アメリシウムによる原子力電池 原子力電池とは何か?アメリシウムが選ばれた理由は?

この記事で分かること

・アメリシウムとは:アメリシウムは元素記号Amの人工放射性元素であり、アルファ線の放射による熱源となるという特徴をもっています。

原子力電池とは:、放射性崩壊で発生する熱によって熱電素子で電位差が生じ、電流が発生させる電池のことです。

アメリシウムが選ばれた理由:「手に入る」「長持ちする」「安全」「小型化できる」という特徴からアメリシウムが選ばれています。

アメリシウムによる原子力電池

 日本原子力研究開発機構(JAEA)が、原子力電池の開発に着手したことが報じられました。

100年間メンテいらず? 「半永久電源」、アメリシウムで開発へ:朝日新聞
 月面では、昼は110度、夜は零下170度もの幅で温度が変わり、昼と夜は2週間ずつ続く。こうした過酷な宇宙の環境で、電気や熱を生み出す「半永久電源」の開発に日本原子力研究開発機構(JAEA)などが挑ん…

​ この電池は、放射性物質のアメリシウム241を熱源として利用し、半永久的に電力を供給することを目指しています。

 従来、原子力電池にはプルトニウムが使用されていましたが、国内での製造施設がないことや厳重な管理が求められることから、開発が進んでいませんでした。​

 そこで、JAEAは、原発の使用済み核燃料などに含まれるアメリシウムを利用する新たな原子力電池の開発に取り組んでいます。

原子力電池の仕組みはこちらの記事も

アメリシウムとは何か?

 アメリシウム(Americium)は、原子番号95、元素記号Amの人工放射性元素で、アクチニド系列に属します。1944年にアメリカで発見され、その名も「アメリカ」にちなんで名付けられました。


基本情報

特性内容
原子番号95
元素記号Am
発見年1944年(カリフォルニア大学バークレー校)
主な同位体アメリシウム-241(Am-241)、アメリシウム-243(Am-243)
色・外見銀白色の金属
自然界での存在天然には存在せず、人工的に作られる

アメリシウムの主な用途

  1. 煙探知器(Am-241)
    → 微量のアメリシウム241を使ったイオン化型の煙探知器は、火災の早期検知に役立っています。
  2. 原子力電池(RTG)
    → 長寿命で安定した熱を発するAm-241は、宇宙探査機や極地観測機器用の電源として注目されています。
  3. 研究用
    → 中性子源や放射線研究、核分裂研究などにも使われます。

アメリシウム241(Am-241)の特徴

  • 半減期:約432年
  • 主な放射線:アルファ線(と微量のガンマ線)
  • 熱を発するため、放射性熱電発電機(RTG)の熱源に向いています。

安全性と取り扱い

  • 強力なアルファ線を出すため、体内に取り込むと非常に危険です(吸入や摂取が問題)。
  • しかし、外部からの被ばくリスクは比較的低い(皮膚はアルファ線を通さない)。
  • 厳重な管理と取り扱いが必要。

アメリシウムは元素記号Amの人工放射性元素であり、アルファ線の放射による熱源となるという特徴をもっています。

なぜアメリシウムが選ばれたのか

 アメリシウム(特に Am-241)が原子力電池(RTG:放射性熱電発電機)の熱源として選ばれたのには、いくつか現実的かつ技術的な理由があります。


なぜアメリシウムが選ばれたのか?

