科学と資本主義の未来 広井良典 要約

本の概要

限りない拡大成長を志向してきた資本主義の限界が多くのところで、指摘され始めているように、現代はより効率化することで経済成長を目指すスーパー資本主義と持続可能性に軸足を置いたポスト資本主義がせめぎあっている状態です。

科学と資本主義は密接な関係にあり、これまでも科学の変換が資本主義や消費の形態を変えてきましら。

このせめぎあいがどのように決着するかにも科学の発展が大きくかかわってきます。

科学を狭い目的から解き放つことで、持続可能性があり、人間の幸福に軸を置いた持続可能な福祉社会という資本主義の究極系にたどり着くことができる可能性もあります。

科学と資本主義がどうかかわってきたのか、科学に求められ役割や資本主義をどうとらえれていくかを知ることができる本になっています。

この本がおすすめの人

・資本主義の行く末を考えたい人

・コミュニティ経済を実現する方法を知りたい人

・経済発展を追い求めることが正しいのか考えたい人

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本の要約

要約1

現代は、すべてがデジタル化された効率化社会を目指すスーパー資本主義と地球資源の有限性に関心を向け持続可能性に軸足をおいたポスト資本主義がせめぎ合った状態です。

このせめぎ合いがどのように進み、どのような結末になるかには科学がどのように発展していくかにかかっています。

近代科学は資本主義と両輪のような形で発展してきており、競争力の強化や生産性向上、限りない経済成長の手段として用いられてきました。

しかし、科学を競争力強化や生産性などの狭い目的から解き放つことで、持続可能性や幸福といったこれからの社会で求められることに貢献できる可能性があります。

要約2

人類の歴史を大きく俯瞰すると、人口や経済の拡大、成長から成熟、定常化へ変化するというサイクルを3回繰り替えてしており、現在は産業革命を発端にした3サイクル目の定常化の入り口に立っています。

第1のサイクルは人類の誕生で、その定常期で心や意識を生み出しました。

第2のサイクルは農耕の誕生で、その定常期で宗教を生み出す精神革命が起きました。

今世紀後半には世界人口が頭うちになるなど第3のサイクルも定常期へと進んでおり、これらに匹敵するようなものが生まれる可能性があります。

地球環境問題や資源の有限性などの問題がある中で、物質面の充足から精神面への充足を重視する価値観への移行が起きれば、人類の新たな生存の道にもつながります。

要約3

科学技術と資本主義は密接にかかわっており、科学の発展とともに消費や産業形態に変化をもたらしてきました。

科学の対象が物質→エネルギー→情報と進歩するつれて、消費、経済構造も同じように市場経済→工業化社会→情報化社会と変化してきました。

現在、科学の対象は情報から生命へ移っており、消費経済構造も変化していく可能性もあります。

対象が情報から生命へ移ったことで、持続可能な社会や福祉の幸福のための科学があり得るという考え方がなされていますし、科学を生産性向上などの狭い意味から解き放ち、科学的な探求という好奇心で精神目での充足につなげることができる可能性もあります。

要約4

資本主義の定義は様々ですが、単なる市場経済のことを指すのではなく、市場経済+限りない拡大成長を志向するシステムととらえることができます。

限りない拡大成長を追う中でも、再分配の導入や環境保護のための制約など、これまでも資本主義に修正を加えられてきました。

現在では、環境パフォーマンスの良い国ほど、格差が少ない傾向が見られており、持続可能な福祉社会こそが資本主義が行き着くはずの究極の姿と言えます。

持続可能な福祉社会実現には、コミュニティ経済の発展、国を挙げて一本の道を上るような経済成長がすべてを解決するという考えからの脱却や教育などの人生前半の社会保障も充実などが必要です。

資本主義に科学はどうかかわっているのか

 現代は、すべてがデジタル化された効率化社会を目指すスーパー資本主義と地球資源の有限性に関心を向け持続可能性に軸く足をおいたポスト資本主義がせめぎ合った状態といえます。

 このせめぎ合いがどのように進み、どのような結末を迎えるかには科学がどのように発展していくかにかかっています。

 近代科学は資本主義と両輪のような形で発展してきており、競争力の強化や生産性向上、限りない経済成長の手段として用いられてきました。

 しかし、科学には持続可能性や人間の幸福にも貢献出来る可能性を持っています。

 科学や技術を狭い目的から解き放つことで、科学や技術がこれからの社会の発展に大きく貢献できる可能性があります。

現代は、すべてがデジタル化された効率化社会を目指すスーパー資本主義と地球資源の有限性に関心を向け持続可能性に軸く足をおいたポスト資本主義がせめぎ合っており、どちらの未来になるかには科学が大きくかかわっています。

