トラウマ 「こころの傷」をどう癒すのか 杉山登志朗 要約

本の要点、概要

 虐待などによる長期にわたる体験によって心に傷を負ってしまうと、トラウマとなり、身体に様々な悪影響を及ぼしたり、たばこ、酒、薬物などへの依存や犯罪にも関係してきてしまいます。

 トラウマの治療は難しく、患者事態が対人不振に陥っていることもあり、治療が難しいものです。

 また、従来の治療法が時間がかかることや長期にわたる体験によるトラウマの治療には効果が薄いなどの問題点を抱えています。

 筆者は簡便で、安全性が高く、セルフケア可能な治療法であるTSプロトコールという方法によってこれまでのトラウマの治療法の問題点を改善しようとしています。

 トラウマという言葉が一般的になっていますが、正しく理解されていない面や治療が十分でない状態が続いています。

 トラウマとは何か、どのような問題を引き起こすもので、どのように治療が行われているのか、現在の治療法の問題点とTSプロトコールの優れた点はどんなところにあるのかを知ることができる本になっています。

この本や記事で分かること

・トラウマとは何か

・トラウマの治療法とその問題点

・TSプロトコールはどんな治療法なのか、その利点は何か

トラウマとは何か

 トラウマとは、抱えきれないほどのつらい体験によって受けたこころの傷のことです。

 重症なトラウマは自然治癒が困難で、長期的にこころに傷を負ってしまうと、その後遺症は心身に様々な悪影響を及ぼしてしまったり、たばこ、酒、薬物などへの依存や犯罪にも関係してきてしまいます。

 トラウマが様々な問題を引き起こすことが明らかにあったことで、トラウマを治療するニーズは高まっています。

トラウマとは、抱えきれないほどのつらい体験によって受けたこころの傷のことであり、トラウマは心身に悪影響を与え、たばこ、酒、薬物などへの依存や犯罪にも関係してきます。

トラウマの問題が明らかになり、治療ニーズが高まっています。

トラウマにはどんなものがあるのか

 トラウマとはこころの傷、心的外傷ともいわれますが、大きくは単回性と長期にわたるものに分けられます。

 単回生のトラウマは一度だけの怖い体験(大震災、犯罪被害、交通事故など)によってもたらされるものです。

 一方で、トラウマには長期にわたって、怖い体験が繰り返されることで傷を負ってしまうものもあります。

 虐待など長期的に繰り返されることによるトラウマでは、単回生のトラウマの治療とは異なる方法が必要になります。

トラウマには、一度だけの怖い体験によってもたらされる単回生のトラウマとトラウマには長期にわたって、怖い体験が繰り返されることで傷を負ってしまうものがあり、種類によって治療法を変える必要があります。

トラウマの治療法にはどんなものがあるのか

 トラウマを語らせ続け、慣れを生じさせる遷延暴露法やトラウマの記憶を思い出しながら、左右交互に眼球を動かすことで、トラウマと心理的な距離を保つことのできるようにするEMDRが存在しています。

 しかし、どちらの治療法も単回生のトラウマの治療法であるため、長期的な体験によるトラウマには効果が薄くなっています。

 また、トラウマ体験の言語化が必要となるため、発達障害など言語化が難しい子供には適していないという欠点があります。

従来の治療法では、長期にわたるトラウマでの効果が薄い、言語化できない子供などに利用できないなどの問題点があります。

フラッシュバックとは何か

 危機的な体験に遭遇した時にこころを守るために記憶を飛ばす現象が生じ、これは解離と呼ばれます。

 本当に忘れてしまうと、危機を回避することができないため、一度体験した危機に似た状態になると体に警戒警報が自動的に生じます。

 この防御メカニズムがきっかけとなり、トラウマをもたらしたつらい体験の再体験が起きてしまい、この再体験をフラッシュバックと呼びます。

 長期にわたる怖い体験によって、フラッシュバックがいつでも起こるようになると、過覚醒状態となります。過覚醒状態が続くと、感情の抑制機能が壊れ、気分の上下が激しくなり、自己への無力感、無価値観が生じ他者への信頼関係が崩れてしまいます。

