この記事で分かること
・FICTはどんな会社でなぜ、買収されたのか
・プリント配線板とは何か、どうように高機能化を実現しているのか
MBKパートナーズによるFICTの買収
アジア系投資ファンドのMBKパートナーズが、旧富士通の子会社であるFICT株式会社(プリント配線基板を製造する会社)を約1000億円で買収することを発表しました。FICTは、スーパーコンピューター「富岳」や「京」の基板を製造した実績があり、MBKパートナーズはFICTの中長期的な成長可能性を評価した上で今回の買収を決定しましたことがニュースになっています。

MBKパートナーズによるFICTの買収がニュースとなっています。
FICTはどんな会社なのか
FICTは主に電子機器やIT機器に使用されるプリント配線基板(PCB)の設計や製造を手掛けています。これらの基板は、コンピュータやスマートフォン、通信機器、家電製品など、さまざまな電子機器の中で重要な役割を果たしています。
プリント配線基板(PCB: Printed Circuit Board)は、電子機器の基本的な構成要素の一つで、各種電子部品の電気的接続を担う基板です。
電子機器やIT機器の機能向上に伴い、プリント配線板に求められる性能も向上しています。

FICTは主に電子機器やIT機器に使用されるプリント配線基板(PCB)の設計や製造を手掛けています。
電子機器やIT機器の機能向上に伴い、プリント配線板に求められる性能も向上しています。
FICTのどんなところが評価されたのか
電子部品の電気的接続を担うプリント配線板は、コンピュータにも欠かすことができません。特にスーパーコンピュータとなると使用されるプリント配線基板にも以下のような非常に高いレベルの製品が必要となります
・スケーラビリティ、プロセッサ数
スーパーコンピューターの基板は数千から数十万のプロセッサを持つノードを効率的に連携させるために設計されています。一方、通常のパソコンの基板は数個のプロセッサを利用したシンプルな設計です。
・高密度配線
スーパーコンピューターの基板は多くのデータを高速かつ効率的に移動させるために高密度の配線を持っており、信号の遅延やロスを最小限に抑える必要があります。通常のコンピューターの基板はそこまでの配線密度を必要としません。
・冷却システム
大量の熱を発生するスーパーコンピューターのプロセッサを冷却するための高度な冷却システムが基板に組み込まれています。これには水冷や液冷などの技術が含まれます。通常のパソコンはこれほど大規模な冷却システムは需要が少ないため、比較的シンプルなファン冷却が採用されています。
・耐久性と信頼性
スーパーコンピューターは長時間にわたり連続運転されることが多いため、基板の素材や設計に高い耐久性と信頼性が求められます。これに対して、通常のコンピュータは連続運転が少ないため、耐久性の要求が相対的に低くなります。
・並列処理サポート
スーパーコンピューターの基板は、多くのプロセッサ間で並列にタスクを分割・処理するために、特別な通信と同期メカニズムが導入されています。これにはMPIやOpenMPといったプログラミングモデルをサポートするためのハードウェアも含まれます。
・コスト
スーパーコンピューターの基板は、上記の要件を満たすために特別な技術や高品質の素材を使用するため、製造コストが非常に高くなります。通常のコンピューターの基板は、これほど大規模で性能要求が高くないため、コストが抑えられています。
これらの違いにより、スーパーコンピューターの基板は非常に高性能で信頼性の高い設計になっており、通常のコンピューター基板とは大きく異なるものとなっています。
AIの需要増など今後も電子機器の進歩は続くため、高いレベルでのプリント配線基板製造の技術が重要性が増加すると判断され、買収が決定したと思われます。