1. プルトニウム(Pu-238)の代替が必要だった

  • 従来のRTGには Pu-238 が使われていましたが、製造が困難で供給も限られている
  • 日本ではPu-238の製造設備がなく、他国からの輸入も政治的・安全保障的に難しい。

→ そこで、国内でも手に入るアメリシウムに注目が集まった。


2. アメリシウムは使用済み核燃料から回収可能

  • Am-241は、原発の使用済み燃料から生まれる副産物の1つ。
  • 特別なウランやプルトニウムを作らなくても、再処理すれば得られる。

→ 資源の有効活用にもつながる。


3. 長寿命で安定した発熱が可能

  • Am-241の半減期は432年と非常に長く、長期間にわたり安定して熱を出し続ける
  • 宇宙探査や極地観測など、「電池交換できない環境」での使用に理想的。

4. 放射線の性質が比較的扱いやすい

  • 主にアルファ線を出す(プルトニウムと同様)。
  • アルファ線は空気中では数cmしか飛ばず、遮蔽もしやすく安全性が高い(外部被曝のリスクが低い)。

5. 小型電源として実績が出始めている

  • JAEA(日本原子力研究開発機構)は、Am-241を使ってLEDを点灯させる小型電源のデモに成功。
  • 実用化が現実味を帯びてきている。

「手に入る」「長持ちする」「安全」「小型化できる」という特徴からアメリシウムが選ばれています。

原子力電池の仕組みはどんなものか

 原子力電池(特に「RTG:放射性熱電発電機」)の仕組みは以下のようにシンプルながらとてもパワフルです


■ 原子力電池(RTG)の仕組み

【1】放射性物質が「熱」を出す
  • アメリシウム241(またはプルトニウム238など)は、放射性崩壊によって常に熱を発生させます。
  • この熱は小型でもずーっと続く(Am-241なら半減期432年!)

【2】熱を「電気」に変える(熱電変換)
  • RTGは「熱電素子(サーモカップル)」を使って、熱の差を利用して電気を作ります。
  • サーモカップルは、2種類の金属を接合した構造
  • 一方を熱源(放射性物質)で加熱し、もう一方を冷やすと、温度差から電位差(電圧)が生まれて電流が流れます。

→ つまり: 熱 → 温度差 → 電圧 → 電気という変換によって発電をしています。


【3】継続的に電力を供給
  • 発電に可動部分がないので、メンテナンスフリーで非常に信頼性が高い。
  • 少量の燃料で何十年も電力を供給可能


■ 原子力電池のメリット

  • 長寿命(数十年スパンで電力供給)
  • メンテナンス不要
  • 極寒や暗闇でも動作(太陽電池の代替)
  • コンパクト

■ 利用方法

  • 宇宙探査機(ボイジャー、キュリオシティなど)
  • 極地・深海の観測装置
  • 無人のセンサー機器や標識灯

アメリシウム241(またはプルトニウム238など)は、放射性崩壊によって常に熱を発生します。この熱によって熱電素子で電位差が生じ、電流が発生します。

なぜ温度差から電位差が生まれるのか

 温度差から電位差が生まれる理由はゼーベック効果(Seebeck効果)という現象で説明されます。

 ゼーベック効果とは:異なる2種類の金属または半導体をつなぎ、その接点に温度差を与えると電圧が発生する現象のこと。


■ 仕組み

1. 電子は「熱いほうから冷たいほうへ」動く
  • 金属や半導体の中では、電子は温度が高いほど活発に動き回る
  • そのため、高温側の電子はエネルギーが高く、冷たい側に流れやすい

2. 金属ごとに「電子の動きやすさ(仕事関数)」が違う
  • 異なる2種の材料(金属Aと金属B)では、電子の移動のしやすさに差がある。
  • この差があると、片方では電子が多く移動し、もう片方では少ない
  • その結果、一方に電子が多くなり、もう一方に少なくなる → 電位差(電圧)が生じる。

 例えば、コップに熱湯と冷水を入れて、そこにパイプを通してつなぐと、温度差によって水が一方通行で流れるます。
 同じように、電子も熱エネルギーの勾配によって流れ、その流れが電圧として観測されるというイメージです。

温度差で電圧が生じる理由はゼーベック効果で説明されます。温度差は電子の移動を起こします。材料の違いで電子の移動に不均衡が起こると電子の数に差が生まれ電位差が生まれます。

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