 このような状態を複雑性PTSDと呼びます。

1度体験した危機に似た状態になると、体に警戒警報が自動的に生じます。警戒警報がきっかけとなり起こるつらい体験の再体験がフラッシュバックと呼ばれます。

フラッシュバックによる過覚醒状態が続いてしまうと複雑性PTSDをもたらしてしまいます。

トラウマ治療の問題点は何か

 トラウマという言葉自体は日常語になっていますが、正しく理解されていない面や治療が十分でない状態が続いています。

 トラウマの大きな要因である児童虐待では、児童を保護することが一般的ですが、加害者である親の大半も虐待を受けた経験がありトラウマを持っています。

 そのため、親への治療も必要ですが、親への治療の必要性は理解されていません。

 また、時間がかかるため、多くの治療はできないこと、現状の治療法ではフラッシュバックがあふれ出し、収集がつかなくなってしまうことも問題です。

親への治療の必要性の無理解、治療に時間がかかる、フラッシュバックなどがトラウマ治療の問題点です。

トラウマ治療の問題解決法はあるのか

 筆者は10年余りの年月をかけ、安全で誰でもできる簡易型トラウマ処理=TSプロトコールを開発し、ランダム化比較試験によって、その有効性を明らかにしてきました。

 TSプロトコールは以下のような内容からなりたっています。
・TS処方:精神薬のごく少量の処方
・TS処理:トラウマ記憶の想起を禁じ、身体的不快感を標的にバルサーによる刺激で不快感を抜く
・TS自我状態治療法:人格間のコミュニケーションを目的にして実施

筆者が発見したTSプロトコールでは精神薬のごく少量の処方、バルサーによる刺激での不快感の改善、多重人格(解離性同一性障害)への対処が可能となっています。

TSプロトコールの利点は何か

 有効性よりも安全性が重要なトラウマ治療において、服薬を微量とすることで、過剰服薬を防ぐことが可能です。

 一回のセッションをできる限り短時間に終えることが可能であり、からだの不調を改善することを優先し、こころのケアを進めていくことが可能であり、短時間の処理を重ねる事が行うことができるため、フラッシュバックを起こしにくいといった利点があります。

 そのメカニズムには不明な点もありますが、効果は科学的にも確認されています。

TSプロトコールは安全性の高さ、フラッシュバックの起こりにくさ、簡便さなどの利点を持っています。

トラウマ治療で重要なことは何か

 クライアントの中の全員に敬意と信頼を持つことが、心的外傷体験の治療を進めていくために必要な基盤となっています。

 重症度の高い場合には専門家の力を借りて対処することが不可欠です。

 一方で、専門家の少なさや症状の多様性もあり、未治療となってしまっている人が大勢おり、簡単でセルフケア可能な手法の必要性は増加しています。

 処置が簡単で効果の高い方法の確立によってトラウマの連鎖を少しでも減らすことができる可能性があります。

専門的な治療が必要ではありますが、簡便でセルフケア可能な手法が確立できれば、未治療となっている人が大勢いる状態でトラウマの連鎖を少しでも減らすことのできる可能性を秘めたものです。

本の要約

要約1

トラウマとは、抱えきれないほどのつらい体験によって受けたこころの傷であり、重症なトラウマは自然治癒が困難で、長期的にこころに傷を負ってしまうと、後遺症は心身全体に及び、たばこ、酒、薬物などへの依存や犯罪にも関係してきてしまいます。

トラウマが様々な問題を引き起こすことが、明らかになりにつれトラウマの治療ニーズが高まっています。
しかし、トラウマという言葉自体は日常語になっていますが、正しく理解されていない面や治療が十分でない状態が続いています。

トラウマの大きな要因となっている児童虐待において、児童を保護することが一般的です。
しかし、加害者側である親もまた大半が元被虐待児であり、治療が必要であることはあまり理解されていません。

また、従来のトラウマの治療は時間をかけて実践するため、あまり多くの治療ができない面もあります。

もう一つの隠れた問題点に治療中に過去のつらい体験のフラッシュバックがあふれ出し、収拾がつかなくなることがあり、治療者側も危険な領域に踏み込むことを躊躇してしまうという点があります。

そこで、筆者は10年余りの年月をかけ、安全で誰でもできる簡易型トラウマ処理=TSプロトコールを開発し、ランダム化比較試験によって、その有効性を明らかにしてきました。

