「こころ」はいかにして生まれるのか 櫻井武 ブルーバックス

AIは脳の持つ判断、対応などの機能を実現しつつある AIにシミュレーションできないこころに人間の本質がある

・こころの動きはどのように生まれるのか
・こころとはなにか
・こころとはいったいどこにあるのか

 本書ではこのような疑問に神経科学の分野からこころの働き方に迫っていく。

 

 こころは脳にあるイメージもあり、実際脳はこころを生み出す大きな役割をするが、全身の器官も脳に大きく影響を与えているため、各器官と脳の働きがこころを生み出しているといってもよい。

 

 脳の持つ柔軟な対応、判断力、実行力はすでにAIも持つ能力になっている。一方で、こころはAIでシミュレーション出来そうにない。人間の行動は意識や自我ではなく、こころで決まる部分が多いためこころにこそ人間の本質がある

脳の表層に近いところほど進化的に新しい こころの核心は脳の深部にあり、より古くから我々がもっている

 脳はニューロンと呼ばれる神経細胞の電気信号の伝達で情報をやり取りしている。

 脳の機能は新しい機能を外側に追加することで進化してきた。そのため表層に近い所ほど進化的に新しく、高次の機能を持っている。

最も表層に近い部分は大脳皮質と呼ばれる部分である。

 

 脳は他の臓器とは違い、部位ごとに役割分担がされている。そのため特定の部位が損傷すると、特定の機能だけが失われることがある。

 脳は様々な器官からの情報を統合し、外界を認知している。外界を直接認知しているのではなく脳の中で作られたバーチャルな世界を通じて外界を認知している。

 しかし、こころの核心は最も新しく高次の機能を持つ大脳皮質ではなく、もっと脳の深部にある。

感情は複雑で測定ができない 身体反応を測定することで情動として扱うことが可能になる

 感情は当人ですら正確に分からないときがあるほど複雑である。科学的に感情を解析するためには第3者から理解できる形で共有、記載する必要がある。感情を客観的に評価するための概念が情動となる。

 情動=情動体験(≒感情)+ 情動表出(身体反応)とされる。

 強い情動は心拍数、血圧、発汗、呼吸数、ホルモン分泌などの身体反応を伴うため、身体反応を測定することで科学的に情動を記述することが可能になる。

 脳は外界からの情報を受け、感情と身体反応を起こすが、身体反応が脳にフィールドバックされ、さらに感情に影響すると考えられている。

感情は好悪、顕著性、制御性の3つで表現できる

 感情はそれが好悪(好ましいかどうか)、顕著性(どのくらいか)制御性(自身でコントロール可能か)の3つの度合いで表現することができる。

経験を情動という形で保存することで、データベース化し行動選択の精度を上げることが出来る

 何かを選択しなければならないとき、意識下で選択をすることで生存率を上げてきた。

大脳辺緑系は大脳皮質よりも深部に存在し、多くの感覚系と密接に関係し、偏桃体や海馬などからなっている。情動の制御と記憶に重要な働きをしている。強い情動(うれしいことや嫌なこと)は忘れにくく、特定の感覚(嗅覚など)が記憶を呼び起こすのも情動と記憶が強い結びつきにあるため。

 過去の経験を情動という形で保存することで、データベース化し行動選択の精度を上げることが出来る。

 感覚系からの情報は大脳辺緑系系で処理されると情動として創出され、大脳皮質で処理されると認知となる。

 これらは並列処理されるため、情動(こころ)と認知にかい離が起こることがある。

 視覚では物理的な情報を大脳皮質で処理され、美しい、気味が悪いなどは大脳辺緑系で処理される。
細長いものを見たときに蛇だと勘違いし、良く見ると違ったというのはこの並列処理によるかい離が原因
(蛇のような危険なものは、情動で早く反応する必要があるため)

身体反応変化で情動の測定を行うことができる

 情動を評価するポイントは行動、自律神経系、内分分泌系の3つになる。顕著な情動は自律神経系のうち交感神経系を刺激し、心拍数、発汗、瞳孔の散大の形で観察される。
 
 内分泌系ではホルモンの創出により血糖値上昇や免疫反応抑制という形で観察される。

 実験などで、動物に特定負荷をかけ、どのように行動、身体反応が変化するかで情動を測定することが可能となる。

海馬は情報の記憶に、偏桃体は情報の評価を行う

 海馬は大脳辺緑系にあり、記憶(陳述記憶)に欠かせない。特定のニューロンどうしが強いシナプス結合で結ばれると、記憶が想起される。海馬はそれを維持する役割を担っている。

 

 感覚系を通して知覚された情報が、生体にとって意味があるのか、つまり危険なのか報酬なのかを評価するのが偏桃体の役目。

 海馬や偏桃体が記憶を創生する助けとなる。強い感情を伴うものほど記憶しやすいのは大脳辺緑系が記憶に関わっているため。

ドーパミンによる報酬系は生き残りに役立ったが、現代ではギャンブル依存症の要因になっている

 人が何かをしたくなるのは脳内に特定の行動をした際に報酬(=快感)を出す仕組みがあるため。

 神経伝達物質であるドーパミンが放出されると気持ちよいという情動認知が生まれ、放出の原因となった行動が強化される。これによってその行動が病みつきになってしまう。
 
 得られるかもしれない報酬を期待しているときに報酬系は強く活動する。

1.不確実性 報酬が不確実であれば、その報酬を伴う行動に多くドーパミンが放出される。

2.予想値の報酬量の差異が大きい場合もドーパミンは多く放出される。

 これらの回路は新しいものへの探索が生き残りに優位だったため、重要ではあるが、現代では、ギャンブルへの依存など、適切ではない行動を強化することにもつながることがある。

神経伝達物質は脳で作られることもあれば、末梢器官で作られ脳に運ばれ、作用するものもある

 様々な神経伝達物質がシナプス間でやり取りされることで情報伝達が行われている。分泌される物質の種類によって、ニューロンが興奮したり、抑制されることとなる。

 脳内で産生され脳で働くものもあれば、末梢器官でつくられ、血液に運ばれ、脳に作用する物質も多い。

こころとは体中の情報と認知が組み合わせって生まれていく

 動物は感覚器官で外界の情報をキャッチし、行動を起こしていく。感覚(インプット)に対する行動(アウトプット)への変換が動物の生態の根幹。下等な生物は行動パターンは限定的で、プログラミングされた応答。


 進化した生物は多くの状況、環境に適応するため脳を発展させ、複雑な学習を可能にした。ヒトはそれに加え、行動の結果がどのような未来に結び付くか、脳内でシミュレーションする機能を前頭前野の発展で可能とした。 

 しかし、前頭前野の発展しても人間は認知ではなく、無意識下で行動を起こすことが多い。

 こころは脳深部のシステムの活動、脳内物質のバランス、自律神経系と内分泌系による全身の変化が核となり作られている。これらをもとに大脳皮質での認知と合わさり、こころが生まれていく。

 

こころは行動選択のためのメカニズムであり学習機能が備わっており、社会の変化に伴い、これからも変化していく。

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