日本の電機産業はなぜ凋落したのか 要約

概要

日本の製造業や起業家の成功体験を書いた本は多く見られますが、失敗体験を、特に当事者の目線から書いた本は多くありません。

本書は自身がTDKなどで記憶メディアに従事した経験と、シャープ副社長である父との話をもとに筆者によって書かれた本になっています。

筆者はTDKなど日本の大手電機メーカーの凋落には共通の原因があり、その原因を5つの大罪としてとらえている。

親子の実体験からあぶりだされた5つの大罪とはなにか、どのように大手電機メーカーの凋落を招いていったのかを知ることができる本になっています。

この本がおすすめの人

・電機業界が凋落した理由を知り人

・今後の日本経済で必要なことを知りたい人

本の要約

要約1

技術大国日本の称号を築いてきた電機業界が、世界で存在感を失っています。

電機業界はデジタル化の波に対応できなかったことで、徐々に市場での地位を失い、凋落してしまいました。

要約2

デジタル化はアナロジーデータがデジタルに置き換わる第一段階とインターネットを利用したサービスの普及の第2段階の2つの段階で進行してきましたが、日本の大手電機メーカーはどちらの変化にも対応できませんでした。

大手電機メーカーはデジタル化の本質が「画期的な簡易化」にあることを見抜くことができなかったため、適切な対応ができず凋落してしまいました。

要約3

電機業界がデジタル化の本質を見誤ってしまったのは5つの大罪を犯してしまったためです。

1.誤認:自社技術の過信、周辺国の過小評価、市場ニーズの取り違えなど

2.慢心:技術力の過信などが非合理的な判断につながった

3.困窮:金銭的、人的、時間的、精神的ゆとりの減少

4.半端:アメリカ式の経営手法を中途半端の導入

5.欠落:リスクをとる姿勢とビジョンの欠落

5つの大罪がお互いに補完しあったことで、市場の変化や経営の変化に対応できなくなり、電機業界は凋落してしまいました。

要約4

日本企業の復活には多様性のある組織、経営の外部評価、エンゲージメントの上昇が必要です。

失敗と向き合い、原因分析をしっかり行い、改革を行うことが必要です。改革には痛みを伴うためセーフティネットの拡充は必須ですが、改革を行うことができれば、日本企業も復活できる可能性は充分にあります。

なぜ、電機メーカーは凋落したのか?

 技術大国日本の称号は電機業界が築いたといっても過言ではありません。

 トランスジスタラジオをはじめ、ビデオレコーダー、ウォークマン、家庭用ゲーム機、薄型テレビなど多くの新製品を世に出してきました。

 しかし、デジタル化が進む中で徐々にその存在感を失っていきます。

 デジタル化には大きく以下の二つの段階を経て進行してきており、日本の大手電機メーカーはどちらの変化にも対応できず、凋落してしまっています。

1.アナロジーデータがデジタルに置き換わる(カセット→CD、フィルムカメラ→デジタルカメラなど)

2.インターネットを活用したサービス(GAFAなどのサービスや通信技術の進化)

多くの革新的な製品を生み出してきた電機メーカーでしたが、デジタル化に対応できず凋落してしまいました。

デジタル化はどんな変化をもたらし、どこに本質があったのか?

 カセットテープは録音が面倒な作業が必要で時間がかかり、製造には巨大な設備が必要でした。

 一方のCDは、作業の面倒も減り、製造に必要な設備もカセットテープに比べて、小さくシンプルなものでした。

 使用感も製造においてもデジタルデータへの移行は「画期的な簡易化」が本質的な変化でした。

 日本の大手電機メーカーは活気的な簡略化の本質をつかむ事ができなかったため、衰退してしまいました。

デジタル化の本質はユーザーの使用感と製品製造における画期的な簡易化でしたが、日本の大手電機メーカーはその本質をつかむ事ができませんでした。

なぜ、日本のメーカーはデータのデジタル化に対応できなかったのか?

 データのデジタル化によって以下のような変化が起きます。

1.製品の均一化(性能面での差異がつきにくくなる)

2.製造の簡略化などによる台湾、韓国など周辺国の台頭

 日本のメーカーは高付加価値、高品質、高性能であれば、価格が高くてもユーザーに受け入れられると考えてしまいました。

 しかし、市場は簡略化を求めており、それを軽視した日本メーカーの行った多機能化や製品スペックの向上を追いかけてしまっています。

 ニーズではなく、自社の強みをどう生かすかにこだわってしまったことが凋落につながってしまってします。

また、自分たちが製造で苦労した経験もあり、周辺国の技術を調べもせず、良いものは製造できないと決めつけてしまったことも対策を遅らせてしまっています。

 市場ニーズと周辺国の実力を誤認したことが一つ目の大罪でした。

市場のニーズである簡略化ではなく高機能化と間違えたこと、周辺国の技術力の過小評価などの誤認がデジタル化への対応を遅らせてしまいました。

日本の大手電機メーカーはなぜ、新興国の技術をきちんと評価できなかったのか

 日本はアナログ技術にはおける成功から、その能力を過信し、慢心していました。個人レベルで、慢心する人は少ないのですが、組織レベルになると簡単に慢心してしまいます。

 この慢心が第2の大罪として、日本の電機メーカーを凋落させていきました。

 自社技術への過度な自信と競合相手への過小評価が理性的な判断を妨げ、変化を見誤り、非合理的な判断を下す原因となってしまいました。

 慢心を取り除くには合理性をもった姿勢で非合理的な方針や戦略を排除していくしかありません。

日本はそれまでの成功から、慢心し、論理的に考えることなく、自社技術を過信し、競合を過小評価していまいました。

電機メーカーを凋落させる原因となった環境の変化は何か

 3つ目の大罪は困窮の罪です。様々な要因で、電機メーカーが困窮していったことが抜本的な改革や新しいものを生み出す力をうばっていきました。

 プラザ合意によって急激に円高が進行し、多くの輸出製造業の利益が大きく減少してしまいます。バブルの到来でなんとか乗り越えたものの、バブルの崩壊後には深刻な業績低迷にあえぐこととなります。

