科学者が消える 岩本宣明 東洋経済新聞社  まとめ

概要

 日本のノーベル賞受賞者数は世界第7位と、欧米以外の国では首位を独走している。
今世紀の自然科学分野では15人とアメリカの68人、イギリスの16人に次ぐ3位。

 しかし、日本の研究者の置かれた状況は悲惨で、研究の質の低下、海外への流出も多く起きている。

 イノヴェーションの創出には基礎的な力が必須であり、基礎的な力の減少はイノベーション創出ができなくなる事態につながっていく。

 日本の科学者の状況を俯瞰し、どうすべきかについて書かれた本。かなり衝撃的なデータが並んでいて、日本の科学力や産業競争力の低下がいかにまずいかがよくわかります。

ノーベル賞の役割

 ノーベル賞の受賞は日本で科学的な活躍が報じられる数少ない機会であり、重要度は高い。
実際に近年の受賞者ラッシュで、子供ころになりたいものを聞かれて学者、博士と答える子は増えている。                     

 しかし、ノーベル賞の受賞ラッシュは科学者のすそ野の広がり=若手研究者の増加につながっていない。

トップレベルを生み出すには

 ノーベル賞は当然その分野のトップレベルの研究者に授与される。

 トッププレイヤーを増やすには、すそ野を広げ大勢に人が参加し、トップを目指すことが必要
近年の卓球やバドミントンの日本人選手の躍進には福原愛やオグシオをみて競技を始めた人などの競技人口の増加が大きく関係している。

日本とノーベル賞

 日本のノーベル賞受賞者数は世界第7位と、欧米以外の国では首位を独走している。今世紀の自然科学分野では15人とアメリカの68人、イギリスの16人に次ぐ3位。

 ノーベル賞では発明や技術よりも発見つまり基礎研究を重視している。また、受賞内容の多くは受賞者が若いときに行った研究成果に送られることが多い。
 つまりノーベル賞を輩出し続けるためには若い研究者が基礎研究に打ち込める環境が不可欠となる。

日本の研究の実情

 大学進学者は増加しているにもかかわらず、博士課程の学生はピークの2003年以降減少している。

 大学ランキングの下落も続いている。 ランキングでは特に論文の被引用の項目でスコアをさげている。日本では論文の数の減少、被引用の減少=質の低下が続いている

 日本の論文の75%は大学から発行されているが、質量ともに減少している。減少は2004年の国立大学の国立法人化以降に始まっている。

 これらを考慮すると、2040年ごろにはノーベル賞も5年に一回の受賞になるかもしれない。

なぜ、研究の質が低下しているのか

 研究者の数や研究者が研究に費やせる時間、研究開発費も主要国の中で唯一減少しているため。 

 科学研究にも短期間での見返りを求める動きが強く、すぐに何かの役に立つことが問われてしまう。研究の多様性が失われれば歴史的な発見は難しい。ノーベル賞受賞者による財団や基金を設立が続いているほど基礎研究がひどい状況にある。

研究者の数の減少の理由

 博士課程を修了しても60%は非正規雇用やポスト待ちでじっくりと研究できない状況で、研究者の職につける人は全体の28%。安定した無期雇用の研究職につけるのはわずかに10%程度でしかない。

 また、奨学金の返済など金銭的な負担も大きく、そのような実態を見た優秀な修士課程者が進学を躊躇し就職する現状がある。
 子供たちにとってはあこがれの博士、学者は身近な修士課程学生のあこがれではない状況になってしまっている。

大学への交付金の減少

 政府は大学への運営交付金を減らしてきた。それによって、
・若手研究者の雇用が困難になる
・外部資金獲得のための事務仕事が増える                             ・短期で成果の出やすいテーマへの偏り
 等が起きており、基礎研究の停滞につながっている。

 法人化によって研究時間も減少している 特に助教が最も研究時間減らしている。ノーベル賞受賞対象の研究が若年期に行われていることが多いことが多いため、現在の状況が大きく問題になる可能性は高い。

選択と集中

 政府は特定の大学、研究に研究費を集中させてきた。

 しかし日本全体の研究の質の向上には結びつかず、中位以下の大学の研究力を低下させる結果となった。
 そもそも大学の規模と論文数にはあまり相関がなく、研究従事者一人当たりのと論文数は上位大学、下位大学であまり変わらないにもかかわらず、大学名や規模で研究費を分配してしまっているため、研究の質の向上につながらなかった。

科学者の減少を食い止めるために必要なこと 

 大学を解体し、教育機関と研究機関の分離を行う。大学進学率が増え、大衆化することで学力の低下が起き、研究と教育の両立は不可能になっている。
 教員の教育に割く時間が増加していることが、研究の時間が減少した理由の一つになっている。

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