FICTの高いレベルでのプリント配線基板製造の技術が評価され、買収に至ったと考えられます。
プリント配線板の高密度化はどのように実現されているのか
部品搭載数は電子機器の性能に直結するため、部品が搭載されるプリント配線基板の配線の高密度化が特に強く求められる部分であり、以下のような技術によって、高密度配線を実現しています。
・多層基板 (Multi-layer PCB)
多層プリント配線基板は、複数の配線層を持つ基板です。層数を増やすことで、各層に配線を分散させ、高密度な回路設計を可能にします。これにより、回路の複雑さと配線量を大幅に増やすことができます。
・ビア (Via) 技術
ビアは、基板の異なる層間を電気的に接続するための導体です。ビアにはスルービア、ブラインドビア、バリードビアといった種類があり、これらを組み合わせることで、基板のスペース効率を高めます。
・微細化配線
微細化技術を用いて、非常に細い配線を形成します。これにより、同じ面積内での配線の本数を増やすことが可能となります。
・高密度実装技術 (HDI: High Density Interconnect)
HDI技術では、細い配線と小さいビアを使用して、多層基板をより高密度にすることができます。これには、レーザードリルによる径の小さなマイクロビアの導入や、より高密度な配線パターンの設計が含まれます。
・層間接着と薄膜技術
高密度配線基板では、層間を薄膜で接着し、層厚を削減することが行われます。これによりビアやパッド間の距離を縮め、配線密度を向上させることが可能です。
・アドバンストエッチング技術:
次世代のエッチング技術は、より正確で細かなパターンを基板に形成することができます。これにより、配線密度の向上とともに信号伝送能力の向上が図れます。
・埋め込み部品技術
能動部品や受動部品を直接基板の層内に埋め込む技術です。基板の表面上のスペースを効率化し、全体の配線密度を高めることができます。
これらの技術を組み合わせることで、高密度かつ高性能な配線基板を設計・製造することができ、結果としてスーパーコンピューターや他の高度な電子機器の性能向上に寄与しています。

多層化による層間接続や高密度化による部品実装数の増加などで、高性能な配線基板を設計・製造することが可能になっています。
なぜ、層数を増やすことで高密度な回路が実現できるのか
層数を増やすことで高密度な回路設計が可能になる理由は、以下のような複数の要因があります。
・配線スペースの増加
多層基板を使用することで、利用可能な配線エリアが大幅に増えます。単層や二層基板では限られたスペースしかありませんが、多層基板では各層に異なる配線を配置することで、全体の配線量を増やすことができます。
・信号の分離
複数の層を持つ基板では、異なる信号線や電源ラインを別々の層に配置することができます。これにより、信号間のクロストーク(信号間の干渉)を減らし、電気的なノイズを少なくすることが可能です。具体的には、高周波信号と低周波信号を別々の層で分けることで、ノイズの減少が可能になっています。
・電源層とグランド層の専用化
一部の層を電源供給(電源層)やグランド接続(グランド層)に専用化することで、電源とグランドのインピーダンスを低く保ち、電気特性を安定させることができます。これにより、全体の電力効率が向上し、ノイズが減少します。
・短距離配線
多層基板では、垂直方向の接続を利用して、配線距離を短縮できます。例えば、信号が一つの層から隣の層にスルーホール(ビア)を通じて直接渡ることができるため、信号が水平に長距離を移動する必要がなくなり、配線の効率が向上します。
・回路の配置自由度の向上
多層基板では、設計者が回路の配置を柔軟に行うことができます。立体的な配線が可能となるため、複雑な回路配置も実現しやすくなります。部品間の配置制約が緩和されるため、より高度で複雑な回路を小さなエリアにまとめることができます。
・高性能部品の実装:
多層基板は、より多くの層を有することで、高性能な部品を効果的に配置し、相互接続するための理想的なプラットフォームとなります。これにより、性能要件の厳しいプロジェクトでも対応可能です。
・シグナルインテグリティの改善
シグナルインテグリティ(信号の整合性)を確保するために、重要な信号ラインやクロックラインを最適化されたルートで配置することができます。また、適切なシールドやグランドプレーンを導入することで、信号品質の向上が可能です。

基板の多層化によって
・配線スペースの増加や信号の分離
・電源層とグランド層の専用化
・短距離配線
・回路の自由度の向上
・高性能部品の実装
・信号の整合性の向上
などの改善が実現し、結果として高密度で高性能な回路設計が可能になります。
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