科学を限りない経済成長の手段という狭い目的から解き放つことで、持続可能性や幸福にも貢献できる可能性をもっています。

人類の歴史はどのようなサイクルを繰り返してきたか

 人類の歴史を大きく俯瞰すると、人口や経済の拡大、成長から成熟、定常化へ変化するというサイクルを3回繰り替えていることが分かります。

 また、拡大、成長から成熟、定常化への移行期間にはそれまでに存在しなかった革新的な思想や観念が生まれています。

 第1のサイクルは人類の登場、第2のサイクルは農耕と都市化によって、第3のサイクルは産業革命によってもたらされています。

 現在、我々は第3のサイクルの定常化の入り口に立っているといえます。

人類は誕生以降、人口や経済の拡大、成長から成熟、定常化へ変化するというサイクルを繰り返しています。

第1のサイクルは人類の登場、第2のサイクルは農耕と都市化によって、第3のサイクルは産業革命によってもたらされており、現在は第3のサイクルの定常化の入り口です。

第1、2のサイクルの定常化の入り口では何が起きたのか

 第1のサイクルの定常化の入り口で、人類は実用性だけでなく、装飾を行うなど心や意識と呼ばれる物を生み出しました。

 第2のサイクルの定常化の入り口では、同時多発的に現在まで続くような、思想や宗教が生まれるなど精神革命がおきています。

 第3のサイクルは産業革命後拡大と成長を繰り返してきましたが、今世紀後半には世界人口が頭うちになるなど定常化へと進んでおり、心の創出や精神革命に匹敵するような新しい思想や価値観が生成する時代の入り口に立っています。

第1のサイクルの定常化の入り口では、心や意識と呼ばれる物を、第2のサイクルで新しい思想や宗教が生まれる精神革命が起きています。

今世紀後半には世界人口が頭うちになるなど定常化へと進んでおり、これらに匹敵するようなものが生まれる可能性があります。

なぜ、GDPに代わる指標が注目されているのか

 ウェルビーイングや幸福というテーマへの関心が高まっています。

 GDPなどの指標では現代の豊かさを把握することはできず、今後は持続可能性と幸福の2者が両輪となって、中心的な役割を果たすものと考えられます。

 地球環境や資源の有限さから限りない拡大、成長から持続可能性へ軸足を置いた姿への転換と同時にGDPの増加に代わる目的として、幸福の増加への転換が起きています。

 幸福には段階があり、最も基本となるのは食料や健康など生命や身体に関わるものです。その土台の上に、つながる幸福としてコミュニティが存在し、最上段に自己実現を含む個人が存在しています。

 GDPには人とのつながり、コミュニティにかかわることが含まれていないため、幸福との乖離を起こす要因になっています。

GDPには人とのつながり、コミュニティにかかわることが含まれていないため、現代の豊かさを把握することができていません。

また、地球環境や資源の有限さから限りない拡大、成長から持続可能性へ軸足を置いた姿への転換上でもGDPに代わる指標が必要になっており、持続可能性と幸福、ウェルビーイングが両輪となっていくと考えられています。

科学は幸せや持続可能性にどのように貢献できるのか

 これまで、科学は主として幸福の土台となる領域に主な関心を向けてきましたが、今後はより上段であるつながる幸福を豊かにするような科学や技術の重要度が増していきます。

 さらには広い意味での科学的探究そのものが知的好奇心を満たすという意味で、人々にとっての自己実現の一部となれば、知的な探求や創造性が大きな喜びになっていきます。

 資源や環境の持続性という観点からも、資源消費を我慢するという消極的なものでなく、物の豊かさだけでは充足できなくなり、知的な探求を求めるという新たな価値にポジティブに移行することができれば人類の新たな生存の道を見出すことにもつながります。

 実際に第2のサイクルの定常化の入り口で起きた精神革命では、物質面での充足から精神面での充足が起きています。

 現代の第3のサイクルの定常化の入り口でも同じような変革が起きる可能性は充分にあります。

科学はこれまで、物質的な豊かさを求めることに主な関心を向けてきましたが、幸福などでの科学の重要性も増しています。

科学の持つ知的な探求や創造性は自己実現という幸福の最上段の領域を満たすことができる可能性もあります。

第2のサイクルでも物質面の充足から精神面への充足への変化に注目が集まっており、第3のサイクルでも同じような変革が起きる可能性はあります。

科学と資本主義にはどんな関係性があるのか

 科学技術と資本主義は密接にかかわっており、科学の発展とともに消費や産業形態に変化をもたらしてきました。

 科学の対象が物質→エネルギー→情報と進歩するつれて、消費、経済構造も同じように市場経済→工業化社会→情報化社会と変化してきました。

 ポストデジタル時代を迎え科学の対象は情報から生命へ移っています。

 これまでの科学は生産性向上、限りない拡大・成長という市場経済と一体のものと考えられてきましたが、対象が情報から生命へ移ったことで、持続可能な社会や福祉の幸福のための科学があり得るという考え方がなされています。