 また、円高に対応するために海外に工場を建てることも増え、グローバル化にもまきこまれています。金融のグローバル化も同時に進行したことで日本企業にも世界的な標準に合わせた経営が求められるようになっており、大きな改革が求められるようになっていきました。

プラザ合意による円高、バブル崩壊、グローバル化などへの対応は電機メーカーを取り巻く環境を変化させ、凋落させる要因となりました。

グローバル化はどのように電機メーカーを凋落させたのか

 経営のグローバル化に伴い、既存のビジネスの中で儲かるものに集中するという選択と集中の概念が広がっていきました。

 選択と集中は経営資源を中核部門に集中し、不採算事業から撤退するなど、業績の改善を可能にしました。

 しかし、選択と集中が実行される組織ではリストラが頻発するため金銭的、人的、時間的、精神的ゆとりがなくなり、イノベーションを生み出すことが困難になる側面も秘めています。

 様々な困窮が重なったことや業績の改善と経営の改革という大問題に取り組むことに注力した結果、インターネットという次世代技術への対応が置き去りになってしまったことが日本のデジタル化の遅れの要因となってしまいました。

グローバルな経営が導入される中で選択と集中に注目が集まりました。

選択と集中は金銭的、人的、時間的、精神的ゆとりを困窮させ、インターネットとという次世代技術への対応が置き去りになってしまいました。

なぜ、経営のグローバル化は電機メーカーを凋落させたのか

 経済のグローバル化が進み、アメリカ式の経営手法の導入が起きましたが、その変化は中途半端な状態になっています。

 日本企業は終身雇用と年功序列に象徴される家族型の経営で社員の愛社精神や労働意欲を掻き立ててきました。

 一方のアメリカ型の経営では、リストラも日常茶飯事で転職も当たり前ですし、職務や役職が明確であることも日本との大きな違いです。

 アメリカ式の雇用にも問題はありますが、実力主義と公平性を追求する仕組みが比較的うまく機能しています。

アメリカ式の経営手法を中途半端な状態で導入したため、日本企業への効果が薄くなっています。

日本の雇用における問題点は何か

 日本の雇用状況は公平性に大きな問題を抱えています。

 派遣社員のような非正規雇用が正社員を守るための雇用調整弁として利用されていることや正社員も終身雇用が保証されない状況になったにも関わらず職務や勤務地の自由は奪われたままです。

 また、経営陣が外部から評価される仕組みが機能してるとはいいがたく、経営陣のガバナンスの向上もみられていません。

 女性や外国人の少なさなどダイバーシティの低さ、賃金の上がらさも大きな問題になっています。

 これらの問題から日本の社員のエンゲージメントは他国と比較しても、大きく低下してしまっています。

 アメリカ式の経営方式や雇用を中途半端に取り入れたことで、それぞれの悪いところばかりが目立つようになってしまっています。

アメリカ式を中途半端に導入したため、アメリカ式の悪いところと日本式の悪いところばかりが目立ってしまっています。

日本の組織に欠けているものは何か

 企業や組織にはミッションやバリュー、ビジョンをはっきりすることがとても重要で、それぞれ以下のような働きをしています。

・ミッション:組織が存在する究極の目標

・ビジョン:ミッションを達成する具体的な中長期の目的

・バリュー:ミッションの達成を支える価値観

 ミッションは文化に貢献する、社会を変えるなどの抽象的なものとなることは仕方ありません。ビジョンはより明確な形で言語化する必要がありますが、日本企業はビジョンを明快にすることを苦手にしています。

 明快なビジョンが欠落していたことで組織の持つ力を十分に発揮できませんでした。

リスクをとる姿勢の欠落がビジョンの欠落を招き、電機メーカーの凋落を原因となりました。

日本企業復活には何が必要なのか

 誤認、慢心、困窮、半端、欠落 5つの大罪は互いに関係しあって電機メーカーの凋落を後押してしまいました。

 日本企業が凋落から復活するためには以下の要素の向上が不可欠です。

・ダイバーシティ:多様性のある組織が大罪を防ぐ

・経営陣の質:第3者からの経営者の厳しい評価が経営者の質を高める

・エンゲージメント:組織の公平性の増加や解雇条件の緩和などで賃金上昇、自己決定権が増加

 ただし、大きな変革には痛みも伴うため、セーフティネットの拡充とセットで行うことが不可欠です。

 日本企業は失敗を認めることを拒み、原因分析を避ける傾向にあります。同じような過ちを避けるためにも過去の失敗に真摯に向き合い、変革していく必要があります。

 変革による痛みに耐えることができれば、日本経済復活への道が開ける可能性は充分にあります。

日本企業の復活には多様性のある組織、経営の外部評価、エンゲージメントの上昇が必要です。

失敗と向き合い、原因分析をしっかり行い、改革とセーフティネットの拡充を行うことで復活することが可能です。

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