成長は求められており、止めることはできません。

 先進国では経済成長しても温室効果ガスの排出が減少傾向にあるため、新興国に技術を移転できれば温室効果ガスの排出を抑えて、経済発展が可能となる可能性もあります。

経済界はどのように気候変動への対応を行っているのか

ESG投資の潮流からも明らかなように、多くの投資家や銀行は気候変動に大して大きな危機感を持っています。クライメートアクションと呼ばれる年金基金、保険会社、運用会社が加盟する団体は世界で温室効果ガスの排出の多い167社に株主権限で温室効果ガスの排出量を削減するよう圧力をかけている。

167社は2050年までに自社だけでなく取引先のカーボンニュートラルを求められています。

企業だけでなく債権にも投資しているため,各国の政府にもカーボンニュートラルの実施を迫っています。銀行も融資の条件に環境対応を持ち込んだり、環境や社会の観点で目標を設定し、達成できれば融資条件を優遇するなどの処置をとるようになっています。

投資家や銀行が融資先となる企業や国にカーボンニュートラルを求めてることで、経済界にもカーボンニュートラルを求める動きが加速しています。

幅広い業界で取り組みが続いている

カーボンニュートラルを実現した世界では風力と太陽光による発電が大幅に増加すると見られています。再生可能エネルギーへの移行は発電コストが上がるとの懸念もあるが,2030年には火力発電のコストを下回ると見られています。

自動車業界では電気自動車や燃料電池車が一般化し、2050年にはガソリン、ディーゼル車は4%に減少するとされています。船舶、航空機でも電動化、燃料電池化は検討されています。電池の製造も再生素材の利用などで温室効果ガスの排出を少なくする見通しとしています。EV車をすべて再生素材から生産し、EV動力を再生エネルギーで行えば、ガソリン車よりも温室効果ガスを98%削減可能です。

・ICT産業はサーバーセンターでの電力消費量減や電力消費の少ない量子コンピュータの開発。

・プラスチック製品はリサイクルの効率向上や代替品での対応

・二酸化炭素の少ないコンクリート製造

 などカーボンニュートラルに向けた動きは広い業界で見られています。

再生可能エネルギーや電気自動車などが知られていますが、それ以外の幅広い業界で温室効果ガスの排出を抑える工夫がなされています。

企業の動き以外に変えるべきものは何か

 多くの業界でカーボンニュートラルへの転換が進み、モノが大きく変わってますが、人間の消費行動パターンも変える必要があります。

 省エネを行う、カーボンニュートラルを行っている企業の製品、サービスを優先して購入する、ナッジを利用して金銭的なインセンティブ無しで行動を変えることなどを意識する必要があります。

環境対応した企業の商品を購入するなど人間の消費行動を変える必要もあります。

世界の国々はカーボンニュートラルとどう向き合っているのか

 ヨーロッパはいち早く、カーボンニュートラルを掲げれば産業競争力を実現できると腹をくくった地域です。世界で気候変動政策が強化される前に先取りしておけば、市場で勝つことができると考えています。

 EU加盟国だけで27か国あるため、国際会議で大きな影響力を行使できる点が武器となります。天然ガスを大量にロシアから輸入しており、再生可能エネルギーへの転換は政治的な独立性を高める意味でも有用となります。

 中国は2060年のカーボンニュートラルを宣言し、多くの人が驚かされました。すでに大きな市場を持ち、世界の工場としての働きをしていますので、排出減と経済力強化を結び付けることができれば恐ろしいほどの力を発揮します。

 アメリカはバイデン政権に変化し、グリーンニューディール政策を打ち出しています。カーボンニュートラル実現のための産業で中国を追い抜き、中国の台頭を防ぐことが大きな目的となります。アメリカの武器である世界有数の企業を抱える産業界の力と資本市場の半分を占める資金力で政治力と経済力での復権を目指しています。

 中東では再生エネルギーの台頭は石油や天然ガスの需要減少につながり、国家収入が落ち込む可能性があります。これらの国ではオイルマネーを活かした資産運用で石油の需要減に備える動きを取っています。

 新興国への支援でも先進国がしのぎを削り、各地域との連携を深めようとしています。

各国がカーボンニュートラルに向けて動き出しています。環境保護という目的もありますが、カーボンニュートラルをビジネスチャンスととらえ、早期に市場を確保するためという目的もあり、力を入れています。

世界は脱資本主義ではなく、ニュー資本主義に向かっている

 ニュー資本主義は環境社会でのインパクトと持続可能な経済成長の両立つまりデカップリングが可能とする考え方です

 脱資本主義の主張ではデカップリングは不可能で、短期的な利益を追求を追求する企業や資本家が気候変動に取り組むことは出来ないしている。

 しかし、現実的にはデカップリングが可能としたのは国連と環境NGOであり、企業や投資家もそれに倣いニュー資本主義に移行しています。

 現状を維持することは未知の世界に飛び出さずに済み安心感があります。しかし、変化の激しい時代では長期的には大きなダメージと受けてしまいます。

 カーボンニュートラルという新しい変化は避けることができないため、新しい時代の中で生きていくこととなり、どのような経済認識で行くかを考える必要があります。

世界は脱資本主義でなくても、経済成長と環境負荷の低減が可能と考えるニュー資本主義に移行しています。

現状維持ではなく、変化が避けられない社会で、未知の世界に飛び込むことなしでは長期的に大きなダメージを受けてしまいます。

感想

 環境問題の解決というとどうしても経済成長をあきらめる必要があるのでは?と思ってしまいます。

 しかし、経済界が長期的な成長をしても環境悪化を防ぐことができるとするデカップリングを目指すような動きが加速しており、両立が可能というデータも増えています。

 世界中が経済成長をしながら、環境負荷を減らす方向にかじを切っていることがよくわかりました。経済成長をあきらめ、生活レベルを下げたり、今でも満足のいく生活をしない人たちに環境負荷を減らすために、経済成長をあきらめさせるようなことよりもよほど現実的であることがよくわかります。

 また、カーボンニュートラルが一般化することで社会の在り方や産業構造には大きな変化が起こる可能性があります。世界中がビジネスチャンスとしてとらえており、変革していることもよく理解できました。多くの業界でカーボンニュートラルを目指す動きは確実に続くため、多くの人がカーボンニュートラルを知っておくべきだと感じました。

 カーボンニュートラルとはなにか、なぜ大きな注目を浴びているのか、世界は同カーボンニュートラルと向き合っているかなどがよくわかる本になっていました。

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