科学の対象が変化することで、経済の構造も変化してきました。

今、科学の対象が情報から生命に移りつつあるため、経済の構造変化が起こる可能性があります。

資本主義とは何か、どのような方針変換が求められているのか

 資本主義の定義は様々ですが、単なる市場経済のことを指すのではなく、市場経済+限りない拡大成長を志向するシステムととらえることができます。

 環境負荷などの増大から資本主義の方針を変革することが求められており、その方向は以下の二つです。

1.グリーングロース:資源消費や環境負荷を最小限にし、GDPの増加、経済成長は追求する。

2.ディグローズ:GDPの増加に代わる豊かさの指標や社会の姿を志向する

 ただし、大きく見て持続可能性や地球の資源の有限性を重視する基本スタンスでは共通する部分も多く、グリーングロースを経て、究極の姿であるディグロースへと移行していくものということができます。

資本主義とは市場経済+限りない成長を志向するシステムのことです。

環境負荷の軽減や限りない拡大成長からの脱却などへの方針変換が求められています。

これまで資本主義はどのように変化してきたのか

 資本主義は限りない拡大成長を志向するシステムではありますが、これまでも修正を行ってきています。

 第1の修正は第二次世界大戦以降の福祉国家による再分配政策での市場経済の修正、第2の修正は1970年ごとに顕在化した環境資源制約を背景とした修正です。

 国家による再分配と環境のための対策は別個に論じられることも、少なくありませんが、この二つを合わせた持続可能な福祉社会こそが資本主義が行き着くはずの究極の姿と言えます。

 現在でも、環境パフォーマンスの良い国家ほど、格差の少ない傾向がみられています。

資本主義は再分配の導入、環境資源の制約への対応などで変化してきました。

持続可能な福祉社会こそが資本市議の行き着く究極の姿といえます。

再分配、福祉政策はどう変化していくのか

 国家による資本主義の修正による再分配政策は、生活保護のような事後的なものから、社会保険、雇用創出など徐々に事前的なものへと変化しています。

 これからの社会で求めれる再分配、福祉政策には以下のようなものが挙げられます。

1.教育を含む、人生前半の社会保障

2.住宅土地などストックに関する保証や再分配

3.コミュニティそのものの活性化や経済循環によるコミュニティ経済の強化

 これまでの公=福祉、私企業=利益追求という視点だけでなく、社会全体でコミュニティ経済を発展させるような視点が必要です。

 物質的な豊かさが飽和する中で、経済成長=国を挙げて集団で一本の道を上るモデルの延長では、人々の創造性は失われ、孤立格差が深まってしまいます。 

 経済成長がすべての問題を解決してくれるのではなく、環境、福祉、経済が調和した持続可能な福祉社会を議論、構想していくことで成熟社会をデザインすることができます。

再分配政策は、生活保護のような事後的なものから、社会保険、雇用創出など徐々に事前的なものへと変化しています。

経済成長がすべての問題を解決してくれるのではなく、社会全体でコミュニティ経済を発展させることで、環境、福祉、経済が調和した持続可能な福祉社会を議論、構想していくことで成熟社会をデザインすることができます。

コミュニティ経済の利点は何か

 これからの社会では、コミュニティの観点から人々の観点から人々の生活の質を高めつつ、地域経済の活性化に寄与することが求められます。

 このような社会の実現が、福祉、環境、経済いずれにもプラスをもたらしていきます。

 実現する方法の例としては以下のようなものがあります。

1.商店街の復活:車の運転の難しくなった高齢者の取り込みや大型店舗やショッピングモールにはないコミュニティとしての役割を果たす

2.土地の管理手法の変更:耕作地の放棄や所有不明の土地の増加に対応するために、家族による相続のみで土地の受け継ぎから脱却する

コミュニティ経済の発展した社会は福祉、環境、経済、いずれにもプラスをもたらします。

医療はどう進化していくのか

 アメリカは医療研究の多額の資金を費やし、GDPでの医療費も先進国の中で多いのですが、平均寿命は短くなっています。

 これまでの医療は身体内部の物理化学的メカニズムの解明に注力してきましたが、健康には食生活などのライフスタイルやストレスなどの心理的要因など様々な要因が関わっているため、社会的、環境的要因までを視野に入れた複雑系としての病を解明する視点が重要になっています。

 生命に関する理解でも、機能的な面だけを解明し、機械的なものであるという認識から、生命に固有な現象の解明へと移行してきています。

これまでの医療は医療は身体内部の物理化学的メカニズムの解明に注力してきましたが、会的、環境的要因までを視野に入れた複雑系としての病を解明する視点へと変わっています。

日本社会はどう変化していくべきか

 日本では少子高齢化が進んでいることもありますが、社会保障費を中心に、高齢者への再分配手厚く、教育など若い世代への公的支援が国際的に見ても小さくなっています。

 教育や大学支援など人生前半の社会保障を、充実させる必要性があります。

 日本では、経済成長がすべてを解決してくれるかと考える人が多い、合意形成が難しい問題は先送りされ、その場にいない将来世代に負担が押し付けられやすい傾向から世代間の不公平が改善されにくく、このことは環境問題にも共通しています。

 持続可能性や未来世代への責任に向き合う政治が必要になっています。

経済成長がすべてを解決してくれるという考えから脱却し、持続可能性に目を向ける必要があります。特に教育など人生前半の社会保障の充実が求められています。

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