緑色の発光ダイオード(LED)を利用したヒラメの養殖

この記事で分かること

・養殖の重要性:持続可能な漁業の実現のため

・今回の発見で改善できること:養殖の生産効率UP

・LEDを利用した養殖の利点:成長の促進、摂餌行動の改善、ストレス経変、環境の最適化

 ヒラメの養殖で全国トップクラスの生産量を誇る大分県で、生産効率を高める技術革新が進んでいます。水槽の照明に緑色の発光ダイオード(LED)を採用することで、ヒラメが通常よりも1.6倍の重さに成長し、生産量が2割増加したことがニュースになっています。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC072QZ0X00C25A2000000/

なぜ、養殖に注目が集まっているのか

 養殖に注目が集まる理由はいくつかあります。主な要因として 水産資源の減少、食料需要の増加、環境負荷の低減、経済的な安定性 などが挙げられます。


1. 天然資源の減少と持続可能性の確保

  • 世界的に 乱獲や環境変化により天然の魚の漁獲量が減少している。
  • 天然魚の資源管理が厳しくなる中、安定供給を維持するために養殖が必要になっている。
  • 養殖は 過剰漁獲を防ぐ手段として期待されている。

2. 世界的な食料需要の増加

  • 世界人口の増加により 動物性たんぱく質の需要が拡大している。
  • 魚は 健康的なたんぱく源 であり、需要が高まっている。
  • 特に新興国では 経済成長に伴い魚介類の消費が増加 しているため、養殖の重要性が高まっている。

3. 天然漁業と比べた安定供給

  • 天然魚は 漁獲量が天候や環境に大きく左右される
  • 養殖は 年間を通じて安定した生産が可能 であり、食品市場の供給を安定させる。
  • 養殖技術の向上により 成長スピードの管理や病気のリスク管理が可能になっている。

4. 環境負荷の低減

  • 養殖は適切に管理すれば 野生生態系への影響を最小限に抑えることができる。
  • 陸上養殖や循環型養殖(RAS)などの技術開発により、海洋環境への負荷を減らしつつ生産性を向上 させることが可能。
  • 餌の改良や代替飼料の開発により、持続可能な養殖が可能になりつつある

5. 経済的なメリットと雇用の創出

 日本では、特に 陸上養殖やブランド魚の養殖が注目されており、高付加価値市場が形成されている。

養殖は 地域経済の活性化や雇用創出に貢献できる。

天然漁業が衰退している地域でも 新たな産業として養殖が成長している

持続可能な漁業を実現していくために、養殖が注目されています。

養殖の課題は何か

 持続可能な水産業のために養殖が必要になったいますが、養殖のも多くの問題があります。以下のような問題を解決するためにも効率性の改善が不可欠になっています。

1. 環境への影響

  • 水質汚染: 養殖場から排出される魚の糞や未消化の餌が水中に蓄積し、水質の悪化を引き起こす可能性があります。これが近隣の生態系に悪影響を与えることがあります。
  • 疾病の拡散: 養殖された魚が病気にかかると、自然界の野生魚や他の養殖魚に伝染することがあります。これが生態系全体に影響を与えるリスクを持っています。
  • 野生魚との遺伝的交雑: 養殖された魚が逃げ出すことにより、野生魚と交雑し、遺伝的多様性に影響を与えることがあります。

2. 餌の確保とコスト

  • 養殖において魚の餌が重要ですが、餌の供給源の持続可能性が問題です。多くの養殖魚は高たんぱくの餌を必要とし、そのためには小型魚を捕る必要があり、これが天然資源の消耗を引き起こすことがあります。
  • 餌の製造コストが高いため、養殖業のコストが増加し、持続可能な価格で提供するのが難しくなることがあります。

3. 疾病管理と抗生物質の使用

  • 養殖魚が病気にかかると、治療のために抗生物質や化学薬品が使用されることがあります。これが人間の健康や環境に悪影響を及ぼすことが懸念されています。
  • また、抗生物質が 抗生物質耐性菌の発生を助長する可能性があり、これがさらに深刻な問題に発展することがあります。

4. 養殖場の立地とスペースの制約

  • 陸上養殖や海上養殖において、適切な立地を確保することが難しいことがあります。土地や海域の競争が激化し、環境保護の観点からも慎重な場所選定が求められます。
  • 養殖場の拡大に伴い、近隣の生物群や地域社会との競争が生じる可能性があります。

