こうして絶滅種復活は現実になる エリザベス・D・ジョーンズ 要約

本の概要

古生物、とりわけ絶滅した古代生物のDNA探索は1980年代に生まれ、SF的アイデアから実際の研究分野へと発展してきました。

この分野はジュラシックパークによって現実性の低い段階から、マスコミから大きな注目を集めていました。このような科学分野は少なく、科学とマスコミの相互作用で発展してきた珍しい科学分野といえます。

初期段階からマスコミの注目を浴びることは、資金集めを容易にし、多様な研究者の参入者を促すなどの利点があげられます。

一方で、大衆が不可能なことを可能と勘違いし、のちに失望し研究分野全体への期待が失われる、本質的な研究ではなく、如何に注目されるかの競争になるなどのデメリットもあります。

それでも、科学者が大衆に研究内容やその意義を説明することの必要性の理解を広めたことも事実です。

今後、科学とメディアの結びつきが強くなることで大きな発展や偉業につながる可能性も秘めています。

この本がおすすめの人

・絶滅動物の復活について知りたい人

・ジュラシックパークが生み出したセレブリティ科学について知りたい人

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本の要約

古代生物のDNA探索は科学分野の中でなぜ特別なのか

 古生物、とりわけ絶滅した古代生物のDNA探索は1980年代に生まれ、SF的アイデアから実際の研究分野へと発展してきました。

 この分野の研究は、特にジュラシックパークによって知られ、現実性が低い段階から大衆、マスコミから大きな注目を浴びてきました。

 研究の初期段階から世間からの注目度の多い科学分野はあまりなく、科学とマスコミの相互作用によって古代DNA探索は社会を向いた科学をはるかに超える存在へと成長してきました。

標準的な科学分野ではある程度の結果が出てから注目を集めることが多いものです。

ジュラシックパークの大ヒットで、現実性の低い段階から大衆、マスコミから大きな注目を浴び、科学とマスコミの相互作用で大きく成長してきました。

古代生物のDNA探索はなぜ、難しいのか

 DNAのような有機物は骨などの無機物と異なり、長い期間保管されていることはないとされてきました。

 琥珀の中に古代生物のDNAが残っているのではというアイデアは1985年に初めて発表されますが、大きな批判を浴びています。

 琥珀中から4000万年前の昆虫の組織が検出されましたが、それでもDNAが検出できると考える人は、ほとんどいませんでした。

 しかし、琥珀の中に閉じ込められた蚊の体内から恐竜のDNAを取り出して、復活させるという設定を利用したジュラシックパークが大ヒットしたことで大きな注目をあび、多くの研究者が検討するようになっていきます。

DNAは有機物で、有機物が古代から完全に残っていることはないと考えらえていたため、ジュラシックパークのアイデアの実現は不可能と考えられていました。

損傷したDNAをどうやって確認するのか

 恐竜だけでなく、マンモスなど多くの絶滅動物のDNAの探索と復活はマスコミの大きな注目を浴び、一般紙でも大きく報道されました。

 年月の経ったDNAは腐敗や損傷が激しいため、 損傷したDNAを増幅する技術が必要でした。

 1980年代半ばにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってわずかなDNAから、多くのコピーを作ることができるようになると損傷したDNAの増幅が容易に行うことができるようになりました。

 しかし、試料に他のDNAが混入した場合、後から混入したDNAのほうが優先的に増幅されてしまうため、増幅したDNAが古代生物のものかそうでないかを確かめることは非常に難しかった。

 多くの研究で汚染DNAを古代生物のものとする結論を出してしまうこともとても多くみられました。

PCEによってDNAを増幅し、研究が行われています。しかし、増幅したDNAは後から混入したものと区別できないため、多くの研究で汚染したDNAを古代生物のものとしてしまっていました。

ジュラシックパークのヒットで古代生物のDNA探索はどう変化したのか

 1993年に映画ジュラシックパークが大ヒットすることで古代DNA研究分野には凄まじい注目が集まり、その質とは無関係に多くの研究者が資金調達と評判を高めることができるようになりました。

 多くの研究者はDNAやタンパク質などの有機物が長い期間保たれるとは考えていませんでしたが、PCRによる汚染で古代生物とは無関係なDNAを古代生物によるものと考えてしまうようなことも多くみられました。

 それでも、マスコミの注目を利用して参入する研究者も後を絶ちませんでした。

古代DNA研究分野には凄まじい注目が集まり、その質とは無関係に多くの研究者が資金調達と評判を高めることができるようになったため、多くの研究者が参入してきました。

マスコミの注目は研究のどのように影響したのか

 恐竜のDNA検出が困難であることが徐々に明らかになると、一部の研究者はもう少し新しい試料に目を向けるようになっていきます。

 新しい試料であってもネアンデルタール人などのDNA検出がなされた際には、大きく報道されその注目度は決して落ちていませんでした。

 それでも、古代DNAをめぐる汚染や本当に古代DNAなのかを判断するための技術的な困難は変わっておらず、研究の質が劇的にあがることはありませんでした。

 汚染を防ぐために標準化などの試みも行われましたが、完全ではなく徐々に社会からも期待外れとのイメージを持たれることも増えてしまいました。

 注目を浴びすぎると質が悪い研究が増えたり、不可能なことを可能と報道され、後で成果が期待通り出ずに失望されるというような悪循環がおきるようになっていきました。

過度な注目を浴びることで質が悪い研究が増えたり、不可能なことを可能と勘違いされ、のちに期待外れとなり、失望感が広がる悪循環が起きるようになりました。

近年の古代DNA探索はどのような状況か

 2005年に次世代シーケンシング(NGS)が開発されるとDNAの塩基配列の速度が大幅に上がり、はるかに容易になりました。

 NGSによってそれまでよりも、ごくわずかな時間と費用で大量かつ高品質なデータを生み出すことができるようになりました。

 膨大な量のDNAの配列データを手にすることができるようになると、汚染かそうでないかの判別もしやすくなり、研究の質は大きく向上しました。

 一方で、DNAの配列データを読み解く技術が求められすぎて考古学などの観点からはありえないような結論を出してしまったり、配列を決定する意義を考えず、とにかく新しい生物のDNA配列を決定する競争のようになってしまうような状態も起きてしまいます。

次世代シーケンシング(NGS)の普及で、ごくわずかな時間と費用で大量かつ高品質なデータを生み出すことができるようになり、研究の質が大きく向上しています

ただ、意義がなくとも、とにかくDNA配列を決定すればよいという競争になってしまっている面もあります。

科学とメディアの結びつきをどうとらえるべきか

 多くの注目と資金によって多様な人材が古代DNA探索の研究を行うことで、古代DNA探索という研究分野が作られ、発展してきました。

 NGSによって多量なデータ分析は可能になったが、絶滅動物を復活させることができるとは限らない。マンモスのDNAデータをすべて再現できたとしても、周囲の環境が異なれば、それはマンモスもどきに過ぎないものです。

 また、絶滅動物の復活に資金を使うのであれば、現在絶滅しつつある動物の保護に資金を使うべきなどの批判も少なくありません。

科学とマスコミが結びついていけないわけでないが、その関係性を良好なものに保つことはとても難しいことです。

セレブリティ科学は何をもたらしたのか

 大衆の高い関心と極度のメディア露出の影響下で発展する科学はセレブリティ科学となり、研究者も実利的に名声を上げるために、大衆の注目を集めようとします。

 それによって現実味の低い段階で、大きな注目を浴びますが、実際には実現できず、メディアや大衆が失望することも少なくありません。

 その一方で、古代DNA研究の大きな発展を促し、進化生物学の重要な分野へとなっています。またメディアとの向き合い方の重要性を科学界に広げ、現在では科学者が研究内容を大衆に説明することの必要性が理解されています。

 21世紀になり、科学とメディアの結びつきが強くなることで、今後も大きな発展や偉業をもたらす可能性も十分にあり得ます。

注目度の大きさにはデメリットもありますが、古代DNA研究の発展に大きなプラスとなったことも事実です。

また、科学者が大衆に研究内容を説明すること必要性も理解されたことで、今後も科学とメディアの結びつきは強くなり、大きな発展や偉業につながる可能性も十分にあります。

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