この記事で分かること
・全有機型太陽光電池とは何か:全有機型太陽電池は発電層から電極まで全て有機材料で構成される太陽電池のこと。
・なぜ、全有機型が必要なのか:効率や耐久性に課題はありますが、軽量、低コスト化、金属資源不使用、製造時の二酸化炭素排出が少ないなどの利点があります。
・全有機型はなぜ効率が悪いのか:有機材料の光吸収範囲の狭さ、金属電極と比較して、電導度が小さい、エキシトンの生成などが要因となり、効率がシリコン型と比較し低くなってしまいます。
全有機型太陽電池の効率UP
金沢大学、麗光、カナダのクイーンズ大学の共同研究グループが、全て有機材料で構成されたフィルム型太陽電池において、従来の2倍以上となる光電変換効率(PCE)約8%を達成したことがニュースになっています。
https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2502/27/news036.html?utm_source=chatgpt.com
これらの技術革新により、全有機太陽電池の高性能化が進み、実用化に向けた重要な一歩となることが期待されています。
フィルム型太陽電池とは何か
フィルム型太陽電池は、軽量で柔軟性のある太陽電池で、主に薄膜太陽電池の一種です。従来のシリコン系太陽電池に比べて、軽量・薄型・曲げられるという特長を持ち、建物の壁や窓、衣類、モバイルデバイスなどへの応用が期待されています。
フィルム型太陽電池の主な種類
- 有機薄膜太陽電池(OPV)
- 特徴: 炭素を含む有機材料を使い、低コストで作製可能
- メリット: 軽量・曲げられる・低コスト
- 課題: 効率が低く、耐久性に課題がある(変換効率は10~15%程度)
- 応用: ウェアラブルデバイス、スマートウィンドウ
- ペロブスカイト太陽電池
- 特徴: ペロブスカイト型の結晶構造を持つ材料を使用
- メリット: 高い光電変換効率(25%超え)、低コストで製造可能
- 課題: 安定性が低く、耐久性の向上が課題
- 応用: 軽量ソーラーパネル、IoT機器への組み込み
- CIGS薄膜太陽電池
- 特徴: 銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)を使用
- メリット: 高い効率(20%以上)、安定性が高い
- 課題: インジウムなどのレアメタルが必要でコストが高い
- 応用: 大面積の発電シート、建築材
フィルム型太陽電池の利点
・ 軽量で持ち運び可能
・ 柔軟で曲げられるため、設置自由度が高い
・ 印刷技術で低コスト大量生産が可能
・ シリコン系より環境負荷が低い
課題
・ 変換効率がシリコン系(約25%)より低い
・ 耐久性・寿命が短いものが多い
・ 製造コストがまだ高い場合もある

フィルム型太陽電池は、軽量で柔軟性のある太陽電池で、主に薄膜太陽電池の一種です。課題もあるものの、設置自由度の高さなど今後のエネルギー革命に貢献する可能性が高く、持続可能な社会に向けた重要な技術の一つです。
全有機型太陽電池とは何か
全有機型太陽電池(All-Organic Solar Cells)は、発電層から電極まで全て有機材料で構成される太陽電池です。通常の有機薄膜太陽電池(OPV)は金属電極を使用することが多いですが、全有機型は金属を使わず、より環境負荷が低く、柔軟な設計が可能な点が特長です。
全有機型太陽電池の構造
- 有機透明電極
- 例:導電性高分子(PEDOT:PSS)、カーボンナノチューブ
- 透明で導電性を持ち、シリコンや金属電極を代替
- 有機活性層(発電層)
- 例:フラーレン誘導体(PCBM)や非フラーレン系材料
- 光を吸収し、電子と正孔(ホール)を生成
- 有機界面層(電荷輸送層)
- 例:ポリマー系材料
- 電荷を効率よく移動させる役割
- カーボン系または導電性高分子の反対電極
- 金属を使わずに電流を取り出す役割
全有機型太陽電池のメリット
・ 完全有機材料なので軽量・柔軟性が高い
・ 印刷技術で大量生産が可能(低コスト化に期待)
・ 金属電極を使わず、資源問題や環境負荷を低減
・ シリコン系太陽電池と比べて製造時のCO₂排出が少ない
全有機型太陽電池の課題
・ 光電変換効率(PCE)が低い(10%未満が一般的)
・ 耐久性が低く、長期間の発電安定性に課題
・ 有機材料の劣化による寿命短縮の可能性
・ 透明電極の導電性を向上させる必要がある
今回の研究による対応
研究グループは、導電性高分子PEDOT:PSSをベースに、酸や塩基を使用せず低温(80℃)で作製可能で、シート抵抗が70Ω/sq以下という十分な導電性を持つ透明電極を開発しました。
層膜で構成される太陽電池デバイスの作製時、溶液プロセスにより下層が溶解するリスクがありました。これに対し、金沢大学が開発したカーボンナノチューブ電極のラミネーション法を活用し、下層の有機材料を損傷させずに電極を作製することに成功しました。

全有機型太陽電池は発電層から電極まで全て有機材料で構成される太陽電池です。効率や耐久性に課題はありますが、軽量、低コスト化、金属資源不使用、製造時の二酸化炭素排出が少ないなどの利点があります。
今回の研究では、透明電極の改良、製造工程での有機材料の損傷を阻止などでの効率UPを実現しています。
なぜ全有機型太陽電池は効率が悪いのか
全有機型太陽電池の光電変換効率(PCE)が低い理由は、主に以下の材料特性とデバイス構造の課題に起因します。
① 有機材料の光吸収特性の制約
🔸 有機材料は光吸収範囲が狭い
- シリコン太陽電池は幅広い波長の光を吸収できるのに対し、有機材料は特定の波長(主に可視光領域)しか吸収できません。
- 近赤外線(太陽光の約50%)の吸収が弱く、エネルギーを十分に活用できません。
🔸 光吸収係数が高すぎる問題
- 有機材料は光吸収が強すぎるため、極薄膜(100 nm以下)で十分に吸収してしまいます。
- しかし、極薄膜だと電荷輸送距離が短すぎて電荷損失が増えるため、発電効率が下がります。
② 電荷分離と輸送の非効率性
🔸 励起子(エキシトン)分離の問題
- 有機材料は「励起子(エキシトン)」と呼ばれる電子とホールが結びついた状態で電荷を生成します。
- 無機材料(シリコン)では光を受けるとすぐに電子とホールが分離するのに対し、有機材料ではエネルギーバリアを越えないと分離できないため、損失が大きくなります。
🔸 電荷移動の障害
- 有機材料は電荷移動度が低い(シリコンの1/1000程度)ため、発電した電子やホールが移動する前に再結合して失われやすい。
- また、層ごとの界面でエネルギー損失が発生しやすい。
③ 電極材料の導電性の課題
🔸 金属電極を使わないことによる抵抗増加
- 全有機型では金属電極の代わりに導電性高分子(PEDOT:PSS)やカーボンナノチューブを使用。
- しかし、これらの有機材料はシート抵抗が高く(>50Ω/sq)、電荷輸送が非効率。
- 金属電極と比べて、電流が流れにくくなり出力電力が低下する。
④ 劣化しやすく長期安定性が低い
🔸 有機材料の酸化・分解
- 有機材料は空気中の酸素や水分と反応しやすく、劣化しやすい。
- 紫外線や熱によって分解が進み、変換効率が急激に低下する。
🔸 層間の界面劣化
全有機型は多層膜で構成されるが、界面での分子間結合が弱く、時間とともに分離しやすい。

有機材料の光吸収範囲の狭さ、金属電極と比較して、電導度が小さい、エキシトンの生成などが要因となり、効率がシリコン型と比較し低くなってしまいます。
エキシトンとは何か
エキシトン(Exciton)とは、半導体や絶縁体の中で電子と正孔(ホール)が結びついた状態のことを指します。これは、太陽電池やLED、レーザーなどの光電子デバイスにおいて重要な概念です。
エキシトンの基本的な仕組み
- 光が材料に吸収される
- 太陽電池などの半導体材料に光が当たると、電子が励起され、価電子帯(Valence Band)から伝導帯(Conduction Band)へ移動します。
- これにより、電子が抜けた価電子帯には正の電荷(ホール)が残ります。
- 電子とホールがクーロン力で結合
- 無機半導体(例:シリコン)では、電子とホールは自由に動けるため、すぐに電流に変換されます。
- しかし、有機材料や一部の無機材料では、電子とホールがクーロン引力によって束縛され、ペアを形成することがあります。この状態がエキシトンです。
- エキシトンの分離が必要
- 太陽電池の場合、エキシトンを分離して自由な電子とホールにすることで電流を発生させる必要があります。
- シリコンではエキシトンの結合が弱く、自然に分離するのに対し、有機材料では結合が強いため、特別な構造や材料を使って分離を助ける必要があります。
エキシトンの種類
① フレンケル型エキシトン(Frenkel Exciton)
- 結合エネルギーが高い(0.1~1 eV)
- 有機半導体や絶縁体で発生(例:有機太陽電池、蛍光分子)
- 電子とホールが非常に近い距離で強く結びついているため、分離が困難
② ワニエ・ミョーン型エキシトン(Wannier-Mott Exciton)
- 結合エネルギーが低い(数meV)
- 無機半導体で発生(例:シリコン、GaAs)
- 結合が弱いため、自然に分離して電流になりやすい
③ バウンドエキシトン(Bound Exciton)
- 材料中の不純物や欠陥に捕まって形成される
- LEDなどの発光デバイスで重要な役割を果たす
エキシトンが太陽電池の性能に与える影響
エキシトンの寿命や移動距離を最適化することで、発電性能が向上する
有機太陽電池では、エキシトンが分離しにくいため変換効率が低くなりがちであり、高効率化のためには、エキシトンを速やかに分離できる材料設計が重要

エキシトンは、電子とホールが結びついた励起状態であり、 有機材料ではエキシトンの結合が強く、分離が難しいため、効率向上が課題となります。
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