5. 養殖技術の発展とコスト管理

  • 養殖技術の向上が必要です。例えば、魚の育成環境を最適化したり、新しい餌の開発や効率的な循環型養殖システムを確立することが求められています。
  • 高度な技術が必要なため、養殖業の初期投資が高額であり、長期的な運営が難しい場合があります。

6. 市場の需要と供給の不均衡

  • 養殖魚の供給が増加する一方で、消費者の需要とのギャップが生じることがあります。消費者の好みや価格変動、養殖物の品質に対する信頼性の問題が市場に影響を与えることがあります。

養殖にも、環境への影響や病気の管理、餌の供給などの問題があります。効率性を改善することでこれらの問題の一部を解決することが可能です。

緑色の発光ダイオード(LED)を使用するとどんなことが可能なのか

 ヒラメの養殖において緑色の発光ダイオード(LED)を使用する研究は、成長促進や健康管理のために行われています。以下のような効果が期待されています。

1. 成長促進効果

  • ヒラメは光環境に敏感であり、特定の波長の光が成長ホルモンの分泌に影響を与える可能性があります。
  • 緑色LED(波長500〜550 nm)は、他の色(赤や青)と比較して成長速度を向上させるという研究結果があります。
  • これは、緑色の光がヒラメの摂餌行動や代謝に良い影響を与えるためと考えられています。

2. 摂餌行動の改善

  • ヒラメは視覚を使って餌を認識するため、光の色が摂餌行動に影響します。
  • 緑色LEDを使用すると餌を探しやすくなり、より多くの餌を摂取できる可能性があります。

3. ストレス軽減と生存率向上

  • 強い光や急激な光の変化はヒラメにストレスを与え、成長を妨げる可能性があります。
  • 研究によると、緑色LEDを用いることでストレスホルモン(コルチゾール)の分泌が抑えられ、生存率が向上するという報告があります。

4. 飼育環境の最適化

  • LEDは電力消費が少なく、水温への影響も小さいため、エネルギー効率の良い環境制御が可能です。
  • 光の強さや時間を調整することで、ヒラメの昼夜リズムを管理し、健康な成長を促すことができます。

 こうした研究は、日本をはじめとする養殖業が盛んな国で進められており、より効率的な養殖技術の確立が期待されています。

成長の促進、摂餌行動の改善、ストレス経変、環境の最適化などに緑色LEDが利用されています。

なぜ、緑色が有効なのか

 ヒラメの養殖で 緑色の光(500~550 nm) が選ばれる理由はいくつかあります。

1. ヒラメの視覚特性

ヒラメの目は 緑色や青緑色の光に最も敏感で、波長500 nm前後の光をよく認識します。

  • これはヒラメが主に 沿岸の浅い海域(10~50 m)に生息するため、自然環境ではこの範囲の波長が届きやすいためです。
  • 赤色の光(600 nm以上)は水中で吸収されやすく、ヒラメにはほとんど見えません。

2. 成長ホルモンの分泌促進

 研究では、緑色LEDの光がヒラメの 成長ホルモン(GH, Growth Hormone)インスリン様成長因子(IGF-1) の分泌を促す可能性が示唆されています。

  • これにより 成長速度が向上し、養殖効率が上がると考えられます。

3. 摂餌行動の改善

ヒラメは視覚を頼りに餌を探しますが、緑色の光の下では餌を認識しやすいことが分かっています。

  • 例えば、ヒラメがエサ(生き餌やペレット)をより効率的に見つけられることで、摂餌量が増加し、成長が促進されると考えられます。

4. ストレス軽減・生存率向上

  • 強い白色光や青色光(450 nm以下)は、ヒラメにとってストレス要因になりやすいと言われています。
  • 緑色の光は比較的 自然な環境に近く、ストレスホルモン(コルチゾール)の分泌を抑え、生存率を向上させる効果が期待されています。

5. エネルギー効率と環境制御

光の強度や照射時間を細かく調整することで、昼夜リズム(概日リズム)を管理し、健康的な成長を促せます。

LED照明は従来の蛍光灯に比べて 電力消費が少なく、長寿命であるため、養殖コスト削減につながります。

緑色LEDは ヒラメの視覚特性・成長促進・摂餌改善・ストレス軽減 という複数の理由から有効とされています。今後も最適な波長や照射条件を探る研究が進められています。

