免疫力を強くする 宮坂昌之 ブルーバックス

本の概要

 テレビやインターネットで見られる 免疫力を高める、免疫でがんを治療するなどの多くは科学的なエビデンスが欠けている

 その最たるものがワクチンの過剰な忌避、恐怖症 ワクチンは副作用もあるが多くの感染症に有効でほとんどの人に利益をもたらす

 ワクチンは科学的に証明されているが、そのほかの免疫食品などでその効果証明された例はほとんどない。怪しい知識や不信感によるワクチン忌避は正しい知識で払しょくすることができる

 コロナの流行でワクチン、免疫に対して知識を得たい人も増えたはず、本書を読むことでワクチンがいかに人類の健康に貢献してきた、免疫の基本的な仕組みがわかります

免疫の仕組み

 我々の身体は、細菌やウイルスなどの病原菌が体に入ることを阻止する仕組みを持っている

 皮膚の角質や気道などの粘液、唾液、涙のような物理的、化学的バリアや白血球が病原体を食べるで阻止することを自然免疫機構と呼ぶ

 自然免疫気候は素早く反応できるものの、病原体を記憶することはできない

 病原体を記憶し、病原体を殺すのが獲得免疫機構という仕組み 獲得免疫機構では白血球のリンパ球と樹状細胞が重要な働きをしている

 リンパ球が病原体の抗体を作ることで、特定に病原体のみを除去でき、抗体は一定期間体内に持続して存続できる  これが感染症などに一度かかるとかからなくなる仕組み

獲得免疫機構の仕組み

 細菌が体内に侵入すると、侵入組織の細胞外で増殖し数を増やす するとマクロファージ(異物を食べる細胞)が異物と認識し取り込み消化する

 マクロファージは炎症性サイトカインとよばれる警報物質を放出する 警報物質によって、樹状細胞が細菌や分解物を取り込み細胞膜上に提示する 

 リンパ球が提示された細菌から抗体作成する これが獲得免疫機構の流れになっている

ワクチンの仕組み

 ワクチンは病原体や毒素の力を弱めたり、なくした人工的に作りだした製剤で免疫の仕組みを呼び起こし、抗体を作り出すことができる  現在ワクチンで予防可能な病気(VPD)は26種といわれている

ワクチンの種類

1.生ワクチン

 病原体の感染性を人工的に弱めたもの 効果が高い反面、免疫力が弱い状態で感染することがまれにある

2.不活化ワクチン

 病原体の感染能力を失わせて製剤化したもの 熱や紫外線、薬剤などで感染能力を失わせる 病気となる可能性は低いが体内で増殖できないため数回摂取しないと充分な免疫を付与できない  免疫増強剤であるアジェバントを同時に加えることもある

3.トキソイド

 病原体の毒素を化学的に処理し、毒性を除去し免疫を付与する能力だけを残したもの 感染を防ぐことは出来ないが発症を防ぐことができる

4.遺伝子組み換えサブユニットワクチン

 病原体から感染に関わる遺伝子を取り出し、発現細胞に導入し、タンパク質サブユニットを得る タンパク質を生成しワクチンとして利用する

 増殖ができないため、感染することがない、発現細胞を用いるため時間がかからないのがメリット

5.多糖類ータンパク質結合型ワクチン 

 病原体のもつ多糖類を精製し、タンパク質を結合させたもの 摂取回数は多い

ワクチンについて知っておきたいこと

 1種類の病原体には1種類のリンパ球しか反応しないため、複数の接種でも免疫全体が動いて混乱することなどはない

 ワクチン有効率60%はワクチン接種者の60%が罹患しないことではなく、非接種者の内60%は罹患を防げたということを意味する

 ワクチンの持続時間も種類によって異なる 免疫記憶を維持するメモリーリンパ球の能力と思われるが、詳細は分かっていない

 ワクチン接種は個人がかからないだけでなく、集団に感染が広がらなくなる集団免疫を獲得するためにも必要

 基本再生産数は一人の感染者が何人に感染させうるかを示したもの 1を下回れば流行は広がらない 基本再生産数が大きいほど感染力が高く、集団免疫に必要な割合も高くなる

ワクチンの問題点

 ワクチン接種にともなう免疫付与以外の反応(赤み、発熱、腫れなど)を副反応と呼ぶ 副反応はまれに命に関わるようなことがあり、100万件に1、2件ほど起こる

 これに対してワクチン接種後に起こった好ましくない事象を有害事象と呼ぶ 有害事象はワクチン接種が原因とは限らないことも含めている

 有害事象と副反応の見極めは難しく、有害事象が原因でワクチンを忌避するようなことも起きてしまう しかし、これまでに副反応リスクが発症と重症化リスクを大きく上回るような例は報告されていない

 日本では、強い因果関係がなければ、副反応と認められないがアメリカなどでは、ワクチン忌避を防ぐため、判別がつかない場合でも保証を行ことで全体の接種率を上げる方法をとることもある

ワクチンの進化

 がん細胞だけが持つ細胞表面を選び出し抗原としてワクチンを作ることで、がん細胞に免疫の力を呼び起こす がんワクチンが注目されている

 がん細胞表面にあり正常な細胞の表面にある抗原をネオ抗原と呼ぶが、ネオ抗原は弱いものが多く、免疫系をすり抜けてしまう

 免疫系の中には免疫反応が進み過ぎないように調節する免疫チェックポイント分子がある がん患者ではこれらの分子の発現が増えリンパ球の働きを抑制している  免疫チェックポイント療法はチェックポイント分子の働きを弱め、免疫系への攻撃を強めることで行う

 これまでのワクチンは病原体の一部である、タンパク質、ペプチド、糖鎖などが主成分であったが、最近では病原体の遺伝子の一部を投与するDNA、RNAワクチンの開発が進んでいる 

 迅速かつ安価で大量に作ることができる利点がある

免疫力を高める?

 テレビの健康番組では免疫力を強くすると紹介されているものは、試験法に問題が多く、ブラセボ効果である可能性が高い

 そもそも免疫力を血液から測定しても、血液に存在するリンパ球は2%であり、正確に測定できるわけではない

 免疫力を一番強化できるのはワクチン ただし、ワクチンは個別の病原菌に対する耐性を高めるが、免疫系全体を向上させる医薬品はまだ、実現できていない

 免疫力は強ければいいわけではなく、過剰な免疫は炎症反応につながりかねない健康的な食事、過度なストレスを避けるなど一般的なことが重要

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