要約2

トラウマとはこころの傷、心的外傷ともいわれます。  

トラウマには一度だけの怖い体験(大震災、犯罪被害、交通事故など)によってもたらされるもの(単回性)と、長期間にわたり怖い体験が繰り返されるものが存在しています。

トラウマの治療としては、トラウマを語らせ続け、慣れを生じさせる遷延暴露法やトラウマの記憶を思い出しながら、左右交互に眼球を動かすことで、トラウマと心理的な距離を保つことのできる
EMDRが存在しています。

しかし、遷延暴露法やEMDRは単回性のトラウマへの治療である、言語化が必要であり、発達障害などトラウマの言語化が難しい患者への適用が難しいなどの問題点があります。

虐待によるトラウマは長期間にわたることが多く、虐待によるトラウマや発達障害を持つ子供などには治療法にも工夫をすることが必要です。

危機的な体験に遭遇した時にこころを守るために記憶を飛ばす現象が生じ、これは解離と呼ばれます。
本当に忘れてしまうと、危機を回避することができないため、一度体験した危機に似た状態になると体に警戒警報が自動的に生じます。この防御反応がきっかけとなり、つらい体験の再体験が起きるのがフラッシュバックと呼ばれるものです。

長期にわたる怖い体験を受け続けると、安心が失われ、フラッシュバックがいつでも起きるようになり、体は長期間にわたって、戦闘モードとなり、過覚醒状態となります。
過覚醒状態が続くことで、感情の抑制機能が壊れ、気分の上下が激しくなり、自己への無力感、無価値観が生じ他者への信頼関係が崩れてしまいます。この状態が複雑性PTSDと呼ばれる状態です。

要約3

フラッシュバックの改善はカウンセリングのような傾聴ではうまくいきません。また、EMDRなどの治療法も複雑性PTSDなどへの効果は小さくなってしまいます。

一方で、ヨーガや座禅のような、こころとからだを一体のものとして扱うものは効果がある場合があります。

しかし、これらの方法で治療効果を得るには時間がかかるという欠点もあり、その点を克服したのがTSプロトコールと呼ばれる方法です。

TSプロトコールは以下のような内容からなりたっています。
・TS処方:精神薬のごく少量の処方
・TS処理:トラウマ記憶の想起を禁じ、身体的不快感を標的にバルサーによる刺激で不快感を抜く
・TS自我状態治療法:人格間のコミュニケーションを目的にして実施

TSプロトコールの利点は以下のようなものがあります。

・有効性よりも安全性が重要であり、服薬を微量とすることで、過剰服薬を防ぐことが可能
・こころとからだが不可分であり、からだの不調を改善することを優先し、こころのケアを進めて いくことが可能
・短時間の処理を重ねる事が行うことができるため、フラッシュバックを起こしにくい

TS処理のメカニズムにはまだ不明な部分が多くなっていますが、治療効果は科学的にも確認されています。

要約4

パルサーによる刺激を当てる部分は以下の4か所です。
①肋骨下緑の上腹部
②両鎖骨の下緑
③首
④こめかみ

症状によって異なりますが、①~④の順に、パルサー刺激を左右に充てる→肩呼吸という手順で処理を行います。

左右交互の刺激と肩呼吸による深呼吸で体の嫌な感じを上に抜くイメージで処理を行っていきます。
具体的にやることだけを指示し、一回のセッションをできる限り短時間に終えるという一見すると乱暴に見えるやり方ですが、効果が高く、安全性に優れています。

複雑性PTSDを持つ人の中には、つらい記憶を切り離すために多重人格(解離性同一性障害)を持っている場合があります。別人格が自殺してしまうなどの問題が発生します。

解離性同一性障害に対する治療法も、時間がかかってしまうという問題がありました。
TS自我状態治療法は、別人格も大事な仲間であることを告げ、つらい記憶を抱えているために、生まれる必要があり、いらない人格などいないことを説明していきます。

クライアントの中の全員に敬意と信頼を持つことが、心的外傷体験の治療を進めていくために必要な基盤となっています。

トラウマ処理は頻度の多さ、症状の多様さ、専門家の少なさなどもあり、未治療の人があふれています。また、深いトラウマを抱える人の多くがもつ対人不信もあり、簡単でセルフケア可能な方法の必要性は高まっています。

重症度の高い場合に、専門家の力を借りる必要がある場合ももちろんありますが、処置が簡単で効果の高い方法の確立によってトラウマの連鎖を少しでも減らすことができる可能性があります。

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