なぜ、成長ホルモンの分泌が促進されるのか

 ヒラメの成長ホルモン(GH: Growth Hormone)が 緑色光の照射によって分泌されやすくなる仕組みには、主に 視覚・神経系・ホルモン系の相互作用が関与しています。以下のようなメカニズムが考えられています。


1. 視覚系を介した刺激

ヒラメの目には オプシン(光受容タンパク質)があり、緑色の光(約500~550 nm)に特によく反応します。

  • 目が光を受けると、視細胞が活性化し、視神経を介して脳に信号を送ります
  • 特に、脳の 視床下部(hypothalamus)がこの信号を受け取り、成長ホルモンの分泌を調節する役割を担います。

2. 視床下部-下垂体系の活性化

視床下部には成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)を分泌する細胞があり、

  • 緑色光の刺激を受けるとGHRHの分泌が増加
  • これが 脳下垂体(pituitary gland) に作用し、成長ホルモン(GH)の分泌を促進します。

また、光刺激によって成長ホルモン抑制ホルモン(ソマトスタチン, SST) の分泌が抑えられることで、より多くの成長ホルモンが分泌される可能性もあります。


3. IGF-1(インスリン様成長因子)の増加

成長ホルモン(GH)は、肝臓や筋肉でインスリン様成長因子(IGF-1)を増やす役割を持っています。

  • IGF-1は 細胞増殖・タンパク質合成・骨や筋肉の成長を促す重要なホルモンです。
  • 緑色光の刺激が GH→IGF-1の経路を活性化し、ヒラメの成長が促進されると考えられます。

4. メラトニンと概日リズムの調整

ヒラメは昼行性の魚ではないものの、光の影響で概日リズムが調整されます。

緑色光を適切に照射することで、メラトニンの分泌を調整し、GHの放出を促すことが可能です。

暗所ではメラトニン(睡眠ホルモン)が分泌され、GHの分泌を抑制します。

緑色光がヒラメの 視覚を介して脳に信号を送り、視床下部-下垂体系を活性化することで、成長ホルモン(GH)の分泌が増加する と考えられます。さらに IGF-1の増加やメラトニンの調整 により、成長促進の効果が強化される仕組みです。

ただし、メカニズムはまだ完全には解明されておらず、現在も研究が進められています。

なぜ、ストレスの軽減が可能なのか

 ヒラメのストレスが緑色光の照射によって軽減される理由には、主に視覚的快適性・神経ホルモンの調整・環境模倣という3つの要因が関与しています。


1. 視覚的快適性(ヒラメの光感受性との適合)

ヒラメの目は緑色や青緑色の光(500~550 nm)に最も適応しており、この波長の光を最も自然に認識できます。

  • 一方で、強い白色光や短波長の青色光(450 nm以下)はストレス要因になりやすいと報告されています。
  • 理由として、青色光はヒラメの光受容細胞にとって過剰な刺激となり、過度な興奮やストレス反応を引き起こす可能性があります。
  • 緑色LEDを用いることで ヒラメが最も快適に感じる光環境を作り出し、ストレスを軽減できると考えられます。

2. 神経ホルモンの調整(コルチゾールの抑制)

ストレスを受けると、魚類は副腎類器(interrenal tissue)からコルチゾール(ストレスホルモン)を分泌します。

  • コルチゾールの増加は免疫力低下・摂餌低下・成長阻害などの悪影響をもたらします。
  • 研究では、緑色光の下で飼育されたヒラメはコルチゾールの分泌が低く、よりリラックスした状態を維持できることが示唆されています。
  • これは、緑色光が視床下部-下垂体-副腎類器軸(HPI軸)のストレス応答を抑制し、ストレスを和らげるためと考えられます。

3. 環境模倣による安心感

ヒラメは自然環境に近い光環境でより安定した行動を示すことが知られています。

  • 天然の生息域(沿岸の浅瀬や砂地)では、水中で光が散乱し、緑色や青緑色の光が多く残ります。
  • そのため、緑色LEDを使用することで、ヒラメにとって「自然に近い環境」を再現できるため、異常行動(暴れる、壁にぶつかるなど)が減り、ストレスが軽減されると考えられます。

ヒラメの視覚特性に合った光環境、ストレスホルモン(コルチゾール)の分泌を抑制、自然環境に近い光環境の再現によってストレスの軽減が可能になっています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました