ライフシフト 100年時代の人生戦略 リンダ・グラットン アンドリュー・スコット 東洋経済新報社 前半 概要

長寿化は我々に非常に大きな変化をもたらす

 我々は今、大きな変化の中にいるが、それに準備ができている人はほとんどいない。変化を理解した人には大きな恩恵をもたらすが、準備を怠ると不幸の種になる。

 その大きな変化は人生の長さが長くなること。現在の人生のロールモデルよりも長い人生を送るようになると社会の習慣や制度が前提にしているよりも長く生きるようになる。

 平均寿命は200年にわたり、10年に2年のペースで伸びてきた。今先進国で生まれる子が105歳以上まで生きる確率は50%を上回るともいわれている。

長寿化の恩恵を受けるには人生のマルチステージ化が必要

 長寿の恩恵を最大限受けるために重要となるのは、長寿化によって増えた時間をどのように利用し、構成するかという点。20世紀の人生の構成は、教育、仕事、引退の3ステージに分けるもので、長寿によって引退後の資金が多く必要になる。3ステージの人生モデルでは長く仕事を続けるか、引退後の資金を少なくするしかなく、魅力的とはいいがたい。

 生涯に複数のキャリアを持ったり、金銭面を重視した労働を行ったのち、家族とのバランスを優先させるなど、人生をマルチステージ化することで長寿の恩恵を受けることができる。

マルチステージ化をうまく実行するにはリクリエーションが重要

 3ステージの人生では以降は2回だけだが、マルチステージの人生では多くの移行を経験するようになる。上手に移行を行うには、柔軟性を持ち、新しい知識を獲得し、新しい視点で世界を見て新しい人的ネットワークを築く必要がある。余暇の時間のレクリエーションと消費の比率を減らし、生涯を通して教育に投資を行いリクリエーション(再創造)に比重を減らすことが重要。

ロールモデルではなく、自分がどんな人間かを考えることの意味が増す

 人生は長くなれば変化を経験する機会が増えるため、選択肢を持っておくことの重要性は増していく。選択を増やすためにも実験を行う必要があり、新しい生き方を目指す過程で多様性も強化されていく。そのために自分がどんな人間で何を大切にしたいか、何を人生の土台にしたいのかを点が大きな意味を持つようになる。アイデンティティと価値観を人生にどう反映させるかを一人ひとりが考えなくてはならなくなる。

長寿化は今後も続く

 平均寿命は一貫して伸び続け、今後も減速する気配は見られない。寿命の上限がどれくらいかは意見が分かれるが、筆者は110~120才くらいまでは伸び、その後伸びが減速すると見ている。

 様々な病気の治療が可能になることで健康でいられる時間も増えている。老化が病気として認められつつあり、さらに健康寿命も延びる可能性は高い。

長寿化が進むと長く働く必要がある

 より多く生きるようになると、より多くのお金が必要となる。1945年生まれの人は寿命が短かったため引退期間も短く、年金額も多かったなどの理由で勤労期間に年所得の4.3%貯蓄すれば十分な老後資金をためることができた。

 1971年生まれの人は寿命が伸びたことでの引退期間の延長、年金の減少で65才で引退するとすると毎年所得の17.2%を貯蓄する必要があり、非常に難しい。

 1998年生まれの人はさらに貯蓄する必要が増え、毎年25%を貯蓄する必要があり今日の大半の人の貯蓄率を大きく上回っている。貯蓄率を下げるには長く働くことが必要になる。80才まで働けば、毎年の貯蓄率は10%前後となる。

長く働くには3ステージの人生からの脱却が必要

 長く働くことを考えると、気がめいる人も多いが、それはこれまでの3ステージの人生を前提にしているから。仕事を長く続け過ぎると、金銭以外の資産に悪影響がでるため、3ステージの人生からの脱却することが必要。3ステージの人生からの脱却は精度的にも発想的にも難しいが、金銭以外の健康、家族との関係、スキルや知識などの資産に目を向けるチャンスでもある。

テクノロジーの進化が産業構造を変化させ雇用の柔軟性をたかめる

 長寿化によって長い期間働くようになるだけでなく、変化のペースも加速すれば未来の雇用環境は大きく変化しするため予測は困難だが、過去を振り返り、どのように変化するかの展望をもつことは極めて重要。

 1910年と現代の産業構造は大きく変化している。例えば、農家の大幅な減少とサービス業の増加がみられている。今後は高齢化に伴う高齢者向けサービスの増加、環境と持続性に関するビジネスの増加が予想される。

 テクノロジーの進化は小規模な専門企業を増やし、大企業が持つ規模のメリットを減らす傾向ある。大企業は豊富な資産があるため消えることはないが、構造は大きく変わり、大企業の周りに中小企業や新興企業が集まるエコシステムを形成する形態が増える。

 ビジネスのエコシステム化は雇用の多様化し、柔軟性が増すとみられている。現在も特定の企業でフルタイムで働くのではなく、次々と多くの顧客から依頼を受けるギグ・エコノミーを行う人は増えていおり、この傾向はさらに進む可能性を秘めている。

機械の進化による仕事の代替を恐れるのではなく、協同する姿勢をもつべき

 テクノロジーの進化は進み続けている。進化が指数関数的であり現代の進化がその終盤だとすると、わずか数年でもたらされるテクノロジーの進化は極めて大きなものになる。

 これまでテクノロジーの進化によって機械へと代替されてきたのは定型的な仕事だったが、今後は定型性の少ない高スキルの仕事も代替され、雇用の空洞化が起こる可能性が高い。

 現時点ではある種のスキルと能力は人間に固有で機械に代替されないと考えられている。人間に固有な能力は複雑な問題解決、対人関係と状況適応の能力とされている。

 これらの能力を機械が持つ未来が来るかはわからないが、テクノロジーは雇用を奪うだけでなく、新しい雇用を生んだ入り、雇用を増加させるという声もある。向こう数十年は機械が持たない創造性、共感、身体的作業が必要なものをめざしたり、機械と協働することで生産性を上げることを目指すべき。

長寿化は無形の資産の重要性を増す

 長寿化は産業や雇用の在り方を大きく変えるがお金と仕事の面だけでなく、人間の本質的な部分にも変化をもたらす。長寿化はお金に換算できない価値、無形の資産にも大きく影響する。

 無形の資産は友人関係や知識、健康など普段は資産として認識しないものが当てはまるが、これらを資産と位置付ける発想が長寿化した社会で必要となる。

 無形の資産には数値化しずらく、売買できないものも多いが価値がないわけではない。金銭などの有形の価値は無形の資産を直接買うことはできないが、無形の資産に投資するために有形の資産が必要となることも多い。長寿化した社会で二つの資産のバランスをとることは従来以上に難しいが、重要性は増加することになる。過酷な労働を続ければ、有形の資産はふえるが、無形の資産は徐々に減少する。3ステージの人生ではバランスを欠いても、機能してきたが、マルチステージではバランスを考えなければ、機能不良に陥っていしまう。

 無形の資産には様々なものがあるが、長寿化との関係を考えると3つに分類できる。

1.生産性価値:仕事で生産性をたかめるのに役立つ要素。知識やスキルなどが含まれる

 教育と所得には大きな関係があり、教育の投資利益率はとても大きい。働く期間が長くなれば、求められる知識の変化も大きくなり、人生の早い時期にまとめて教育を行う時代は終わるかもしれない。

 知識やスキルだけでなく、人脈や人間関係も生産性の価値に含まれ、他人との協働による多様な視点はイノベーションにとりわけ重要とされる。

2.活力資産:肉体的、精神的な健康、幸福のこと。健康、友人、家族との良好な関係など

 長寿化時代にも健康の重要性は増す。50歳の時に病気で働けなくなるダメージは寿命が70歳の時と100歳の時では100歳のほうがダメージは大きくなる。 同じことはパートナーや家族、友人との関係にも当てはまる。

3.変身資産:大きな変化に対して、変身に必要な資産。自分についての知識、多様な人的ネットワーク

長寿に伴い、勤労期間がただ伸びるだけでは知識がつき。健康とモチベーションは低下する。そのため、今後はキャリアは分割し、キャリアの間にリフレッシュやスキルを学び直すようになる。

 このような移行には、新しいタイプの資産、変身資産が必要になる。変身資産は移行の不確実性とコストを減らし、成功率を高める。

 伝統的な勤労ではアイデンティティの一部はその人が占める立場と役割によってもたらされていたが、移行が増えるとこの種のアイデンティティは減少し、主体的にアイデンティティを作り上げる必要性が増す。主体的なアイデンティティを作り上げるには自分についての知識を深め、多様性に富んだ人的ネットワークを築き、普段の行動パターンから外れることで可能となる。

長寿化は多様性を促し、決まったお手本に従うという発想は通じなくなる

 人生が長くなれば、使える時間が増え、チャンスは増え、アイデンティティの数も増やすことができる。その一方で、多様性が増し決まったお手本に従うという発想は通用しなくなる。未来に向けた一本道を描くことができなくなると極度に悲観したり、楽観したりしがちで、それを避けれるためにもありうる自己像について考えることが必要になる。

 自己像を考える際には自己効力感=自分ならできるという認識や自己主体感=自ら取り組むという認識と結びつくと有効性を増すことができる。自らのシナリオを描くには自身のニーズ、希望、願望を軸に描くべき。

 自分が何をしたいかをしっかり認識し、したいことを成し遂げるために必要な資産、特に無形の資産に投資をする。有形の資産と無形の資産をバランスよく増やし、変身資産が充実していれば、選択肢は増え、可能なシナリオは増え、リスクを減らすことにつながる。

 特に若い世代は人生が長くなる可能性が高く、初めから移行を前提としたシナリオを計画しなくてはならない。自分がどういう人間か何を大切にするのか考え、一本の柱のようにアイデンティティを持っておくことでステージに一貫性を持たせることができ、移行のリスクを減らすことにもなる。

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